第69話 冥界入り
「そう言う訳でローレンさん、これから彼らとセッションしますが、良いですかね? ……え? あ、はい。 顔は隠しますので。 はい、……ありがとうございます」
僕はデバイスの
ともあれ、事務所の許可を得たので契約魔法は発動しないだろう。 晴れて僕はベノムさんに言う。
「僕と
「は、……はい!」
ベノムさんの顔は少し明るくなっただろうか、ずっと死んでいた目の奥に少し輝きが見え隠れしている。 僕は
そして、僕は別室でベノムさんのバンド【サマエル】のメンバーに紹介された。 ドラムのギフトさん、リードギターのポワゾンさん、ベースギターのヴェレーノさんだ。
「ども、ただいま紹介を受けましたメイガスです。 ヴェレーノさん、急な申し出なのに快く引き受けてくださって感謝してます。 俺のワガママに付き合ってくださるなんて、何か申し訳無い」
そう、僕は冥王の弟子【メイガス】としてベノムさんのバンド【サマエル】のメンバーに紹介されていた。
「いや、良いんだ。 事情はベノムから聞いてる。 それにしても、あの冥王にお弟子さんがいらっしゃるとは存じ上げませんでした。 こちらこそ胸を借りるつもりで勉強させていただきます!」
「音合わせに少し弾いても良いかな?」
「はい、勝手にやってください!」
僕はヴェレーノさんからベースを預かると、以前マタリさんに教えてもらったエンチャントのスイッチを切った。
「え!? エンチャント無しで弾くのか!?」
「何かいけなかったか? 勝手にして良いと言ってたような?」
少し澄まし顔でヴェレーノさんへ視線を送る。
「いや、すまん。 そのまま続けてくれ……」
「そうか」
僕はほぼチューニング済みのベースをペグを弄って微調整しつつ、軽く掻き鳴らしてみた。
〜♪
ッボォ〜ン ッドゥ〜ン ッデェ〜ン ッディ〜ン
〜♬
ツッ!カッ!ツッ!カッ!
ドゥル!ダッ!ダッ!ディキッ!ディ〜ンタドゥカダン!
ボッ!ボッ!ボボン!ブ〜ンキョコボベン!
「「「「冥王だ!」」」」
「すげっ! 本当に同じベースなんスか!?」
「お、俺のベースのじゃねえ!」
「俺たちは今日、冥界への入口を覗き見る事になるのだな!!」
「後でサイン貰っても良いっすか!?」
「まだデビューもしてないので、サインは勘弁してください……」
「これでデビューしてないとか有り得んだろ!?」
「あ、あまりメイガスさんを追い詰めないでくださいね?」
ベノムさんが僕を気遣ってくれて、サインは免れた。 まあ、書いたとしても日本語で【め〜がす】って書くだけだが。
「あの!サマエルさん、次出番なので準備お願いします!」
「あいよ!」
ドラムのギフトさんが返事をして、皆に目配せで行こうの合図を送る。
一同ひとつ頷いて部屋を後にした。
──ワアアアアアアアアア!
ベノム、いや、サマエルの人気はかなりのもんだ。 小さなライブ会場も埋め尽くされて、少し空気が薄く感じるほどだ。 入場前から歓声が聞こえて来る。
ベノムがマイクを取ると、すんと静かになり、ドラムやギターの調整音だけが聞こえて来る。 そして。
「あぁ……みんな、生きてるか?」
──ワアアアアアアアアアア!
「死んでねぇならいいや、今から詠い殺してやるよ」
──ドワァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!
「あ、そうそう……今日は冥王の使徒を召喚したから、魂まで冥界に持って逝かれねぇように気をつけろょ」
──ゴヷァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!
上げ過ぎじゃねぇか? 既に失神してそうな女がチラホラ……。
「冥王の使徒、メイガス!!」
〜♪
ブ〜〜〜〜〜〜〜ン゙
──……
〜♫
ドゥルダッ!カッカッ!ブボンボンボロッ!ダッダッ!ギュ〜〜ン………
〜♬
ブゥンチャットゥットゥラットゥンラッ!
ブゥンチャットゥットゥラットゥンラッ!
ボンペケペケペケペケペケペペケペケケ!
ブンピキピキピキピキピキピピキピキキ!
ッドゥラブドゥラブドゥラブドゥラボン!
ベギャギャギャギャギャギャギャギュギュギュギュギュギュギュギイイイイィィィィィィィィ……ボロロン
──……
……あれ? イマイチだったか?
──ギャァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!
……良かった。 何人か倒れてるけど、別に良いよね? さあ、
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
〜♪
チッチッチッダンダカッダッダッダダ!
〜♫
ギュィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ン!
〜♬
ドゥンドゥンドゥンドゥラッダッダッダダ!
──ウォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!
聴こえるか──この心音が!
