第27話 アハト=アハト
ガイン!
ガッ!
ダンッ!
ズッシャーーーーー!
「こ、降参だ! 命だけはあアあぁアアああぁアあ! ぐびゅるっ!!」
「勝者! アハト=アハト!」
ゴワアアアアアアアア!!!!
大爆音の様な歓声と怒号がコロッセオの空気を震わせる。
突如現れた如何にもか弱そうな少女が、すでに三人抜きしているのだ。
しかも、どの試合も一分以内と言う、脅威のスピードでだ。
「フェッフェッフェッ! いやあ、愉快、愉快! アハト=アハト、もとい88番よ、勝つのは良い。 勝つのは良いが、もう少し時間をかけろ! 良いな?」
「はい、マスター」
「分かったらすっこんでろ! 血生臭いだろう!」
「はい、マスター」
「うえぇ! 臭い臭い! 早く行け!」
「はい、マスター」
バチンッ!
「臭いから口も開くな!」
「………………」
「これだかはガキは嫌なんだ、汚くて穴も使えねえ。 役目が終わったら趣味の悪い奴らに払い下げてやる! せいぜい奉仕して可愛がって貰え!」
「………………」
バチン!
「クソッ! 手まで穢れたではないか!」
ガン!
マルクスは当たるモノが無いので、壁を蹴飛ばした。 が、足の方が痛かったみたいで立ち止まったままだ。
「クソがっ!」
地団駄を踏んで出て行った。
「ダレか……わたしをコロシテ……」
◆◆◆
リビングに皆が集まってソワソワしている。
と言うのは、カレーの作る匂いがとても香ばしく、皆を引き寄せたらしい。
まだ仕上げに時間がかかると言うのに、皆せっかちだな。
「まだか!? クロ! オレサマはもう我慢ならん! それでいいからもう食わせろ!」
「ボクもボクも!!」
「フェルもマキナさんも美味しいカレーを食べたいなら待っていてください。 それとも要らないんですか?」
「「そんなことは言ってない!!」」
「じゃあ、黙ってジッと待っていてください。 あと小一時間はかかりますからね?」
「「なんだと!?」」
「くう……クロ、お前はなんて罪深いモノを作ってしまったのだ! ボクはもう狂ってしまいそうだぞ!?」
「まあ、マッドサイエンティストって呼ばれてますからね?」
「せめて猫になって体臭を嗅がせてもらえんだろうか!? 気を紛らしたいのだ!」
「ぜったいに嫌です! 変態め……」
「クロ……旨すぎるぞ、コレ? ヤベェ!!」
「あ! フェル、駄目だって言ってるじゃないか!?」
「ちゃんとスプーンを使っているから安心しろ!」
「そんな事を言ってるんじゃない! 仕上げの香辛料を入れてから少し冷まさないと味が馴染まないんだよ! だからもう少し待てって!」
「くっ……早くも禁断症状が……!!」
「モモ! フェルを抑えろ!!」
「イエッサー!」
「よし! モモ隊員にはカレー大盛りを進呈しよう!」
「は! ショウセイはコウエイのイタリであります!」
まあ、単語の使い道は間違っているが、モモは本当に素直で聞き分けが良い。
ーー口にカレーが付いていなければ!ーー
「ああ、もう! 分かった、大量に作ったから先に少量ずつ盛ろう。 でも、ぜったいにもう少し待った方が美味しいんだからな!? 後になっての文句は受け付けんぞ!?」
「「「「「「「「やったーー!!」」」」」」」」
「どんだけ皆、心待ちにしてた!?」
仕方なく、人数分を盛り付けて行く……。
よそった皿から順番に各々がテーブルへ向かう。
待ちきれずに皆がテーブルに揃う前から食べ始めている。
順番に。
順番に。
順番に……。
…………………。
「おい! お代わりで並ぶな!」
「まだ大量にあるではないか!」
「そうだぞ、クロ。 ケチな人間はモモに嫌われるぞ?」
「モモハケチナ人間ハ嫌イ」
「モモを使って腹話術とか、卑怯だぞフェル?」
「何故バレた!?」
「下手くそだからだよ!」
まあ、皆美味しそうに食べてくれるから、作った甲斐もあるってもんだが。
巨大な寸胴で作った筈のカレーが、物凄い勢いで減っている。
大量に作り置きして、冷凍でもして置くか……。
材料を大量に購入しておいて良かった。 コンソメもたくさん作っておかないとな。 出来れば粉末スープも作っておきたい。
さて、本題の話を進めないとだが……。
「マキナさん」
「なんだね、弟よもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ、んぐ!」
「……食べ終わってからにしましょうか」
「はぐはぐはぐはぐ、もぐもぐもぐもぐもぐもぐ、ごきゅん。 ボクはかまわんぞ? はぐはぐはぐはぐ、もぐもぐもぐもぐ……ぐもも? ごふっ! げほげほ! ふう……」
「いや、いいです」
ずっと食べ続けてるけど、いったいぜんたいあの小さな身体の何処に入るんだ?
