第25話 ミドガルズエンド
ミッドガルド帝国の東。 最果ての不毛なる土地に、ミドガルズエンドと呼ばれる街がある。
ミドガルズエンドは帝国に
帝国で出た廃棄物の投棄場所であり、無法者の行き着く場所であり、夜の歓楽街や裏組織の
投棄場所の近くにはスラム街もあり、今では国際的に禁止されている奴隷商なんかも未だにいるのだとか。
帝国領に在りながら、帝国の統治を受けない治外法権を黙認された、地図上にも載せられていない街が【ミドガルズエンド】その街である。
マキナさんにそんなミドガルズエンドの話を聞きながら、僕は注文のカレーを作れるのか簡易厨房の材料を物色していた。
ここにあるだけのスパイスでは作れそうにないな……どこかで仕入れないと駄目だ。 ミドガルズエンド?にあると良いが……。
マキナさんに残念なお知らせをしながら、僕はこれからどうするかを考えていた。 カレーの話ではなく、カメオの導く先に何があって、どうしろと言っているのかをだ!
マキナさんが泣きそうな顔をしていても関係ないだろう?
あ、……泣いた。
だって、作れないモノは仕方ないじゃないか。
今度、スパイスを調合したらカレー味のスナックでも作ってやるか……。
それにしても……。
ーー行きたくない!ーー
だって、暗黒街だとか、歓楽街だとか、スラム街だとか、物騒だし、僕には一生無縁だと思っていたからね?
「心配せんでも、闇ギルドの支部はミドガルズエンドにもあるぞ?
そして、ボクの工房だってある!
何を隠そう、このスパイダー・キャブこと【バブルス君】はこのミドガルズエンドの産廃で造ったのだからな! わはははははは!」
「姉さん、立ち直り……早いっすね?」
「クヨクヨしていてもカレーは食えんからな!」
「それにしても工房ですか? では、とりあえずソコに向かっても構いませんか?
カメオの光を追うには、行き先がスラム街になりそうなので……さすがにバブルス君では行けないでしょう」
「分かった。 とりあえず工房に向かうぞ!」
帝国の最果て。 不毛なる土地のカオスワールド、それがミドガルズエンド。 無秩序にして、最も自由な街である。
ミドガルズエンドの
ゴミ捨て場の他には奴隷商のオークションハウスと闘技場がある。
マキナの工房はウエストサイドのジャンクストリートの外れにあった。
ミドガルズエンドに外壁はない。 掃き溜めの様な街に、防壁など必要ないと言う。 街を壊されたとて掃き溜めなので、痛くも痒くもないのだと言うのだ。
酷い話だが、誰も統治していない街に住むと言うリスクなので、仕方ないのかも知れない。
「さあ皆、潜るからどこかに掴まっておくように!」
「え? え? 掴まる? 潜る?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴガガガ……。
物凄い轟音と共に振動と揺れに襲われて、マキナさんの忠告通り、どこかに掴まっていないと立っていられないほどだ。
ドドドドドド……ダン!
音と振動がおさまると、胴体の下にあるハッチが開いてスロープが出来た。
「ボクの工房【ブラックボックス】へようこそ! 諸君を歓迎しよう!」
バブルス君から降りた先に広がる巨大なガレージ……と言うよりガレオン船でも造れそうなドッグであった。
実際に巨大な何かを建造している最中の様だ。
全体的にインダストリアルでスチームパンク様の、ゴチャゴチャとした機械的な内装だ。
ジャンクストリートはドワーフ族や巨人族など、手先が器用な種族が多く住んでいる為、マキナさんの工房も巨人族が行き来出来る仕様になっているらしい。
鉄の削れる匂い、油の匂い、そんなメカオタクの匂いがプンプンと……
しない!
全然しない!
むしろいい香り!
すっごいフローラル!
「何だ、弟よ? 何か言いた気な顔をしておるが?」
「物凄く工業的なのに、油の匂いとか全然しないから、そのギャップに圧倒されています……」
「失礼であるな、弟よ! ボクはこれでも年頃の女のコだぞ!?
それに機械は好きだが、それ以上に【可愛い】は大好物なのだ!」
「へえ、意外です」
「キミと言うヤツは、本当に失敬だな!!」
「確かに姉さんは外見は可愛いし、服のチョイスやこのバブルス君のデザインも可愛いですよ?」
「な、ななな、何だ! 解っておれば良いのだ、解っておれば! ぐうぇへへへへ♪」
「ほらっ!? それです! 素行が可愛くないんですよ!?」
「なん……ですと!?」
「「あのぉ」」
何だかかしこまって、ハイモスさんとルカさんがモノ言いた気に声をかけてきた。
「は、はい?」
「何か色々とご助力いただいて、ありがとうございました!!」
「あ、そんなの気にしないでください! こっちの成り行きなもんですから!」
「そんな事言っても、めちゃくちゃ恩義を感じちゃってます!
帝都教会の危険から、私たちを守ってくださいましたし、こうしてアスガルドを出られたのもクロさんたちのおかげです。
何かお返し出来たらとか思うのですが、お役に立てる様な事はございませんか?」
「自分はナケナシの
「あの……本当に気にしないでいただきたい。 僕はフリーが好きなんです。 馴れ合うのは得意ではないし、人の
どうぞ僕の事は構わず、好きになさってください!」
「「しかし……」」
二人は申し訳無さそうな顔をしているが、僕は人と馴れ合う気はさらさらない。
成り行き上、マキナさんには手伝ってもらっているが、対価は払っている。
あ、そうだ、カレー作らなきゃ!
