第81話 デセール
僕は先刻から
「うん、良いね。 ベンさんコーヒーは濃いめに抽出出来ましたか?」
「ええ、たぶんこれで注文通りの濃いめの珈琲に仕上がっていると思うわよ? 味見をしてちょうだい?」
「そうだね。 ……ん、これで大丈夫! じゃあ、これでシロップ作っていただけますか?」
「スイーツなのにこんなに濃い珈琲なんて変だと思ったら、シロップにして香りをしっかりとつける為だったのね!」
「はい、ベースのチーズの部分がモッタリとしていて優しい味なので、目が覚める様なパンチを効かせるんですよ。
お酒はやはり、マルサラワインではなくラム酒を使いましょう。 僕の好きな味に寄せようと思うんですが、ベンさんどう思います?」
「マルサラワインの方が爽やかで優しい香りになるでしょうけど、、このガツンとパンチの効いた珈琲の香りと合わせるならば、ラム酒くらい主張が強いお酒を使って、強烈なファーストインプレッションを与えて度肝を抜きたいわね!?」
「じゃあ、決まりですね。 カクテルグラスを用意してください! 一気に仕上げますよ!!」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
ステージを終えた
「モモちゃん、こっちのも美味しいかしら!」
「え? マダムほんと!? 食べたい!!」
「それにしても、あのカレーってのは強烈ね!? 是非レシピを貰わないといけないかしら!?」
「もむもむもむもむ…ままむ? ごきゅん。 カレーのレシピは今はベノムさんにその権利?ってのがあるんだって!」
「あら、ベノムそうなの?」
「え? ええまあ……先日く…メイガスさんに譲っていただきまして……でもマダム? べつに売ったりしなければ大丈夫なんで、あとでレシピはお渡しするッス?」
「ありがとう♪ これで毎日食べられるわね♬」
「え、毎日スか!?」
「ええ♪ 毎日よ♪」
「マダム良いなあ……モモも毎日食べたいなぁ……」
「マダム!? モモさん!? お料理はまだ済んでないのですよ!? デザートは食べないんですか?」
「あら、アラン知らないの? デザートは別腹と言うらしいわよ?」
「うん! どんなにお腹がいっぱいでも、デザートは食べられるんだよ!?」
「こちらのお料理はこれからいつでもいただけますが、コースの方のデザートは本日のスペシャリテにございますよ?」
「そのさっきから言ってるスペシャリテって何なんですの?」
「……スペシャリテと申しますのは、シェフ…即ちメイガス様が自信を以てお出しする自慢の逸品と言う意味でございますが……」
「それは……いけませんわ!! 全力で迎え撃たなければ!! モモちゃん、戻るかしら!!」
「ままむ、わかっふぁ!」
「モモちゃん!? それ頬袋かしら?」
「らぁにふぉえ?」
「いいわ。 さあ、戻るわよ?」
「ふぁ~うぃ♪」
二人は足取り軽く特別席へと移動すると、カクテルグラスに入った可愛らしいデザートが用意されていた。
「本日、三つ目のスペシャリテ、ティラミスにございます。 少しお酒を効かせております。 もし、苦手であればノンアルコールのモノをご用意いたしますので、どうぞ仰ってください」
「ほほう。 これが噂のメイガス一推しのスペシャリテのデザートなのね!?」
「テラメス?」
「こちらはティラミスと言って、食べると元気になる事からつけられた名前だそうです。 元気が無い時に召し上がると良いかも知れませんね?」
「アランさんっ!? これは……たったコレだけしかいただけないのかしら!? あまりに美味し過ぎて、一瞬で無くなったのだけれど!?」
「モモも、もうない!!」
「勿論、たくさんご用意しておりますので、どうぞおかわりなさってくださいませ」
「「おかわり!!」」
「おかわりをお持ちする間、こちらのラングドシャをお茶請けに味見してください」
「ラングドシャ?」
「はい、何でも猫の舌と言う意味らしいのですが、ホラ、猫の舌の様に小さくて薄いでしょう? 作りたてなので、バターと小麦粉の香りが立っております。 どうぞお試し下さい」
「あら、口当たりが軽いのに香ばしくて美味しいわ♪ いくらでも食べられそう!」
「ふぉんふぉあえ(ほんとだね)!」
「……いくら何でも口に入れ過ぎてない?」
「ふぉんあふぉふぉわふぁいお〜(そんなことはないよ〜)!」
「……なら良いわ」
「マダム。 お料理の方はお口に合いましたか? おそらく、どれも口にしたことの無いモノばかりだったと思うのですが、違和感など無かったか不安で……」
メイガスが、徐ろにマダムに尋ねてみた。
「違和感しかなかったわよ!!」
「──っえ!?」
「だって、こんな目新しくって、美味しいモノばかりじゃない!? この世界の料理とは別次元の匂いがするわよ!!」
「……マダムって、何者なんです?」
「ただ永く生きているだけのコケティッシュなサキュバスかしら?」
「おう、よく言う。 とんだコケティッシュモンスターだな!?」
パーティー会場の一般席の方から一人の男性と二人の女性が現れた。
「こらこらこらこら! 無粋な事を言う輩がいると思えばネモ!! アナタどうやってココに入ったのかしら? ミレディもお元気そうだわね?」
「マダム、ご無沙汰しております! 今宵はスタッフ限定のパーティーで入れないとお伺いしましたので、特別ルートを使わせていただきました」
「特別ルートだと!? 今宵は裏口も使えぬ筈なのだが?」
「マダム、お初にお目にかかります。 ボクはマキナ=プロメット。 そこの主賓でもあるメイガスの姉にございます。 お見知り置きを!」
