第92話 学生寮の晩餐会
僕たちはナーストレンドのスーパーで買い物を済ませると、サイドカー付きのバイク・ウラヌス君に乗って帰路に着いた。
ちなみにこのバイク、水で走るのだ。 水を電気分解させて水素を作り出しそれを爆発させてエンジンを動かしている。 エコにも優しいクリーンエネルギーだ。
ナーストレンドの夕刻に、一瞬だけ日光石と月光石が同時に点灯する瞬間がある。
その刹那、空気に舞う氷の粒子が乱反射して、辺りが溢れるほどの光に包まれる。
その光の中を潜り抜けるようにウラノス君はエーリヴァーガル川沿を一路、魔導学園へとひた走る。
「のわ〜る〜!」
「なんだ〜ロゼ〜?」
「だ〜〜いすき〜〜♡」
「ぼ……ぼkum%×$☆♭#▲※!」
「え〜? なんだって〜?」
「さ、さあ、もう着くから……」
「え〜〜!?」
『え〜〜!?』
『フェルっ!?』
『オレサマも何て言ったのか聴きたいな〜?』
『そうだそうだ〜!』
『フェル……、唐揚げやらねぇからな!?』
フェルは存在がバレているので、寮の皆には既に周知されている。 なので晩御飯は具現化して唐揚げを食べるつもりらしい。
『くっ……卑怯だぞテメェ!!』
『食べたければフェル、君が言ってみろ?』
『そうだ! いってみろ〜!』
『ロゼ……オレサマは……』
『オレサマは〜?』
『オレサマは唐揚げが好きだ〜〜!!』
『え〜〜!?』
─キキキ!!
学生寮に着いた。 タイムリミットだな。 学園や寮では兄妹の設定なので。
あれ? 何か僕らアオハルしてね? 学生時代をやり直してる感じがしてきたぞ? 僕の学生時代なんて碌なもんじゃ無かったからな……。
そんな今がちょっと楽しい自分がいる。
さて、昨晩から仕込んでおいた鶏肉はしっかりと漬かっているだろうか?
学生寮のキッチンはそんなに広いわけではない。 なので、全員分の食事を作るとなると、それなりの段取りが必要となる。
学園から帰ってから支度をしていたのでは間に合わせのモノしか出来ないのだ。 よって、前もって献立を決めて作る事にしている。
お腹が空いた者が作るシステムはどうしたって碌なモノが食べられないので、基本的に僕が居る間は僕が食事を担当する事になった。
その代わり他の当番は僕以外の人が担当する事になるのだが。
他にも餃子や春巻きなどの点心や炒飯も作って中華一色に染めるつもりだ。
「ロゼ? 中身を詰め過ぎると包めなくなるから、少し量を減らそうな?」
「うん、わかった!!」
「よしよし、ロゼはこれを焼くのと茹でるのとどっちで食べたい?」
「ん〜〜……。 どっちも!!」
「……そうか。 じゃあ、両方作ろう! 焼餃子と水餃子だな……いや、汁物がないから水餃子よりスープ餃子にするか」
「じゃあ、それで!!」
「おけ!」
「おや、今日はカレーじゃないのだな!?」
「寮長、どんだけカレー好きなんですか!?」
「オレは毎晩カレーでも構わないぞ!?」
「じゃあ、今日の唐揚げは食べませんか?」
「そうは言ってないであろう?」
「あはは、今日はロゼも手伝ってくれているので、思っていたより早く作れそうです。
唐揚げは揚げたてを食べていただきたいので、皆さんが揃う少し前から揚げ始めますね!?」
「そうか、よろしく頼む! オレは先に風呂に入って来るからな、皆が揃ったら呼んでくれ」
「わかりました! あ!!」
「何だ? 背中でも流してくれるのか?」
「いいえ、ちゃんと服着てから戻ってくださいね!?」
「何だ、私の裸を見たくないみたいじゃないか?」
「見たくないですね」
「わはははははは!! では、行ってくるわ!!」
「は〜い」
スクルド寮長はバタバタと大きな足音鳴らして、服を脱ぎながら風呂場へ消えて行った。
〜ピンポ~ン♪
パタパタ……ガタッガタタン!
