第55話 ペドロ再び

「……………」


「……………」


「どうしたもんかの?」


「どうかされましたの??」



 マッキーナとラケシスは一つの問題に差し掛かっていた。



「シロがモモになっておらんのだ!」


「あらあら、それは困りましたね?」


「なんじゃ、他人事であるな?」


「そんな事はありませんことよ?」


「ならば、何が解決策はないか!?」


「八方塞がりですわ。 我々が行く他ないのじゃなくて?」


「ふむ。 Gちゃん?」



 マッキーナはデバイスに向かって語りかける。



[何だマッキーナ、らしくないの? わしとてどうにも出来ん事はあるぞ? まあ、お前らの足としてヴイーブル飛竜艇ドラグーンを出すことは可能じゃが]


「単なる取り越し苦労で済めば、なんてことはないのだが……」


「でも、打てる手は打っておいた方が宜しくなくって?」


「そうじゃな、Gちゃん頼む!」


[マッキーナさん、デウスさん、ちょっと待って下さい!]


「何だハイモスではないか!?」


[はい、既にそちらにルキナがビーブルにて向かっております]


「ほう、弟子のクセにやるではないか!?」


[ありがとうございます! シロさんをどうにか出来るのは、お二人しかいませんので!]


「そうじゃな、ではラケシス、急いで用意せよ。 ルキナが着き次第出発するのだ!」


「わかったわ。 ルキナちゃんて……誰かしら?」


「ふむ。 ハイモスの娘だ」


「あら、隠し子?」


「うむ、まあそんなもんだな」


「へえ。 ハイモスさんもルカさんて素敵な人がいるのに隅に置けないわね?」


「そうじゃろ?」


 かくして、ハイモスの噂がねじ曲がって伝わっている中、ハイモスの娘型ヒューマノイド・ルキナがビーブル飛竜艇ドラグーンに乗って近付いていた。



◆◆◆



実況

〚マイネルデスドラコ!逃げ切ってしまうぞ~!外からエアナイト! それからマンハンターギルド!

真ん中を割ったマンハンター!大外からダービー竜! 大外からミュルクヴィズポケット!

しかしマイネルデスドラコ!マンハンター! マンハンターギルド!マーカスです!

マーカスが左手を突き上げました! なんとマンハンターギルドであります!

エアナイトもダービー馬ミュルクヴィズポケットも ガンドフレームもまとめて負かしました!

場内はなんともいえないどよめき・・・〛


「ああああああ! こんなもん紙くずじゃああああぁぁ……」


「エアナイトぉぉ……何やっとんじゃあああああぁぁ……」


「大荒れじゃな。 これはいかん。 次じゃな!」


「わしゃ、やらんから判らんが、皆外しているようじゃな?」


「ん、当たったよ?」


「「「「何いいいいいい!?」」」」


「ほら、一着2番マンハンターギルド、二着10番マイネルデスドラコ」


「「「「ホンマじゃ……」」」」


「はいっ、ペムペムさんあげる!」


「い、良いのか? 本当に?」


「うん、次の竜さんはほら、あの子とあの子」


 シロがパドックの竜を指差して言う。


「…………」


「五番と八番か……」


「ガンツ、5ー8を買って来い。 あと、7を軸に適当に流してくれ」


「ワシは4ー7ー12の三連複……いや、7と12を軸に流しで」


「うん、あたしゃシロちゃんを信じようかの。 5ー8とその馬連で半分注ぎ込んでくれ」


「おお、重賞前に大きく出たのお」


「あたしゃ、シロちゃんが気に入ったからの!」


「ジジイは賭けんのか?」


「わ、ワシはやらんと言うておろう?」


「そうか、つまらんヤツじゃの?」



 ガンツはグライアイの魔女たちの竜券を買いに行く。 残された女四人はやいのやいのと竜の話で盛り上がっている。



 それを目にした一人の男がいた。

 男は身形みなりの良い服装を身に着けていて、胸に帝都教会の紋章入がったバッチを着けていた。



「これはこれは……思わぬ所で思わぬ収穫かも知れんな……ふふふ」



 男は不敵な笑みを浮かべると、デバイスを起動する。



「こちらペドロ。 インスマスで連れ去られた46番を見つけた。 確認はまだだが、まず間違いないだろう。 魔女たちと一緒に競ドラを観覧しているので、メインレースまでは動く事はないだろう。 ……ああ。 ……ああ。 分かった。 また動きがあれば連絡する」