「クロやはり変態だな? そんなにマキナのロリボディが好きなのか?」
「クロはろりぼでぃ?が好きなの?」
「違う!! 違うから!!」
「おや? ボクはそうなんだと思っておったが、違ったのか? もきゅもきゅもきゅもきゅ……」
「断じて違います!!」
「では、この豊満なバディがお好みなのですね?」
「え、ラケシスさんまで!? それも違いますからね!?」
「つまり、どちらかがウソと言う事になるな? もきゅきゅ?」
「どうなんだ? クロ、白状してみろ? オレサマはお前の味方だぞ!」
「ぐぬぬ……もう、知らん!! 知らん、知らん、知らん!!」
「まさか、男?」
「ハイモスさん、貞操が危ないですよわよ!?」
「「え!?」」
「それだけは、絶対にありません!! それから今、ルカさん反応しましたよね?」
「え、え? え? え〜!? 私何か言いました?」
「いや、ハイモスさんの貞操の話の時。『えっ!?』って」
「いや、だってハイモスさんは結婚して息子さんだっていらっしゃるじゃないですか!?」
「あらあら、えらくお詳しいですわね?」
「ラケシスさん!? い、いや、だって世間話でそれくらいはするでしょ?」
「ハイモスさんは離婚してバツイチなんですって……ボソッ」
「ええええええ!? そ、そうなんですか? ハイモスさん?」
「あ、いえまあ、そうですけど?」
ルカさんとハイモスさんが少し赤ら顔だ……これはどちらも脈アリだな。
しかし、この空間、カオス過ぎるんだが?
「マキナさん、食べ終えましたね?」
「げふっ! おや、失礼。 さあ、どうぞ。 ぐぷ!」
「……吐かないでくださいね?」
「う、うむ。 むぐ!」
「……
「ああ、コロッセオじゃな?」
「コロッセオ?」
「うむ、週末はあそこで闘技大会が行われておるのだ。 まあ、闘技大会という名の賭博だな」
「闘技大会、賭博ですか……先日、西街に買出しに行った際にカメオを使ったらコロッセオ?の方を指し示しまして」
「ほう。 では、行くのであるな? ちょいと、いや、かなり危険な場所だぞ?」
「まあ、聞くからにそう、ですよねぇ……?」
「うむ、闘技大会とは決闘ではない、死闘なのだ。 どちらかが死ぬまで闘う、それが大原則のルールなのだよ。 それをわざわざ観に来る狂人どもと、ソレを餌に大きな金が動いていて、一攫千金を狙う狂人どもが有象無象におるのだ」
「それは……本当に、危険ですね……いやまあ、出場する訳じゃないけど、賭けもしないのに入場するのは難しそうですね……。
それに今回はモモはお留守番だ。 こないだも囲まれたし、狙われやすいからな……」
「え〜〜!?」
「頼むから、今回は我慢してくれ」
「分かった。 クロ……ムリしちゃダメだからね?」
「クロ、オレサマはモモと居るからな、宛にすんな?」
「うん。 今回は僕だけでい…」
「クロどの!」
「あ、はい、ハイモスさん?」
「俺も、俺も行きます!」
「そう言ってもらえると心強いですけど、ハイモスさんだってきっと手配中ですよ? とても危険です」
「そんなのはもとより承知です。 俺は恩あるクロどののお役に立ちたいと思っていますし、何より翼人族の開放の一助にでもなるのなら、この
「クロさん、私も同じ気持ちです! 私は女なんで、足手まといになるだけですが、気持ちはハイモスさんと同じです! どうか、ハイモスさんの同行を認めてあげてください!」
「……『
「分かりました。 約束しましょう!」
「フェル、契約魔法を!」
「い!? 契約魔法!?」
「そうです。 約束は必ず守ってもらいます! フェルお願い」
「任せとけ!」
ああ、懐かしな、フェルと契約魔法を交わした時の事を思い出す。 キラキラとした光が僕とハイモスさんを繋ぎ、そしてサラサラと消えてゆく。 契約成立。
「契約成立ですね。 ハイモスさん、宜しくお願いします!」
「ああ、精々足手まといにならないように立ち回らせてもらおう。 生命の無駄遣いはしないと言ったが、いざと言う時には肉壁にでもトカゲの尻尾切りにでもしてくれて構わねぇ。 そん時ぁ、躊躇しないでくれ」
「……お気持ちだけ受け取っておきますね。 ありがとうございます!」
辞めてくれ。 あまり僕に近付かないで欲しい。 僕の呪いを発動させたくないんだ……頼むから、近付かないでくれ。
フラグにしか聞こえないハイモスさんの言葉は普通に僕の心を暖めてくれた。 だからこそ、失いたくはないんだ。
「一応調べてみたが、試合は今日、既に始まっておるのぉ。
メインの試合は夜中だから、まだ全然大丈夫だろう。
賭けに参加するには、アプリを予めインストールしておく必要があるな。
闘技大会に飛び入り参加も可能だが、それは会場での受付が必要だ。 オマケに、今日は注目の試合があるそうだぞ?」
「マキナさん、ありがとうございます! とりあえず会場に行って探りを入れて来ます」
「うむ、気をつけるのだぞ? キミが居なくなる事は、もはや世界遺産を失うようなモノだ。 必ずや生還して、カレーを作るのだ!」
「結局カレーですか!?」
「キミにカレーと体臭とモフモフ以外に何の価値があると言うのだ?」
「逆にそれしかないんですか!?」
「主にカレーが98%を占めておるからのぉ……残り2%は体臭とモフモフであろう?」
「はいはい、それで良いですよ」
まあ、それくらいの価値の方が良い。 僕ではなく、カレーに依存してくれるなら、それで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます