第43話 ベラドンナ
ニヴルヘル冥国首都ナーストレンドの街。 空洞内、そして街中に散りばめられた
夜になると日照石と入れ替わり、
ニヴルヘル冥国はアスガルド山脈の地下空洞内に存在するために、雨は振らないがギンヌンガガプより流れ込む湿った空気により霧が立ち込めていて、空洞内の氷点下に冷えた空気に当てられる。
やがてそれらは雪などの結晶となって降り注ぎ、一面を白銀の世界へと変えている。
その雪化粧の中、力強く育つ植物がある。 基本的に空洞内の植物は光合成ではなく、魔素合成による栄養供給で育っている。
よって、地上では観測出来ないような植物が多く生息しており、様々な素材として各国へと輸出している。
日照石や月照石の光を受けて、一面の積雪からもふんわりとした光が広がり、ニヴルヘル冥国はとても幻想的な世界となっている。
「うわあ、きれいだねぇ〜!」
「そうですねぇ♪ アスガルドを出て、世界の見聞を広げるつもりでいたけど、本当に驚かされる事ばかりだわ! 翼人族ももっと外の世界に触れるべきかも知れませんね!」
「うむ、ボクも基本研究所から出ることがないが、お前達と関わってからと言うもの、外の世界に触れる事が多くなってしまった。
しかし、実際に外に出て見んことには得られない情報も山のようにあるし、外に出なければ何も体感できないと思い知らされたよ!」
「ねえ、マッキーナ! 今どこに向かってるの?」
「うむ、闇ギルドのニヴルヘル支部へ向かおうと思ぉておるが、……確かこの先にある筈なのだが?」
シロはラケシスとマッキーナと共にナーストレンドの街にあると言う、闇ギルド【ベラドンナ】を目指している。
スミスは別行動をとると言って三人とは分かれて行動している。
ベラドンナは色街の片隅にあって、女性ばかりだと本来動き難い場所なのだが、世間知らずが三人揃えば何も怖いものなどはなかった。
しかもドワーフ一人、翼人族二人の異色の三人組。 目立たない訳が無いのだが、そこは世間知らずの三人組、どこ吹く風で歩いて行く。
周囲は月照石の薄暗い灯りが、ふんわりと包み込み、色街特有の艶やかな色合いの照明と、店から漂う御香の香りで道行く男共は浮き足立っている。
格子の向こうの女性を物色する者、客引きと掛け合っている者、同伴で連れ添って裏道に消えて行く者など、様々な事情や想いを胸に、皆が皆、楽しい時間を過ごそうと一生懸命だ。
そんな色街の片隅にひっそりと佇む一軒の小さなガールズバーが、三人が探している【ベラドンナ】であった。
チンチロリン♪
ドアを開けると来客を知らせるドアの鈴が、軽やかな音を奏でる。
「は〜い♪ いらっしゃ〜い♪ まだオープン前だけど、入って、入って〜♪」
中に入るとカウンターの中で、開店準備中だと思われる若い女性が、明るい声で話しかけてきた。
「あらまあ!! なんなの!? うちに就職希望? ねえ!? そうなの!?」
「え、え? え?」
「あら、私でもガールズとして大丈夫なのかしら?」
「大丈夫も何も、引く手数多じゃないかなあ〜??」
「あらあらまあまあ、そうなの? じゃあ、おねがいしy」
「おい! 目的を忘れてどうする!?」
「目的?」
「あの!クロを探してます!!」
「クロ? 誰? 彼氏?」
「シロ、先走り過ぎて話が見えんじゃろう?」
「あ、ごめんなさい……」
「うふふ。 可愛いわねぇ。 アタシはこの【ベラドンナ】のちいママをしてるダフネ。 ママはもうすぐ来ると思うけど、ゆっくりして行ってちょうだい?」