……買い物が必要だが……この
「あの、マキナ姉さん?」
「あらたまってなんだ、弟よ?」
「男性用の服って……持ってませんよね? 荷物をアスガルドへ置いて来ちゃいまして……」
「あるにはあるが、じいちゃんのだからキミには小さすぎるだろう? ドワーフは人間の子供サイズだからな!」
「モモが買って来るよ!」
「「駄目だ!!」」
「ひあ!? 二人して……なんで?」
「危なっかしくて任せられないよ……」
「なら、私が。 ハイモスさんや神子さんは目立つだろうし、マキナさんは貴女方の相手をしないといけないでしょうから」
ルカさんが、トンと胸を叩いて前に出た。 ハイモスさんは相変わらず申し訳無さそうだな……。
頼むしかないだろうか、ハイモスさんの服だって必要だろうし……。
「キミたちは阿呆なのか?」
「阿呆ではありませんが、姉さんに何か考えがあるのですか?」
「何の為の通販だ? お急ぎ便てのがあるだろう? 原始人でもあるまいに。
注文してやるから、ハイモス殿のサイズを教えてくれ。
クロのサイズはボクの脳にすでにインプットされておるから、言わなくても大丈夫だ」
「変態め」
「遺憾であるな。 弟思いの良い姉さんだと言って欲しいが?」
「俺は巨人企画のメンズ3Lでお願いします。 巨人企画はどれも高いので、安物で構いません!」
「そんな事は気にするでない。 適当に選んで注文しておくぞ」
「「はい、なんかすんません」」
「あのう……」
モイラ姉妹がチラチラマキナさんに視線を送っている。
……そりゃ、神子さんたちだって要るよな。
「……そうであるな。 神子さんたちのも注文しておくから安心したまえ。 そんなヒラヒラした服装では目だって仕方ないし、動き難そうだからな」
「「「ありがとうございます!」」」
この異世界でも通信販売は普及していて、配達もめちゃくちゃ早いらしい。
宅配プラットホームも各所にあり、置き配システムも普及している。
実際にマキナさんに淹れてもらったお茶を飲んでいる間、小一時間の内に届いたのだ。
リンゴーン♪
置き配ボックスにモノが入るとチャイムで知らせてくれるらしい。 まあ、このシステムはマキナ宅だけみたいだが。
「さあ、着替えてクロは買い出しだな! 期待しておるぞ!」
「任せてください! 姉さん、隣の部屋を借りますね」
「俺も」
「ああ、盗撮などせんから、コチラは心配せずとも行って来い」
「余計に心配になるわ!」
「マキナさん、後で私たちにも……」
……男日照りが続いた女性の成れの果てか? この異世界は変態が多すぎやせんか?
「何か良からぬ事を考えましたね?」
「ラケシスさん、変な所で鋭いですね……」
「女の勘ですわ」
……女の勘怖い。
とにかく各々服を着替えにリビングを出た。
ジーパンとシャツとスニーカー……意外と服のチョイスは無難なセンスで良かった。 【愛LOVEマキナ】のロゴが入ったTシャツは見なかった事にしよう。
着替えた者からリビングに戻って談話が再開される。
僕は買出しがあるので、自分のデバイスをマキナさんから受け取っていた。
「クロ!?」
「どうかしたか? モモ」
「モモも一緒に行ったら……だめ?」
首を傾げて真っ直ぐな瞳で少し不安そうに見つめられる……。
……正直なところ駄目だと言いたい。 言いたい。
が。
「……いいよ。 その代わり僕から離れないでくれよ?」
「うん♪ ねっちゃりくっついてる!」
ーーねっちゃりってなんだ!?ーー
まあ、僕が抗える訳もなく、一緒に行くことになるのだが……。
「……ダメですよ?」
「「「え? どうしてなのです?」」」
「モイラ姉妹は無駄に目立つし、何かあっても守りきれる自信がありませんから! お願いですから、大人しくしておいてください!」
「そんなぁ……楽しみにしていたのにぃ……」
首を傾げて真っ直ぐな瞳で少し不安そうに見つめられる……。✕3
「駄目!」
「ええ〜〜!! 何だかモモちゃんと待遇が違いませんこと?」
「いや、貴女方は不死身でもないでしょう? それとも翼人族は皆不死身なんですか?」
「ち、違いますけど、それが何か?」
「不死身になってから言ってください!」
「「「無理ですわ!」」」
「じゃ、行ってきます!」
「行ってきま〜す♪」
「「「ああぁ……」」」
非常に残念そうだけど、街自体も治安が悪そうだし、普通に事件に巻き込まれてかねないから仕方ない。
ハイモスさんやルカさんに留守中の神子さんの相手を頼んで、僕たちは
まあ、買い物と言っても、香辛料といくつか食材を買い込むだけなのだが。
カノンで作ったカレーのレシピがデバイスに記録してある。 これをマキナにも送った筈なのだが、本人はレシピ通りに作っても味が違うと言うのだ。
今回はレシピが間違っているのかの確認する為にも、再度作ってみる必要がある。
そんな訳で西街をモモと歩いている訳なのだが……。
「ねえねえ、クロ〜〜?」
……もう。
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