ロゼがキャラスリッパを鳴らしながら歩いて、玄関の建付けの悪い扉を開けた。
「いらっしゃ~い!」
「本日はお招きに預かり大変きょうしゅ─」
「チェリたん、ピコたん、入って入って!!」
「ロゼたん、おじゃましま〜す♪」
「お、おおお、おじゃまいたしますわ! ろ、ロゼッ……ロゼたん♪」
「は〜い♪ あがって〜!」
ノワールが来客用に用意しておいた、モンスターをデフォルメしたスリッパが二人を出迎える。
「え? ロゼたん、これは靴を脱いで履き替えるってことかな?」
「そだよ〜? か〜いいでしょう?」
「え、靴を脱ぎますの!?」
「うん、なんかね、ここの寮の決まりなんだって!」
「そう……それなら仕方ございませんわね……」
ウラノススリッパとミノタウロススリッパ、キングオークスリッパとマンティコアスリッパの四種類あるが、ピコはミノタウロススリッパ、エカチェリーナはウラノススリッパを履いた。 ちなみにマンティコアスリッパはやはりパッツンなのだ。
それぞれペタペタと小気味よい音を鳴らして廊下を歩いく。
食堂が近付くにつれて食欲を煽るような、揚げ物の香りが鼻腔を刺激する。
三人が食堂に入口に着くと、唐揚げマウンテンを中央にして、酢豚、餃子、春巻き、ポテトサラダ等が鎮座していた。
「さあロゼ、皆を呼んでくれ! おい、フェルッ!まだ食うな!!」
「チッ」
「ほ〜い!」
─カランカラン♪
バンッ!ドダダダダダダダダ…ボテッ!
バンッ!スタタタタタタタタ…スタッ!
パタ!トテテテテテテ…トゥルンポテッ!
カチャ!ズドドドドドドドド…キキーッ!
カチャ!ベタン……ベタンカチャ!……カチャ!ドドドドドドドド!
「「「「「からあげー!」」」」」
「は〜い、出来てますよ。 座ってください!」
「あの、ディアブロ荘の皆さん、本日はご相伴にあず──」
「「「「「「いっただっきまーす!」」」」」」
挨拶をしようとしたエカチェリーナさんの言葉をぶった斬って寮の皆は猛然と食べ始めた!
負けじとロゼも頬張り始めた!
呆気にとられてエカチェリーナさんとピコ君は出遅れている。
「ほら、堅苦しい挨拶は
「「いただきます!」」
皆は熱々の唐揚げをハフハフと口の中で転がしながら食べては、また放り込んでを繰り返している。
唐揚げを突き刺すフォークが止め処なくマウンテンを切り崩している。
僕も数個食べて、また残りの唐揚げを揚げ始めた。 二度揚げなので、少し揚げるだけで出来上がる。
「こ、これが!? これが唐揚げだと言うのならば、あの食堂の唐揚げは何だと言うの!? まるで違うじゃない!?」
「僕は初めて唐揚げ食べるけど、今まで食べた揚げ物の中でも一番美味しいですね!!」
エカチェリーナさんもピコ君もお口に合ったみたいで良かった。
「おにぃたんのからあげはいつでもさいのこう!!」
「ロゼ、
「からあげが食べれたらそれで良いよ〜♪」
「こっちの餃子とか言うやつもヤベー!!」
「この春巻きもカリジュワで美味!!」
「酢豚はもうヘビロテお願いします!!」
「ぁたちはポテサラがぉぃちぃでつ」
「このスープ餃子も落ち着くわ〜!」
「あたくし、ノワール君をうちの料理人にしたいくらいだわ?」
「おい、ノワール! やっぱりこれからはお前が専属料理番だ! 他の仕事は良いからお前はご飯に全力を注げ!!」
「分かりました、寮長。 朝も服は着てくださいね?」
「着ているではないか!?」
「シャツ一枚は着ているうちに入りません! 今度着て来なかったらご飯抜きです!」
「なぬ!? それはイカン!! ちゃんと着る! 着るからご飯抜きは勘弁してくれーー!!」
「絶対ですよ!?」
「ノワール君はお料理が出来るなんて凄いね!?」
「ピコ君……いやまあ、昔、そんな仕事をしていたからね……」
「え? ノワール君はいったいいくつなのさ?」
「マグヌス先輩、それ聴きますか? もうオッサンですよ?」
「勿体振らなくて良いだろう?」
「もうすぐ三十一歳ですよ……」
「そんなにオッサンでもなかったな……」
「ぼきゅは二十五歳くらいだと予想していたのに!」
「ぁたちは十九ちゃぃだと……」
「ぼくは二十三歳くらいかなあと」
「何だ、オレと変わらんではないか!? オレは三十二歳だ!! どうだ?」
「何がどうだ? なんですか?」
「嫁に!!」
「要りません!!」
「グハッ! 即答か!?」
「からあげも〜ないよ〜」
「どわ────っ!? こ、焦げ……せ、セーフ!!」
「セーフ?」
「ギリ?」
「ノワールたん、このポテサラもっと欲ちぃでつ」
「え!? もう無いの!?」
「はぃ……」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいね! 直ぐに作ります!!」
「おい、ノワール──」
「ちょちょ、ちょっとお待ちを───!!」
けっきょくドタバタと
寮の皆も楽しそうだったし、何よりロゼが幸せそうに笑っているのが僕は嬉しい。
今度は皆で昼食も取れたらいいな……。
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