第45話 商業ギルド

「で、どうすれば教えてもらえるのだ?」


「マッキーナさん、あなたは技術職のメンバーだと聞いているけど、間違いないかしら?」


「うむ、ボクは何を隠そうあのデウス=プロメットの孫だ。 大抵の技術的な問題なら解決出来るが?」


「いいえ、そうじゃないの。 アタイが欲しいのは情報よ。 アナタにはハッキングをお願いしたいのだけれど……問題ないかしら?」


「ほう、して何処の情報端末をハックすればよいのだ?」


「……冥国の外交関係の情報が欲しいわ。 特に帝国に関わる情報ね」


「なるほど。 主に帝都教会に繋がる情報であるな?」


「話が早くて助かるわ」


「ちょっと待て。 少しだけ準備が必要だ」


「わかったわ」


 マッキーナはデバイスを取り出すとすぐにソロモンと交信する。 当然相手はデウス=プロメットである。


[Gちゃん、仕事頼めるか?]


[何だ改まって?]


[少し面倒なんだが、冥国のデータバンクを吸い出せるか? 主に外交に関わる情報が欲しいのだが]


[五分ほどかかるが構わんか?]


[Gちゃんにしては焦らすではないか]


[まあ、こちらの場所がバレてはかなわんからな]


[了解、とにかくお願いしたぞ]


[相わかった]



 マッキーナはデバイスを切るとマリアに申し訳無さそうに切り出した。



「すまんな、少し時間がかかる」


「え? 五分って今話していらっしゃいましたよね?」


「そうだ。 五分もかかってしまい申し訳ない」


「え?え? ちょっと待って? 国家機密よね? そんな五分で解けるようなセキュリティじゃない筈よ?」


「セキュリティ潜るのに一分。 情報吸い上げに二分。 情報精査に一分。 追跡シャットダウンに一分。 〆て五分だが?」


「そんな……国家機密っていったい……」


「そもそも今のセキュリティシステムの基礎を考案、構成したのはGちゃんだぞ? 赤子の手をひねるより簡単な話なのだ。 ボクがやったら倍の十分ほどかかってしまうので、面倒なのはGちゃんに任せるのだ」


「それでも十分なのね……国家機密……」


「ああ、しかし帝国だけは独自のセキュリティを開発しているらしく、もう少しかかるぞ?」


「もう少し……セキュリティって、いったい……」


「セキュリティを破るのは良いが、逆探知されない様に気をつけなければ、非常に危険なので真似はするでないぞ?」


「今やってるハッキングには危険はないのね?」


「無いな。 いや、無い訳ではないが、ここではしていないのでキミたちには迷惑はかかるまいよ」


「それなら良いわ。 情報提供確認出来次第、魔女の家は教えるわ」


「無論じゃな。 何かメモリーかデバイスを貸してくれないか? データを譲渡したいのだが?」


「え、ええ。 こちらのメモリーストーンで間に合うかしら?」



 マッキーナはマリアからメモリーストーンを預かると、パソコンデバイスにセットしてデータを移していく。 データはすぐにメモリーストーンへと移されて、マリアへと返却される。


 マリアは自身のパソコンデバイスで確認すると、少し怪訝な顔をしてから……。



「……ありがとう。 これで政府の帝国との癒着の証拠が手に入ったわ」


「ボクが関与している事は、くれぐれも誰にも言わないようにしておくれ。 それと、すぐにでも魔女の居場所を聞こうか?」


「ええ、約束するわ。 それから、魔女の居場所に関しては私ではなく、ある男性に効いて欲しいの。 回りくどくなってごめんなさいね。 けど、彼に聞けば教えてくれるように手配しておくわ」



 少し、マッキーナの眉間にシワが寄せられる。



「こちらは情報を提供したのだぞ? そちらも用意しておくのがマナーと言うものではないのか?」



 ドン!

