第49話 小さな雪山
[ーーと言う訳でだな、ボクは先日キミに助けてもらったマッキーナだ。 わかるか?]
「名前は聞かなかったけど、あのドワーフの娘なんだな?」
[そうだ。 マッキーナちゃんだ!]
「………………」
【ナーストレンド中央魔導総合病院】
東病棟七階八〇二号室
ベノムは腹を刺されて止血処置を受け、直ぐにドローンで病院へ運ばれて魔導縫合術を受けた。
魔導再生術ならもっと早くに退院出来るのだが、自費診療につき高く付くのだ。 グライアイの魔女の護衛でさほどの給金は貰えないのか、夜の仕事までしている始末である。
「それで? あんたら、婆ちゃんたちに何の用があるんだ?」
[うむ。 正直なところ、今は魔女に用事と言うよりも、魔女に会いに行くであろう、クロと言う名の男の行方を追っておるのだ!]
ベノムが話しかけているのはモスキート君。 端から見ると蚊と会話しているスキニーパンツの魔族の青年と言う、シュールな
「え……クロさん?」
[ああ。 我々はクロの仲間だ。 私にあってはクロの姉(仮)である。 疑わしいと思うのであれば、何でも聴いてくれ。 全てまるっと答えてやるわ]
「そうですか……では、クロさんの魔女の用件って何だと思います?」
[うむ、グライアイの瞳の返却と引き換えにゴルゴンの在り処を聴きに来たであろう]
「……はい、まさにその通りです。 なるほど、納得せざるを得ませんね」
[当たり前だ! 他にも聴かなくて良いのか? クロの香りとか、触り心地とか、アソコの大きさとかあるだろう?]
「……少し疑わしくなってきましたね……。 本当にクロさんの事を教えても大丈夫なのか、今とても不安ッス」
[マッキーナちゃん? 何をバカな事を言ってますの? アソコの色、形、大きさまで言わなきゃ分かりませんことよ?]
「……アンタは?」
[え? 私? 私はクロの……婚約者ですわ? あぶしっ! こら! お前なんかにクロはやらん! この阿婆擦れ猫め! あら?貴女の許可なんて必要なくってよ? 何だと!?]
「あの……本当にクロさんの事探してます?」
[……恥ずかしい所を聴かせしてしまったな。 すまない。 我々は切実にクロの居場所を知りたいと願っておる。 どうか、教えてはくれぬだろうか?]
「切実に……ね? まあ、分かりましたよ。 クロさんとは商業ギルドで分かれましたが、明日、いや今日か?もう一度婆ちゃんのところに来ることになっるッス。 競ドラ場に連れて行く約束をしたからだが……なので、婆ちゃんの居場所……」
[ん? やはり教えてはくれぬか?]
「デバイスでデータを送ると足が付きそうなので、この蚊はカメラは付いてますか?」
[なるほどの? しっかりとキミの寝顔は録画したので、問題なく映っておるぞ?]
「………………」
[ん? どうした?]
「いえ……得も言われぬ不安が押し寄せて来たもので……。 もう、どうでも良くなって来ましたが。 はい、コチラになります」
[ふむ、相わかった! クロと会えたら必ず礼はするからの!! キミの家の場sっぶ! ほらほら、変な事を聞かないの! ベノムさん、ご協力感謝しますわ! 貴方になら私の脱ぎたてのパンtっうぶ! そんな不潔なモン誰が欲しがるのだ!!]
「あの……礼なんて良いっす。 クロさんに会えたら謝っておいて欲しいッス。 こんな事になってしまって、競ドラ場へは案内出来ないと」
[競ドラ……場?]
「あ、はい。 今日、婆ちゃんたち連れて競ドラ場へ行く予定にしてたッス」
[ほう、なるほど。 色々と有力な情報を感謝する! キミが一刻も早く回復する事を願っておるぞ!]
「はい、クロさんに会えると良いッスね」
[おう!]
