第89話 編入初日
【101号室】
マグヌス ハーフリング
二年生
選択科目 魔導具学科
特殊魔導学科
マグヌスさんは学校から寮に戻るとネトゲばかりして部屋から出て来ないらしい。 人の事は言えないが、現代っ子なのだろう。
日頃から首にネトゲ用のギアを装着していて、時折トリップしている様で、
【102号室】
マリオン ドワーフ
二年生
選択科目 魔導具学科
魔法生物学科
マリオンさんは授業が終わるとゴーレム研究会のサークル活動に参加している。
寮に戻ると自作のゴーレム造りに夢中らしい。 もうすぐ初号機が完成間近なのだとか。
彼みたいな生徒が、将来マキナさんの様なヒューマノイドを手掛けたりするのだろう。 まあ、
【201号室】
メリアス=マグノリア ドライアド
二年生
選択科目 魔法薬学科
魔法生物学科
メリアスさんは授業が終わると魔法植物研究棟に入り浸っている。 ある教授の助手をしているらしく、かなり研究熱心な様だ。 寮に戻ってからも自室の植物の手入れに掛かりきりだ。 外から見えた、ベランダから植物が溢れていた部屋が彼女の部屋だと言う。
ちなみに、ドライアドと言う種族はマテリアル体よりスピリチュアル体やアラストル体に近しい存在である為、フェルも容易に視えるわけだ。
【202号室】
ココ=ベアトリクス ハーフエルフ
一年生
選択科目 召喚魔法学科
特殊魔法学科
ココさんは授業が終わるとオカルト同好会に参加しているらしい。 異世界のオカルトって何だろう?
彼女の故郷のメア=スヴァルト辺郷国は精霊との共生が当たり前の文化なのだと言う。 ダークエルフはその目にある種の闇がフィルタリングされている為に、普通なら眩しすぎて視認出来ない精霊が視えるのだと言う。
皆個性的だが悪い人たちではない。 しかしだ、カトリーヌ先生の言う通り、寮長を筆頭にみんな癖が強い!
ちなみに、晩御飯の時に誰も集まらなかったのは、ご飯の当番制に問題があるからだ。
一番初めにお腹が空いて、我慢できなくなった者が作るシステムなのだとか。 なので、誰も作らない日もしばしばあるのだと言う。
兎にも角にも無事に入寮を果たした僕たちは、次の日の朝、魔導学の本館棟の前に立っていた。 ピコさんと待ち合わせをしていたからだ。
学園の敷地はとても広い。
学園の校門からまっすぐに中央大広場まで並木道が伸びていて、左に大きな池と遊歩道、右に大きな公園がひろがっている。
中央大広場には大きな噴水があり、少し色っぽい彫刻が飾られて……よく見るとあの彫刻、マダムじゃね? ……見なかった事にしよう。
中央大広場から放射状に道が分かれていて、真正面に続く道の先に本館棟が建てられている。
本館棟は大聖堂を思わせる……いや、まるでガウディの建築物の様に壮厳な造りである。
建物に二箇所ある
どんな意味合いがあるのか分からないが、文化財としても非常に価値があるのではないだろうか?
「あ! ピコちゃん!!」
「やあ! お待たせしました!!」
「いや、僕たちもさっき来たところだよ。 入口からかなり距離があるけど、身体の方は問題ないか?」
ピコさんは魔力過多症で、虚弱体質なのだ。 身体も小さく体力もあまり無いと言える。
「少し疲れたけど、今日学園と掛け合って、僕のマギア・ライドの使用許可を申請しようと思っていたんだ」
「マギア・ライド?」
「うん、僕の身体は生まれつきこんなだろ? 障害者認定もおりているので、問題なく認めてもらえると思うのだけれど……。
ああ、マギア・ライドと言うのは小さな乗り物のアーティファクトだよ。 軽く宙にに浮いているので高低差も難なく移動出来て、体力の消耗を抑えられる優れものだよ?
メイド・イン・ミッドガルドなんだけど、人族と言う種族はとても便利な優れたアーティファクトを創るよね」
「へえ、そうなんだ? ピコさんはヨトゥンの出身だよね? ミッドガルドとヨトゥンとは隣国だから国交も歴史が長いんだろうね?」
「そうだね。 摩擦も無いわけではないけど、お互いに牽制し合って均衡を保っている状態かな?」
「あ、すまない! 変な話をしてしまって。 それじゃ行こうか!」
「「うん!」」
本館棟の
エントランスは巨大な森を呈した支柱が何本も並び、その装飾も意匠を凝らした造形だ。
天井には木漏れ日にも似た照明が彩り豊かに降り注いでいる。
処かしこに水が流れていて、小さな滝や小川まである。
─以前来た時も思ったが……本当に学校だよな?
あちらこちらに目を取られながら、ようやく教員室に着いた。
そして、僕らはカトリーヌ先生に連れられて、一年生の講義室へと案内され、講壇の前に立たされている。
講義室は階段型教室になっていて、オーケストラ状に講義机が設けられている。 一見木の質感を活かした木造を思わせる内装なのだが、継ぎ目がどこにも見当たらないのだ。 これも魔法なのか?