 カウンターを強く叩きつけ、不愉快であることを強調し威嚇する。



「え? そ、そうね、悪かったわ? グライアイの魔女の情報は、ある一家が一任されて持っているのよ。 私たちが教える訳には行かないの。 理解して欲しいわ?」


「おい? こちらは国家機密に忍び込んだのだぞ? 見つかったら死刑だ! 解っているのか? それともこの店毎情報を消しても良いのだが?」


「そ!そそそそそ、そんなに脅さないでくれるかしら? 確かにこちらの対応が不十分だった事には深く謝罪するわ! ごめんなさい! しかし、これは決まりなのよ。 魔女の情報提供にはこの手順を踏まなくてはいけないの!」


「ならば、それを先に述べておれば良かったではないか!? そちらの都合なぞ、こちらには関係あるまい!?」


「そ、そうね。 本当にごめんなさい! どうすれば機嫌を直していただけるかしら?」


「ふん、今更じゃな? とにかくその男の事を教え給え! 仮に魔女の情報が手に入らなければ、解っているな?」


「わわわ、解ったわ! 男の名前は【べノム】。 もう少ししたら近くのライブスタジオ【倶楽部パンゲア】に現れるわ。 彼はグライアイの魔女の護衛を代々しているの。 きっとアナタたちの助けになってくれるわ」


