第57話 全てを翼に

『ーーと言う理由わけでシロちゃんが連れ去られたの!!』


『……何やってんだ……』


『えっ!?』


『何やってんだあっ! 俺はああああああああっ!!』


『クロさん!?』


『すみません、ラケシスさん。 教えてくれて有難うございます。

 悪いのですが、シロの居所が解ったらすぐに教えてくれませんか? 僕はすぐにそちらに向かいますから』


『分かったわ。 無茶しないでね?』


『はい……』



 僕はカメオの念話を終了して、無線機トランシーバーへと語りかける。



[すみません、モデナさん]


[どうかした!?]


[はい。 とても大事な急用が出来ました。 このままそちらに向かおうと思います]


[えっ!? ちょっと!?]


[すみません!]


[ちょっと待って! 何があったの!?]


[急ぎますので、説明は後で!]



 すぐに無線機トランシーバーを終了して、ウラノスにお願いをする。



『ウラノス、お願いがあるんだ!』


『大丈夫! ボクに任せて!!』


『……チャネリングか……』


『うん! キミのことなら手に取るように解るよ!!』


『お願いします!』


『任せといて!! キミの中の熱い気持ちを! その想いを! この翼に乗せて、届けてあげる!! 想い人その娘のもとへ!!』


『ああ、届けよう!! 僕の大切なシロひとが、きっと待ってる!!』


 ウラノスの魔力が大きく膨れ上がる


 そして練り上げられて行く


 クロの魔力共々


 全てを翼に


 全てを疾さに


 全てを想いに


 そしてソレは


 ニヴルヘルの宙に


 一筋の黒い弧を描いた



◆◆◆



「んーーっ!! んんんんんん!」


「ふふん、とんだ拾い物をしたな」


「左様で。 さあさ、こちらへ。 飛竜艇ヴイーヴルの出発準備が出来ております」


「さすがに用意が良いな君。 君の仕事はいつも確実で手際が良い」


「これはこれは、ペドロ様にあられましては特別に御座います」


かせこの噛ませ犬め。 何処までも底の見えぬ男よ」


「ふふふ。 それは褒め言葉と取っておきましょう」


「ふん、まあ良いわ。 お前は報酬に見合った仕事をする、良い噛ませ犬だ。 これからも頼んだぞ?」


「これは過分な御言葉。 良しなにお願いいたします。 ささ、既にエンジンも温まっております故、何時でも発進出来ます。 それでは、私はこれにて」


「うむ、ご苦労」


「んんんーー!! んんんんんんんんんーー??」


猿轡さるぐつわをしていても煩い鳥だな」



 ドカッ!

 ペドロは足元に転がしていたシロの腹部を蹴飛ばした。



「んん!! んん〜……」



 ガッガッガッ!

 踵を使って何度も頭を踏みつける。



「煩いと言っている。 聞こえんのか、この鳥は……」


「……………」



 外に残されたスミスは、跪き片手を地面に、片手を胸に忠義の意を示す。

 項垂れたその顔には闇に見え隠れして薄っすらと微笑んでいた。

 スミスは、ハッチが閉ざされて行くのを黙って見届けると、スックと立ち上がり一言を呟く。



「しね」



 と。


 ウゥゥン……

 ルルルルルルル……

 ュイイイイィィィィ……

 帝国式小型飛竜艇ヴイーヴルノクターン。 エンジン音が非常に静かで振動も少ないので、夜想曲でも聴いているかのようであると付けられた名前がノクターンである。


 ノクターンはその名前の通り、静かに競ドラ場を後にする。

 


◆◆◆



[ブツン……ツーー]


「これは気づかれたな」


「何がです? マッキーナさん」


「うむ、シロに付けたレディバードちゃんに決まっておろう」



 ハイモスの娘、ルキナの操縦による小型飛竜艇ヴイーヴル、名前をヴァルカンと名付けられた。 ハイモスの古くからの友人の名前をいただいたのだとか。

 そのヴァルカンに乗ってシロを追っているのはマッキーナとラケシス、そしてルキナの三人である。

 しかし、シロに付けていたレディバードちゃんが壊されたらしく、音信不通となったのである。



「あらあら、ではどのようにしてシロさんを追うのです?」


「ふむ。 抜かり無い」


「これは?」


「小型工作ドローンの【アラネアちゃん】だ! スミスに頼んでおいたのだ。 ハエトリグモの形をしておって可愛いのだぞ?」


「く、クモ……へぇ」



 モニターに新しく映し出された映像は何処かの艦内であった。

 そこには紛れもなくシロが映っており、もう一人シロを連れ去った男が映っていたのだ。

 男はシロを足蹴にして誰かと通話しているようだ。

 その音声をも拾い上げる。



[それにしてもコレは本当に良い拾い物をした。 コイツを持って帰れば不死の研究が進められるであろう? ……46番以降のナンバーズは全て失敗ではないか。

 悪魔召喚? まだそんな夢を見ているのか? こいつで三年かけてひとつも実績を挙げられなかったではないか……。

 ちょっと待て、自動操縦オートパイロットに切り替える]

 


 男は操縦席の自動操縦オートパイロットのボタンを押して、一瞬シロを見るがそれだけだ。



[こいつのクローン、名前はなんだっけか? ……ふん、まあ良い、88番だったな。 ヤツの死体は結局見つからなかった。 ミサイルはさすがにやり過ぎだったのでは? ……うむ、肉の断片すら無かったぞ?]



