第85話 編入試験

ピコ=ヨトゥン=クエタ

最大魔力:99999

魔力濃度:99999



「これって……」


「ええ、測定不能ですわね……マダム?」


「ピコさん、あなた魔力過多症ね? しかも相当重度の」


「は、はい。 すみません、黙っていて……」


「いいえ、良いのよ。 ひと昔前なら長生きも出来なかったでしょうが、今は蓄魔石があるから生命には別状ないだろうけど、さぞかし辛い思いはしたでしょうね?」


「ボクは……まあ、本の虫でしたので、あまり人とは接して来ませんでした……それに、ハイモス君とも知り合えたので、特に気にした事はありません」


「そう。 まあ、うちの学園ではとても有り難い存在ですわね。 後で魔晄炉に魔力を供給してもらう事は出来るかしら?」


「喜んで!」



 魔力過多症。 確かシロのアビリティ、無尽蔵魔力は通常は魔力過多で身体が耐えきれずに死に及ぶと聴いた。 それが故に不老不死の身体が必要だったと言う実験体だった。

 しかしピコさんは生きている。 その蓄魔石が余分な魔力を吸収して身体への負荷を減らしてくれているのだろう。

 蓄魔石は高価なものなので一般家庭だと永続的に購入する事は不可能かも知れないが、そこは王族、それが可能となるわけだ。

 更にはピコさんは巨人族。 本来ならばその溢れんばかりの魔力は、成長と共に身体強化に使われて大きな身体を形成していくと聴いていた。 つまり何らかの理由で、それが行われずに魔力過多症になってしまっていると考えるのが自然だろう。

 巨人族、しかも王族であるにもかかわらず、巨人族としての真価を発揮出来ていないとなると、相当肩身が狭かったと考えられる。

 つまり彼は人生の殆どを本と共に過ごして来たのだろう。 ハイモスさんとどのようにして知り合ったのかは分からないが、同じ巨人族の友達が出来た事は喜ばしい事だ。 それはきっとハイモスさんの人柄のおかげなんだろうな。



「ところでカトリーヌさん、平均値ってどれくらいなんですか?」


「……そうね、種族や人によって大きく異なるので平均値というのは無いわね。 けれど、最低値として魔力量は20000、魔力濃度は5000くらいは欲しいわね?」


「20000と5000……なるほど」


「それではノワールさん、お手をどうぞ!」



 カトリーヌさんは両手を前に差し出した。

 触る気満々だな……とっとと始めてもらおう。 それにしても……無尽蔵はまずいよな……。 少し流す量を調整してみるか。

 僕は、手を置くとすぐにスタートしてくれるように促した。



「カトリーヌ先生、お願いします」


「え、あ、はい……」



 明らか残念そうな顔……まあ、どうでもいいが。

 魔導具アーティファクトが稼働して数値が上がって行く。


 適当な数値でストップさせる。


ノワール

最大魔力:45000

魔力濃度:12000



「うん、まあまあね」


「……ノワール?」



 ヤバい、マダムには気付かれたか……。


『マダム、すみません黙っていてくださいますか?』


『魔力操作が出来るなんて聞いてないわよ? まあ……仕方ないわねぇ……、バレると面倒くさい先生もいるからかまわないかしら』


『ロゼも適当にストップ……出来るのか? 無理なら仕方ないが』


『ん〜……やってみる!』



「はい、ロゼさん手を置いてくださいな」



 今度は手を出さない。 カトリーヌさんは男性に触りたいみたいだ。 さっきの興奮気味の様子は男性に触れる喜びに興奮していたと考えると……なんて講師だ!?


 ロゼが魔導具アーティファクトに手を置くと魔力計が動き始め……あ……。


ロゼ

最大魔力:21000

魔力濃度:06800


 っぶねーー!! ギリセーフ!!


「ロゼちゃん、学園に入ると少しくらいは伸びるから、気を落とすことはありませんことよ?」


「ロゼ、頑張ろうな?」


「は〜い♪」



 なんとか魔力計はクリア。

 次は属性適性測定? これは誤魔化せそうにはないな。

 グレアム先生が魔導具アーティファクトを前にして説明を始める。 あの筋肉は特に関係はなさそうだ。 ならば、どうしてタンクトップなんだ?



「次は属性適性を見る。 どの属性に適性があるのか、最低値FからA、最高値はSのアルファベットでこちらの電光掲示板に表記される。

 順番に、火、水、風、土の四大属性、雷、氷、光、闇の新四大属性、そして聖、魔の二極属性と無属性が計測出来るので、それぞれに対応した魔水晶に手を当てて魔力を軽く流して欲しい。

 魔力との相性が良ければ魔力変換率が高く魔法が発動しやすいと言う訳だ。

 それでは早速やってみようか、ピコ君」


「はい!」



 ピコさんは順番に魔水晶へ魔力を流して行く。


 それにしても属性がこんなにも細分化されているとは思わなかった。 これも時代の進歩と言う事なのだろう。 つまり、魔法はもはや不思議な現象ではなく、科学的に解明されつつある証拠だと言えるだろう。

 なるほど、魔法が解明されると言う事はつまり、魔法は脅威ではなくなり、マジックキャンセラーや魔防壁の存在は魔法の衰退に拍車をかけたと言う理由わけか。



ピコ=ヨトゥン=クエタ

火:A

水:A

風:A

土:A

雷:B

氷:B

光:B

闇:B

聖:ー

魔:ー

無:ー



「あら素敵♪ とても多くの属性がバランス良く適性が認められますね。 しかも適性も高めなんて、とても有能ですわ!」



 カトリーヌ先生がピコさんを褒めちぎっているが、ここはグレアム先生が担当……あ〜あ、少し不機嫌そうだぞ?