聴こえるか──この嗚咽が!
聴こえるか──この慟哭が!
焼き尽くせ!
豚が巣食う教会を!
焼き尽くせ!
翅蟲が蠢く巨塔を!
焼き尽くせ!
狂人が蔓延る都を!
我等の血肉を燃やせ!
荒振る炎で焼き尽くせ!!
〜♬
ブンブラッバッバッドゥンドゥラッタッキュッブボン♬
──ウォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!
見えるか──この鮮血が!
見えるか──この腐肉が!
見えるか──この眼の焔が!
喰らい尽くせ!
豚腹に溜め込んだ真珠を!
喰らい尽くせ!
天空に聳える札束を!
喰らい尽くせ!
奴等の希望も未来も誇りさえも!
我等の生命を捧げよ!!
鉄血に換えて目に物見せよ!
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
俺はフットモニタースピーカーに足をガっと乗せて、ベースギターを縦に構えて両手で掻き鳴らした。
そして、フラップ&タッピングを駆使して連続でテクニックを随所に放り込む超絶技巧を披露する。
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
〜♬
ブブンブラッボッボッボンゥンブゥラッタッキュッブボボン♬
──ゥ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!
メイガスは来た!
──ゥ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!
全てを無に
──ゥ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!
骨の一つも残すな!
──ゥ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!
全ての魂は冥界へ!
そしてメイガスの血肉となれ!
〜♬
ブロンボッボッボッボボキュッダラダダン!
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
──ドッゴォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙!!
……地鳴りだ。 地面や壁がビリビリと鳴っている。
死人は知らないが人がバッタバッタ倒れている。 ヘドバンし過ぎたか?
「ああ、みんな? 冥界の入り口は見えたか?」
──ウオオオオオオオオオオオオ!
「ふ、そうか……なら忘れるな? メイガスの音は凶器だ。 生命が惜しかったら、近付き過ぎるな!? わかったら散れ! 今日の
ライブステージのベノムは別人の様に喋る。 喉に詰まった痰でも吐き捨てるかのように。
僕は何も言わずに会場を後にする。
メンバーがそれぞれの身体に触れてそれぞれを労う。 少し息が荒く興奮は冷めていない様だが、とても良い顔をしている。
初めて組んだよ、バンド。
……最高だ! 僕のヴァイブスがこのライブでぶっ飛んだ! 湧き上がる高揚感でめまいがするくらいだ。
調子に乗って変な事を言ってしまいそうだから、今日のところは引き上げよう。
「ベノム、すまん。 俺帰るわ。 また連絡する」
「あ、はい。 お疲れ様ッス。 大丈夫ッスか?」
「ああ、問題ない。 じゃあな」
「「「「お疲れ様ッス!」」」」
手応えはあった。 あとはベノムさん次第だ。 答えを急くと良くない様な気がして、聞けなかっただけだが、返事は今度で良いだろう。
倶楽部パンゲアのドアを開けると、凍てつく様な風が頬を切りつけて来る。
──さて、次は……。
◆◆◆
【ガールズバー・ベラドンナ】
「ちょっとちょっとちょっと!! ヤバい!! ヤバいって!!」
「ヤバ過ぎる……抱かれたい……」
「ベノム様のシャウト……素敵ですわ♡ ん〜……でもクロちゃんも素敵♡」
「クロは抱かせない! 帰って来たらシロが抱っこしてもらうんだから!」
「ああ……あのクロ様がメイガス様で冥王様なのね♪ この限られた者だけが知っている限定感が良いわね♪」
「これは何としてもサインは貰わないとイケないわ!!」
『何やってんだ……クロは……?』
モスキート君から送られて来た画像は、デバイスを通して店の壁に投影されている。 ベラドンナは小さなライブ会場となっていた。
◆◆◆
マキナの研究所【ブラックボックス】
「ベノムきゅんの匂いを嗅ぎに行きたい!!」
「師匠!! 落ち着いてくださいって! 今はマッキーナさんとのリンクに集中して下さい!」
「うるさいうるさい! ベノムきゅんにキュンキュンなのだ! 仕方あるまい!?」
「あらあら、どちらも良い男ねぇ♪ いっそ揉みくちゃにされたい♡」
「私はやっぱりクロ様ですわ♡ あのメイガス様のお姿で冥界に連れて行って欲しいですわ♪」
「二人とも落ち着いてください! こんなところで服は脱がないでください! あっ!? ハイモス、今こっち見たでしょ!?」
「い、いや、声が聴こえたもんですから……ルカさんの……」
「な! なら、仕方ないわね!? でも、モイラ姉妹は見ないで!」
「は、はい。 ルカさんしか見てませんから!」
「もう! ハイモスったら♡」
時を同じくしてブラックボックスでも同様の現象が起きていた。 一部毛色は違ったが、色めき立っていることには違いなかった。
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