第59話 顕現サタン

 シロがさらわれた。


 マッキーナから事のあらましは聴いた。


 きっと僕が居なかったからだ。


 僕が居たからと言って大丈夫だとは限らない。


 しかし、僕が離れなければシロが独りで行動する事も無かっただろう。


 後悔したところで、事態は変わらないだろう。


 煮立つ思いが自分を責め立て、焦る気持ちに火を付ける。



『クロ、心配しても成るようにしか成らないよ。 やれることをやるだけだ!』


『うん、解ってる。 解ってるけど、後悔しかないんだ。 やるべき事をやって来た筈なのに!!』


『ここで、シロさんが助かれば全て解決じゃないか! ボクはクロならやれるって信じてるよ!!』


『フラグっぽいからやめろおおお!!』


『良いじゃないか。 フラグ上等。 フラグ毎ぶっ飛ばせば良いんでしょ!?』


『……ウラノス、なるほど。 キミに会えて良かった。 僕を手伝って欲しい!!』


『あったりまえじゃないか!!』


『おう!!』



〜♪

マッキーナから発信機の場所が届く。



[クロ、既に帝国のヴイーブルは目前だ!! 不用意に突っ込むな!!]」


「分かった! ヴイーブルにはシロと帝国のヤツだけか!?」


「そうだな。 フェルも居るだろうが」


「解った。 あと何かありますか?」


[スミスが工作型ドローンのアラネアちゃんを忍び込ませているのだ。 中の様子はデバイスのアラネアちゃんアプリを開いたら見ることが出来るぞ。 あと、最悪は魔導機関で爆発させてヴイーブルを落とすつもりだ]



 すぐにデバイスのアプリを開けると、帝国のヴイーブルはニヴルヘル冥国の首都ナーストレンドへと向かっている。


 街に入られるとまずい。 最悪見失うかも知れないし、迂闊に攻撃も出来ない。 当然爆破なんてしたら甚大な被害が出るだろう。 こちらの動きが分かっているのか……。



[クロの旦那、俺です。 スミスですわ、お久しぶりです]


「あ、スミスさん、お久しぶりです!」


[旦那、すぐに爆破しませんか!? ヤツを生かしておくと碌な事が無いっすわ! このまま見失うとシロさんも危ういんやないかって思いますよって]


「シロごと爆破か……それは……」


[旦那、迷ってる暇はありまへんねやで?]


「そうだな……しかし……爆破はしない! いや、待ってくれ! 僕が失敗したら頼む!」


[承知や!]


『ウラノス、あのヴイーブルの下スレスレに抜けるか?』


『やってみる!』


『頼んだぞ!!』


『うん!!』



 或いはこちらの位置情報もバレているかも知れない。 アラネアちゃんも、もしかしたら利用されていてもおかしくない。

 それでも僕は選択しなければならない。 あらゆる可能性を模索して、今成せる最善の策を!



◆◆◆



「くそっ! クラフトめ……いったい何をやっておるのだ……。 また悪い癖が出たか? だからクラフトあいつと組むのは願い下げだと言ったのだ……しかし、クラフトと言えどこんなに時間をとらせるのは妙であるな……まさかとは思うが……」



 ペドロはデバイスに語りかける。



「NRA(ナーストレンド中央競ドラ会)の運営本部か? ペドロだ。 クラフトはもう競ドラ場を出たのか? ……何? まだだと!? いったい何をやっておるのだ? ……女性を? 奴め……やはり悪い癖が出おったか!」



 ペドロは操縦席の足元に転がしていたシロを蹴飛ばした。



「んんーーっ!!」


「くそっ! 良いから奴の部屋に入ってケツを蹴飛ばしてやれ!! 私の命令でやったと言えば良い! かまわん!!」



 ペドロは据えた目で影を見遣る。 影の向こうに何を見るのか。 机の角を爪でカチカチと鳴らし、時折シロを蹴るを繰り返す。



「んっ!!」


「っせーな! クソがっ!!

 いや、これはまさか……っ!?」


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 不意にアラートが鳴る。

 艦内に緊張が走り、AIオートパイロットによるアナウンスが流れる。


〚何かが猛スピードで急接近して来ます! 何かが猛スピードで急接近して来ます!〛



 キンッ!!

 ……ズッ……

 ………ズズズ



 甲高い金属音の後、何かがズレていく音がして。


 ヴイーブルが真っ二つに割れた!