「マキナ……姉さん!? ネモさん、ミレディさんも!! 施術が上手くいったんですね!?」
「ミレディ〜さ〜ん♪」
モモは食事を途中で止めて、ミレディの方へと駆け出した。
「あら、貴女が噂のモモちゃんね♪ 本当に噂通り可愛らしいわ♪ ……ねえ? お口の食べかすが付くからそこから近付かないでくれる?」
ミレディはモモの額に手を当てて、胸元へ飛び込んで来るモモを制止した。 抱きつこうとした腕が空を切って右往左往する。
「え〜ん、と〜ど〜か〜な〜い〜よ〜」
「フフフ、ほら、あと少しよ?頑張りなさい?」
「……そう。 ネモ? ミレディさんのお身体がとても以前のモノとは思えないけど、ようやくお金が貯まったと言うことかしら?」
「なんだ、そんなことまでバレちまうのか?」
「そりゃあ、そんな露出の多い服を着られる様になったのですもの? 気付かない方がどうかしているかしら?」
「ああ、そうなんだ。 ……モモの嬢ちゃん、いや、モモさん!!」
ネモがモモに声をかけるや否や、モモの前に跪いた。
「モモさん、この度は、あんたのお陰でこのレディを助ける事が出来た。 この恩は一生忘れねぇ。 困った時はいつでも言ってくれ、必ず力になる!!」
ネモがそう言うと、ミレディは手の力を抜いてモモを抱き寄せた。
「モモちゃん……貴女のお陰でライトニングを売りに出さなくて済んだわ!! 本当にありがとうね!! ぎゅ〜〜!!」
「ふぉえ? ふぁんのほほ(何のこと)?」
モモはレディの胸の谷間に顔を埋めながら半ば顔を動かして尋ねた。
「ああ、スマン、説明不足だったな! モモさんのお陰で
「ほえ?」
「まあ、分からなくて良いが、モモさんのお陰で、ミレディの施術を受ける事が出来たんだ。
本来ならばライトニングを売ってお金に変えなければ作れないお金を、たった一日で稼がせてもらった!! 恩に着るぜ!!」
「あら、そんなに稼いだのなら、ライトニングの借金もある程度は返せるのではないかしら?」
「ああ、全額とはいかないがそのつもりで来たんだ! マダム、何か利子で返せる依頼があれば受けるぜ?」
「今は特にないわね。 また何かあれば依頼するかしら?」
「おう、いつでも言ってくれ!」
「ほう、マダムと意外な繋がりがあったのだな、ネモ」
「まあな。 マダムにだけは昔から頭が上がらねえ。 今回、マキナさんやモモさんにも大きな借りが出来ちまったがな。 わはははははははは!」
「あのお…」
「まあ、マイロードにはしっかりと働いてもらいますからっ!!」
「モモさん、次に競ドラ行く時はまたお供しますので、必ずお声掛けください!!」
「は〜い♪」
「あのお…」
「けっきょくギャンブルですかっ!?」
「人聞きが悪いな!? 金策と言ってもらいたい!!」
「あのお……」
「「「「「誰だ!?」」」」」
「あ、すみません、私、ムジカレーベルのアーティストマネージャーをしております、ローレンと申します。 以後、お見知り置きを!」
「ローレンさん、どうかしましたか? 何か不備でもあったのでしょうか?」
「いえ、そんなそんな。 これ以上ない撮れ高でごさいます。
つきましては、早急に機材を撤収して、編集作業に入り、緊急会議をしたいと思っております。 マダム・ヘンリエッタ様には大変お世話になりましたこと、御礼申し上げます」
「いいえ、良しなにするがよいかしら?」
「……そこで、折言って相談が御座いまして……。
モモキッスさまにあられましてはご契約のうちではないのですが、画像を流すにあたり、諸々の権利が発生してまいります。 つきましては、そのへんの事を纏めた書類を用意いたしました。
どうかお目通しいただきたく、また、弊社での取り扱いを認めて欲しいのでございます」
「ふむ、すなわち、その映像の放映、販売にあたり我々にも収入が発生すると言うわけかしら? であるならば、アタシは安くはないわよ?」
「はい、必ずや損はさせませんよ!?」
「ローレンさん?」
「はい、何でございましょう、メイガスさん?」
「モモの画像ですが、多少手を加える事は出来るでしょうか? と、言いますのは、僕と同じで正体を明かしたくないのです」
「はい、既にメイクと照明で素顔は無いに等しいですが、ほくろなどを加えるなどしましょうか」
「はい、その辺のところ、お任せします」
「それでは、各々こちらの書類にサインをお願いします。
この度のライブ画像、冥界の慟哭を超える衝撃を世界に叩きつける事になるでしょう。
既にうちの事務所は問い合わせでパニック状態ですが、嬉しい悲鳴だと言わざるを得ません。
ひとえに、ご紹介いただきましたメイガスさんと、この場をご提供いただきました、マダム・ヘンリエッタ様のお陰にございます」
「そんなことはお安い御用かしら?」
「まあ、ローレンさんにはかなり無理を言っているのも承知しております。 ちゃんと休んでくださいね!?」
「お気遣いありがとうございます。 それでは、必要な書類も揃いましたので、私は私の本分を発揮してまいります」
言うや否や、ローレンさんはスタッフにテキパキと指示を出し撤収作業をすすめさせ、自らはどこかと頻りに連絡をとって時間の調整をしているみたいだ。
わざわざ本人がニヴルヘルくんだりまで来なければならないなんて、よほどの敏腕マネージャーなのだろうか。
そんなこんなで、パーティーのステージは無事に幕を閉じたのだが、テーブルに並べた料理……いや、何故かカレーの場所に行列が出来ていたのには驚きである。
よほど
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