モスキート君はそれきり沈黙した。 がしかし、目は赤く光っている。
ベノムはモスキート君をタオルでグルグルに包んで机に置いた。
「ふぅ……賑やかな人たちだな」
◆◆◆
吹雪が止んだ、ナーストレンドの街から少し外れた街道に、少年三人が肩を寄せて話をしていた。
足元を指さしてなにやら騒いでいる。
彼らの足元には雪でこんもりと覆われた小さな山があった。
「おいブタ……コレどうする?」
「どうするも何もトリ……魔警隊か魔救隊を呼ばなきゃダメだろ!? なあ、イモ?」
「ああ……でも俺たちデバイス持ってねぇぜ?」
「「「どうする!?」」」
「……俺があんちゃん呼んで来る! トリ、イモ、お前ら様子見とけ! 大人が通ったらすぐに声かけろ! わかったな?」
「「おう!」」
ブタがおしりをプリプリさせながら走って行く。 トリとイモは残されて少し不安げだ。 ソワソワしながら小さな雪山に目をやる。
小さな雪山に埋もれた少女を。
助けたい。
トリは少女に積もった雪を払い除け、イモは白く透き通るような手を取って温める。
「トリ?」
「何だよ!? 今忙しいから後にしろよ!」
「手が、もの凄く冷たいんだけど、死んでないよな??」
「おまっ! 縁起でもねぇ事言うな! バカっ!」
「だってよお……手が……手が?」
「手がどした?」
「手がああああああ!!」
ボスっ!
突然大きな声を出したイモの声に驚いて、トリは尻もちをついた。
雪山から真っ白な手が突き出てきたのだ。
「おまっ! 急に大声出すなよ!?」
「だって、手が……手が動いたんだ!」
「あん? そりゃお前、死んでなけりゃ動くだろ?」
「ん、んん………フェル?」
「「どわあああああああ!」」
雪山の中から声が聴こえて来た。
「へ? 誰ですか!?」
ガバッ! ボソソ……
雪山の中から、これはまた真っ白な少女の上半身が起き上がった。
「お、おまっ! お前こそ誰だ!?」
「死んで無かったのか??」
「へ? 死んでないよ? ちょっと疲れて寝ちゃってたみたい。 えへへ〜」
「「ええええええええええ!?」」
「ところで、君たちだれ?」
「トリとイモだ。 二つ名だけどな!!」
「二つ名? なにそれ? そんなことよりも、クロ知らない?」
「クロ? 誰だそいつ?」
「クロ? 昨日の変なやつそんな名前じゃなかったか?」
「ん? そうだっけ?」
「クロがここに来たの?」
「ここと言うよりも婆ちゃんち?」
「婆ちゃんてだれ?」
「そいつは言えねえな!!」
「え? 教えて!? お願い!!」
「お……教えちゃいけねぇんだよ!」
「じゃあ、どうしたら教えてくれる??」
「それは……あんちゃんに聴いてくれよ!」
「あんちゃんはどこ!?」
「あんちゃんは……あんちゃんは……あ、ブタ!! あんちゃんは!?」
「あんちゃん……昨日の夜、街で刺されて入院したんだって……爺ちゃんが教えてくれたんだ」
「え……あんちゃんてもしかして、ベノムって名前?」
「何でお前かあんちゃんの名前知ってんだ!?」
「なりゆき? あ……」
ブタのすぐ後を追って軽武装した初老の男が現れた。
「何だ、女の子が行倒れていると聞いて来たが、元気そうじゃな?」
「お爺ちゃん! クロを知らない!?」
「おおう。 何じゃ最近の若いもんはセッカチでいかんのぉ。 オヌシ、名前は何と言う?」
「シロ!!」
「そうか、わしはガンツじゃ。 クロ君とはどう言う関係なんじゃ?」
「う〜ん……くされえん?」
「わははははははは! そうか、腐れ縁か!
