第58話 癒着
『シロ!? 大丈夫か?』
『フェル!? フェルぅ〜!!』
『ああ、オレサマだ。 やっぱりオレサマが居なきゃダメだなオメェはよ!』
『うん……フェルが居なくて私、ダメダメだった……。 ずっと強がって見せてたけど、ずっと寂しかった。 フェルが居なくて寂しかったよぉ〜!』
『ふ、ふん、そうかよ! クロじゃなくて、オレサマで良かったのかよ?』
『そんなのどっちがどっちとかじゃない! クロはクロで、フェルはフェルだもん! どっちが居なくなったって寂しいに決まってるよ!!』
『……そうだな。 オメェはそう言うヤツだ。 だが、それがシロ、オメェだ! そうじゃなきゃぁな!!』
『そうだよ! フェル! 本当に会えなくて寂しかったよぉ!!』
『お、おう……』
『フェル? そばにいる?』
『ああ、ここに居るぜ?』
『私、目隠しされてて何も見えないの。 今、どうなってるのかな?』
『そうだな……オメェ、ペドロって覚えてるか?』
『ペドロ神父様? インスマスで先生してくれた人だよね?』
『ああ、エセ神父だけどな。 オメェはアイツに誘拐されて今帝国のヴィーヴルに乗ってるんだ。 まあ、十中八九帝国に向かってるだろうな?』
『そんな……ここじゃペンダントも役に立たないし、デバイスも取り上げられて使えない……フェル、どうしよう?』
『さっきスミスがクモみてえなヤツを置いてったんだ。 きっと何かあるに違いないと思ってる』
『やっぱりさっきの声はスミスさんだったんだ?』
『ああ、アイツいつもの変な喋りじゃなく、気持ち悪い敬語なんて使ってやがったぜ? へっ』
『だからかぁ、スミスさんの声なのにスミスさんじゃないみたいだったのは』
『ああ、とにかくきっと皆が動いてくれる筈だ!』
『うん!』
『でも、皆にまた迷惑かけちゃうなぁ……』
『そんな事は気にするな。 嫌なら助けないだろ?』
『うん、でも……皆に何かあったらやだな……って』
『きっと皆もオメェに何かあったら嫌なんだよ。 お互い様ってやつさ』
『そっか。 そだね!?』
『ああ、そうさ』
フェルは適当に誤魔化した。 フェルにとって他の者なんて心底どうでも良いのだ。 シロさえ無事ならそれで良い。
しかしシロはそうではないのだ。 そのままの考えを伝えてしまうとシロは不快な思いをするだろう。 そう思ってフェルは誤魔化した。
フェルは闇の精霊。 シロに付き従っているのにも
人と竜が心通わせないと相容れないように。 人と精霊にも何かしらの誓約があるのだ。
フェルはそばにいるペドロを胡乱な目つきで睨みつけた。
ペドロはそれを知ってか知らずか、素知らぬ振りで何処かを見ている。
◆◆◆
「おい……………」
「うん……………」
「当たった………」
「うん……………」
「これでわしら大金持ちじゃな…………」
「そうじゃな………」
「シロちゃんのお陰じゃな……」
「そうじゃな………」
「シロちゃん………」
「わしゃ、喜べん!! 断じてだ!!」
「あたしだってだよ!! しかしどうしようもなかったじゃろ!?」
「こんなに居てどうして誰も………」
「それを言ったところでどうにも成らんじゃろう……」
「しかし…………」
「どうせ帝国の奴らなんじゃ、ちょうど競ドラ場に来ておるのだろう? ひとつ行ってみるか!!」
「しかし、わしらが行くとこの瞳のこともバレるかも知れんぞ?」
「ぐぬぬ…………」
「お前らはここにおれ、ワシが行って物申して来るわ!!」
「おいガンツや!? おぬしが行ったところで帝国が口を開くとも思えん!!」
「何じゃと! ではこのまま指を咥えて見ておれと申すのか!?」
「そうは言っておらんが、わざわざリスクを侵して危険な所に飛び込んで行く必要もあるまい?」
「こんな年寄りの命の一つや二つ、失ったところであの子の事を考えれば惜しくはないわ!!」
「ガンツ、おぬしは相変わらずじゃな!!」
「何が悪い!?」
「いや、男前だと言っておるのじゃよ!」
「BBA!! こんな時に色惚けやがって、何が考えてやがる!?」
「いや、おぬしの言う通りじゃと言っておるのじゃよ。 こんな年寄りの命、惜しくはないとな!」
「BBA、まさか瞳を使うのか?」
「今使わずにいつ使うと言うのじゃ。 エニュニュン、デイノンあとは任せたぞ?」
「ペムペム、はやまるな!!」
「知らん。 おぬしらはシロちゃんのお仲間さんに伝えるべき事があるじゃろう?」
「ゴルゴンか……そうじゃな。 伝えねばなるまい。 クロと申したか、アヤツは危うい。 しかし、帝国のそれとは別モノだ。 アヤツに全てを賭けてみるのも我らギャンブラーの真骨頂じゃな」
「左様。 どうせ賭けるなら大穴狙いじゃろ!?」
