第42話 グライアイ三姉妹の今

〚現役最強竜ナミサンブラック!

 年内引退今日を含めて残り3戦という中で、果たしてこの栄えある鳳凰賞、制する事は出来るんでしょうか?

 枠入り順調、最後に18番のサルモティグリス。

 格式ある出発のゲートを許された18頭。

 これが竜騎手ドラゴンライダー達の力の証明。

 第156回鳳凰賞 今スタート!〛



「しゃあ! 今日は当たる! 絶対に当たる! いや、当てる! ナミサンブラックとオグロマックイーンで決まり!」


「いやいやいや、ナミサンブラックはないわ〜〜! 最近調子が上がってるサイレンスマンドラゴラが逃げ切るって〜〜!」


「え〜!? 今日は硬いでしょ!? ナミサンブラックは外せません! ナミサンブラックは固定でサイレンスマンドラゴラとオグロマックイーン軸に流す感じかな〜〜?」



 競ドラ。 それはこの世界におけるドラゴンを競走馬に見立てた競馬の様なものである。


 競ドラは水・陸・空とあり、中でも人気は飛竜による空の競ドラに集中している。

 年内に引退が決定しているナミサンブラックを、最強の座から引きずり落とす為に、シーズン中調子の良い飛竜がこぞって参加している。


 豪華メンバーがラインナップしている為に、現在最高潮に盛り上がっているのはグライアイ三姉妹の魔女たちである。


 グライアイ三姉妹はグライアイの瞳を三人で共有して見ることが出来る。

 しかし、グライアイの瞳は現在クロの懐の中にある為、三人とも真っ暗闇である。

 競ドラの中継はテレビから流れる音声頼みとなっている。


「「まくれまくれまくれー!! オグロマックイーン行けーー!!」」


「もう! 何モタモタ走ってんのよ、サイレンスマンドラゴラ〜〜!!」



〚また進路を内にとったマチノレクサス・マルコ=デニーロ!

 ナミサンか!

 ナミサンか!

 さぁこの差が縮まる!

 レクサスも来る!

 ナミサンだ!!

 ナミサンだ!!

 レクサスが来る!!

 さらにはレインボードラゴンが3番手!!

 ナミサンだ!!

 ナミサンだ!!

 エーリヴァーガルの悲鳴は!杞憂に終わった!!

 ナミサンブラック見事~!!!

 心配無用!!

 これが現役最強です!!

 D1!六勝叶えてみせたナミサンブラック!!

 サウスランド三世さんも安堵の表情を浮かべました!〛



「「「ああ〜〜〜〜……」」」


「「サイレンスマンドラゴラ〜〜!」」


「オグロマックイーンのバカあ!」


「これで三連敗だよ!! もうっ!」


「マチノレクサスとかないわ〜〜!!」


「しっかし、ナミサンブラックつっよ!」


「このまま引退まで勝ち続けそうな勢いだよ!」


「っ!?……おや? 今何か見えなかったかい?」


「うむ、護衛のあんちゃんが見えたねぇ?」


「誰か取り返してくれたのお? 我らの瞳!?」


「とにかく近くに来ているみたいじゃな?」


「これでまたレースを見ることが出来るのお!!」


「おお、そうじゃな!!」



 グライアイ三姉妹は自分たちの瞳が近づいていることに、浮き足立ち始めた。

 これで生でレースが見れるのだと。 これで、的中率が上がるのではないかと。 これで手持ちの金を増やしてやろうと。

 浮足立ち始めたのだ!



◆◆◆



「よっし!!」


「どうしたのだ? ハイモス?」


「喜んでください師匠! 7−2−8 三連単的中しました!! やはり今回もナミサンブラック圧勝です!!」


「……破門じゃ」


「ええええええええ!? 師匠!? そりゃあんまりす!!」


「研究もせんと無駄にギャンブルに明け暮れよってからに」


「そりゃあ、誤解っす! 俺は自分の研究資金を、自分で稼いでいるだけっす!」


「ほほう。 先日大儲けしたコロッセオの金はどうしたのじゃ?」


「アレは全てクロさんの金っす! 一プスも手ぇ付けてやせんぜ?」


「なんと!? なかなか見どころはあるが、資金繰りの仕方が間違っておるのぉ?」


「せっかく師匠の弟子になったんですから、時間を無駄に過ごしたくないんです。

 先日から研究所の材料を使って俺のヒューマノイドを組み立てさせてもらいましたが……あれって家一軒かえるくらいの費用じゃありませんか? 後で知って恐縮するやら、申し訳ないやらで……」


「キミは男の子であろう?」


「まあ、ではありませんが」


「男の子だったらそんなみみちい事を気にせんで、ドンとやってみたらどうだ!?」


「師匠……俺はこう見えて小心者で繊細なんすよ。 師匠みたく男前には生きられないっす!」


「だからか?」


「何がです?」


「キミのヒューマノイド……女性フィメール型に作ったのは!?」



 ハイモスの眼前には明らかに幼女を思わせるヒューマノイドが横たわっている。 ハイモスがリンクして操作するには、あまりにもギャップがあり、他人が違和感を覚えるモノである。

 所謂いわゆるネカマと呼ばれる種族に近い種族に分類されるであろう。


 幼気いたいけな女の子の向こう側に、巨人族のオッサンの影が見え隠れする訳である。


 ウィーーーーン……


 ルカが研究室の入口で立ち止まった。



「え…………?」


「え…………?」


「いや……これは……その……」


「それは……ハイモスさんの趣味なんですか?」


「いやまあ、その……そ、そうです!! 俺の趣味です!!」


「つまり、ロリコンだとお認めになると言う事ですね?」


「まあ、ロリコンでも何とでも言ってくれ!

