第80話 ヴィアンド

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ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 メイガスがピアノ演奏の為に厨房を任されていたベンさんは、真剣な面持ちで肉を睨めつけている。

 ビニール袋に入れて空気を抜いた肉を58℃に熱したお湯に浸けて一時間放置するだけだと言う。 正直、難しくも何ともない技法だ。

 加熱を終えたらフライパンでサッと焼き色を付けて盛り付けるだけ。



「肉を焼かずに煮て作るステーキだとか、メイガスさんの頭の中ってぶっ飛んでるわ!!」


「それは悪口ですか? 褒めてるんですか?」



 話し相手はリリーズ・キャッスルの調理場の総料理長アダムスさんである。



「褒め言葉に決まっているぢゃな〜い! 料理なんてものは調理方法がどうであれ、美味しければ、それが正義ってものだわ!!」


「ごもっともで」


「ソースはどう? 準備出来てるかしら?」


「ええ。 しかしベンさん、このフォアグラってのはあの食ってばっかで太って飛べないファッティダックの肝だって言うじゃないすか。

 病的に脂が多くて脂肪臭そうなんすが……本当に食べるんですかね? なんか、胸焼けしそうす……」


「あなたはあのお方の料理における、絶対的センスってのを解ってないみたいね!?」


「なんすか、それ?」


「……。 言うなれば旨さの方程式だわ! 料理が美味しくなる為の計算てモノが、あのお方の頭の中にはあるのよ!」


「ベンさんて、メイガスさんの料理を食べた事があるみたいな口振りで喋りますよね?!」


「食べた事が無ければ、何も言えないじゃない? こんな未知の世界の技術を貴方知ってた?!」


「いいえ、見たこともない聞いたこともないす。 本当に食べたことがあるんすね!?」


「あんた、テーブルに並べてる料理を少しでも食べてみた?」


「え?」


「ほら、このカラアゲとか言う鳥の揚げ物、食べてごらんなさい?」


「ただの鳥の揚げ物では? ……あむっ! はふはふはふっふぉーーっ!?」


「どお!?」


「何すかコレ?! 本当にいつも食べてる鳥すか??」


「理屈じゃなく美味しいでしょ?」


「はい!! 表面カリカリで噛むと肉汁がジュワッと溢れ出て鳥の旨味とスパイスの味が……後を引きますね!!」


「そうね、美味しいのよ。 

 でも、こちらは本日のスペシャリテよ……どんなに美味しいのか想像もつかないわ? あんたはどう?」


「いえ、俺にもわかんねっす」


「そうでしょうよ! さあ、仕上げにかかるわよ! フォアグラをたっぷりのバターでソテーして、このフィレ肉に焼色を付ける。 そのままキノコもソテーしてソースを作って一気に仕上げるからね!! さあ!準備して!!」