まあ良い、今日そいつがババアん
「うん! 行く!!」
「爺ちゃん、良いのか? こいつ怪しいぞ?」
「怪しいな? けど、悪いヤツには見えんわ」
「お爺さん、早く行こう!!」
「おうおう、そんなに、急くな急くな! 転んだらどうすんじゃ」
「もう、グッチャグチャだよ〜! わはははははは!」
「本当じゃな! わはははははは!」
グライアイの護衛である老兵ガンツは、シロの
一同は一路、グライアイの魔女の住むボロ小屋を目指す。
◆◆◆
ファーヴニル飛竜競ドラ場の入口に、僕は立っていた。
まだ朝早くて誰もいない競ドラ場は、一面の雪化粧が深くなっている。 気温は肌をひりつかせる程に冷えていて、吐く息も白く色付いてたなびいている。
「クロ、グライアイの婆さんの家に、お前の名前で
「ネモさん、ありがとうございます!」
「それにしても今日は冷えるな。 吹雪が止んだからレースには支障はねえが」
「もう賭けたんですか?」
「いや、まだだ。 せっかくドラ
「楽しそうですね!」
「そりゃオメェ、この為にニヴルヘルくんだりまで来たんだからな!」
「わはははははは! 本当にお好きなんですね! 競ドラ」
「ああ。 コレのために賞金稼ぎしている様なもんだぜ。 うはははははは!」
「いい加減、当たりもしない競ドラなんて辞めればいいのに、懲りないのよねぇこの人?」
「ミレディさんは賭けないんですか?」
「資金繰りしてるの誰だと思ってんですか? これ以上浪費してたらこのライトニングを売りに出さなきゃいけなくなるんですよ!? マイロード!?」
「オイオイオイオイ! それはダメだぞ!? ライトニングだきゃあダメだ!」
「それじゃあ、借金してまで賭けるの辞めてくれませんか??」
「わかってるよ〜レディちゅあ〜ん♡ あの時は絶対勝つって自信があったんだ! 鼻差だぞ? 鼻差!! 鼻差で大金持ちになれたんだよ!!」
「何が鼻差ですか。 当たらなければ、ただの夢物語です! マイロード!」
「レディちゅあ〜〜〜〜ん!?」
「あら、こんなに朝早くから観戦者かしら?」
不意に後ろから声をかけてきたのは、一見怪しい感じの女性だった。 ダークブラウンの髪は後ろで三つ編みに結って、黒ぶちメガネ、マスク、キャップを着けていて、服装はオーバーオールの裾を長靴に入れてヤッケを羽織っている。
厩舎のスタッフだろうか? こんな朝早くにこんなところに居たら、さすがに怪しまれるか?
「あ、すみません。 僕たち決して怪しい者ではなくて、今日こちらの専属トレーナーさんに紹介していただく事になっている、クロと申します」
「そう、あなたが……。 私が
「はい! 宜しくお願いします!」
「ところであなた……ドラゴンは好き?」
「へ?」
「ドラゴンは好きかって聞いているのよ?」
「は、はあ、まあ、好きか嫌いかと言われれば好き、ですかね?」
「はい、失格。 出直しておいで? 坊や?」
「え? だってまだ何も……」
「ドラゴンが好きかどうかはっきり答えられない貴方には、ドラゴンに乗る資格なんて無いと言っているのよ!! わかる??」
「まあ、言わんとしている事は分かります」
「分かったら帰りな。 坊や!!」
「帰りません!!」
「おや、なんだい? ドラゴンがいい加減に好きなくらいで乗れると思ってるのかい?」
「そんなのやってみなきゃ、判らないじゃないですか!?」
「あっそ!! じゃあ、やってみると良いわ!! 乗れなかったら失格よ?」
「わ、分かりましたよ。 やってみます!」
半ば意地になっていたのは自分でも分かっていた。 でも引き下がりたくはなかったのだ。 あの子の為に。
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