第37話 シンギュラリティ

「ダルルルルルルルル……ダダン!」


「「「「「「ゴクリ!」」」」」」


『ゴキュ!』


「シロ!」


「は〜い!」


「フェル!」


『ヤッハーー!!』


「ラケシス!」


「テへペロリンチョ!」


「ふる!」


「なんですって!?」


「最後は、マッキーナちゃん!」


「うぇ〜い!」



 マッキーナが両手を高くあげてハイモスを指差しながらアホみたいな顔をしている。



「くっ……コイツ、本当にAIなのか!? 人に対してマウント取ろうとしてんじゃねえか?」


「人の事を時代錯誤みたいに言って馬鹿にした、ツケが回ったのですわ。 因果応報、悪因悪果ですわね!」


「ぐぬぬ……返す言葉もねえが、AIにバカにされるのは納得いかねえわ!」


「はん、マッキーナちゃんは自律型AIなのだから当然であろう?」


「そんな!? AI規制法はどうなってやがる!?」


「ほう、一人前に知った風な事を口にするではないか!? 我々は闇ギルドだぞ? そんなクソみたいな法案なぞ知った事ではないわ! ぬわはははははは!!」


「こんなマッドサイエンティストが居るからシンギュラリティが懸念される訳だろ!?」


「聞き捨てならんな! ボクみたいな科学者こそが、キミたちの生活や文化を豊かにしているのではないのか!? それとも何か? キミはいつまでも原始的な生活をしていたいとでも言うのか? そんな世迷言はナーロッパにでも転生してほざいてろ!! ぐわはははははは!」


「この人、どこまで本気なんだ……!?」


「何を戯言を……大きな遊びを本気でやるのが人生と言うものであろう!? 他に何がある!?」


「クッ、本気でイカれてやがるぜ! しかし……ニーズヘッグ級飛竜艦ドラグーンソロモン……これを前にして高揚感しかねえ俺は、認めざるを得んではないか!! むしろ、本気でイカしてやがる!!」


「ふふん、当たり前の事に気付くのが遅いのだよハイモス君。 キミはボクの元で修行した方が良いのではないか?」


「え!? 良いのですか?」


「おや、満更でもなかったか?」


「いや、モノ造りをしている者なら誰だって憧れるだろう!? こんな歴史的建造物!!」


「なるほど、コレの価値が理解出来ると言うのであれば、搭乗することもやぶさかではないが、今回はお預けじゃな」


「師匠!! そこを何とか!!」

 

「ぬ? お主、今何と言った?」


「師匠! 大先生!! 恩師!!」


「ハグッ!?」



 マキナが何らかのダメージを受けて、鼻から血を垂らし始めた。



「師匠?」


「興奮しすぎて鼻血が出たではないか! やはりキミには残ってもらおう。 ソロモンのデータはマッキーナに任せるのが適任だ。 キミではマッキーナちゃんの助手にしかならんが、マッキーナちゃんは助手を必要とはせんからな!」