「皆さん、本日から講義を受ける事になりました、編入生を紹介します。 右からピコ君、ノワール君、そしてロゼさんです。 皆さん、仲良くしてあげてください。」
─パチパチパチパチパチ……
「どうも、紹介にあずかりました、ピコ=クエタと申します。 どうぞ、宜しくお願いします!」
「どうも、同じくノワールです。 宜しくお願いします!」
「ロゼッタだよん♪ みんな、よろしくね!!」
「すみません、この
─わはははははは
─パチパチパチパチパチ……
「それでは、それぞれ空いている席に着いてちょうだい」
「「「はい!」」」
僕たちは、まあまあ空いている席から、(僕が)あまり目立ちたくないので後ろの方に座った。
やはり注目は浴びているが、目立っているのはロゼだろう。 くっそ可愛いからな。
次点でピコさんだろうか。 言っちゃ悪いが、ピコさんは制服着ると小学生みたいに可愛い。
あれ? 僕はもしかしたら逆に浮いている?
「あら、もしかしたらそちらのお方は……ピコでん─」
「うわ!? エカチェリーナさん!? シ────!」
「ああ、そう言う……わかりましたわ。 宜しくお願いしますわね。 うふふ……」
「うっ……よろしく……お願いします……」
突然ピコさんに話しかけて来たのは、縦巻きロールが特徴的な髪型をしている、どことなく品のある女性だ。 知り合いなのだろうが、ピコさんは何となく居心地が悪そうだ。
それにしても縦巻きロール……アニメやマンガでしか見たこと無かったが、実際に見てみると何故か新鮮な感じがする。 見るつもりもないのに目が行ってしまいそうになる。
「そちらのお連れ様は私に興味がおありかしら? まあ? わたくしに言い寄る殿方は大勢おられますが、一般階級の殿方にはご遠慮願っておりますのよ?
貴方様はどちらかの御子息様ですか?」
「い、いえ、僕は……」
「おほほほほほほ! あら、御免遊ばせ。 授業中でしたのに、わたくしとした事が、はしたなかったですわ!」
まあ、縦巻きロール以外、全然興味なくて逆に申し訳ないが。 おほほと笑う人は
「の、ノワールさん……」
「はい?」
「彼女……ガンドアルヴ第一王女殿下です」
「はいいいいいいい!?」
「そこ!! 編入生同士仲良くするのは良いけど、講義中ですよ!? 静かになさい!!」
「「すみません!!」」
正直なところ、カトリーヌ先生の講義が全然頭に入って来ない。 だって、王女様だよ? お姫様とか目前でお目にかかれるものなの? いやピコ王子殿下もだけど?
(ガンドアルヴ王国と言うとアールヴ大森林の?)
(はい、以前連合国会議の時に顔を合わせた事があるんです)
(王族が二人も居合わせるとか、どんな確率!?)
(ボクもびっくりしていますよ)
(ねえ、ガンドアルヴお〜じょって?)
(うん、エルフの国のお姫様って事だよ?)
「え!? エルフの国!?」
「コラ!! そこ!! もう静かに出来ないのなら廊下に立っていなさい!!」
「「「はい!!」」」
僕たちは初日の講義で退室させられて、廊下で立ちん坊となった。
「カトリーヌ先生めっちゃ怒ってましたねぇ」
「いやまあ、講義の邪魔をしたんだから怒るのは仕方ないかなぁ」
「おひめさまってな〜に?」
「ロゼ、お姫様と言うのは簡単に言うとだな、王様の娘さんて事だよ」
「エカチェリーナ=ガンドアルヴ=ヴィクトリア王女。 あの高潔で名高いハイエルフの末裔にしてより高位の存在。 人よりも精霊に近く生命体より精神体の方が色濃く、寿命は3万年を軽く超えると言います。 連合国でも発言権が強く連合国議会の議長も彼女の父上、ガンドアルヴ国王が務めております」
「ほえ〜! なんかすっごいね?」
『なるほど、オレサマの事、
『最近存在感増してるもんな』
『うっせ!』
「何か居るの?」
「いやまあ、こっちの話。 すみません」
「とにかくこのリリーズ・マジカルアカデミーは世界的に見ても魔法の権威が在籍する数少ない魔法学校なんだよ」
「魔法の権威?」
「世界に【七賢】と呼ばれる世界最高峰の賢者が居るのだけれど、その一人があのエルサリオン教授なんだ」
「エルサリオンきょ〜じゅってそんなにエロい人なの?」
「エロいかどうか知りませんが、偉い人だって事は間違いないですね。
ちゃんと二つ名もありまして【千光のエルサリオン】と呼ばれているそうです」
「かっこいいね!!」
「へえ、そんなに凄い人なんだ? 他の七賢は何処に居るのだろう?」
「よく知られているのが帝国の魔導研究所に居る【蠱毒のバエル】、帝国軍魔導大隊大将【微笑のタチアナ】、帝都教会司教【聖拳のモルグス】、あと三人は消息不明で生きているのかどうかも……あ、でも【精霊王の盟友ノアハート】はメア=スヴァルト辺郷国に今もいるんじゃないかって噂もあったかな?」
「ピコさんて、めちゃくちゃ詳しいですね?」
「ボクの人生は本と魔法に捧げて来た様なものですから……」
「良かったら今度、魔法を教えてくれませんか?」
「え? せっかく学園に入学して優秀な人たちも沢山いるのにボクなんかじゃ役不足ですよ? ボク自身教えてもらいに来てますからね?」
「それでも構わない。 僕は魔法が使えたらそれで良いんだ。 詳しい事は専門家がいるだろう」
「まあ、ボクの教えられる事ならば、いつでもどうぞ?」
「「ありがとう!!」」
「「え?」」
「え? ロゼッタもおせ〜て?」
「う、うん。 いいよ? ロゼッタちゃん」
「やた〜♪」
ピコさんとは良い学友になれそうな気がする。 ハイモスさんの友達みたいだし、きっと良い人だ。 少し学園生活が楽しみになって来た。
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