第34話 忍び寄る影
キィィィィ………ィィン!
耳鳴りのように空気を
ッドッゴゴゴオオオオオン!!
ーーそれは突然だったーー
眼の前が真っ白な光に包まれた後、クリムゾンレッドの爆風とともに、僕と彼女の身体が溶かされて消滅して行く。
咄嗟に彼女に覆い被さったが、僕の身体も、彼女の身体も、もはや原型を留めておらず、四散して散らばっていた。
ゴオオオオオン!
ドオオオオオン!
ボオオオオオン!
そこに追い打ちをかけるように幾度も爆音と爆風が吹き荒れる。
僕の身体は硬質化した断片が千千に散らばっていて、それぞれが液状化して行く。
彼女の身体は跡形もなく溶かされて、魔石にこびりついた肉片が再生しようと伸び縮みしていた。
ミサイルの様なモノだったろうか。 確認してはいないが、彼女の首輪に登録されているログを辿って、撃ち込んで来たのだろう。
全てのミサイル?が着弾し終えて、辺りは静まり返っていた。
ただ雨は降り続いている。
僕は散らばったスライム体を集めて、身体を形成して行く。
ある程度集まると増殖させて、クロの身体へと変化させて行った。
辺りは大きく陥没していて、鬱蒼と茂っていた草木は跡形もなく消し飛んで、土煙に包まれている。
彼女が着けていた、金属製の首輪は壊れてグチャグチャになっている。
近くに彼女が居れば良いが……。
ーー僕のせいだーー
陥没した土砂に埋もれて魔力反応を感じる。
とても小さな魔力だ。
僕はソレを掘り起こして手に取った…。
アハトさんだった。
いや、正確にはアハトさんだった魔石だ。
彼女はもう再生の限界を超えてしまったのか、魔石に肉片が絡みついているが黒ずんでいて動かない。
エメラルドグリーンの石ころも見つけだが、それも泥まみれだ。
彼女の瞳だったものだ。
ーー僕のせいだーー
僕のせいでアハトさんが呪いに巻き込まれてしまった。
油断していた。
気を許してしまった。
僕は、
殺してしまった。
ーーアハトさんーー
僕は彼女の魔石を拾って、しばらくぼうっと眺めていた。
僕は……
彼女を助けてやれなかった
僕は……
彼女を見殺しにしてしまった
僕は……
「うわあああああああああああ!!」
心が悲鳴をあげた
苦しくて
哀しくて
悔しくて
腹が立つ
力のない自分に
腹が立つ
僕は……
抗えなかった
この呪いに
抗えなかった
この呪いに
この呪いに!
抗えるだけの!
ーー力が欲しい!ーー
帝国を潰せる!
ーー力が欲しい!ーー
皆を守れる!
ーー力が欲しい!ーー
僕はもっと
傲慢になろう
運命を変えられるほどの
ーー傲慢に!ーー
雨は降り続いている
雨は
降り続いているのだ
◆◆◆
「未だクロから連絡はないが、何故お前は戻って来たのだ?」
「いやぁ、そのぉ……クロさんが帰れって言ったもんで……。 そんな目で俺を見ないでくださいよ、マキナさん?」
研究所に戻って来たハイモスを女性陣が囲んでいた。
「カメオを以てしても、クロさんと連絡が取れません。 いったい何があったのです?」
「ラケシスの姐さん、そんな事言われても、後の事は俺にもわかんねぇよ。
ネットでは闘技場で黒い悪魔が出たって大騒ぎになってたみてぇだが、ソレがクロさんかどうなのかはわかんねぇ。
防衛戦はチャンピオンが
「ちっ!」
「舌打ち!?」
「クロは……クロは? ちゃんと帰ってくる?」
「シロちゃん、すまねぇな。 そりゃあ俺にもわかんねぇんだよ。 俺だって心配してんだぜ?」
「なら何で帰って来たんですか?」
「いやいやいやいや、そんなルカさんまで? クロさんに脅されたら、誰だって帰るでしょう?」
「シロなら帰らない」
「私だって帰りませんよ? 何のために一緒に行ったかわからないじゃないですか!」
「はいはい! わかりやした! 俺が悪かったです! クロさん置いて帰って来た俺が悪かったです!! これから戻って確認して来ますから、許してくださいよ!?」
「キミは阿呆なのか? 騒ぎが起こってしまった会場に、無駄に目立つキミが戻っても、クロが迷惑するだけじゃろう?」
「いや、そりゃそうですが、俺も何だか
「ラケシスさん、まだ連絡は取れないですか?」
「うんともすんとも言わないわね……?」
「ふうむ……」
「シロ行って来る!!」
「ダメだぞ!」
「だうして、マキナ?」
「クロが生きてるなら戻ってくるかも知れないが、シロにもしもの事があったらクロになんて説明すれば良いのだ!?