「くっ! 敵かっ!?」



 ペドロは片腕を失っていたが、慌てる様子はない。

 そして、至極冷ややかな目でシロに視線を落とす。



「んーーっ!!」


「お前の仲間か?」


「ん〜んっ!」


「まあ、どちらでも良いわ」



 そう呟くとペドロの身体から影のようなモノが溢れ出し、自身とシロを包み込んで行く。



『シロ! ダメだ、影に飲まれるな!』


『え? フェル、影って?』


『そうか、見えないのか……いや? えるだろ!? 光をるのでなく、その後ろに影があるだろう?』


『ああ、ハッキリとえるな!』


『『っ!?』』


『シロを─────』



 墜ちて行く影の塊に、飲み込まれつつあるシロの手を掴み、ズッポリと引きずり出したのは。



『『───クロ!?』』


『シロを返せやごるぁあ────!!』



 黒い影の上に、更に大きな黒い影が指す。 


 クロは滲み出る影からシロを引っこ抜き、自らの胸に強く抱き寄せた。

 クロはどす黒い目をペドロに突き刺し、忍び寄る影を湧き上がる影で牽制する。

 ウラノスは魔力を全身に張り巡らせ、どんな動きにも対応出来る様に微動だにせずに浮遊し、クロはあからさまな怒気を帯びて髪を逆立てている。



「くっ! 何者だ!? ん?……そのドラゴン、まさか?」


「関係ないだろ? 消えろやおっさん!」


「ぐぬっ!!」



 ギィーン!!


 僕の放った一閃はペドロの体表の黒い何かに弾かれた。

 ペドロは黒い影をまとい甲殻化させ、更には黒い魔力を練り上げて拡げて、大きな翼様の形を模している。 切り落とされた筈の腕も再生しているのか……厄介な。



「キサマ!? キサマキサマキサマ!! いったいキサマは何なんだ!?」


「知らん!!」



 僕はおどろおどろしいほどの黒い固まりをペドロに向けて放つ。

 ペドロは黒い塊に圧されてそのまま墜ちて行く。 しかし、途中で往なして立て直しやかった。



「くっ! ……ふふ。 ふふふふ。 ふははははははは!!」


「とち狂ったか?」


「面白い!! キサマ、面白いな!?」



 ペドロはべっとりとした笑顔を顔に貼り付けて、これでもかと思わせるほど口角を上げて笑っている。 くっそムカつくな!



「46番もろともキサマも欲しくなったぞ!? どうだ? 帝国に来んか?」


「断る」


「そうか、後悔するなよ!?」


「知るか!」


「では、参る!」



 ペドロの影から黒い楔形の塊が高速回転をつけて続け様に発射される。

 ウラノスは咄嗟に身体を拗らせて躱し、翼を下ろし飛翔すると大きく翻ってペドロへ向けて突き刺すように突進する。

 ペドロは翼を更に大きく拡げてウラノスを包み込むように覆い被さろうとする。 拙いな。



「ウラノス、戻れ!」



 ウラノスは頭をグイッと下方に捻転させて宙返りでもするかの様に方向転換を試みるも、思いの外黒い翼は大きくなっていて間に合わない。


 かと思われたが、間一髪、僕が放った虹色の魔力を帯びた斬鐵剣の切っ先が、八つ裂きに切り裂いて行く。

 本体は何処だ!?



「少しはやるな?」


「………………」


「こんなに俺を手子摺てこずらせたのはお前が初めてだっ!!」



 ガリガリガリリリッ!!

 ガキン!!

 ドゴン!!

 ペドロの猛ラッシュが続くが僕の身体には傷一つ付かない。



「ならばコレはどうだ!?」



 ペドロは放射状に黒い影を伸ばしウラノス毎包囲する。 巨大な鳥籠の様になったペドロの影に魔力が流れようとしたその時!

 ウラノスを黒い光が包み込み、瞬時に絞ろうとしたが霧散した。

 あっぶね! コイツ、僕やシロへの攻撃が効かないと分かるとウラノスに攻撃を仕掛けて来やがった。 やはり危険だな。



「マンティコアウィング!!

 ディアブルホーン!!

チェンジフォーム・サタン!!」

 

「なっ!? 嗚呼……なんと美しい……素晴らしい!!」


『ウラノス、シロを連れて離れてくれ』


『うん、わかった! クロ、気を付けて!! ペドロは危険な人間だ。 あいつの魂は禍々しいくらいに黒いんだ』


『クロ!! 気を付けてね!!』


『シロ!? シロ!!』


『クロ!!』


『……すぐ終わらせる。 少しだけ、ウラノスと、待っていてくれ!』


『わかった!! クロ、勝って!』


『ったりめーだ!!』


『ひゅーひゅー♪』


『フェル、てめぇ後で覚えてろ!?』


『知らんな?』



 やっぱり……良いな、この感じ。 早く終わらせよう。

 僕は凶悪なくらいの魔力を練り上げてディアブルホーンへと蓄積させた。


 決めたんだ


 相手が帝国だろうと


 神だろうと


 僕たちの邪魔をするなら



 ぶっ潰す!!

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