「ありがとうございます! 私はシロ。 クロを探してます!」
シロはカウンターに乗り出してダフネに顔を近付ける。 ダフネは少し後ずさる。
「シロ、落ち着くのだ。 ああ、私はマッキーナ。 この子の保護者的なもんだと思ってもらって構わない。 そして、この人はラケシス。 まあ、この人の保護者だと認識してもらっても構わないぞ?」
「ん〜と、つまり、ロリっ娘マッキーナちゃんは保護者。 美少女シロちゃんと美女ラケシスさんは被保護者と言う事で良いのかしら?」
「ぬぬ、私はロリっ娘ではない。 ドワーフの成人はこんなものだぞ……まあ、慣れてはいるが納得は出来んな! して、こいつらは被保護者の認識で相違ないわ」
「わかったわ♪ 宜しくね?マッキーナちゃん、シロちゃん、ラケシスさん♪ ……それで、いつから働けるのかしら?」
「人の話は最後まで聞け。 我々はこう言う者だ。 席を用意してもらいたいんだが、頼めるだろうか?」
マッキーナはそう言うと、デバイスにインストールしている、闇ギルドのアプリから登録証を見せた。
「ふふん、そう言う事ね♪ わかったわ、とりあえずそこのカウンターに腰掛けといてくれるかな? アタシは看板下ろしてくるわ。 ママはもうすぐ来るけど、常連さんも来る頃だからね♪」
「相わかった」
「ありがとう!」
「お邪魔しま〜す♪ ふんふん、小ぢんまりしてるけど、綺麗で良いお店ね? あら、このグラス、可愛い♪」
「ラケシス、あんまり羽目を外すでないぞ?」
「あら、マッキーナちゃん、私はいつも平常運転よ?」
「神子さんだっけ? そこのラケシスさん、今日は一人かしら?」
「おや、腐っても闇ギルドと言うわけか。 さすがに耳が早いものよの」
「ええ、そこの白い子も訳ありみたいだけど、ここでは帝都ほど蔑視される事もないわよ? だから安心して……まあ、治安が良い訳ではないけどね?」
「ああ、分かっておるわ!」
「そうは見えなかったんだけどなあ? こんな目立つ三人組、魔族だって人間に売り飛ばそうとするわよ?」
「なに!? 我々は完璧な変装をだな……」
チンチロリン♪
「ただいま〜♪ 変なのが外に居たから脅しといたわよ?」
「おかえり、マリアママ♪ お客さんだよん♪」
「ここに翼人族とドワーフのロリっ娘が入ってったって……ああ、貴女たちね?」
「つっ……いや、面目ない。 ボクたちはミドガルズエンドから来たギルドの者だ」
「あはは♪ いいのよそんなこと気にしないで〜♪ あなた、あのクロさんのお姉様のマキナさんで間違いないかしら?」
「あ、は、はい。 ボクがクロの姉のマッキーナこと、マキナだ!」
「そう。 アタイはこの【ベラドンナ】の店主マリアよ。 以後宜しくお願いね♪ ところで……マキナさん?」
「ん、なんだ?」
「お探しのクロさん。 巷では何と呼ばれているかご存知かしら?」
「は? それはいったいどう言うことなのだ?」
「まあ、大っぴらにはクロさんの名前は伏せられているみたいですが、最近世間を賑わせている謎のギタリスト【
マキナは慌ててデバイスを起動してトレンドニュースに目を通した。
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〚今週のトレンドニュース〛
初登場にして数々のヒットチャートを塗り替えている、シン・バベルに突如として現れた謎のスーパーギタリスト! その正体に迫る!
