第4章 ディーヴァ
第61話 沙汰
僕は今、とても満たされた気分でシロと隣り合わせになっていた。
シロは申し訳無さそうに俯き、モジモジしながら話を聞いている。
僕はもう怖いものはない。
例えそれが帝国であろうと、神であろうと、シロに害を成すものであるならば、揺るぎない決意を持って立ち向かえるだろう。
「聞いておるのか!? そもそもクロ、キミが勝手な行動を取ったのが原因なんだぞ!?」
「はいぃ! マッキーナさん!! すみませんでしたーー!!」
「シロは良い! 許す! キミは可愛いから許す!! キミの失態はボクの失態だ!!」
「ありがとうございます! マッキーナたん!!」
「しかしクロ! キミは許さん!! とりま猫になってボキュの膝に乗り給え!!」
「え、マッキーナさん、それはどうして……?」
「口答えは許さん!! これは絶対命令だ!!」
「は、はいぃっ!! め、めたもるふぉ〜ぜっ!」
僕はすぐさま黒猫となりマッキーナの膝の上に乗った。 僕は否応なしに仰向けにされて、マッキーナは顔を押し付けて来た!
くんかくんかくんか!
す〜〜〜〜〜〜〜〜〜
は〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふう……。 よし、今回はその殊勝な心掛けに免じて許そう! だが、次はないと思い給え!!」
言いながらマッキーナの顔はだらし無く緩み、何なら涎をだらだら流している。 完全に変態モードの顔だ。
しかしまあ、彼女らには迷惑をかけ、心配させてしまったのだから仕方ないと言えよう。
「マッキーナさんの温情ある英断に感謝の意を!!」
「うむ! 良きに計らえ!!」
僕がその場を後にしようとした時、何かに尻尾を鷲掴みにされた。
「にぎゃあ!!」
「あらあらあらあら、いったい何処に行こうと言うのかしら?」
「ラケシスさん、それはいったいどう言う……?」
「終わったのはマッキーナの沙汰であって私のそれではないわ?」
「えと……つまり?」
「私の言う事も聴きなさい!?」
「は、はいぃ!!」
「シロちゃんは許すわ!」
「ラケシスたん、ありがとうございます!!」
「うんうん、シロちゃんは可愛いから許されるのよ? さて、クロさん?」
「はい!」
「私と契約魔法を交わして貰いますわよ?」
「へ?」
「貴方、私の再三の念話を無視していましたわよね?」
「それは……はい、その通りでございます!!」
「二度と無視するような事は許さないわ!! さあ、手を出しなさい!」
「ひいい!!」
クロの手をグイッと強引に引っ張り、そのたわわな胸に押し当てる。
「あんっ!!」
「ちょっ!? ラケシスさん??」
「黙りなさい!!」
「はいぃ!」
ラケシスさんは僕の手のひらにその先にあるコリコリとした突起を擦り付けてくる。
何処でこんなに薄い服を見つけて来るんだこの人……。
「ん……、んくぅ……はぁ、はぁ……」
「ちょ!!」
「もう少しなんだから、喋らない!!」
「はいぃ!」
ラケシスさんは、僕の手を時間をかけてゆっくりと堪能した後、ポワっと魔法陣を浮かべて何かしらの文言を呟いた。
光が僕と彼女を繋ぎサラサラと消えて行った。
「はぁ……はぁ……。 ふぅ……」
「あの……もう良いですか?」
「あら、まだよろしくってよ?」
「僕はよろしくありません!」
「水臭い事言うのね? 私と貴方の仲じゃない?」
「ただの腐れ縁です」
「冷たいわ! シロちゃん、クロさんが冷たい事言うのよ?」
「ラケシスたんはもうダメ! クロから離れて!! クロをいぢめたらシロがゆるさないから!!」
「あらあら、お可愛いこと!? ならば離さない事ね? もう二度とね!?」
「それは……わかった。 クロとはこれからずっといっしょ。 しんだってはなれないよ!!」
「し、シロ!?」
「ならばシロちゃんも約束ね?」
「うん!! わかったよ、ラケシスたん! でも、クロをいぢめたらゆるさない!」
「わ、……わかったわよ」
ラケシスが怖気付いた!?
シロって何気にこの空間の頂点にいるのではなかろうか?
何故か、ネモさんがニヤニヤしながらこちらを見ている。
「よう、クロ。 モテモテじゃねぇか。 俺の前ではそんな素振り見せなかったのに、ムッツリなのか?」
「ち、違いますから!! 何の誤解をしているか知りませんが、ボクの想い人はこの……」
「ほうほう、この、何だ?」
「この……」
「この、何?」
シロがキラッキラした目を向けてくる……いかん、眩し過ぎて直視出来ん!!
