第88話 入寮

 さすがマキナさん! 僕の注文通りの代物が出来上がっていた。


 サイドカー付きのバイク・モデルウラノス君、ちょっとカウルトップがウラノスっぽいところがマキナさんのセンス……少しウィングも付いててなんなら飛べる機能とか付いてそう……?

 簡単な説明を受けたのだけれど、シールドが張れるので、雨風は勿論、衝突の際もダメージをらしい。 ……それって、対象物にダメージいってない? まあ、細かい事は考えるのはよそう。


 ディアブロ荘にガレージは無いが、広々とした庭があるので整地して。 当然、寮長の許可はとっているので問題は無い。 


 僕とロゼは既に入寮済みで、部屋には生活必需品を運び込んでいる。 寮長のスクルドさんが当日用意される筈だった、リリーズ・マジカルアカデミーの制服を持って来てくれた。


 ロゼと一度袖を通してみたが……これはマダムのセンスなのか? 制服はショート丈のブレザー、ブラウス、チェックのズボン、プリーツスカート、それに合わせた柄のネクタイと、リボンにベストもある。 そして、お決まりのフード付きマントコート。 魔法を使う訳だから身を守るのに当然必要なのだ。


 それにしても……。


 ロゼの制服姿がくっそ可愛いのだが……何とか写メ撮りたい……。



「ロゼ? 自分の制服姿が見たいだろう? 写メを撮ってあげるからこっち向いて?」


「お〜! わかった♪」



 我ながらとても良い口実だ。 変態でも良い、後でそっと見させてくれ。

 僕はデバイスを起動させてカメラモードを選択して、指輪に嵌め込まれた石をロゼに向ける。  

 せっかくだからたくさん撮ろう♪


 ロゼにあれこれポージングしてもらう。

 これはモモキッスの振り付け? キュン死寸前なんですけど!?


 ……なんて……。


─なんて尊い!?


 僕は秒で保存して、撮影した画像を壁に映写した。 


 あぁ……。 ヤバい。 年甲斐もなく萌えを覚えてしまった感。



「どう? 僕はすごく似合っていると思うけど」


「うんうん! せ〜ふく、か〜いい!!」



─いや、ロゼが可愛いんだよ?



「こっちの大きな箱たちはな〜に?」


「それはマダムがロゼに贈ってくれた服だって寮長に聴いたけど……開けてみる?」


「うん! あけよ〜!!」



 ダンボール様の箱のマジックテープをペリペリと剥がして、順番に全部開け始めた。


 大量の服と下着、靴や小物に至るまで可愛いモノが山ほど詰め込まれていた。 クローゼットがこれだけで埋められてしまう。


 チラッと……チラッと目に入って下着は可愛らしいモノから際どいモノまで多種多様に揃えられていた。

 チラッと見ただけなので全容は分からないが、ロゼが着たら可愛いに違いない!



 ああ……もう! 僕は思春期の高校生か!? 何をドギマギしている!?

 なんて考えているとロゼが下から覗き込んで来る。 うわわ! 恥ずいからヤメてっ!! 見ないで!!



「なんか、のわ〜る顔赤いよ? 具合わるい?」


「うん。 胸の辺りを患ってるみたい。 重症だ」


「それはいけない! ロゼにまかせて!!」



 ロゼが僕の胸に手を当てて、例の呪文を唱えた。



「ちちんぷいぷい〜!」


「うん、ありがとうロゼ。 少し楽になったよ」



 むしろ悪化した気もするが。



「そ~お? ちょっと屈んでみて?」


「熱なんてないぞ?」


「ん♪」─ちぅ♡



 だめだ、完全に重症です。 



『おいおい、せめてオレサマがいねぇ時にやってくんねぇかなあ? 完全に忘れてるだろ、オメェら?』


『『あ……』』


『本当に忘れてたのかよ!? もうオレサマは知らん!!』


『ごめんフェル〜っ!!』


『なんか……ごめん!』


『なあ、ロゼ?』


『なぁに、フェル?』


ここはなんか見られてる気がする』


『え? 誰か覗いてるってこと?』


『いや、そうじゃねぇよ。 視線を感じるんだ。 ここの住人の誰か知んねえが、普通じゃねえぜ、たぶん?』


『って言っても寮長除けばあと四人……今日の夕飯で皆集まるから紹介してくれるって事になってる。 そこで分かるのでは?』


『フェルって見られたらダメなの〜?』


『そんな訳じゃねえが……見られたい訳でもねぇな?』


『まあ、僕も気に留めておくことにするよ。 フェルが視えると言う事は、僕の存在の歪さまで視えてしまうかも知らないしね……』


『ああ、オメェのピンク色に染まったアストラル体なんか誰も視たくねぇがな!?』


『フェル……僕はそんな色を……?』


『ああ、ロゼのアストラル体を視てみろ?』


『っ!? めっちゃピンク!?』


『オメェもおんなじだよ! バカヤロゥ!! ……邪魔なら言ってくれよ、何処かに隠れてるからよ?』


『なんか……ごめん』


『気にすんな……』


『フェル〜♡ ぎゅ〜♡』


『わっ!? ロゼっおまっ!? このっ! メスに成り下がりやがってっ! オレサマはテメェみたいなメスガキにゃ興味ねぇんだからなっ!?』


『フェルが興味無くてもロゼはフェルが好き♡』


『ちっ! 勝手にしやがれ!』


『僕もフェルが好き♡』


『おまっ!? このっ!? ちっ! バカにしやがって!! 覚えてろっ!?』



 ああ、忘れないよ?