 デバイスを切った男の口は半月を描き、広角が吊り上がっている。 しかし、声には出さず、静かにほくそ笑むだけで、それもまた闇の中に消えて行くのであった。



◆◆◆



 僕はウラノスと並んで立たされていた。


「はい! すみませんでした!」


「クオン!」


「本当に分かっているの?」


「はい! もう二度といたしません!」


「クオン!」


「本当に次はないわよ!?」


「はい!」


「クエア!」


「……分かったわ。 そしたらもう一度初めからやるわよ?」


「了解しました!」


「クエア!」



 僕とウラノスはそう言うと手綱とサドルを装着し始めた。

 二度目なのですぐに装着し終えて、モデナさんに報告する。



「装着完了いたしました!」


「クエア!」


「よし! 早いわね。 いいわ、次は騎乗ライドまで! まだ飛ぶんじゃないわよ!?」


「了解!」


「クエア!」



 そうだ、僕たちはモデナさんに黙って勝手に飛翔フライトしていたのがバレて怒られていた。

 僕は返答するや否や、即座にウラノスへと飛び乗った。 ウラノスは落ち着いた様子でモデナさんの方へと向き合った。 当然僕もモデナさんへと視線を落として報告する。



騎乗ライド完了しました!」


「クエア!」


「よし! 問題なさそうね! まだ飛んじゃ駄目よ?」


「了解!」


「クエア!」



 そう言い放つと、モデナさんはマデリーンへと飛び乗った。 マデリーンは終始落ち着いた様子でこちらを見守っている。

 モデナさんも用意が出来た様子でこちらに目をやる。



「それではこれから飛翔フライトするが、いくつかの注意点を言うから、よく聞くように!」


「はい!」


「クエア!」


「うむ。 先ず、フライト前に命綱ライフラインの確認を確実にするように!

 次に、フライト中にトラブルがあった場合はすぐに帰還を試みるように!

 次に、ここのモンスターとは交戦しないこと。 例え腕に自信があったとしても交戦しては駄目。 貴方が良くてもドラゴンの負担が大きく、ドラゴンへのダメージは生命に直結すると思いなさい!

 最後に、私が魔導無線機マギア・トランシーバーで帰れと命令したら何があっても必ず帰還すること! 解った!?」


「はい!」


「クエア!」


[聞こえてる?]


[はい! 聞こえてます!]


[ゴーグルは着けたか?]


[はい! 着けました!]


[よし! では、飛翔フライトするわよ!]


[はい!]



 どちらのドラゴンも首を宙へと向けて翼を大きく広げた。

 ギンヌンガガプの風をその大翼に受け、一気に地面を蹴り放ち飛翔する!


 ああ、この瞬間はたまらなく気持ち良い。 地面と身体を繋ぐ重力と言う名の鎖を断ち切ったかの様に身体が軽くなるのだ。



[さすがに、さっき飛んだだけの事はあるわね!]


[ありがとうございます! フライトって気持ち良いですよね!?]


[本当にそう、だからやめられないわ! これからこの一帯を周るからついてきてね!]


[はい! 了解しました!]



 モデナさんの乗っているマデリーンはウラノスよりも一回り大きい。 しかし見るからに落ち着きがあって、とても安定したフライトを見せている。

 マデリーンは大きく旋回してギンヌンガガプの風を受け、更に上空へと飛翔する。

 それに合わせてウラノスを旋回さ、上昇気流へと身を任せる。


 二体の竜はギンヌンガガプの北側、そしてニヴルヘルの遥か上に位置するアスガルド山脈へと入る。


 山肌を舐める様に滑空してニヴルヘルへの開口部へと差し掛かると、今度は大きく迂回してギンヌンガガプの南側へと頭を向ける。



『ウラノス、問題ないか?』


『うん、大丈夫だよ。 気遣ってくれてありがとう』


『いや、僕も少し緊張していて、何か負担になっていないか心配だったんだ。 問題ないなら良かった。 このままライセンスが取れると良いな!』


『うん、そうだね!』


『ねえ貴方たち、とても仲が良いのね? 羨ましいわ』


『え? マデリーンかい?』


『ええ、私はマデリーン。 クロさんとウラノスさんで良かったかしら?』


『『うん、そうだよ』』


『そう、貴方たちに忠告しておくわ』


『『忠告?』』


『ええ、この先にモンスターがいるのよ。 どうするかは貴方がた次第。 それがこの試験の課題かしらね』


『教えてくれてありがとうございます!』


『クロ、どうするの?』


『うん、僕に任せておいて!』


『うん、わかった!』


『うふふ。 無事に受かると良いわね』


『『はい!』』



 しばらくモデナさんの後を追う様に行くと、マデリーンさんの言う通り飛翔型のモンスター、レッサーワイバーンがいた。

 しかしモデナさんは迂回することなく真っ直ぐに飛び続けている。

 レッサーワイバーンあちらさんもこちらに気付いて威嚇モードに入っているが……モデナさんは一向に進路を変える様子はない。


 ……モデナさんは、これがトラブルではないと判断しているみたいだ。 魔導無線機マギアトランシーバーで指示を出して来る様子もなければ、戦うつもりも無いらしい。


 ならば、僕はそれに従うのみだな。


 僕は思考を放棄してそのまま素知らぬ振りでウラノスと飛び続けた。


 レッサーワイバーンは凄い形相で威嚇してくるが、それ以上に近付く様子もなければ、攻撃してくる様子もない。

 それにしても近いな。

 レッサーワイバーンが大きな口を開けて喚き散らすものだから、こちらに唾液の飛沫が飛んで来るのだ。

 ゴーグル越しにそんなワイバーンを見遣りながら、僕たちはモデナさんの後を追った。

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