「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」



 マダムは美味しい冥界料理とライブの冥界音楽とで上機嫌であった。 僕、メイガスは本日のメインディッシュ・ヴィアンドの為にピアノでBGMを奏でている。


 ─♪〜♪〜♪〜♫〜♬


 曲目はパッヘルベルの『カノン』(メイガスアレンジVer.)。


 インサートはゆっくりメロウに入って行き、少しずつ軽快にアルペジオを効かせてピアノの弦をピッチカートするイメージでポップに弾いて行くのだ。


 ヘレンさんの歌の魔力で会場全体がトリップしたままなのだ。 それを少しずつ現実世界に引き戻して行く必要があった。

 ヘレンさんの歌は催眠効果があるのか、歌の世界へと惹き込まれるのだ。 もしかしたら、ヘレンさんて物凄くヤバいスキルの持ち主だと言えるだろう。

 時間が止まったかの様に呆けていた人たちが、我に返って各々の食事へと戻り始めた。



「さあさ、マダム?」


「─っ!? お、おう、アランではないか!? アタシ何か夢でも観てた?」


「いえ、ヘレンさんの歌に聴き入っておられたようで。 それよりも、本日のメインディッシュ・ヴィアンドにてございます」


「あら、今度は何かしら?」


「はい、本日はオメガキングバイソン亜種のフィレ肉のステーキロッシーニ風でございます。

 フィレ肉は低温調理で柔らかくジューシーに仕上がっています。 そして、フォアグラはたっぷりのバターでソテーしております。

 仕上げに、オードブルにも使いました、一つ目豚に探させたキノコ・トリュフのスライスを散らし、バルサミコソースにも風味づけとして使っております。

 早取れの鬼筍と姫カブ、月光茸のローストを添えております。 どうぞ、お召し上がり下さい」


「もう既に美味しい確定の香りがするわよ!?」


「モグモグモグモグモグモグ……ゴキュッ! マダム〜、美味しいよ〜?」


「モモちゃん、早いわね!? てか、我慢出来ないわ! いただきます!! はむ…………ん〜まっ!! アラン? このお肉に乗っかってるモノは何かしら?」


「それはファッティダックの肝でフォアグラと申します」


「フォアグラ……こんな美味しい食材がこの世界にあったなんて!! 何故今まで誰も教えてくれなかったの?」


「マダム、ファッティダックは見た目の可愛さでペットとして飼われる事はありましたが、脂が多くて食用としては流通していませんでしたので……一部の極寒地方の部族しか食べていませんでした」


「そうなの? こんなに美味しいのに……それにこれ、本当にキングバイソンのお肉かしら? もっと硬くてパサパサしていたような? お味ももう少し気が抜けたような……」


「はい、低温調理と言う特別な技法を用いまして、とても柔らかく、しっとりジューシーに仕上げております。 お味の方も他の牛肉より甘さが引き立つと思いますが、如何でしょう!?」


「ええ、アナタが言う通り、とても柔らかで肉汁が溢れ出る事この上ないわ。 それにお味が濃厚な分、このフォアグラのまったりとした風味が合わさって、トリュフの香ばしさとバルサミコソースの芳醇さが、とても効果的な化学反応を起こしているかしら?」


「素晴らしい表現です。 まさにその通りでございます」


「もうお腹も膨れて来たけど、食べ終えるのが惜しいくらいだわ!!」


「もきゅきゅ? マダム〜私が食べてあげよ〜か〜?」


「冗談をおっしゃい! 誰が残すもんですか!! はむっもむもむもむもむ……んまんま!!」


「だけどマダム〜、このあと出番だよ〜?」


「あらあら、そうね? あむあむあむあむ……んまっ!!」



〜♪♫♬♪♫♬♪♫♬

 BGMはカノンから移り変わってジャズ・スタンダードの『Autumn Leaves』(メイガスアレンジVer.)だ。小気味よい軽快なリズムで楽しい気分を演出している。



「さ〜て! 皆さんお料理の方は堪能していただけてるでしょうか? かく言うアタイはそろそろ限界なのに、もう少し物色したいところで〜す♬」


─ワハハハハハハハハハハ!!


「本日のディーヴァ・ヘレンさんの『幸せの言の葉』良かったですよね〜!!

 私はこの会場に大きな泉とお花畑が広がって、大空を翔んだ様な夢心地だったわ!!

 ヘレンさんはウィスパーボイスのセイレーンとして、これから世界を賑わすのではないでしょうか!?

 そして、デザート前に皆さんに味わっていただきたい、とてもキュートでキャッチーな曲があります!」



─パチン!

 ステージが暗転!


─パチン!

 証明に浮かび上がったのはモカ・マタリやサマエルのメンバー、そしてモイラ三姉妹、ヘレンさんだ。

 ドラム✕1・ギター✕2・ベース✕1・パーカッション✕2・その他コーラスとパート分けされている。

 僕、メイガスはそのままピアノを弾くつもりだ。



「本日の最後を締めていただくのは、我らがアイドル、マダム・ヘンリエッタ様と、ご友人のモモさんのユニットで『MOMO&KISSモモキッス』です!!

 ユニット名はなんと、マダムが考えたのだとか! 桃とキス……どんな卑猥な意味があるのでしょうね〜!?」


─ワハハハハハハハハハハ!!


「名前はともかく、とても可愛らしい二人ですよ♪

 さあ、登場いただきましょう! MOMO&KISSモモキッスのお二人でーーす♪」


「は〜い♪ MOMO&KISSモモキッスのモモで〜す♪」


「いぇ〜い♬ MOMO&KISSモモキッスのキッスだよん♬ みんなっ! ヨロシクね♬」


─キャアアアアアアアアア!!

─パチパチパチパチパチパチ!!


「何か黄色い声援があがったわね♪ それもそのはず、お二人共とっても可愛らしい舞台衣装ですよね♪

 ピンクとパープルの色違いのロリータファッション!! モモちゃんは甘ロリ天使がイメージで、キッスちゃんはゴスロリ小悪魔がイメージだそうですよ〜♪

 どちらもキュート&セクシーでアタイ、キュン死寸前だわ!!」


─ワハハハハハハハハハハ!!


「それでは歌っていただきましょう!