「ふん、……信用はしていないが、当たってみよう。 もしも、情報提供がなければ、この店の安全は約束出来ないから、よく覚えておき給え!」


「ギルドの掟にかけて誓うわ! 契約魔法を使っても構わない」


「そんなもんは知らん! ラケシス、シロ、行こう!!」


「「うん!」」



 チンチロリン♪


「………………」


「………………」



 しばらくの間、マリアとダフネは無言で立ちつくして居たが、入口のドアが閉まってしばらくすると、二人は力なくへたり込んだ。



「なにあれ? や、ヤバ過ぎないですか!? マリアさん! 店、大丈夫なんですか!?」


「だ、大丈夫だと思いたいけど、何だか不安になって来たわ。 逃げようかしら?」



 ダフネがマリアに目をやると、マリアは光のない目で、どこでもない遠くを見ながら、少し涙目で笑っているのであった。



◆◆◆



 「ここが商業ギルドっす。 俺、これから別の仕事なんすけど、今日はもうここでもう良いすかね?」


「ああ、付き合ってもらってすまなかった。 何かお礼をしたいが、生憎あいにく本当に持ち合わせが無いんだ。 いずれって事で貸しにさせてくれ」


「気にしなくて良いっすよ。 もののついでだったんすから」


「ああ、しかし君への恩義は忘れない」


「はは、そりゃどうも。 俺、行きますね!」


「仕事、頑張ってな!」


「はい!」



 ベノムは本当に気の良い青年だ。 いずれお礼をしてやりたいと思っている。


 僕はベノムの背中をしばらく見送ると、商業ギルドの自動ドアをくぐった。


 〜♪


 入店音が流れて来客を店員に知らせると、受付嬢が営業スマイルを作って声を合わせる。



「「「いらっいゃいませ〜♪」」」



 僕は誘われるままに一番窓口へ行くと、受付嬢がとびきりの営業スマイルを見せる。



「はい、いらっいゃいませ♪ 本日はどう言ったご要件でしょうか? 何か紹介などはありますか?」


「いえ、紹介はありませんが……友達のネモさんにこちらで素材の買取を引き受けてくれると伺いまして……」


「素材の買取ですね! まず、登録証はございますか?」


「いえ、まだ何も……」


「でしたらこちらに必要事項を記入して、ICに登録させていただきます」


「わかりました……」


「……あ、うんうん、これで大丈夫です。 はい確かにIC預かりました。 この内容で登録させていただきます」


「お願いします」



 受付のお姉さんはICを受け取ると、パソコンに接続してテキパキと必要事項を打ち込んで行く。 すぐに作業は終了してICを返却される。



「はい、これで登録完了です♪ それで、本日はどのような素材をお持ちになったのでしょうか?」


「あ、はい、こちらの素材と魔石になるのですが……」



 ゴト…。


 僕はバッグの中身をいくつか机に置こうとすると……。



「ちょ、ちょちょちょ! 待ってください!」


「こんな大きな魔石……いったいこれは?」


「ミノタウロスの魔石ですが?」


「はあ!?」



 素っ頓狂な声を出した受付嬢を見て、後ろで見ていた上司らしき人物が慌てて駆け寄って来た。



「すみません! うちの従業員ご失礼な態度で接客いたしまして! どうぞ、こちらにいらしてください。 素材を確認させていただきます!」


「いや、チーフ? これ本物なんでしょうか?」


「コレ! お客様の前ですよ! 控えなさい!!」


「す、すいません……」


「では、どうぞこちらへ。 ささっ!」


「は、はぁ……あのぉ、無理なら他を当たりますが?」


「いえいえ、こちらで鑑定させていただきます」



 僕は案内されるがままに、部屋の奥の席へと座った。 チーフと呼ばれていた上司がテーブルの上に鑑定台を用意して、魔石や素材のチェックを始める準備をした。



「私、こちらの商業ギルドのチーフリーダーをしております【カトレア】と申します。 宜しくお願い致します」


「はあ、クロです。 宜しくお願いします」


「では、順番に出していただけるでしょうか?」


「まず魔石ですが、ミノタウロスが一つ、ゴブリンキングが一つ、リザードキングが一つ、アルミラージが十五個あります。 次にオークキングの牙が二本、アルミラージの角が十五本、あ、そうだ、このマンティコアの魔石もお願いします」


「……し、少々お時間をいただきますね?」


「はい、ごゆっくりどうぞ?」



 カトレアさんは鑑定台に素材を乗せてルーペ等で見ているが……あんなので見て何か違いが分かるのだろうか? 僕には色や大きさの違いくらいしか分からないが。



「失礼ですが、これらはいったいどちらで手に入れたものですか? 良ければ教えていただきたいのですが?」



 そう言えば……ネモさんが言ってたっけ……レアモンスターは国際法で狩猟が禁止されてるから、売却する際は人から譲り受けたと言えと。 アルミラージは害獣指定があるので問題はないらしいが。



「あ、はい、知り合いから譲り受けたモノなので、どんな経緯で入手したものなのかは判らないのですが、買取出来ないでしょうか? あ、アルミラージにあっては先日ギンヌンガガプで討伐して来ましたが……」


「いえ、大丈夫です。 出処が不明瞭な代物なので、多少の値引きはありますが、構わないでしょうか? アルミラージにあっては規定の価格で買い取らせていただきます」


「ええ、構いません。 宜しくお願いします」


「まあ、差し引くと言っても希少な代物なので、それなりの額にはなります。 ところで、アルミラージをこんなにも沢山倒されるだなんて、とてもお強いんですね?」


「えと、アルミラージが強いのは分かるのですが、僕が強いのかどうか分かりません」


「え? 冒険者ギルドには所属していないのですか?」


「え?」


「え?」



 冒険者……ギルド? それ所属していないとマズいやつなのか? いや、知らぬ存ぜぬで押し通すか。



「あのぉ、冒険者ギルドって何ですか?」


「本当にご存知ないのですね……まあ、冒険者ギルドと言うのは、魔物の討伐依頼や素材の収集等のクエストを発注しているギルドになります。

 冒険者はクエストの難易度の達成度合いによりランク分けされていまして……、あ、長くなりますので、詳しくは冒険者ギルドで伺ってください」


「あ、はい、そうします。 それで、冒険者ギルドに入っていないと買取出来ないとか、そう言うことでしょうか?」


「いえいえ、そんな心配はございません。 本日はこちらの価格にて引き取らせていただこうと思いますが、如何でしょうか?」



ーー二百万プスーー


 ……正直なところ、数十万くらいになれば良いと思っていたので、驚いている。 

 が、そんな素振りは見せずに。



「では、それでお願いします」


「かしこまりました。 それでは、えっと現金で宜しいのでしょうか? それとも振込みますか?」


「あ……デバイスか……。 えと、討伐の際にデバイスが壊れてしまいまして……どうすれば良いですかね?」


「あらあら、それはお困りですね? では、こちらの商業ギルドのカードをお作りしましょう。 商業ギルドのネットバンキングで決済されると良いでしょう」


「そんなのもあるんですね? では、それでお願いします」


「かしこまりました。 では、口座をお作りしますので、こちらの方にも登録させていただきますね」


「はい、色々と助かります」



 こうして僕はまとまったお金を手にすることが出来た。 ……先にこっちに来ていれば良かったな?

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