第78話 ポタージュ
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ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
【カノン】の調理師ベンは、真剣な面持ちで何かを見ていた。 額を汗が伝って目に入っても気にしない。 モウモウと立ち上る湯気で熱気が押し寄せて来るが、それも気にしない。
「…………………」
「……………よし」
ベンはメイガスの指示に頷くと、蒸気で熱くなった蓋をフキンを使って開けた。
「本当ね……巣が入ってないわ!?」
「熱し過ぎると沸騰して巣が入ってしまう。 巣が入ると舌触りがザラついて滑らかさを失ってしまうんだ」
「料理ってこんなに些細な事でガラリと味が変わってしまう、何とも奥が深いわね!」
「まあ、そうだな……一言一句録音、録画されていると迂闊な事も言えんな……」
「さあ、アラン! 出来たわよ! こちらをマダムへ!!」
「ちょっと待て! ……よし、これで頼む!」
メイガスがクリーム状の何かを仕上げに乗せた。
「何なの? この泡は?」
「生クリームとミルクで作ったエスプーマだ。 普通にかけるより口当たりが軽く鼻腔に香りが入りやすくなる。 さあ、冷めないうちにマダムへ!」
「はい!」
アランさんが颯爽とした身のこなしで、マダムの前へ音も立てずに配膳する。
「まあ! なんて可愛い器!」
二重底のガラスの器の隙間に季節の草花をあしらったものである。 ボタニカルな器にスープが浮かんだ様な趣向なのだ。
「さあ、お召し上がり下さい。 コーカサスクラブのビスク、オーガカサブランカのユリ根のロワイヤル添えにございます」
「もう香りからして美味しくない訳が無い! そして何なの!? この極めの細かい泡は!?」
「はい、生クリームとミルクを亜酸化窒素を使ってクリーム状二泡立てたモノとなります。 どうぞ、中の百合根のロワイヤルごとビスクをお掬いになって、お召し上がり下さい。 蟹の身と先ほど使ったホタテも入っております。
宜しければ、こちらのパンを千切って浸して召し上がっていただいても美味しくいただけます。 どうぞ、お試し下さい」
「ん────っ!? とんでもない!! これ、とんでもなく美味しいんだけど!?」
「このパンもカリカリでもっちりしてて美味しいよ〜♪ スープに浸すともっと美味しい♪」
「お褒めの言葉、ありがとう存じます」
「このバターも凄いわね? 何か特別なの?」
「いいえ? ただ、鮮度が全然違いまして、今朝作ったばかりのバターでございます」
「そうなのね? 鮮度でこんなに違うだなんて……。 アランさんおかわり♪」
「おかわりーー♪」
あっという間に飲み終えた二人は、アランの服の裾を引っ張って催促する。
「……シロ様、マダム、この後に一つ目のメインが控えておりますが、よろしいので?」
「い、良いかしら?」
「いいよ〜♪」
「…………では、ビスクだけですよ?」
「「は〜い♪」」
アランは予めメイガスに持たされていた、ポットから器にビスクを流し込んだ。 一杯目を少なく盛っていて、二杯目の催促まで計算通りなのだ。
司会のマリアにスポットが当たる。 次の進行の時間が来た合図だ。
「モキュモキュ……ゴクン! ………うおほん! 失礼! え? うまっ!! あ、失礼!!
さて! モカ・マタリさんの新曲、良かったですねぇ〜♪ CD予約必至ですね!
お次は先日爆バズりしたサマエルのメンバーです! 今日はいつもと違う趣向でデスメタルではないとの事ですが……はてさて、今夜は新しいサマエルの顔が見られそうですね!!」
──ワアアアアアアアアア!!
──パチパチパチパチパチ!!
──パチン!
照明が暗転して、会場が一瞬真っ暗になる。
──パチン!
ステージに照明が照らされてサマエルのメンバーが現れた。
「ども、サマエルのベノムっス……
あの……
マダム……俺……
本当に感謝してるっス。
そして……
メイガスさん……
今回協力してくださった皆さん……
本当にありがとうございます!!」
──ワアアアアアアアアア!!
──パチパチパチパチパチ!!
「聴いてください……
その名は……」
【その名は】
作詞:サマエル
作曲:サマエル
編曲:メイガス
―♬!♫!♬!♫!♬!♫!♬!♫!♫!♬!♬!
* ✶ * ☪
此の世を支配する朱き月光
* ✶ ✟ ✶
其の左手には朱き十字架
* ⚔ * ✶
其の右手には朱き聖剣
* ✶ * ❛ *
人々は血の汗を捧げ
❛ * ✶ *
神々は血の涙を拭う
* ✡ * ✶ *
魔王は力無く怯え
✶ * ✫ *
大地は朱く染まる
* ✯ * ✶ *
Ah…止むことのないルベド✟✟
Ogh…侵食するヴァニタス✟✟
✶ * ✶ ✪
朱き月に囚われた少女は
黒き月に請い願う
* ✧ * ✶
例えこの身が朱く染まるとも
✶ * ✶ *
例えこの歌が意味を成さずとも
* ✶ * ✸
どうか闇の王に届けて欲しい
✵ * ✶ *
魂を紡いだこの言葉を
* ✶ * ✶
―♬!♫!♬!♫!♬!♫!♬!♫!♫!♬!♬!
