第56話 影に消える
「来ったあああああああ!!」
「うっひょおおおおおお!!」
「くっ……なん、でじゃああああああ!?」
「エニュニュンよ。 おぬしだけがシロちゃんを信じなかったからじゃまいか!? 当たり前じゃろ?」
年甲斐もなくはしゃぐグライアイ三姉妹を冷ややかな目でガンツは見ていたが、何やらソワソワしている。
次はいよいよ本日のメインレースなのだ。
当然
中でもディープリジェクトとメジロスレイプニルはどちらが一着でもおかしくない仕上がりで、他竜との差を大きくして一番人気を争っている。
「くっそ〜! 一番人気、二番人気じゃねえか! これじゃあオッズがつかねえな!」
「マイロード、ならば買わなければ宜しいのではなくって?」
「バカ言え! 今日はこのレースのために来たんじゃねえか、このまま何も買わずに帰れるか!!」
「結局当たらずに資金を失うよりは賢明かと思いますが、マイロード?」
「うっせーわ!」
「おや、そこの赤い服装の男……誰かと思いきや、ネモじゃないのかい?」
「……!? なんだ、グライアイのババアども、まだ生きてやがったのか? あれ? てか、見えるのか?」
「ああ、このお嬢ちゃんのお陰でまた見えるのじゃ、ホレ!」
「おお!? それはまさにグライアイの瞳!! あれ? てことはそっちのお嬢ちゃんは……」
「私、シロだよ?」
「なっ!? じゃあ、アンタが……シロちゃんかい?」
「うん! シロがシロ!」
「おおおおおお!? そうかそうか!! アンタがシロちゃんか!! クロがよ〜……」
「え? クロ!? クロがどうかした!?」
シロが席からガバッと立ち上がる。 ネモは少し驚いて言う。
「いやまあ、慌てるなよシロちゃん。 こないだの無線であんたがクロを探してるのは解っちゃいるが、今はココにはいねえよ。 クロもアンタに会いたそうだったぜ〜〜? アイツぁバカだからよ、シロちゃんの元に戻れって言っても聞かなくってよ〜」
「クロはバカじゃないよ!!」
「ああ、悪ぃ悪ぃ。 クロはクロなりに真剣にアンタの事考えてんだよ。 今はギンヌンガガプに居るぜ?」
「ギンニュ……??」
「ああ、このレースが済んだら連れてってやるから、少し待ってくれねえか?」
「わかった! ネモさんありがとう!!」
「レディ、すぐに経てるように先に行ってくれるか?」
「イエス、マイロード。 賭け金は五万プスまでに設定してあります。 では!」
「くっ……いらんことしやがって! ぜってぇ当ててやる!」
「ネモ、お主は次のメインレースはどの竜にするんじゃ?」
「おう、ディープリジェクトとメジロスレイプニルを買うつもりだったんだが、オッズが低くいだろう?」
「やめておけ。 そこのシロちゃんの予想に乗っかるのじゃ!」
「へ? いったいどう言うこったい?」
「今日、その子の予想は全部的中しておるのじゃ」
「ほえ? それはマヂですかい?」
「うん。
「え? 何? 未来が? そんな予知能力とか未来視とか聴いた事無いんだが?」
「ううん、違う!
「ってーと、次はどの竜になるんだ?」
「ん〜……、あの子とあの子!! 手前の赤い子が一番!」
「え……大穴じゃねえか……本当か? 本当に当たるのか??」
「わしゃ全ツッパじゃ!」
「何だジジイ! いきなりしゃしゃり出て来やがってからに!」
「勿論わしも乗っかるぞい?」
「エニュニュン、さっき自分だけ当たらんかったからって今回は早いの?」
「そう言うペムペムこそ買うんじゃろ!?」
「あたしたちゃさっきのレースでもシロちゃんにベットしてたじゃまいか!? のお、デイノン?」
「うむ。 あたしもシロちゃんに残りの全部じゃ」
「レッドポンナップとプロテストブルー? 四捨五入して二千倍の超大穴だが……どうせ一番二番人気に賭けてもオッズがつかねえなら同じか……、否、勝ったら一攫千金だ! 夢しかねえじゃねえか!!」
ネモはデバイスを起動させてネット上で竜券を即購入した。
今月のお小遣い五万プス全てを!!
「じゃあガンツ、竜券は頼んだぞ?」
「わかっておるわい!」
ガンツは竜券を買うために席を離れた。 〆切は間近に迫っていて、少し小走りだ。
残った者は早くもレースが待ち遠しくて仕方ない。 ソワソワしながらパドックからゲートへ移動する竜たちの足取りを見ている。
ディープリジェクトとメジロスレイプニルは足取りも軽く難なくゲートへと入った。
一行が注目しているレッドポンナップは息が荒く、なかなかゲートへ入ろうとしない。
また、プロテストブルーは澄ました顔をして、何処か遠くを見ているようだ。
「「「「だ、大丈夫かの?(か?)」」」」
しかしまあ、今更後戻りも出来ずにただ見守る他ない。
「やっぱりあたしゃ……」
パン!