「なんてヤツだ……ボクはヤツを断じて許せん!!」


「私だって許せませんわ!! 早くシロさんを助けないと!! ヤツに何されるか分かったものではありませんわ!」


「そうであるな! クロはまだか!?」


「連絡は取れたけど、どんな交通手段で来るのかしら?」


「いや、ちょっと待て……音速を超えて何かが近付いて来ている……何だ? まさかミサイル!?」


「ええ!? 気付かれましたの!? マッキーナさん回避ですわ!」


「速い! 来るぞ!! ルキナ!?」


「無理です!! 回避間に合いません!!」



 黒い何かがヴァルカンを過ぎり、風圧によりヴァルカンの体制が大きく崩される。



「どわああああああ!!」


「きゃああああえあ!!」


「無理いいいいいい!!」



 しかしソレは通り過ぎると旋回してこちらに近付いて来る。



「な!? 追尾ホーミングか!?」


「何ですか? それ?」


「マッキーナさん、違います! 生体反応!」


「なにいいい!?」



 勢い余ってヴァルカンを通り過ぎ競争竜よりも遥かに速い速度で競ドラ場を軽く旋回した黒い何かは、決勝写真撮影カメラの写真判定にも謎の黒い影として写り込んでいた。



『ラケシスさん、僕です! シロはどこですか!?』


『え、クロさん!?』


「なに!? クロなのか!?」


『はい、驚かせてすみません!!』


「ラケシス、伝えろ。 クロに渡すものがある!」


『クロさん! 渡したいものがあります!!』


『分かった』 



 ヴァルカンの上部ハッチが開けられてマッキーナが上半身を出し、何かを持って手を降っている。



「クロ! コレを受け取れ!」


「マッキーナさん! わかりました!!」



 マッキーナがクロに投げたのはデバイスだった。 クロはソレを受け取るとすぐに装着して起動させた。



[マッキーナさん、ありがとうございます!]


[そんな事はいいのだ!! すぐにシロの位置情報を送るから追うがいい!!]


[姉さん……]


[良いから急げ!!]


[はい!!]


[アチラさんも帝国仕様のヴイーブルだ! 大してスピードも出まいが、何が仕込んであるか判らん。 心して行け!!]


[必ずシロを連れ戻します!!]


[あったりまえだ!!]


[はい!!]



 クロは手綱を引き、マッキーナから送られて来た情報の方角へとウラノスの首を向ける。



『行こう! あっちだ!』


『わかった!』



◆◆◆



「……何? あの古竜エンシェント……あれは普通じゃないわね……ん? マデリーン? 気になるの?」



 マデリーンはクロが飛び去った方角をずっと見ている。 少し不安気な様子で、モデナも気になったが……。



「マデリーン、戻るよ? きっとあのコたちは、私たちでは解決出来ないような問題を沢山抱えているわ。 気になるのは私も一緒だけど、あのコたちから助けを求めて来ない限りは、手を出すべき事ではないわ」


「クエア!」


「うんうん、聞き分けが良い子で助かるわ! さあ、戻って学科試験合格の捏造ねつぞうするわよ!」


「ク、……クエア」


「ごめんね、あまり昔みたいに無茶も出来ないのよ……。 今の私には大切な人がいるから……」


「クエア」


「ん、あなたも私の大切な存在であることは同じよ?」


「クウウゥゥ」


「何よ今更照れてるの? あははははははは!」


「グワッ!」


「いやいや、からかって無いから! そんなに揺らさないで〜! あはははははは!」



 マデリーンはモデナに視線を遣ると、薄っすらと細めてファームへと切り替えした。


 クルルルルル……


 チラチラとニヴルヘルの方を見ながらマシューの待つファームへと、マデリーンは翼を羽ばたかせる。



〜・〜・〜・〜・〜・〜

【竜族のお話】

 絶滅種、古竜エンシェント……。 その昔、竜族は希少種ながら人族よりも地位が高く、恐れられる存在であった。

 身体的にも知能的にも人族のソレよりも確かに秀でていた。

 当然精神世界では他を圧倒するほどの存在価値を示していた。

 では、何故古竜エンシェントが絶滅したのか。 それは古竜エンシェントと人族の混血が生まれたからだ。 所謂いわゆる竜人ドラゴニュートである。

 人族は古竜エンシェントの血液よりDNAを解析して、その遺伝子が持つ特有のスキル【真理開眼】を手にしたのだ。

 これにより人族の魔法科学が一気に進化して数々の新しい魔法が生み出され、それに合わせて新しい魔法道具アーティファクト魔導技術マギアが作り出されていった。

 目覚ましい大革新を経て、人族は他の追随を許さず、地上のヒエラルキーの頂点に君臨するべく、古竜エンシェント討伐へと乗り出し、あっと言う間に成し得たのだ。

 かくして、地上の頂点に君臨した人族は天空の頂点、即ち世界の頂点に君臨するべく、シン・バベルを建設し、今に至る。

〜・〜・〜・〜・〜・〜

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