第90話 チェリーとピコタ
─初日・二限目
講師:グレアム
科目:基本魔導学科
場所:屋外魔導演習場
「今日は新人が三人もいるので、皆基本魔導の実技演習につきあってくれ。 三人以外は皆出来るので復習だと思って欲しい」
─はい!
「それでは、先ず身体強化魔法からだ。
身体強化魔法は身体のポテンシャルを上げる魔法だ。 よく火事場の馬鹿力と言うが、脳が筋肉などにかけているリミッターが外れた状態の事を言う。
つまり、意図的にそれを外すことが出来れば、人は通常の三倍近くの力を出すことが出来る。
しかし、これには副作用もあり、筋肉や骨がぐちゃぐちゃになってしまいかねない。
そこでこの身体強化魔法なのだが、その火事場の馬鹿力を安定して問題無く出せるようにしたものだ。
応用魔導ではこれの上位互換を覚えてもらうが、今日は基本魔導なので身体強化のみに止めようと思う」
─はい!
「それでは、誰かに見本を見せてもらおうか? あ〜、アレクセイお前が良いだろう」
「うぃす」
「先ず魔力を丹田に落とす。 お前ら、丹田は分かるか?」
「ほえ?」
「丹田と言うのはへその少し下辺りにある、体内を流れる十二経脈の中心に当たる部分だ。
ここに魔力を溜めて練り上げる事で、全身に練り上げた魔力を行き渡らせる事が出来るのだ。
まあ、とりあえず見てみろ。 アレクセイ頼む!」
「うぃす」
先生の指示でアレクセイ君は少し腰を落として魔力を練り上げる。 まあ、普通に見てても分からないんだが?
「よく見ておくように!」
先生がスクリーンをアレクセイ君の前に垂らして魔力を流すと、なんと映し出されたアレクセイ君の影に魔力の流れが
「「「おお〜!?」」」
三人は感嘆の声を上げると、自身でも丹田に意識し始めた。
「よしお前らもイメージ出来たらやってみろ。 皆も復習だ!」
─はい!
まあ、僕はさんざん訓練したから普通に出来るのだが……ロゼはどうだろう?
「ふううううううう!」
「……いや、声は別に要らんぞ?」
「む…………先生、どう!?」
「ん〜、いいか? 力は入れる必要はないんだぞ?
先ず身体を流れるエーテルを意識して丹田に落とし込む、そこからだ!」
「むむむむ…………どう!?」
「ん〜……まだだな?」
「先生、ボクは出来てますか?」
「ん、少し弱いが流れは良いぞ、 丹田でもう少し練り上げろ!」
「はい!」
「ノワールは普通に出来ているじゃないか、どこかで学んだのか?」
「まあ、知り合いに教えていただきました」
「そうか、ロゼは教わらなかったのだな……」
「そうですね……ロゼ?」
「んにゅにゅ……にゅ?」
「お腹が痛い時にちちんぷいぷいするだろう? それをここにやってみろ?」
僕はロゼの下腹部へ手を当ててイメージを促す。 ちょっとドキドキするが。
「わかった!」
ロゼはクチパクでちちんぷいぷいを言いながら魔力を丹田に流し始めた。
「よし、そのまま流し続けてグルグル回して溜めてみ?」
「わかった! ぐるぐるぐ〜るぐる♪」
「お? 良いぞ! そのぐるぐる溜めたヤツを全身に解き放て!」
「いえっさー! ばーん!」
「どうですか、先生?」
「……見事だな? お前が先生やるか?」
「いや、僕なんてとても……ほら、ピコ君が本領発揮し始めましたよ?」
─ミシ……メキメキッ
ピコ君の制服がパンパンに膨れ上がっている。 流石にやり過ぎじゃないか?
「ピコ!? まだ基本の先に行ってはいかん!! 危険だからやめろ!」
「え!? は、はい!」
ピコ君の身体が元に戻る。 軽く湯気が立っている。 身体強化の先……確かに危険だな。
他の生徒が目を丸くしてピコ君を見ている。 まだ皆は習っていないのだろう。 ピコ君は魔力が多いだけでは無さそうだな。
「ピコ、貴方相変わらず魔法バカやってるのね? まあ、ここではあたくしの方が先輩になるから、教えて差し上げても宜しくってよ?」
「うん、そうだね。 ボクもチェリーが居てくれたら頼もしいよ」
「ちょっ!? ピコ?
