第36話 ネモとミレディ
しばらく走っていると、不自然な場所に
彼は一直線に森に向かって駆けている。 僕はそれに必死について行く。
「レディ、俺だ。 すぐ出るぞ!?」
彼がデバイスで誰かに話しかけているが、何かに追われている訳でもないのに、逃げる準備をしている様だ。
デバイスの向こうはレディ? 名前なのか、女性と言う意味なのか定かではない。
キュイィィィィ……
遠く、森の中から機械的な吸気音が聞こえてきた。 それに驚いて鳥が一斉に飛び立っている。
次に地面がビリビリと振動し始めた。 次第に大きくなる振動は、すぐにその原因が明らかになった。
眼の前の森が地面ごと盛り上がり、次第に木々がボロボロと崩れ落ちて、森の塊から……
まさの飛空艇?だった。
しかもシャークティース!? の塗装を施したヤンチャ仕様?だ!
頭にハテナがたくさん付いてくるが、何一つ回答を得られないまま、飛空艇?のハッチが大きく開口して、僕らを迎え入れてくれる。
いや、まさにサメの口が開いて喰われる様な形だが、ただの仕様なのか遊び心なのかも定かではない。
僕らが搭乗するとすぐさまハッチは閉口して機体が上昇を始める。
ーー自分を戒めるようにして来たバベルだった筈だが、どうしてこうなった!?ーー
色々と聴きたい事はある。 がしかし、一番聴きたい事が突如発生した!
「どうして裸になるんですか!?」
「え? 気持ち悪いからに決まっているだろう?」
「ここ、浴室じゃないですよね?」
「ああん? まあ、いいからお前も脱げ!」
「あ、ちょっと!?」
「何だよ、もともとお前パンツしか履いてねぇんだから、さっさと脱げ! ほら!」
パンツを思い切り下げられた!?
「い、いったい何なんですか!?」
「いちいち、うっせえな?」
彼はそう言うと壁にあるボタンを押した。
すると、勢いよく温水が四方から吹き出して身体の汚れを見る見る落として行く。
身体をブルブルと振って身体や髪が乾くと、ウルフヘアの髪の隙間から突出しているモフモフしたモノと、傷だらけだが引き締まったお尻の付け根から生えているモフモフしたモノに目が行った。
え? 獣人族?
僕が呆気にとられていると、彼が隣の部屋に移動するよう促して来る。
「ほらっ、着替えだ。 俺のだが、構わねえだろ?」
「あ、はい。 ありがとうございます」
「それ着たら、先に
「はい!」
僕はそそくさと着替えを済ませると、彼に続いてブリッジに向かった。
今まで気付かなかったのが不思議なほどに、わりと大きな尻尾がフリフリと揺れている。
「何だ? 獣人族が珍しいか?」
「あ、いえ、そんなことは。 失礼しました」
「ああ、慣れてる。 気にすんな」
ブリッジはそんなに広くない。 基本的に三人で手一杯ではなかろうか?
「どうだ? 気付かれてないか?」
「マイロード! お疲れ様です。 こちらは問題ありません!」
「そうか、ご苦労だったなレディ!」
「イェス、マイロード!」
彼のことをマイロードと呼ぶ彼女はとても清楚で知的な風貌だ。 来ている服は身体のラインがぴっちり浮き立つ様な軍服に近いスーツを着こなしていて、綺麗に巻き上げられた金髪も似合っている。
対して彼は髪型はブラウンのウルフカットでタンクトップとカーゴパンツと言う非常にラフな格好をしている。
耳や尻尾が気にって仕方ないな……。
「あのお、お邪魔しております……」
「あん? 誰だお前??」
「そりゃ、あんまりじゃありません!?」
「ああ、すまんすまん、名前聞くの忘れてたな! 俺はネモ。 そして彼女は相棒のレディことミレディ! そしてこの
「ミレディです。 どうぞ、お見知りおきを」
「僕はクロ。 成り行きでネモさんとご一緒しております」
「はい、モニターで確認しております。 貴方がバベルに斬りつけたお陰で緊急離陸を止む無くされました」
「え? 僕の所為なんですか?」
「はい。 貴方がバベルを斬りつけた事でバベルの自動修復魔法が発動して、帝国軍の偵察部隊が緊急要請されたのです」
「帝国軍が来ると何か不味いのですか?」
「私達はレアモンスター専門のハンターです。 レアモンスターの狩猟は国際法で禁止されております。 その為、帝国軍に見つかると捕縛対象となるのです」
バベルにそんな仕様があるなんて初めて知った。 もし、この人たちが居なければ、僕は帝国軍に捕まっていた事になる。
運が良ければ逃げれたかも知れないが、あのアスラの事を考えると、一筋縄ではいかない事は容易にわかる。
しかし、レアモンスター専門のハンター?