無情にもスタートの合図が鳴った! 一斉に飛び立つ競争竜たち! スタート地点の歓声が飛竜たちに浴びせられる。
こうなったら後戻りは出来ない。 一同は一斉に立ち上がってレースを食い入るように前のめりになる。
勿論、グライアイの瞳は一つしかないが、そんな事は関係ないとばかりに前のめりだ!
仮に腰が痛くても関係ない。 仮にオシッコが近付いていても関係ないのだ!!
ーーしかしシロだけはひとり、クロの事を思っていたーー
そして、その様子を見守る者が二人。
『……ケッ、なんだかんだ言って楽しそうにしてんじゃねぇか!』
一人は念話が届かない距離から独り言ちっていた。
「これより任務に入る。 標的はレースが始まって一人大人しくしている。 他の者はレースに夢中のようだ。 もう少し白熱し始めたら決行する」
一人は薄暗い影から、事の成り行きを見守り、何かのタイミングを待っていた。
レースはディープリジェクトとメジロスレイプニルが競り合っている。 しかし第三コーナーを過ぎた辺りから様子が変わって来たのだ。
先頭で争っていたディープリジェクトとメジロスレイプニルが失速し始めて、内側からプロテストブルー、大外からレッドポンナップが追い上げて来たのだ!
「キタキタキタキタ来たーー!!」
「よおおおおおし! 行っけーー!!」
「おうおう、まくれまくれまくれーー!!」
第四コーナーを過ぎる辺りから更なる白熱振りを見せる。
もちろん、全員総立ちで、喧々囂々と騒ぎ立てている。
「ぎゃーーーー!!キタキタキタキタ!!」
「イケイケイケイケ、そのまま突っ切れーー!!」
「ーーっ!?」
「よおおおおおしっ! ゴールはすぐそこだああああ!!」
シロは後ろの影から突如現れた大きな手によってハンカチーフを押し当てられ、意識を失った所を抱え上げられて影に引き込まれて行った。
その様子を見ていたフェルがすぐさま飛び出したが、影は見る見る消えて無くなった。
『シローーーーーー!!』
「「「「「ーっ!?」」」」」
フェルの念話を感じた一同は一気に現実に呼び戻されたが、時は既に遅かった。
「「「「シロちゃん!?」」」」
「くっ……何で気付かなかった、この陰の魔力の残滓!?」
『バッキャロー! レースに夢中になってたからだろ!! ……いや、オレサマも気付かなかった!?』
「それよりも外だ!! 急げ!!」
『どうしてそんな事がわかる!?』
「いいから急げ! こんな陰の魔力を扱えるヤツなんて限られてんだよ!! 帝国だ!!」
『ーっ!? そうかっ!!』
年寄りをその場に残してネモとフェルは外へと急いだ。
フェルは途中、方角を変えて壁を突っ切ってどこかへ消えた。
ネモは構わず競ドラ場の外へ飛び出し、ライトニングに待機させていたミレディに連絡をとる。
「レディ俺だ! 帝国の動きはどうだ!?」
[はい、それがまだ帝国の
「そうか、引き続き見張っていてくれ!」
[イエス、マイロード!]
…ィィィイイイイイイ!!!
ボワッ!! シューーー…
「くっ! 何だ!?」
ネモの眼の前に一艇の小型
ヴイーブルからマッキーナとラケシスが顔を出す。
「お前がネモか!? シロは!?」
「あん? 誰だオメェら!?」
「あっ! いや、すまない! 私がマッキーナだ!! 一部始終はシロに着けた発信機で見ていた!!」
「あんたら!! いってぇ何やってんだ!? あんたらシロとクロの仲間だろ!? どうしてシロを一人にしやがった!!」
「それは……」
「クソッ! そんな事は今はどうでも良い!! その発信機とやらは今何処を示してやがる!?」
「う、うむ。 ここから競技場を挟んで反対側のようだ!」
「クソックソッ! 逆じゃねえか!! それで消えたのかあの精霊はっ!」
「そうか、フェルがついているのだな!?」
「フェルつーのか、あの黒いのは?」
「ああ、おそらくな。 とにかく急ごう!! ルキナ、出すぞ!!」
「はい、マッキーナさん」
ヴイーブルの
「おい、俺の連絡先を送るから、発信機の情報をくれないか!?」
「……良かろう。 デバイスを出せ!」
「へ? こうか?」
〜♪
マッキーナは自分のデバイスをかざすと、何かをしたみたいで、デバイスの通知音が鳴る。
「ありがとよ! じゃあ、俺は行くぜ!?」
「ああ、何かすまない! そちらはそちらで頼んだ!!」
「おう! レディ用意しろ!」
[誰にモノ言ってるんですか、マイロード? ]
「さすが、マイハニー!」
「ルキナ、出せ!」
「了解!」
「マッキーナ? クロにようやく繋がったわ!」
「何!? 本当か!!」
「ええ、シロちゃんの事を話したらすぐに!!」
「あやつめ……まあ良い。 ルキナ、急げ!」
ブフォン!
ルルルルルルルル……
キュイイイイィィィィ……ン
小型型
飛散した雪がキラキラと地面に落ちて、溶けて消えて行った。
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