 俺は息子はいるが、ずっと娘が欲しかったんだ!

 その些細ささいな願望を体現してしまった事に、俺はいささかも後ろめたさなんて感じてないからな!!」


「そうか! 潔いな! ロリコンよ!」


「うっ……」


「そうね、そんな事情があるなら……仕方がないですね? ロリモスさん?」


「グハッ!!」


「まあ、ルカよ、このロリコンは伊達にロリコンなのではないぞ? 造形的にも遜色違わないレベルだ! 真のロリコンと言わざるを得ない!!」


「デュクシ!!」



 ウィーーーーン……

 モイラ姉妹が研究室の入口で立ち止まる。



「おや? ハイモスさん、そんな幼女の裸体に何のいたずらをされていらっしゃるのかしら?」


「まあまあまあまあ! こんな白昼堂々と犯罪めいた行動をとられるだなんて、どんな神経なさっておられるのかしら?」


「うわ!? あわあわ、クロートーさん、アトロポスさん、こ、これは違う、違うんですってば!」


「なんだ、違うのか?」


「え? さっきの勢いは?」


「え? いや、その……」


「まあ、こうして写メに収めましたし、皆に拡散しなくちゃいけませんね?」


「アトロポスさん?」



 チロリン♪



「アトロポスさん!?」


「……ないわ〜」


「うわあ……これヤバい」


「完全に変態ですね?」


「キミは師匠を超えようとしているのか? そうなのか? 家一軒買えるくらいの資金を投入して師匠のボクを超える変態に!?」


「いえ、師匠、俺は、決して、……その様な……うっ……」


「泣いた!?」


 巨人族ハイモスは幼女の裸体を前にして、大粒の涙を流していた。 もう後悔しても、後戻りは出来ないと悟った瞬間であった。



「ルカさん……」


「はい、何でしょう?」


「俺は……この子にの名前を付けようと思っています」


「お気に入りですのね?」


「それはもう。 師匠に教えて貰いながら作った俺の最高傑作ですからね? ロリコンと呼ばれようと、何と言われようと、俺はこの子の製作者であり、親だ! 作ったからには責任を持ってこの子の行く末を見守る義務がある!」


「よくぞ言った! 我が弟子よ! 己が作ったモノに自信を持ち、プライドも羞恥も善きも悪しきも全てを賭けて作り上げたのだ。 人に何を言われようが恥ずかしい筈がないわ!」


「はい。 むしろ我が子が馬鹿にされているみたいで、とても悔しい思いです!」


「そうであろう! ボクは認めるぞ! キミがどんなに幼女を愛でる趣味があろうとも、その想いは本物であると!!」


「わたくし達も悪かったわ! 貴方がそんなにも真剣な想いで幼女を育てていただなんて、疑ってしまって申し訳ありません。 貴方の幼女にかける想いは本物よ!?」


「私は……例え貴方がどんな趣味を持っていたとしても、受け入れる覚悟は持っているわ!? だってそうでしょ? 元々種族も体格も全然違うんですもの。 貴方からすれば、私とて幼女の様なものだわ」


「何か……。 何か……引っ掛かりますが、解っていただけたのなら嬉しいです」


「それで何と言うのだ?」


「はい、この子は……」



 ハイモスが幼女を抱えあげてテーブルに座らせる。 小さな下着を履かせて、白い無地のワンピースを着せた。

 そして、テーブルから床に下ろして、直立させると。

 ポンと頭に大きな手を添えて言う。



「ルキナ」



 ハイモスはルキナのプログラムを、腕につけているデバイスで起動させた。



「俺の大切な人と、恩師の名前を頂戴しました。 皆の光り輝く希望となるように、この名前、【ルキナ】と!」


「マスター!」


「ルキナ」


「登録しました。 私の名前は【ルキナ】。 マスター名はデバイスに登録されている【ハイモス】でよろしいでしょうか?」


「ああ、間違いない。 それから、マスターはやめてくれ」


「はい、かしこまりました。 では、何とお呼びすればよろしいでしょうか?」


「【お父さん】と、そう呼んでほしい」


「【お父さん】ですね。 確かに登録いたしました、お父さん!」


「大切な人……?」


「ああ、大切な人だ」


「ハイモスさん……」


「どうか、ルキナを可愛がってあげて欲しい」


「そうか、ボクとマッキーナにも妹が出来た様なもんじゃな?」


「そう思ってくれて構わない。 師匠は俺の師匠であり、姉御みたいなもんだからな!」


「マキナお姉様で登録」


「それならわたくしたちも【お姉様】とお呼びすれば宜しくてよ?」


「ルキナ、彼女はクロートーで隣はアトロポスだ。 呼び捨てで良いからな?」


「クロートーとアトロポス。 呼び捨て登録いたしました」


「「ひどい!?」」


「お父さん、この方は何とお呼びすれば宜しいでしょうか?」



 ルキナはルカの隣に立って手を握った。



「お父さんの大切な人なのですよね?」


「あ、ああ……そうだな……」


「ルキナちゃん、私の事は好きに呼んで良いわよ? 私は貴方のお友だちになりたいわ?」


「わかりました。 でしたら、ルカさんとお呼びして宜しいでしょうか?」


「ええ、ええ、そう呼んでちょうだい?」


「はい、登録しました。 初期ラーニング終了。 これより【ルキナ】としてのプログラムを開始します」



 ルキナは一度目を瞑って動かなくなった。 そしてもう一度目を見開いた。



「お父さん? お父さんはロリコンなの?」


「なん……だと!?」



 ハイモスは初期不良だと……そう思いたかったが、そんな事は無かったのだと、思い知らされることになる。

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