今は迂闊に動かん方が良かろう……」
「うう……でもぉ……」
「そうですわねぇ、今は待つしかないわ? シロちゃん、我慢しましょうね?」
「でもぉ……クロにもしもの事があったら、シロは……シロは……嫌だもん」
「うん、わかってる。 でも、それは皆同じ気持ちよ? ひとりを除いてはね、ハイモスさん?」
「俺だって同じ気持ちっすよ!!」
「じゃあ、どうして帰って来たのかしら?」
「それを言わないでくださいよ、姐さん」
「クロ……」
『シロ、大丈夫だ。 とりあえず奴は死んじゃあいねぇ』
「どうしてわかるの? フェル?」
『精霊の勘だ!』
「………………」
シロはしゃがみ込んで床にのの字を書き始めた。
居ても立っても居られないのに、何も出来ない自分に腹を立てていたのだ。
『なんか、すまん……』
「まあ、とりあえずドローンを飛ばした。 私の作ったモスキート君なら誰にも怪しまれずに偵察出来るからな!」
「何だかんだで、一番頼りになるのはマキナさんですよね?」
「ルカ、
「マキナさんて、本当に天才ですよね?」
「何か欲しいのか?」
「でも、今更ですが、初めからモスキート君使えば良かったですよね?」
「それは遠回しにボクを無能だと言っておるのか?」
「いいえ、何を言っても今は出来る事が限られています。 そして、何より情報が欲しいです。
マキナさんの事は頼りにしています!」
モスキート君から送られて来る画像はライブでモニターに映し出される。
研究所にはいくつものモニターがあって、闘技場や街中の映像も定点カメラからの画像を映し出している。
また、ネットニュースも逐一映し出されているが、闘技場でのその後の情報は途絶えたままだ。
近くで大きな爆発があったみたいだが、帝国が魔物を迎撃したものだと報道している。
山奥なので映像がない。 そちらにもモスキート君が向かっているが、雨で画像があまり良くないので期待薄だ。
「モスキート君の画像では、闘技場の連中は帰り始めている。
出場者控室の画像も可能な限り捉えてみたが、それらしい映像は見当たらない。
しかし、これだけの衛兵隊がてんやわんやなところを見ると、まだ騒動は解決していないと言えるだろうな」
「そうね。 落ち着いていたらこんなに騒がしくはないわね。
クロの今までの行動を考えても必要以上に暴れるとは思えない。 つまり、彼女を何とかして連れ出して、何処かへ逃げたと考える方がしっくり来るかしら?」
「この魔物迎撃のニュースの画像は手に入らないですか?」
「山奥だし、雨で画像もイマイチだけど、今、周辺近くまで来ている。 ……何だ? この巨大な穴は?」
「周辺の木々が焦げているな。 それにしても穴がデカいが、いったいどんな迎撃したんだ!? そんな大きな魔物が出たら、もっと大きなニュースになっているだろう? こんなローカルニュースではなく」
「確かに怪しいな。 クロが悪魔みたいな形状に変身してアハトさんを連れ出したから、帝都教会が跡形もなく消す為に攻撃したと考える方が妥当だな」
「それが一番説得力があるわね。 だとするならば、クロがこの攻撃くらいで死ぬとは考え難いけど、何処にも居ないわね?」
「もう、こちらに向かってるなんて事はない?」
「モスキート君を追加で十匹ほど放った! 十通りのルートであちらに向かわせている!」
「本当に頼もしいですね!」
「それは、見つかってから言え! 見つからなければただの無駄骨だ!」
「クロ……」
シロは落ち着かない様子で必死にモニターをみつめている。
今にも泣きそうだが、それこそ必死に我慢していた。
しかし、その後もクロがモニターに映し出される事はなかった。
◆◆◆
「どうだ、殺ったのか? 鳥籠から逃げ出した鳥は?」
「分かりませんが、首輪は外れて発信機は爆撃で壊れたと思われ、機能しておりません!」
「まあ、十分稼げたが、この防衛戦と鳥そのものを売り捌く事を考えると、まだまだ稼げた筈じゃからのお。 思い出しただけでも腹が立つわい!」
「ですが、これ以上捜索に金を使うのは得策ではありませんね。 捜索は打ち切るべきかと……」
「ふむ、そうじゃな。 次の鳥を探す。 帝都教会へ打診せよ」
「はっ!」
闘技場の一角、ひときわ豪華な貴賓室にマルクスは居た。
両脇に女性を侍らせて、部下に指示を出している。
眼の前に大きなモニターが設置されており、帝都教会とビデオ通話が繋げられる。
モニターに仮面を被った人物が映し出され、疑似音声にて通話が開始された。
「マルクスか」
「呼び捨てとはどう言う了見だ? ペドロ」
「お前は誓約を破った。 これより制裁を行う」
「いったい何を言っておるのだ?」
「知らぬとは言わさん。 お前は88番を手元で処分せずに、人の手に渡らせた。 これがお前の罪だ」
「いやいやいやいや、ちゃんと自分の金を使って処分したではないか? それで問題ないであろう?」
「では聞くが、返却するように約束していた、グライアイの瞳はどうした?」
「今、回収に向かっておるわ。 抜かり無い」
「では、88番の魔石はどうした? 可能ならばデータだけでも残すように指示した筈だが?」
「それは……出来るだけ残すと言う約束だったであろう?」
「たしかに。 しかし、余所者に渡ってはならないと書面に書いていた筈だが? 魔石を確実に破壊出来たのならば問題ないが、余所者に魔石、或いはデータだけでも持って行かれる事だけは許されん」
「それも、これから回収予定である! 黙って見ておれ!」
「……もう遅い」
「それはどう言う……」
マルクスの背後に黒い影が指す。 照明があるにも関わらず、影は大きくなり、深い闇から手が伸び出て来て……
「ふぐっ!!」
手は、マルクスの首元を撫でるとまた、闇に消えて行った。
部屋から陰が消えると、マルクスの首元がポトリと落ちて地面に転がった。
続いて身体が頭の上に倒れ込む。
「「きゃああああああ!!」」
マルクスが隣に侍らせていた女性たちの悲鳴が響き渡り、衛兵隊たちが部屋に飛び込んでくる。
すぐに女性たちが容疑者として捕らえられるが、女性たちは泣き叫んで自らの無実を訴えたと言う。
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