「え? どうして?」
「だって、さすがに男女であだ名で呼び合うって恥ずかしいではありませんか!?」
「そうなの? ボクはどっちでも良いのだけれど、じゃあ、エカチェリーナで良いのかな!?」
「ちょちょちょっ!! 呼び捨てはもっと馴れ馴れしいのではありませんこと!?」
「じゃあなんて呼べば良いのかな?」
「エカチェリーナさんではなくって?」
「ではエカチェリーナさん、よろしくね?」
「でも、ロゼの事はロゼッタちゃんて呼ぶけどね?」
「「ね〜♪」」
「なっ!? そっ、そうですの!? ならばあたくしもチェリーと呼んでくださっても宜しくってよ? その代わり、あたくしもピコ君の事をピコタって……よ、呼びますわよ!?」
「うん、良いよ?」
「ぴこた?」
「うん、僕の名前ピコ=クエタをモジッてピコタってチェリーには呼ばれていたんだよ」
「へ〜!! 私もピコタって呼んでも─」
「ピコタって呼んで良いのはあたくしだけの特権ですのよ!? わるいけど、ロゼさん? 貴女は別の呼び方をしてくださいませんこと!?」
「え!? そうなの?」
「うん、ごめんね?ロゼッタちゃん。 そう言う約束を小さい頃しちゃったんだよ。 だからエカチェリーナの事をチェリーと呼べるのもボクだけなんだ」
「そっか〜……ガックシ」
─パンパン!
グレアム先生が手を打つ。
「さあ、皆出来るようになったみたいだな? 三人はちゃんと出来ているか見るからそのまま維持するように!」
「「「はい」」」
「さて、棒で軽く殴るぞ? 殴ると言っても腕だし、ちゃんと出来ているだろうから少しも痛くないはずだ。 仮に怪我をしてしまったら責任を持って
「「「はい!」」」
グレアム先生は棍棒を軽く振ってニヤニヤしている。 大丈夫か?
「さあ、ピコ、やるぞ?」
「はい!」
─ゴッ!
「良いな。 次、ノワール!」
「はい!」
─ギン!
「おお、良いじゃないか。 さて、最後はロゼ!」
「は~い♪」
─ゴッ!
「ヨシ! 良いだろう! 次は詠唱魔法の復習だ! 皆タクトは持って来ているな? 誰か見本やるか?」
─……………。
「そうか、では、エカチェリーナ! 先輩風吹かしていたな? やって見せろ!」
「わかりましたわ! どの属性からですの?」
「ふむ、先日の編入試験で水と風の魔法は既にやったのだ。 今日は火と土にしよう! 詠唱の文言はこのスクリーンに映し出しといてやる。 初めは見ながらやれば良い!」
「あたくしには必要ありませんわ! 御三方、やりますわよ?」
「「「はい!」」」
「
─ボウッ!
タクトの先に火が点る。
「良いぞ。 実に模範的な詠唱魔法だ!」
「当然ですわ!」
「さあ、それぞれやってもらおう!」
「先生! 詠唱は略しても構いませんか?」
「そうだなピコ、編入試験の時にもエルサリオン教授が仰っておられたが、同じ様に発動するなら問題ない」
「ありがとうございます!」
ピコ君がタクトを構えて集中し始めた。
「フランマボルテ!」
─ボウッ!
「フランマボルテ!」
─ボウッ!
「ふらんまぼるて〜♪」
─ボボウッッ!!
「ロゼ、少し魔力の調整出来るようにしようか? 気持ち小さく出来るか?」
「やってみる〜!」
「ふらんまぼるて〜♪」
─ポゥ……
「……まあ、発動しているし良いだろう」
「詠唱魔法で大事なのはイメージだ! イメージガ出来なくては詠唱しても発動はしない。
良いか? 魔法ってのは、基本的にイメージの具現化だ。 イメージした通りの現象を起こせるように魔法は手助けしてくれる。
しかし、それは物理の法則に従っての話だ。 物理が解らぬものには魔法も理解出来ん。
詠唱魔法の勉強をするならば、物理は絶対だ。 勿論中には物理を無視した魔法もあるにはある。 しかしそれは理から外れた魔法で基本的には禁忌だと言われている。
良いか、今日は基本魔法の演習だ。 魔法は物理的なイメージ、これを忘れるな!」
─はい!
「じゃあ、エカチェリーナ、次は土魔法だ!」
「
─ボコッ!
1メートルくらいの石柱が地面から突き出た!
「さすがだな、エカチェリーナ!」
「ありがとうございます、先生!」
「では、三人ともやってみようか? 皆も各自やってみろ!」
─はい!
「コルムナ・ラピーデア!」
─ボコッ!
「コルムナ・ラピーデア!」
─ボコッ!
「コルコルラビットちゃん!」
─ボコリ!
「おい!? ロゼ? お前、どんなイメージしたんだ?」
「石のウサギちゃん?」
「なら、イメージ通りなのか?」
「うん♪」
「じゃあ、それを皆と同じ様に柱にしてみようか?」
「は~い♪」
「はしら〜!」
─メキメキッメキキッ!
ウサギの石像が一気に石柱に形を変えた。
「……やれば出来るなら、初めからやれ?」
「は~い! てへペロ♪」
「………………」
と、こんな感じで午前の授業は終えた。 全然使えなかった魔法だったが、わりと普通に使える事に驚いている自分がいた。
そしてこの時、この分だとマダムの様に使いこなせるのも時間の問題ではないのか?などと僕は思い上がっていたのだ。
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