 MOMO&KISSモモキッスで『あなたはどっち?』」



〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

   【あなたはどっち?】

作詞:MOMO&KISSモモキッス

作曲・振付:メイガス

振付アレンジ:キッス


〜♪♫♬♪♫♬♪♫♬

  ♡*:.。.     .。.:*♡

   あなたは フラフラ

♡*:.。. 行ったり 来たり .。.:*♡

 ♡ 「わたしは」『ぼくは』

   追いかける!  .。.:*♡

 ☆.。.:*・゚♡*:.。.  ♡*:.。.  

♡  こころは ソワソワ 

   優柔不断   .。.:*♡ 

 ♡ 「わたしは」『ぼくは』

♡*… 落ち着かない! .。.:*♡

.。.:*♡    ☆.。.:*・゚.。.:*♡

 .。.:*♡  この髪型  ♡*:.。.

「似合ってる」⇔『似合ってない』

♡*:.。. 一緒にパフェ  .。.:*♡

「食べたい」⇔『食べたくない』

「わたしに」『ぼくに』イタズラ

「されたい」⇔『されたくない』

.。.:*♡  「『どっち?』」 ♡*:.。.

♡*:.。.   ☆.。.:*・゚ ♡*:.。. 

  ♡しせんは キョロキョロ

♡  どこ見てる?   .。.:*♡

   「あたしを」『ぼくを』

 ♡ もっと見て!   ♡*:.。. 

.。.:*♡   ☆.。.:*・゚ .。.:*♡

   あたまを ナデナデ

   誤魔化さないで! .。.:*♡

♡  「あたしを」『ぼくを』

   連れてって!  .。.:*♡

 ♡*:.。.     ♡*:.。.  

♡ 「あたしは」『ぼくは』  ♡

 「カワイイの」⇔『エッチなの』

♡  「『あなたは頭を』」  ♡

「ナデラレたい」⇔『ブタレたい』

  「『けっきょくあなたは』」♡

  「スキなの」⇔『キライなの』

 .。.:*♡ 「『どっち?』」 ♡*:.。.

 ♡*:.。.. ☆.。.:*・゚ .。.:*♡

 ヤケドするほど恋したい!

☆.。.「『アッチッチ!』」.。.:*♡

.。.:*♡    ☆.。.。.。.:*♡

☆.。.あなたは ムラムラ.。.:*♡

「あたしの」『ぼくの』からだ

「さわりたい」⇔『さわられたい』

.。.:*♡  「『えっち♡』」  ♡*:.。.

 ♡*:.。.     ♡*:.。.   

♡*:.。.あたしは ドキドキ.。.:*♡

「あたしは」『ボクは』あなたを

「キスしたい」⇔『抱きしめたい』

.。.:*♡  「『smack♡』」  ♡*:.。. 

  ☆.。.。.。.:*♡   .。.:*♡

♡*:.。. アナタはどっちを .。.:*♡

.。.:*♡ 恋人にしたいの? ♡*:.。.

「天使なあたし」⇔『小悪魔なぼく』

.。.:*♡ どっちか決めて! ♡*:.。.

♡*:.。. どっちもはダメ! .。.:*♡

「小悪魔な天使」⇔『天使な小悪魔』

「さあ」『さあ』「『さあさあ!』」

♡*:.。.「『ねえ…どっち?』」.。.:*♡

♡ ☆.。.。.。.:*♡   .。.:*♡

〜♪♫♬♪♫♬♪♫♬

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


─ギャアアアアアアアアア!!

─パチパチパチパチパチパチ!!


「キュン死するから! コレ、何人かキュン死してるよ? アタイが目一杯頑張ってギリ生きてるんだから、男は何人か確実に死んだっしょ!?」



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

MEMEミーム open chat


unknown〚タヒんだわ俺!〛

unknown〚俺も5回くらいはキュン死したぜ!〛

unknown〚歌姫の後に天使と小悪魔とか、こんな神イベどうやったら参加出来んだ?〛

unknown〚リリーズ・キャッスルのスタッフ限定らしいぞ?〛

unknown〚俺、明日面接に行ってくる!!〛

unknown〚ポ〇引きすりゃいいんべ?〛

深淵の大賢者〚金積めばいんじゃね?〛

unknown〚さすが大賢者様!参加出来る算段があるとお見受けいたす!〛

unknown〚いや、金積むっつっても城下ではなくキャッスルだんべ?もともとゴールド会員しか入れんべ?一見さんとか無理じゃね?〛

unknown〚ゼッテー無理だろ!?〛

unknown〚いや、大賢者様なら或いは?!〛

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