「ほらぁ、何かなぁ〜?」
「クロ、腹括れよ」
「ぼ、ぼくのおもいびとはこのシロさんです!」
「コノシロ? 魚か何かか?」
「シロが僕の想い人ですよ!! これで満足ですか!?」
「クロ〜♡」
ああっ! シロがもう遠慮なんて考えないで抱きついてくる。
なにこれ……ダッコちゃん?。
「なんだ、ちゃんと惚気られるじゃねえか」
「マイロード、私も惚気けていただいても宜しいでしょうか?」
「レディ、俺はお前が居なきゃ生きていけねえよ。 んんっ!!」
「んっ!! ん~~あっ!!」
ネットリとしたキスと抱擁。 年配の女性陣から冷ややかな視線が注がれる。
「おい、ここにはボッチが二人も居るんだぞ? 少しは遠慮せい!」
「私もいます……」
「ルキナちゃん? ルキナちゃんはいくつの設定?」
「
「それは確かに思春期であるな?」
「ヒューマノイドにそんなものあるのか?」
「モラハラです」
「す、すまねぇ。 しかし、何なんだここのヒューマノイドは? ぜってぇリミット外れてるよな?」
「ナニソレシラナイ」
「そうか、自律型なんだな」
「シリマセーン」
「いや、別に誰かにチクるつもりはねぇよ。 それより、その腕を見込んで頼みがあるんだ」
「ほう、この天才マッキーナちゃんに頼みとな? 高くつくぞ?」
「ああ、いくらかかっても構わねぇ。 一度コイツの検査、メンテナンスをして欲しいんだが」
「マイロード、私は異常ありませんよ?」
「いや、異常なくて良いんだ。 それを確認してもらうだけだからな」
「そう、ですか……
「ふむ、良かろう。 引き受けた。 検査とメンテナンスだけで良いのか?」
「……はい。 それでお願いします」
「ミレディきゅん、こっちに来給え。 まずシャワーを浴びてから少々問診しよう。 うちのサーバーに繋ぐが構わんか?」
「……はい。 問題ありません」
「では、後ほど」
「レディをお願いします!」
ネモはマッキーナに深く頭を下げた。 少し周囲が動揺して、ミレディ自身も目を丸くしている。 きっと調べれば何かあるのかも知れない。
しかしここに居る皆が皆、訳ありなのだ。 そんな些細な事をとやかく言う人は居ない。
僕はネモさんの真剣な横顔を見て、本当にこの人はミレディさんの事を愛しているのだと確信した。
ネモさんは獣人族でミレディさんはヒューマノイド、或いはオートマタだろうか。 人が感情移入する対象では、普通ではありえないのだ。
しかし、彼のそれはモノに対するソレではなく、完全に人に対するソレ、或いはそれ以上だと言えるだろう。
少し羨ましく思えたのだ。 人と人との繋がりが、こんなに尊いモノだとは思ってもいなかったからだ。
シロや皆に会うまでは。
それがどんな形であろうとも、人は誰かと繋がっていたいのだ。
今ならハッキリと解る。
僕はシロと繫がりたい。
心も。
身体もだ。
「おい、皆!
「「「きゃーっ! クロが発情!?」」」
「ち、ちがっ!! え? え? 何で!?」
「クロ……そうなの?」
「シロ!? ちがう、そうじゃない! 僕はただ君と、ネモさんとミレディさんの様になれたらなあと……」
「ほら、白状したぞ! シロちゃん、
「クロ……私は人前じゃちょっと……はずかしいよ」
「ち、違う! いや、違わないけど、違うからっ!! ……わああああぁぁぁぁ……」
僕は逃げた。
恥ずかしくて死にそうだった!!
「あ~あ、行っちゃった……ネモさんのせいだわね?」
「そうだ、ネモさんがわるい」
「うん、ルキナもそう思います」
「えっ!? え〜〜っ!?」
ネモはバツが悪そうな顔で皆の顔色を窺う……しかし皆、行って来いと言う顔をしている。
ネモは下唇を突き出し、仕方ねぇと一言呟いて、クロの後を追った。
「全く男はこれだから!」
「これだからな〜に?」
「これだから可愛い♪」
「ラケシスたん、やらし〜」
「そう言うシロちゃんはどうなの?」
「うん? えへへ〜、やっぱり可愛い♡」
「る、ルキナはまだお子様なのでわかりません!!」
「そうね〜、でも知りたいわよね〜? 男のこと」
「は……はい……いえ、そんなっヤラしい意味ではっ!!」
「いいじゃないの、ヤラしくたって?」
「そ、そうでしょうか……?」
「だって、ルキナちゃんも女の子でしょ? 男の人と恋くらいするでしょう?」
「ひゃっ!? 恋!? まだ、私はわかりませんからっ!!」
「だって、お父さんはそこんとこリミッター付けなかったんでしょ?」
「は、はい……しかし……」
「恋したくない?」
「シロはねぇ、ルキナたん?」
「は、はい……何でしょう?シロさん?」
「シロは〜、クロのことを考えるだけで〜、むねがキュンキュンするんだよ?」
「キュンキュン……ですか?」
「そうだよ? ラケシスたんはね〜オマタが」
「シロちゃん? ルキナちゃんには早すぎますわっ!!」
「ルキナ、気になります!!」
「えっ!? ルキナちゃん!?」
女三人寄れば姦しいと言うが、恋に花を咲かせる乙女たちの恋バナは、夜遅くまで続くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます