第32話 アンノウン

「今回はクロさんに全ベットっす!」


「………………ちっ!」


「何か対応冷たくなってませんか? これからの路銀稼がなきゃなんないっしょ?」



 何かハイモスオッサンが後ろでゴチャゴチャ言っているが無視だ。 僕は試合に集中する。


 次の対戦相手は情報ではとても情報自体が少ないらしい。 相手の調子が悪くて不戦勝が2回と、ひとつ前の試合では相手が棄権したらしい。

 これって……またヤバい奴じゃねえの? それとも誰かがうしろで手を回したから、闘わずに進んでいるのか?


 どちらにせよ情報がない。


 オッサン、賭け事しとらんで情報集めろよな……。



「お前、ホントもう帰れ、な?」


「ホントひどくない!?」


「知らん」



 僕はそう言い捨てて部屋を後にする。 構ってられないからな。



【決勝戦】


unknown ✕ ナハト


 おい! 何だよアンノウンって! 得体が知れないにも程がある! 良いのか? 大会規定とか無いのか?


 まあ、人の事は言えないのだが。


 アンノウンは深くフードを被ったローブ姿で、さっきまでの僕に近い格好をしている。 油断ならないな。


 くそ、次が最後だ。 どのみち成るようにしか成らないだろうよ! これが終わったらアハトさん連れてこんな所さっさとおサラバだ!


ーーやってやんよ!ーー



 グオオオオン!

 

 ドワアアアアアア!!


 銅鑼の音が観客を狂気へ誘う。 どっちが勝っても、負けても歓声と怒号が闘技場コロッセオを揺らす事だろう。


 僕は既に身体強化済みの双剣モードだ。


 相手は身構える様子はない。



「ほう? 88番を回収しに来たつもりだが、面白いモノが出回っておるのだな?」


「なにっ!?」



 こいつ!?


 今、確かに88番を回収しに来たと言った。 つまり研究所関係の帝都教会の者か。


ーー生かしちゃおけねぇな!ーー


 僕は最大瞬発力で踏み込んで奴へダブルスラッシュを放った!



 キギィィィィィィン!!



ーー硬てぇ!?ーー


 ローブの下に甲冑でも着込んでやがるのか?



「ふむ、その硬度、アダマンタイト級だな。 ますます面白い」


「………………」



 本当に得体が知れない……。

 あまり手の内を知られたくはない。 硬質化解除アンロックをかけるのは決定打を確信出来てからだ。


 幾度となく仕掛けてみるが、ダメージが入った気配がない。



「あまりちょこまかと動かれるとやりにくいな……。 こちらとしても目立ちたくはないのだが……」


「………………」


「ふむ……■■■■■■■■!」



 何て言った?


 っ!?


 脚が動かない!? 


 石化か? 元々硬質化している身体にも有効なのか……。


 奴がツカツカと近づいて来る。


「どうだ? 降参する気はないか?」


「………………」



 顔を寄せて耳元で呟いて来る。



「そして、うちの研究所に来ないか?」


「………………」



 願い下げだが。

 僕はこっそりとアンロックを掛けて、動けないフリを続けた。 そして、近くで見ても傷らしき傷はないな……コイツも硬質化しているのか? まあ、関係ないが。



「教えて欲しい」


「ふむ、良いだろう。 答える事が出来る質問ならば答えてやらんでもないぞ?」


「ゴルゴンの力を解析したのだな?」


「貴様……いや、そうか。 神子の手の者だな? 面白いが、知り過ぎている様だな……惜しい。 本当に降参しないかね?」



 返事はしないが、やはりそうなんだな。



「嫌だと言ったら?」


「殺して持って帰るだけだが?」


「やっぱり、そうかよ!」


「なにぃ!?」



 僕はこっそりと用意しておいたデジタルスクロールに魔力を流すとアンノウンに斬りつけた!


 ザン!!



「キサマッ!?……これは……」



 クソッ! すんでの所でかわされて、真っ二つには出来ず、腕を一本斬り落としただけだ。


 グシャラ! …ピピップー……


 電子音!?


 斬り落とした腕は重くて鈍い音とともに、高い電子音が聴こえた。


 ヒューマノイド? いや、オートマタと呼ぶべきか?

 

 過去に見たサリエルさんやマキナさんを連想するが、実際のところ詳しくないので判らない。 どちらも魔石か魔晶石で動いているだろうから、それを壊せば倒せそうな気もする。


 その位置だが、……珍しいな、頭か。 魔石の位置はエーテルの光が一番強いのですぐに判る。 僕自身もそうだが、大抵は身体の心臓に近い部分に埋め込んでいる。

 身体を動かす事よりも記録媒体としてのポジションが重要と見て取れる。


 そして、胴体と切り離せば事足りると言う訳だ!


 僕は直ぐ様斬りかかるが、避けられる。 感知能力と反射的応対能力が凄まじい。



「これは……貴様か? 貴様がアスガルド事件の犯人なのか!?」


「……知らん」


「……。 興味深いな、なんとしてもサンプルが欲しい」


「……………」



 僕は鞘は無いが、居合の型をとると、初列風切剣フェザーソードを伸ばす。


 アンノウンがジリジリと近付いて来る。 奴の目にいったい何がえているのか。 僕の攻撃を予測出来るのかも知れない。 しかし、その予測をも上回れば行ける筈だ!


 間合いに入った。



 キン!



 僕のフェザーソードは奴の首元を捉えた!


 が、首は落とせていない。


 再硬質化だと?……奴の硬質化は既に魔法と考えるべきだろう。 つまり解除も出来ると思っておいた方が良いな。



「貴様、何がえておるのだ? そして、その頭で何を考えておるのか……ふふふ、まあ、開けてみれば判る事よな!」



 ローブの下から出して来た、ひと振りの剣で斬り付けて来る。


 トン!


