第71話 マダム・ヘンリエッタ
注意:今回は性的な表現が含まれております。 苦手な方はご遠慮ください。
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全部バレてるなら話は早いか? とにかくマダムの度量が知れないな……。 それにしても……マダム、ねえ? 別にこの異世界に於いて不思議なことでも無いわけだし、偏見の目を向けるつもりもないが、違和感しかない。 どこからどう見てもギャルだ。
「それで? アタシに何の用?」
「俺の名前を知っている地点で大方知ってるんだろう?」
「知っていたとして、それが何? アタシはアナタに訊いているのよ?」
「………………」
「さっきも言ったけど、用が無いなら帰ってもらうんだけど? どうするの?」
「解った。 話そう」
「そう、良かった♪」
──パチンッ!
マダムが指を鳴らすと僕の後ろに来賓用の?ソファが現れた。 魔法……なのか? 突如として空間に現れたソファに驚いていると、マダムは可笑しそうにクスクスと嗤う。
「この魔法の特異性が解る様ね? 非常に興味深いわ、アナタ♪」
「そりゃそうだろう? 土魔法でこんなに意匠を凝らしたソファは作れない。 転移させたか他の空間から出したか、
「それが解るアナタが普通じゃないのよ? 帝国でも上層部しか知らない次元魔法。 その存在を疑わないアナタは異端だわ?」
「………………」
「一部の種族は精霊との共存からその次元への干渉を知っているけど、それを不思議に思って理屈で考えられる人なんてそんなに居ないのよ。 こちらの世界にはね?」
「……何が言いたい?」
「今はアタシがアナタに訊いているんだけど?」
「………………マダム・ヘンリエッタ」
「ん、何かしら?」
「ヘレンさんをベノムに返してあげて欲しい! 金なら俺が出す!」
「……それは、ベノムは了承してるのかしら? ヘレンは アナタに何の関係があってそんな事を言うのかしら?」
「それは……俺の勝手でやりたいだけです! 二人は関係ありません! 二人に頼まれた訳でもないし、了承だって得た訳でもない。 俺の独断です!」
「ふふん♪ 面白いわね、アナタ? でも、アタシはヘレンとベノムとは契約魔法を交わしているのよ。 アナタは干渉出来ないわ?」
「次元魔法を使えるマダムに契約魔法なんて意味があるんですか?」
「……ないわね?」
「じゃあ!──」
「でも、アナタに関係ないでしょう? アタシが次元魔法を使える? 二人の契約魔法を無視できる? それがアナタに何の関係があるのかしら? さっき二人は関係ない、了承もない、そう言ったわよね?」
「くっ……」
「ふふふ♪ アナタはアナタの勝手でアタシにお願いがある。 そうよね?」
「はい……」
「それは、アナタがお金を払うから、二人の契約を破棄して開放して欲しい。 そう言う事よね?」
「はい……」
「じゃあ、訊くわ? アナタの都合でアナタのお願いを聞いてあげるアタシに、いったい何の得があるのかしら?」
「五億入るだろう? 不満なら色を付けても構わないが?」
「五億はもともとヘレンを開放する対価だわ。 アタシが言っているのは、二人との契約を無視してアナタのお願いを聞いてあげる、アタシの対価の事を言っているの。 正直なところお金じゃつまらないわ?」
「じゃあ、いったい何が欲しい?」
「そうねぇ……クロ?」
「はい?」
「アナタが欲しいわ?」
「はいい!?」
「何度も女に言わせないで欲しいわね? アタシはクロ、アナタが欲しいと言っているの!」
「どうしてそうなる!?」
「あら? 不服そうね? とても遺憾だわ? アタシ、こう見えて外見にはそれなりに自身があったのだけれど?」
「お、俺には心に決めた
「あら? アタシは他に想い人が居ても構わないわよ?」
「なっ!?」
「アタシはサキュバス。 アナタの遺伝子、つまり
「どうして俺なんかの……」
「だってアナタ、この世界の存在ではないでしょう?」
「どうして──!?」
「アナタの魂の色、形、そして匂いかしら? 見たことも感じた事もないわ?」
「霊魂可視化……」
「あらあら、そんな事まで? 本当に興味深いわね?」
しまった……マキナさんに秘匿スキルだと云われていたのに……クソッ!
考えても仕方ないが……しかしどうする?
考えろ!
考えろ!
「ねえ、そんなにアタシじゃ不満かしら? そんなにアタシ、魅力ないのかなぁ?」
「………………」
「ねぇ……アナタ……ちょっとアタシを、味見……してみないかしら?」
──パチンッ!
──っ!?