「クッ……チョロいと思っていたが、存外冷静だったか……」


「ふん! 巨人族風情がドワーフを出し抜こうだなんて百万年早いわ! どわはははははは!」


「しかし、師匠の元で勉強はさせてもらいますからね!?」


「ふむ、殊勝な心がけであるな。 精進せよ!」


「はい! マキナ巨匠!!」


「デュクシ!!」



 マキナの小さな鼻から吹き出た血を、バカでかいハイモスがハンカチで拭おうとする。



「おい! キミはボクをふぐっ!!」


「こう見えて繊細な作業も得意なんですよ。 巨人族だってドワーフ族に負けてないって事を証明してみせますからね!」


「ふむ、ズビビッ! 精進したまえ!」


「脱線したが、シロ?」


「な〜に、マキナちゃん?」


「ボクはついて行く事が出来んが、気をつけるのだぞ?」


「うん! マキナちゃん大好き! ぎゅ〜〜!!」


「ボクもだぞ、ぎゅ〜〜!!」


「実はの、シロ?」


「なあに、マキナちゃん?」


「キミの背中のモフモフも良い匂いがするのじゃぞ?」



 マキナは両手をパタパタさせて羽を真似ている様だ。



「マキナちゃんのえっち!」


「そう褒めるでないわ! わはははははは!」


「あはははははは! じゃあ、行ってくるね!」


「ああ、クロはきっと見つかる!」


「うん!!」



 シロ、フェル、ラケシス、マッキーナは各々出立しゅったつに向けての準備をする為に、自室へ向かった。

 マキナの研究所は無駄に広い。 広すぎるが故に各所に仮眠室があり、部屋を割り振るにも十分過ぎる部屋数があった。 ハイモスだけはガレージを改装した部屋だったが、本人は気に入って自らも改装に手を加えていたくらいだ。


 やがて荷造りを終えた三人がドックに集まると、他の五人がそれぞれ声をかけて見送る。



「では、長々と見送りしてても出発出来ぬであろう? 君たちの新しいデバイスとICクリスタルじゃ。 シロは必要に応じて髪を染めて使い分けるのだぞ?」


「は〜い!」


「マキナさん、私の分までありがとうございます! こう言うの持つの初めてなので興奮しますわ!」


「マキナさん、私たちの分はございませんの?」


「安心せい、ちゃんと用意しておるわ。 ホレ、好きなのを取れ」



 マキナは手元のテーブルに無駄に沢山のデバイスを並べた。



「「「「やっふーーい!」」」」


「キミたちは……いや、いいだろう。 とりあえず、シロ、ラケシス、気をつけて行くのだぞ? ボクはマッキーナを通していつでも対応出来る様にしておるが、念には念を入れて用心をしておけ!」


「わかりましたわ。 何かございましたら、マッキーナさんを頼りにすれば宜しいのですね?」


「ああ、まあ他にもお目付役を用意しておるが、それは後のお楽しみじゃ」


「お目付役??」


「ああ、行けばわかる。 必要なモノは全て揃っておる筈じゃ!! 行って来い!!」


「「「はい!」」」『ほい』



 三人はせり上がっていくハッチで手を振っている。 フェルは先だって壁を抜けて中へ入って行った。

 すぐにマキナはヘッドセットを装着して、マッキーナとリンクさせている。


 ニーズヘッグ級飛竜艦ドラグーンと言うと三番目に大きな飛竜艦ドラグーンだ。 備え付けのドックには偵察小型飛竜艇ヴイーヴルを格納している。



 三人は先ずマッキーナの案内で艦橋ブリッジへと足を運んだ。 艦橋ブリッジは広く視界もパノラマで360度見渡せる。

 艦橋ブリッジから観るドックはやはり広々として、一人の作業場だとはとてもじゃないが思えない広さだ。 それこそドラゴンでも飼えそうなスペースである。

 よく見るとモスキート君たちがちょこまかと動き回っているのが見える。 マッキーナの解説によると、急遽決まった出航の為の準備をさせているらしい。



「よお! シロの嬢ちゃん!

元気にしとったんか?」


「はいっ!? あ!! スミスさんだ!?」



 ブリッジの真ん中にある半球型の機器で、フォログラムにより立体的に地形が映し出される装置の向こう側からスミスがコソコソと出て来た。



「シロさん、何方どなたですの? こちらの殿方は?」


「んとね、ジョーホーヤのスミスさんだよ!?」


「情報屋でございますか……つまり?」


「はい、聞き及んでおりまっせ? ラケシスはんでっしゃろ? いや、失礼しました。 ウルザルブルン神殿の神子、ラケシス様。 手前はスミス。 情報屋のスミスでお見知り置きください」


「かしこまりましてよ? スミスさん。 あなたがどうしてココに居るのかも察しております。 少なからずクロさんの情報を手にしているのですね?」


「まあ、まだ売れる程の情報は集まってはおりまへんが、手掛かりくらいは……と言ったところでございまっしゃろか? マキナの姐さんに頼まれて調べてたんですが、これ以上は足を運ばんとなんともしがたいちゅうわけで。 それでちょっと前からこの飛竜艦ドラグーンのドックに隠れて皆さんの出立を待ってたってちゅう訳でっさ」