「コホン。 そう……だな。 ピコ君の適性は多いし適性値も高めだ。 おそらく日頃から訓練しているのだろう?」


「はい! ボクは魔力が高いだけで身体はめっきりアレなもんで、家庭教師を呼んで魔法の勉強と練習をして来ました!

 いよいよ、ちゃんと勉強がしたくなってこの学園に編入希望を出した次第です!」


「そうか! 良い意気込みだ! 俺も教え甲斐があるってもんだ! よしなに励めよ!」


「ありがとうございます!」


「では次! ノワール君!」


「……はい」


「別に適性が少なくても、仮に適性値が低くても、試験に落ちることはない。 ピコ君の結果は気にせんとドンとやりたまえ!」


「はい」



 グレアム先生は僕が気後れしていると思って声をかけてくれたのだろう。 まあ、違う意味での気後れはしているが……。


 僕は次々に魔水晶に魔力を流して行く。 


ノワール

火:X

水:X

風:X

土:X

雷:X

氷:X

光:X

闇:X

聖:X

魔:X

無:X


 ………………。


 確か評価は最低値FからA、最高値はS……だったよな? 何、Xって?



「……エラーですね。 もう一度やってもらえるか?」


「はい……」



ノワール

火:X

水:X

風:X

土:X

雷:X

氷:X

光:X

闇:X

聖:X

魔:X

無:X


 ………………。



「……調子が悪いのかな? 先にロゼ君、やってみようか?」


「は~い♪」


ロゼ

火:F

水:F

風:F

土:F

雷:ー

氷:ー

光:S

闇:ー

聖:S

魔:ー

無:ー


 …………………。


 おおよそ想像通りだな。



「非常に尖った適性ですが、光と聖属性にS適性があるなんて、とても興味深い」


「ロゼちゃん、あなた面白いわね♪」


「そ〜お? えへへ〜」


「まあ、褒めてる訳でもないのだけれど?」


「え〜っ!? マダムのイヂワル〜!」


「さて、ではノワール君、もう一度やってもらえるかな?」


「はい」



 まあ、結果は同じな気もするが……。


ノワール

火:X

水:X

風:X

土:X

雷:X

氷:X

光:X

闇:X

聖:X

魔:X

無:X


 ……ほらね。



「マダム、これはどう判断すれば宜しいのでしょうか?」


「良いんじゃないかしら? 適性が無い場合は表記されないわ? 全ての属性に何かしら作用していると考えるべきだわ。 むしろ可能性としては無限だわよ? グレアム先生」


「では、記録はどういたしますか?」


「そのままXで表記しておきなさい。 これも一つのデータだと考えるべきだわ? グレアム先生、あなたも教員ならそれくらいの気構えでいなさい!」


「すみません! その通りですね!」


「それでは、次はこの魔法陣。《シジル》に魔力を通してもらう。

 これは単に魔力が発動するかどうかの検査だ。 気軽にやってくれ」


「はい!」


「うんうん、じゃあピコ君、この魔法陣は風の魔法陣だ。 魔力を上手く流す事が出来れば、小さなつむじ風が起こる。 さあ、ちゃっちゃとやってしまおう!」


「分かりました!」



 ピコさんは紙に書かれた魔法陣に小さな人差し指を置いて魔力を通していく。



─ヒュルルルルルン……



「見ての通りだ。 ノワール君もロゼ君も一緒にやってしまおうか」


「「は(〜)い(♪)」」



 僕とロゼは横並びになって、それぞれ紙に描かれた魔法陣へと魔力を注ぐ。


─ヒュルルルルルン……

─ヒュルルルルルン……



「はい、皆さん問題ないですね。 それでは─」


「ちょっと待ちなさい?」


「マダム、何か?」


「いや、何でもないわ、次に進んてちょうだい。 さっさと終わらせましょう」



 マダムの視線は僕の流した紙に向けられている。 僕は証拠隠滅のために紙を拾い上げて懐に仕舞おうとした。


 ─パチン


 あっ……。


『魔法陣が消えてるわね。 少しは加減なさい?』


『いや、僕は普通にやってるだけなんですが……』


『じゃあ、どうして隠すの!?』


『だって……他と結果が違うと目立つじゃないですか……』


『……そうね。 あんたずっと目立ちたくないと言ってるものね。 わかったわ』


『ありがとうございます!』



 魔法陣が消える─すなわち魔法陣のポテンシャルを100%発揮したと言う事だ。 どうやらそれが普通ではないと言う事らしい。 マダムに感謝。

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