 かわすと地面をサックリ斬りやがった!? 何て斬れ味だ……これが帝都の剣か? アスラの剣ほどではないが尋常ではない。 まあ、アレは軍事用と考えるべきだろうが。

 とにかく、アレで斬られると硬質化していても意味が無さそうだな。



「ふふふ、少し顔色が変わったように見えるな?」


「………………」



 オートマタ?のくせに嫌な笑い方しやがる。 マキナさんのヒューマノイドの方が可愛かったな!

 いや? コイツオートマタにしては喋り過ぎだな……マキナさんと同じヒューマノイドと考えるべきか? てことは、ここでの出来事は全て筒抜けだな。 データも録られているだろう……。

 こんな事なら攻撃系のデジタルスクロールもマキナさんに用意して貰っておけば良かった!


ーーまったく、厄介な相手だーー



 それにしても……あの剣……そうか!!



 僕は身構えるのを辞めた。


 身体強化も双剣も解いた。



「ほう? ……まさか降参する気になったのかな?」


「………………」


「……違うか……惜しいなっ!」



 ザシュッ!


 アンノウンの放った突きが僕の腹部に突き刺さり、そのまま突き刺さった剣を、もう片方の腕で一気に切り上げた!


 ……かに見えたが、アンノウンの振り上げた剣はブレード部分は無い。


 ナハトの腹部に刺さったブレード部分が消化されて行く。

 はたから見ると手品でも見ている様な光景だ。


 僕はそのまま奴の剣を解析する。 

 【斬鐵剣】あらゆる金属をも切断する事が出来る。 帝都の技術怖いな……。



「いよいよ人間離れしておるな! 最早、化け物じみておるわ! これは何としてもサンプルを入手しなくては! さあ、降参するがいい!」


「……………」


「話さぬか……。 良いだろう。 さあ! そろそろ覚悟を決めろ! ■■■■■■■■!」


「クッ!」



 僕は全身石化した。 身体は動かない。 しかし、これも作戦のうちなのだが。


  これで油断してくれたら良いがな……。


 アンノウンが恐る恐る僕に近付いて来る。


 ゆっくり。


 確かめるように。


 剣のグリップで小突いてくる。



「……ふむ、よしよし」 



 刹那、僕は貼り付けていた身体のスクロールに魔力を流し、全身にかけられた石化の解除を行うと、アンノウンの眉間に手のひらを当てた。



「くっ! 何のつもリッ!?」



 ビキキッ!



 直ぐ様、僕は手を離してアンノウンから距離をとった。


 アンノウンは膝から崩れ落ちる様に倒れ込んだ。


 僕は奴の眉間に当てた手から【斬鐵剣】を放出して、奴の脳髄に埋め込まれた魔石を砕いたのだ!


ーー確かな手応え!ーー


 少し様子を見るが起き上がる気配はない。 ……ヤッたか?



 ………………。



 審判がアンノウンに駆け寄るり、身体を触って確認し始めた。

 


「勝者、ナハト!」



 ドッゴオオオオオオワアアアアアア!!


 まさに割れんばかりの歓声と怒号、そして言葉にならない叫び声が入り混じって競技場コロッセオを揺らす。



「ふうぅ……」



 僕は心底からのため息をついた。


ーーえらく疲れたーー


 しかし、これで帝都の目に晒されたと考えるべきだろうな……。

 まあ、表立ってアハトを回収しに来た訳では無いところを見ると、帝都教会向こうさんも後ろめたい所があるのだろう。


 しかしまあ、やっとアハトさんに会えると言うものだ。

 上手く立ち回れるだろうか?


 まあ、成るようにしか成らんか……。




「ナハトさん! 今回はちゃんとナハトさんに全ベットしたっすから大勝ちっす! 正直ハラハラして生きた気がしなかったっす! 最後は本当に死んだと思いましたからね? 負けたーーって、思っちゃいましたよ!?」


「……本当にもう帰ってくれ」


「そんなまたあ! つれないこと言わないでくださいよぉ!」


「いや、今回は冗談で言ってない」


「え? マジで怒ってるんですかい?」


「……マジで怒ってなきゃ帰らないなら、……怒るぞ?」


「………………本気マジっすね……分かったでさぁ。 次の賭……」


「いいから帰れ!」


「は、はいぃ!!」



 ……これ以上は危険だ。


 後は僕がアハトさんを連れ出せたら、それで終わる。

 ハイモスさんには悪いが、足手まといにしかならないからな……。



◆◆◆



 結局女の子が勝ち残ったと聞いた。


 私のささやかな願いも消えて無くなってしまった。


 あの声の人は負けたのだろうか。


 そして死んでしまったのだろうか。



「もう……会ってはもらえないんですね……。

 もう……声も聞かせてくれないのですね……」



 生きる希望も、死ねる機会も無くなってしまった。


 このまま地獄を逝かねばならない……逝き地獄。


 あの人に殺して貰えたならば、どんなにか幸せだっだろうに。


 あの人の声をもう一度聴けたなら、どんなにか幸せだっだろうに。


 この世の神様は……人間に負けてしまわれたのだろうか。


 もう何かを望んでも、叶えてはくださらないのだろうか。



 せめて次の試合で、この心の中に禍々まがまがしくうごめを晴らしましょう。



 せめて、残った少女が私を殺せる存在ならば、どんにか嬉しいか知れない。



ーー少女の心は壊れかけ寸前だったーー



 小さな窓の向こうには、クリムゾンレッドの月がニヤリと微笑んでいた。

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