「ああ! では頼んだぞ!!」
「わかった!! くれぐれも無駄死にだけはするなよ!? 恥ずかしいからの?」
「
「ガンツ、ペムペムを頼んだぞ!!」
「任せておけ!! 腐ってもグライアイ専属護衛隊長じゃ!! いざとなったら死に花を咲かせてくれるわ! がははははははは!!」
「笑えん冗談じゃの!?」
「ふっ、覚悟じゃ。 それくらいの覚悟くらい出来ておると言う事じゃ。 惚れ直してもええんじゃぞ?」
「気持ち悪いから、さっさと
「ふん、ペムペム行くぞ!?」
「おう! なんじゃ、手は繋いでくれんのか?」
「気持ち悪いから、さっさと往ね!」
「ケチじゃのお。 減るもんでもなしに」
ガンツは黙って手を差し出すと、ペムペムは少し照れ臭そうに細く皺々の骨張った手を差し出した。 ガンツは何も言わずに優しく手を取ると、気恥ずかしそうに歩き始めた。
「皺々じゃないか……」
「お、おぬしもな……」
目指すは特別国賓観覧席だグライアイやネモたちがいた特別優待席からは近い。 早く行かなければメインレースも済んだので退館してしまいかねない。 気持ち足早になり、年老いた足で無理をするのであった。
ガンツたちが特別国賓観覧席の前まで来ると二人の衛兵が立っていた。 ガンツは前に出て物申す。
「この方はこの国の特別指定魔女グライアイの一人、ペムプレードー様である。 帝国の国賓が来場していると耳にして馳せ参じた次第、お目通し願いたい!!」
「………………」
「お目通し願いたいのだが!?」
「………………」
「こやつら……立ちながら気を失っておる? いや、
「誰か先客がおるのやも知れぬな……どうじゃ? 扉の向こうで妙な音なぞせぬか?」
「…………静かだな……入ってみるか」
「それしかあるまいな」
コンコン!
ガンツは扉をノックしたが返事もない。 何度かノックをした後、声を掛けながらドアを開けると……。
ガチャ……
「ノックをしたが、返事がないので開けさせてもらいま……な!?」
「あら、ガンツさんじゃない、最近お店に顔出してくれないからどうしてるのか心配していたところよ?」
「マリア!? それからダフネも!? おぬしらこんな所で……いったい!?」
「見れば解るでしょ? 仕事よ仕事。 ねえ、ダフネちゃん?」
「ええ、マリアママ。 上客が居ると聴いて営業に来たのよ?」
「営業じゃと!? ここには帝国の大臣がおる筈……それは!?」
「ええ、大臣ならここに居るじゃない?」
見れば巨大なソファでバスローブ一枚を羽織って前を
男は手足に枷をして鎖に繋がれて身動き出来ない状態で目隠しをされている。
しかし、その表情は苦悶に満ちたモノではなく、恍惚に満ちたモノであった。
身体には複数の打ち傷、擦り傷が付いており、ナニがあったのか一目瞭然だ。
しかし、ガンツは彼女らに問う。
「いったい大臣に何をした!?」
「何をって……ナニに決まってるでしょ? 愚問だわ?」
「ワシはそんな事を聴いておるのではない! 大臣に何が目的で近付いたのかと聴いておる!」
「なら、そんな回りくどい言い方せずに、ちゃんと聴けば良いじゃないの。 まあ、教えてあげても良いけど、そちらの要件を聴いてからね? ただの挨拶じゃないでしょう? そんなに殺気立てちゃって……」
「それは……分かった。 ワシらは帝国の情報を聴きに来たのじゃ。 シロと言う女の子が
「え? シロちゃんが!?」
「何じゃ、おぬしらシロちゃんを知っておるのか!?」
「知るも知らないも、魔女の居場所を店に聞きに来たのよ。 お仲間さんとね?」
「そうじゃったのか、ならば話は早い。 シロを攫った帝国の間者は何処に行ったか解るか? 間者の目的は!?」
「そんな事を急に言われてもねぇ……私たちは帝国とニヴルヘルの癒着を探っていたのよ。 アナタたちも無関係ではないでしょう?」
「癒着……? 帝国と? では、国は我々を帝国へ売ったのだと!?」
「そう言っているのだけれど?」
「ならば何か? 我々は国にとって用済みだと。 ニヴルヘルは帝国と癒着して何の得があると言うのだ? ゴルゴンは既に帝国の手中なのだぞ?」
「それは違うわ? ニヴルヘルは帝国に脅されていたのよ。 なのでゴルゴンは奪い取られた様なもの」
「そんな……魔族はそれほどまでに……国は、国王はプライドを捨てたのか?」
「奪われたのよ。 プライドも何もかも、帝国にね?」
「帝国め……」
一同は帝国の大臣、クラフトへ目を遣る。 クラフトは夢見心地のまま、恍惚とした表情で涎を垂れ流し続けていた。
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