瞬時に僕は巨大なソファ、そして、マダムの吐息のかかる距離に居た。
サキュバス特有の甘い匂い……媚薬の効果でもあるのか、頭の中がフワフワする。
そして魅惑的な紫苑の瞳から、眠りを誘うような魔力の光が瞬きと共に明滅している。
彼女の身体の火照りか、自分自身が火照っているのか身体が熱い。
「ねぇ、知ってる?」
「………………」
「サキュバスのあそこがどうなっているのか……?」
彼女が口を開く度に粘着質な音がして、言葉の一つ一つさえも滴るように零れる。
「おくちがもうひとつあるの♡」
「くち?」
「そう、くち。
まず入口にポッテリとした唇
滑らかに動く長い舌
段階的に締め付ける咽頭
ゼリー状の滑らかな液腺
……見てみる?」
「いっ!? い、いや、いいいい、いいです!!」
「興味ない?」
「……俺、そんな事しにここへ来た訳じゃないから……」
「でもほら? もうこんなに……あら……凄い……」
「やっ! やややややめて、やめてください!……あ……」
「もしかしてアナタ……まだ……なの?」
「まだじゃ……ハァ……悪い、ですか……ハァ……ハァ……」
「ん……ねぇ? アタシに筆下ろしさせてくれない? アナタが、本当に欲しくなって来ちゃったじゃないの……ペロリ……」
汗ばんだ首筋の塩分濃いめの水滴を、舌先で掬い上げる様に舐めた……身体に電気が走った様な衝撃が駆け抜ける!
今までに経験したこともない快感が目覚める。
駄目だ……頭の中が……妄想しかない!
気が触れてしまいそうだ!
彼女は僕の遺伝子が欲しいだけ……僕の心はシロのモノ……身体は?……シロのモノじゃないのか!?
何故こんなに抗おうとしない!? 彼女がサキュバスだから? これがサキュバスの能力、スキルなのか?
それとも僕の中の男の醜悪な部分が……クソ!
どうすれば抗える?
いっそ身を委ねてしまった方が……
──助けてシロっ!!
◆◆◆
「──クロっ!?」
「え? シロちゃん!?」
「どうかしたの? 何か顔色悪いわよ?」
「クロが……クロが……あぶない……気がするの!」
「でも……モスキート君の画像が途切れちゃって、今何処に居るのか分からないわよ!?」
「でもっ! クロのところに行きたい!」
「デバイスも繋がらないし、カメオも応答ない……何かあったのか、届かない所にいるだけなのか……」
「そうだ、マキナちゃんに聞いてみようよ。 同じようにモニタリングしている筈よ?」
「う、うん……」
「あ、もしもし? マキナちゃん? そう、クロさんの画像が切れちゃって……うん、そう。 ……え? リリーズキャッスル? 何それ?」
「……色街最大の高級娼館よ」
「え!? 高級娼館!? ……お城にひとりで乗り込む手助けをしたの!? ……どうして止めなかったの? ベノムさんを助ける為に必死だったって……だからって……。 ……言っても仕方ないわね。 ……うん。 こっちでも少し考えるわ。 何か分かったらすぐに教えてちょうだいね? ……うん、じゃ!」
「ラケシスたん!? クロは!?」
「うん……リリーズ・キャッスルって言う娼館に行ったらしいわ。 その後は分からないって……」
「シロ、行って来る!!」
「……仕方ないわね、一緒に行くわ!!」
「ラケシスたん、ありがとう!!」
『あのバカ、何かやってんだ!? こんなにシロに心配かけやがって!』
『まだ分かんないよ! クロは……クロは……』
『けどよぉ、クロだって男だぜ?』
『男って、どう言うこと?』
『欲に溺れる事もあるっちゅー事さ』
『欲に……?』
『ああ、性欲な?』
『クロは……他の人とそんな事……しないよね?』
『さあな……』
『………………』
「やだ!!」
シロが眉を吊り上げて明らか不機嫌な形相を作っている。
「え? 何!?」
「クロが他の人とエッチな事するの、ぜったい嫌だ!!」
「シロちゃん!?」
「行こう!! ラケシスたん!! 急がなきゃ!!」
「まあ、ここは既に色街だから遠くはないけど、リリーズ・キャッスルかぁ……入れるかなぁ?」
「あら? 入れないのかしら?」
「城に行くのにアプリの会員証を見せる必要があるんだけど、ゴールド以上じゃないと入れてくれないのよねぇ……」
「それじゃあどうすればいいのかしら?」
「本当は嫌なんだけれど、仕方ないかなぁ……?」
「ママ……でも……」
「いったいなんの話をしてらっしゃるの?」
「うん、本当は言いたくなかったんだけど……、マダム・ヘンリエッタはあたいの叔母様なのよ……はあ……」
「え? マリアさんの?」
「ええ……この店も以前は城下町の方に店を構えていたんだけど、叔母様と喧嘩してこっちに越して来たのよね……あ〜あ、会いたくないわぁ、あのアバズレ。 話もしたくない!」
「そこを何とか、してくれるのかしら?」
「ひとつ約束してくれる?」
「あら、私に出来る事であれば構いませんことよ!?」
「ラケシスさんとシロちゃんからクロ様にお願いして欲しいのだけれど?」
「「何(かしら)?」」
「クロ様の、この店での生演奏!!」
「キャ~!! ママ、それ良い!! 私も手伝うわ!」
「マリアさん、シロがクロにお願いしたげるから、マダムはお願いしてい〜い?」
「でも、クロさんが承諾してくれるかは分かりませんことよ?」
「それで構わないわ♪」
「では、約束ね!」
「じゃあ、行きましょうか! リリーズ・キャッスルへ!!」
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