先日発表されたムジカレーベルからの最新アルバムが話題を呼んでいます。 初登場にして、たった3日でミリオンセラーを記録し、今もなお記録を伸ばし続けているアルバム『冥界の慟哭』アーティスト:
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「これは……しかし、何故キミがこれをクロだと知っているのだ?」
「そりゃあ、それが闇ギルドの仕事でしょ?」
「まあ、そうではあるが解せんな?」
「そんな事は良いじゃない。 別に情報を流したりはしないわよ?」
「い……いくらだ?」
「あら、下世話な話が出て来たわね? でも、欲しいのはお金ではなくってよ?」
「な、なんだ? お、脅すのか!?」
「あはははははははは! そんな、脅すだなんて! あははははははは!」
「な、何が可笑しい!?」
「じゃあ、少し耳貸してくれるかしら?」
「………………う、うむ」
マリアはマッキーナの耳元に紅を引いた唇を近付けた。
「アタイ……」
「ごくり……」
「彼の大ファンなのよ! もし、彼が見つかったらサイン貰えるかしら?」
「………………そんな、モノで良いのか?」
「え? アンタ、彼の価値が全然解ってないみたいね?」
「ら、ラケシス! キミは判るか?」
「いいえ? シロちゃんは判る?」
「シロは判る!! クロは最高!! クロは私の全て!!」
「あらあらあらあら、いきなり降って湧いたスキャンダルかしら?」
「何を言っているのか解らぬが、シロとクロはある意味一心同体と言えよう」
「え? 何だ、もう彼女いたんだ?」
「あら、ダフネちゃんも狙っていたの?」
「ん〜、まあ、彼女にまでなろうとは思わないけど、遺伝子くらいは欲しいじゃない?」
「同感だわ♪」
「なんだ!? キミたちはクロの身体が目的なのか!?」
「私達サキュバスの血の所為だけど、優れた遺伝子を欲しがるのは本能だから許して欲しいわね? まあ、わざわざ人のモノにまで手を付ける気はないから心配しなくて良いわよ?」
「サキュバス……そうか、ここは冥国、魔族の国であったな。 とにかく、クロには手を出さないでもらいたい。 クロの貞操はボクがもr…あてっ!」
「シロちゃんいるからやめなさい!」
「ラケシス、頭はやめてくれ! 頭は!! 阿呆になる! 世界最高のデータバンクだぞ!?」
「何を言ってるの、とっても頑丈なヒューマノイドのくせして!?」
「ねえ!!!」
マッキーナとラケシスが大きな声をあげたシロに目をやると、なにやら怒り心頭と言った感じにあからさまに怒っている。
「「し、シロ!?」」
「あら、シロちゃんだっけ? ヤキモチかしら?」
「そんなくだらない話なんかどーでもいーよ!! 私は! クロの居場所が知りたいの!! 早く教えてよ!!」
「シロちゃん、すまなかった。 マリアさん、話を進めても構わないかな?」
「え……ええ、いいわよ?」
マリアはカウンターの中に入って、皆の飲み物を用意し始めた。
ダフネはおしぼりをそれぞれに手渡すとおつまみを用意し始める。
マッキーナ、ラケシス、シロはカウンターにつくと、一息ついて話を進める。
「すまないが、急いでいるので簡潔に言う。 ボクたちはクロを追って
「そう、とりあえず落ち着いて、コレでも飲んでちょうだい」
そう言うと、マリアは三人に温かい紅茶を出した。 三人は深く香りを吸って、ひとくち口に含む。
「その情報を教えるに当たって、貴女達の事を聞かせてもらうわ? 良いわね?」
「ああ、構わない。 何でも聞いてくれ」
「目的はゴルゴンね?」
「……そうだ。 しかし、今はクロに会うのが一番の目的なのだ。 ゴルゴンにあっては二の次の話だ」
「そう。 アタイたちにとってはクロの話は二の次だわ? 解るわよね?」
「……そうだな。 キミたちは帝国にグライアイの瞳を奪われ、ゴルゴンまで奪われたのだからな。 その際に何人もの魔族が犠牲になったと聞いている」
「そうよ。 だから簡単には教える事は出来ないの。 悪いわね?」
「どうすれば教えてもらえるのだ?」
「そうね……」
マリアはダフネと視線を合わせると、何かを決めた様に頷いた。
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