「レディ、その辺で良いだろう。 そいつぁ何も知らねぇんだぜ? たぶん今も頭の上にハテナマーク山ほど浮かんでやがるぜ」
実際その通りだった。 僕は無知でこの世界の事はまだまだ分からない事ばかりだ。
「まあ、確かによく分かっていませんが、放っておけば僕を囮にして簡単に逃げれたのでは?」
「バッカヤロウ! こんな面白そうな奴放っておけるかよ!」
「それはこちらの落ち度です。 大変ご迷惑をおかけしました! 貴方はうちのネモの我儘の巻き添えを食ってしまわれたのです」
「おい! レディ!?」
「いえいえミレディさん、なんか僕も知らない事ばかりなので勉強になります」
「まあ、お互い助かったんだ。 それで良いじゃねえかよ!
それよりミレディ! コイツが倒したミノタウロスだが、俺がこっそり肉を持って帰ってやったぜ? 調理してくんねぇか? 三日三晩動いていたから腹が減って仕方ねえんだ!」
「どれだけ天真爛漫なんですか、マイロード」
「レディ、マイロードって言っておきながら、まあまあ不敬な事を言ってるよな?」
「何を仰っているのですか? 私の全てはマイロードのモノ。 私が忠義を尽くすのはマイロードのみでございます。 決して不敬など致しません!」
「あのお……」
「誰だお前!?」
「クロですが……」
「ああ、そうか、そんなのも居たっけな!?」
「マイロード! 客人に対して名前を忘れるなど、失礼ですよ!?」
「レディ、肉の調理を任せただろう? ボケたのか?」
「そんな……私がどんなにマイロードの為に……うっ……」
「おいおい、泣くこたぁねぇだろう? 言う事聞かねえお前が悪いんだぜ?」
「まあ、ヒューマノイドの私が涙など流す事なんてありませんけどね?」
「レディ、てめえウソ泣きか!? いったいぜんたい、そんなハッタリ何処で覚えて来やがる!?」
「何を仰っているのです? 眼の前に優秀な指導者が居るではありませんか?」
「何おぅ??」
「あのお……?」
「誰だお前!?」
「クロですが?」
「よし、クロ! お前が何か作れ!
「そんな、お客人に調理をおねだりするだなんて、奔放にも程がありますよ!? マイロード!!」
「ミレディさん、僕なら構いませんよ?」
「じゃあ、作ってください! マイロードに変なもの食べさせたらタダじゃおきませんからね!?」
「え!? 何のスイッチですか? それ……」
「あら、わたくしとしたことが
「こいつ、ロボットのクセに俺にゾッコンなんだ。 許してやってくれ!」
「マイロード! ロボットと呼ばないって約束したじゃないですか!?」
「そうだったか? わりぃな、もう言わねえよ、レディ?」
「4949……4949……」
「……レディ、いつからそんなにあざとくなったんだ?」
「巷でアザト女子なるものが流行っていると小耳に挟みましたもので!」
「俺にはウケねえな、出直して来い?」
「……そうします。 マイロード」
「あのお……」
「だr……」
「クロです。 調理場お借りしますね?」
「お、おう……たのむわ!」
多少は気が紛れるが、まあまあ疲れるな……この空気。
それにしても、ミノタウロスって牛の肉だと思って良いのか? まあ、とにかく血抜きからしないと臭そうだな……。
僕は肉の入った袋を受け取って、ミレディさんに調理場へと案内されて行った。
◆◆◆
もう……ひと月帰って来ない。
クロは……死んじゃったのかな?