◉ * ✶ *
深淵より解放されし黒き月光
★ * ✶ *
その翼は夜の帳に似て
* ✶ *
その咆哮は大地の嘆きに似て
✶ * ⛈ *
蠢く黒の魔力は止め処なく
* ✶ * ✶
異形を以て顕現する
✦ * ✶ *
Ah…禍々しいまでのその魔力✡
Ogh…正視に耐えないその威光✡
* ☆ * ✶
* 今いまし昔いまし *
やがて来たるべきもの ✶
✶ 彼は
最先であり最果てである *
創生であり終焉である ✶
彼こそが最凶にして最恐 *
災厄にして罪惡 * ✶
無限にして夢幻 *
✶ その名は… ✶ *
* ✶ *
✶ * ✬ *
―♬!♫!♬!♫!♬!♫!♬!♫!♫!♬!♬!
* ☪ * ✶
口にした瞬間 *
* 闇が零れ堕ち ✶ *
深淵と虚無が邂逅 ✶
黒き月が朱き月を
ルベドをニグレド *
✶ 闇より出でて *
✶ 闇に帰す者 * *
* * 全てを闇に ✶
✫ ならぬ *
* 目にしてはならぬ
* 口にしてはならぬ
✶ その名は…… *
* 彼の名は…… ✮
* ✶ * ✶
―♬!♫!♬!♫!♬!♫!♬!♫!♫!♬!♬!
─ギャルギュギュギュラルッキュキュダンバラッタッタタラッギュルルルルルルバララララララブララララララドルルルルルルギュウウウゥゥンゥンゥンゥウ─────ンッヂャララッ!!
──ワアアアアアアアアア!!
──パチパチパチパチパチ!!
「どうも……
ありがとうございました!
こんなに……
たくさんの……
拍手と……
歓声を……
生まれて初めて聴きました!!
俺、最高の気分ッス!!」
──ワアアアアアアアアア!!
──パチパチパチパチパチ!!
一礼を終えたベノム始めサマエル一同はもう一度大歓声を浴びて退場する。
「はーい♪ ありがとうございました! サマエルの新曲でした!!
それにしても……彼の名は……何なんでしょうね〜!?
この曲もメイガスさんが編曲されています! とても斬新なアレンジですね!! かのお方の影が見え隠れする、そんなアレンジでしたね!?
先日の超絶技巧ベースを聴いた人も少なくないと思いますが、本日はエレキギターでの超絶技巧演奏を聴く事が出来ましたね!
それにしてもベノちゃんの人気が爆上がりしちゃったら、アタイ気軽に声かけられなくなるなぁ〜〜……でもそれも嬉しい悲鳴よね♪」
──ワアアアアアアアアア!!
──パチパチパチパチパチ!!
「あらあら、アンコールだわ? サマエルのみんな?」
「ああ……ども
アンコールの曲……
用意してねんだ……
ごめんね?」
─ブウウウウウウウウウ!!
「うん、そうだよね?
いつもの曲を
どうせ皆の耳汚しするんなら……
俺の唄を聴いてくれるかな?」
──ワアアアアアアアアア!!
──パチパチパチパチパチ!!
「ありがとう……
じゃ……
どこにでもある
【どこにでもある
作詞・作曲:ベノム
〜♪〜♫〜♪〜♫〜♪
嗚呼…
胸に支えてる…
言葉があるんだ…
言いたいけど…
言えない…
吐き出したいけど…
飲み込んでしまう…
ずっと…
溜め込んで来た…
大切に…
温めてきた…
君への言葉…
たった一言だけど…
「あいしてる」
〜♪♫♪
嗚呼…
喉に支えてる…
言葉があるんだ…
思っているけど…
形に出来ない…
形にすると…
壊れてしまう…
そんな…
儚く脆い…
触れると…
消えてしまいそうな…
君への言葉…
届いておくれ…
「あいしてる」
〜♪♫♪
届かない…
わかってる…
届けちゃいけない…
わかってる…
だけど…
伝えたいんだ…
この想い…
この気持ち…
溢れ出す…
千の言葉から…
たったひとつ…
俺が選んだ言葉…
君への言葉…
たった一言…
俺からの言葉…
「あいしてる」
〜♪〜♫〜♪〜……
──ワアアアアアアアアア!!
──パチパチパチパチパチ!!
「ありがとう!」
──ワアアアアアアアアア!!
──パチパチパチパチパチ!!
「もう! ベノちゃんたら!
こんな堂々と告白されたら、恥ずかしいじゃない!?」
──ブウウウウウウウウウ!!
「ひどくない!?」
──ワハハハハハハハハハ!!
「まあ、誰に贈った唄…なのかしらね? 何人かキュン死してるみたいだけど、きっと貴女たちでもないから安心してね〜♪」
──ワハハハハハハハハハ!!
「さあて、そろそろメインディッシュが出てくる頃かしら?」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
unknown〚ヤベー!〛
unknown〚メイガスもやべーけど、ベノムもやべー〛
unknown〚今のオリジナルだからアルバムにはならねーよな?〛
unknown〚この動画めちゃくちゃ硬いガード入っててキャプチャ出来ねー!!〛
深淵の大賢者〚俺はアナログでも拾ってるから録れてる〛
unknown〚欲しい!〛
unknown〚いや、金出すから売ってクレメンス!!〛
unknown〚俺二万プスくらいなら出す!〛
unknown〚俺三万!〛
unknown〚五万!〛
unknown〚ナニコレ……〛
unknown〚十万!〛
unknown〚おいおい……〛
unknown〚深淵の大賢者さん?〛
unknown〚いくらなんだ?〛
unknown〚いくらなら売ってくれんだ!?〛
unknown〚深淵の大賢者落ちてね?〛
unknown〚まぢか……他に誰か録れてる奴いねーかなー?〛
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