「クロの! クロの居場所が!?」


「そう焦らんとってや、シロの嬢ちゃんよぉ。 俺も頑張ったんやけど、居場所が判った訳やないんや。 ただ、いくつかの情報の断片を繋ぎ合わせて可能性を導き出しているところっちゅう感じやな?」


「可能性?」


「せや。 可能性や。 せやけど、俺は限りなくクロの旦那に近付いたと思っとるんや」


「勿体振らずに教えてくださいませんこと?」


「ラケシスの姐さんはセッカチでんなぁ! まあ、話すさかいに急かさんといてぇな?

 最近、レアモン専門ハンターのネモが黒髪黒目の男と一緒につるんでんのが目撃されとるんや」


「クロ!?」


「まあ、黒髪黒目なんかそんなにおらんからな? おそらく旦那やと俺も思っとる」


「じゃあ、行こう!?」


「アホか! 何処に行くっちゅうんや?」


「そのネモって人んとこ?」


「まあ、話は最後まで聴きよし。 ネモはレアモン専門ハンターや。 つまり国際法違反に抵触しとる以上、魔警隊や帝国軍に追われとる身ぃっちゅう訳や」


「お尋ね者と言う訳ですのね……」


「まあ、まだクロの旦那は正式には手配されてへんけどな? 俺が言いたいんはせやないねん。 そのネモの足取りを先読み出来たら辿り着けるかも知れんちゅう話やねん、わかるか?」


「よくわかんない」


「レアモンスターを狩ったところで金になる訳やないわな? ソレの素材や魔石を換金せな金にはならへん。

 つまり足跡は必ず付くっちゅう訳や。 とどのつまりが、その一歩先のレアモンスターを感知出来ればビンゴっちゅう感じやな?」


「換金でございますか……」


「せや、少し前にバベル周辺のモンスターの換金。 最近やとミュルクヴィズの闇の森のモンスター素材が換金されてたみたいやわ。 これから割り出される次なる狩り場っちゅうと?」


「ぜんっぜん! わっかんないよ?」


「そりゃ、そうか?」


「スミスさん、回りくどい言い方は良いのでもっと簡潔に仰っていただけるかしら?」


「せやな。 次はギンヌンガガプの深淵!」


「え? え? ぎんにゅん?」


「いったいなんなんですの?」


「……おたくら……ほんまにクロの旦那を助けに行く気やったんですかい?」


「うん!」


「何かいけなかったかしら?」


「……どうやって見つける気やったんで?」


「ん〜……なんとなく?」


「女の勘、ですわ!」


「………………」



 スミスは頭を抱える。 マッキーナは遠い目をしている。



「マキナはん、あんたの人選おかしくおまへんか? マッキーナ通して見てはるんやろ?」


「ぼ、ボクはマッキーナ!! よくわかんな〜い!」


「………………」


「スミス、ボクはその飛竜艦ドラグーンにボクの持てる全ての叡智を授けたのだ! その意味が分かるか?」


「そう言や、そんな事をずっと言うとったな、あんさん?」


「今こそ明かそう! このソロモンの恐ろしさを!」


「なんや聞きたくあらへんわ……もうええで? マキナはん?」


「今こそ明かそう! この飛竜艦ふねのブレーンとも言うべき【Dragon飛竜艦が Enterprise冒険をする為の Unlimited無制限 Systemシステム】即ちDEUSデウスを!」


「さあ、モタモタしとったらクロの旦那がおらんなるわ! 行くで!」


〘まだワシの紹介が済んどらんではないか!!〙


「どわああああ!! あんた誰や!?」



 突然スミスの後ろのフォログラムスクリーンに巨大な老人が出現した。 立派な髭を蓄えた完全なるドワーフ翁である。


 そして翁は言う。



〘シンギュラリティ? そんなモノは知らん!!〙

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