私はまだ待たなきゃいけないのかな?
出来ることならクロを探しに行きたい。
だって
もしかしたらクロがこまっているかも知れないでしょ?
もしかしたらクロがさみしがっているかも知れないでしょ?
もしかしたらクロが……私の事を忘れてしまうかも……知れないでしょ?
クロ……
クロ……
私……
クロに会いたい。
会いたいよお!
会いたいよお!
クロに!!
マキナの研究所の窓の向こうには夜の闇に月が二つ出ていて、シロはクロと二人で話した夜の事を思い出していた。
あの時もシロは悲しかった。
あの時もシロは寂しかった。
でも今は
その比じゃないくらいに
悲しくて!
寂しい!
「マキナちゃん!!」
「おう! どうしたシロ? はりきって!?」
「私! クロを探しに行きたい!!」
「だからそれは……」
「私! クロに会いたい!!」
「シロちゃん……」
「マキナちゃん!!」
「そうだな……」
「良いの?」
「こんなに待ったのだ。 ダメだとはもう……言えないものだよ。 とくにキミにはな!」
「それじゃあ、マキナちゃん! 探しに行って良いんだね!?」
「一人じゃ行かせないけどな?」
「でも、皆に迷惑かけられないよぉ!?」
「誰が迷惑だとおっしゃったのです?」
「ラケシスさん?」
「そうですわ。 私だってそろそろ行くつもりだったのですよ?」
「クロートーさん?」
「お姉様方? 抜け駆けは許しませんことよ?」
「アトロポスさんまで!?」
「おいおい、勝手にもりあがってるが、俺にも責任取らせてくれるんだよな?」
「ハイモスさんも!?」
「またハイモスが下手したら皆が困るもの、仕方ないわねぇ?」
「え!? ルカさんもですか!?」
『おいおい、オレサマを除け者にして盛り上がってんじゃねえか?』
「フェルは当たり前」
『ヒデェな! おい!?』
「いやいやいやいや、オマイら! こんなに大所帯だと何かあったら全滅ではないか!?」
「では、どうしろと言うのです?」
「スパイダーキャブなら全員行けるではありませんか?」
「今回はスパイダーキャブは使わない! ボクの叡智の結晶とも言うべき、その集大成が完成したのだよ!」
「マキナさんの集大成!?」
「左様! 刮目せよ!! これぞ叡智の王【ソロモン】!!」
マキナの後ろのシャッターがゆっくりと上がってゆく。
巨大なドックに繋がるそのシャッターも巨大であり、もはや大きな壁が持ち上がって行く様だ。
ンゴゴゴゴゴゴゴ……ガコン!
ドックにはニーズヘッグ級の
また小型の
それはマキナと言う小さなドワーフの娘が創り出したとは想像し難い大きさで、巨人であるハイモスが普通の乗組員と言っても問題ないほどである。
「ニーズヘッグ級
「いつも、思うんですがマキナの姐さん、その小さな身体でどうしたらこんな大きなモンが作れるんですか?」
「ハイモス、キミも建塔師の端くれならこれくらいのモンは造作もないだろう? それとも何か? 帝都の技術水準はそんなにも低いのか!?」
「正直、マキナ姐さんの発想はぶっ飛んでると思いますぁな?
先日のドローン、何て言いましたっけ? モスキート君? アレは帝国に渡ると駄目な技術だと……もっと秘匿してください! 何に引用されるかわかったもんじゃありませんからね!」
「アレはクロの為だ! 仕方あるまい!!」
「スパイダーキャブだってヤバいっす! あんな高低差を無視した高速移動が出来る乗り物、まだこの世に存在して良い筈がありませんからね?
それから今回はソロモンでしたっけ? まだ何も見ちゃいませんが、きっと見ない方が良かったと思えるに決まってますからね!?」
「ハイモスはもう乗せてやらんからな!」
「そんなぁ姐さん!! それは殺生でっせ!!」
「クロの捜索メンバーはもう決めておるのだ!」
「それはいったい……」
「それでは発表しようではないか!! クロの捜索メンバーは!?
ダルルルルルルルル……ダダン!」
マキナのドラムロールに皆が押し黙る!!
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