 君に受けた恩はこの上なく大きい。


 忘れるわけにはいかない。


 君に出会わなければ今の僕は無かったのだから。



 夕方になって月光石が淡く光り始めた頃、四人の学生たちがそれぞれ帰って来て、それぞれの部屋へと入って行った。


 僕たちはひと足早く食堂へと足を運んで、食事の用意をして皆を待っていた。

 寮長のスクルドさんはさっきまで鍛錬をしていたので、先に風呂に入ってくると言って行ったきりだ。


─キュルルルルル……



「ロゼ、もう少し我慢しような?」


「うん……」



─一時間経過


─キュルルルルルルルルルルルルルン


「……せめて寮長だけでも戻って来ないかな?」


「うん……」


「せっかくカレー作ったのにな?」


「うん……」


「少し温め直すか……」



 鍋の蓋を開けて中身をかき回した、その次の瞬間──



─ドダダダダダダダダダダッ!!

─バタバタバタバタバタバタバタ!!

─ドンガラガッシャンドッカーン!!

─トテテテテテテテテテテツルン!!

─ベタベタベタベタベズルッベタン!



「めしーーっ!?」

「ご、ご飯っ!?」

「──っ!?」 

「出来た!?」

「いってーっ!!」


「はいっ、整列っ!!」



─ビシッ!!

 一同一糸乱れぬ整列を見せる。


「先ず寮長!!」


「はいっ!!」


「直ぐに服着てください!!」


「これは目のほ──」


「ハリアップ!!」


「イエッサー!!」


「それでは順番に名前と学年を言うようにっ! はいっ! そこの男性からっ!!」


「はいっ! 俺は二年のマグヌスっス!!」


「ぼきゅは一年のココ=ベアトリクスだじょ」


「ぁの……ぁたち……にねんの◯✕△♯=♪☘♬✿でち」


「ぼくは二年のマリオン……です」


「三番目の女性の方、もう一度お名前を伺っても?」


「◯✕△♯=♪☘♬✿でち」


「……皆には何て呼ばれているのですか?」


「メリアスでち」


「では、メリアスさんとお呼びしますね?」


「ぁぃ」


「ロゼは明日から入学のロゼだよ!? ぴっかぴかの新入生だよ!? ロゼッタって呼んでね!?」


「おい、あだ名が長くなってどーすんだ!!

 あ、人に名前を聴いておいて自分が名乗らずにスミマセン!!

 僕は本日からこちらの学生寮でお世話になります、ノワールと言います。 こちらのロゼは僕の妹ですが、二人とも編入生として明日からの入学となります。

 なにぶん、兄妹とも右も左も分からないので、皆さんにご指導ご鞭撻のほどをお願いします!!」


「よし、自己紹介終わったな!? 食うぞ!!」


─おおおおおおおおお!!

 いや、寮長!? バスタオル巻いただけじゃね?


「うおっ!? なんだコレ!? めちゃくちゃウメーじゃねぇか!!」


「やべっ!! これ、マジ止まらんねぇッス!!」


「ぉぃちぃ」


「はむはむほむほむうぐっげほっ!」



 この世界のカレー人気は絶大だよな? どこに行っても外れなしだ。



「ところでノワールきゅん?」


「わっ!? え? あ、はい! なんでしょう!?」


「そちらの御仁は紹介してくれないのかな?」


「えっ!?」 



 彼女の視線は完全にフェルを捉えていた。 フェルの言ってた視線の正体は彼女か!?



「何か不味い事聴いちゃった? 仲良くしてそうだから、別に良いのかと思っちゃったけど、紹介したくなければ別に聴かないじょ」


『おい、オメェ、声も聴こえるのか?』


『おお、何だ喋れるのか。 きみはかなり上位の精霊きゅんなんだね!?』


『え? フェルそうなの?』


『なんだ、フェルきゅんて言うんだね!? よろしく!!』


『ぁのぉ……』


『うお!? こいつもか!? そう言えば◯✕△♯=♪☘♬✿とか言ってやがったな……メリアス=マグノリア?』


『やぁ、●■💀✕▲』


『オメェ……やめろ。 それ以上しゃべんじゃねぇ!』


『ぁたちたち、ォトモダチになれる?』


『さあな!? オメェ次第じゃねぇか!?』


『それなら、きっとなれるね? うふふ、フェル、ォトモダチ♪』


『……………』


「なあ、この食べ物はあんたらが作ったのか?」


「ああ、カレーですね。 おかわりなら沢山ありますよ♪」


「「「「「おかわり!」」」」」



 カレーは瞬く間に無くなって、僕たちは無事に寮の皆に受け入れられたみたいだ。

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