第24話 スパイダー・キャブ
それは巨大な蜘蛛を模した乗り物、【スパイダー・キャブ】だった。
コクピットのある頭部の上部にあるハッチからマキナさんが大きく身を乗り出して手を振っている。
「おーーーーい! こっちだ、こっちだーー!! 今下に降りるから離れといてくれーー!!」
八本の脚部が折り畳まれて、胴体部が下降してくる。
ーーそれにしても……デカいなーー
まあ、僕が巨人も運べる乗り物とは言ったけど、まさにファンタジーだな。 大型のトラックを予想していたのだが、こんな乗り物が街道走るのか?
いや、街道を行く必要ないのか、帝都の検問とかありそうだもんな……。
「わはははははは! やりきったな、弟よ! 姉さんは鼻が高いぞ!」
「何のことです?」
「神子たちの亡命ではないか! それに解放派の英雄ハイモスどのや潜入部隊のルカどのまで居るではないか! わはははははは!」
「え!? やっぱりルカさんは解放派だったんですか!?」
「何を今更? 【モカ・マタリ】のファンクラブは解放派の隠れ
「なんだって!?」
「何だ弟よ、知ってて立ち回っていたのではないのか!?」
「はあ、まあ……全部流れですが?」
「流れじゃと!? わはははははは! キミは本当に愉快だのお!」
「それにしてもマキナ姉さん……何だか雰囲気が違いますね?」
「ぬ? 弟よ、キミはなかなか
ロリボディだと? そう言えば、確かに以前マキナさんの膝に乗った時はふくよかなボディラインで緊張した記憶がある。 いったいどう言う事はなんだ?
「弟よ、コクピットを見給え!」
っ!?
コクピットの操縦席に、マキナさんがもう一人居る!? いや、あのボディラインこそ、以前の……いや、どう言うこと?
「あれはボクに似せて造ったヒューマノイドだ! ドワーフ族は基本的に身体の作りがおぼこいのだ!
なので、男性は髭を蓄えて誤魔化し、女性はボディメイクに力を入れて誤魔化す風習がある。
昨今はそんな風習も
「僕はロリコンではありませんが、胸は有っても無くても構いませんよ? そう言えば、以前、触診だとか言って僕の身体をモフモフしたり、匂い嗅いだりしてましたよね?」
「ふむ、あのヒューマノイドは【マッキーナ】ちゃんと言うのだが、ボクのヘッドセットを通してボクの脳とリンクしておるのだ。
クロの触り心地と香りは極上なのだぞ?」
「やっぱり変態じゃないですか!」
「何度も言うが、そんなに褒めても何も出やせんぞ?」
「褒めてませんからね!?」
「弟よ、そんな事はどうでも良いじゃろう? 早う乗らんか!」
「「「「「おじゃましま~す!」」」」」
ぬぬぬぬ……色々と不本意だが、今回もまた、助けて貰っている以上、文句も言えないな。
「わあ! けっこう中広ぉ〜い!」
「まったく同感です。 この巨体でも狭く感じません」
「設備もあれこれ揃っていて快適そうだわね」
「あ! クロートーお姉様、こっちにシャワーもありますわよ!」
「ええ!? 本当ですの!?」
皆、これから逃亡生活が始まると言うのに、何だか楽しそうだな……。
しかし、実際問題、これからどれくらいの日々を旅しなくてはならないのかも分からないので、非常に助かる事には違いない。
本当に、マキナさんには頭が上がらないな……。
「弟よ!!」
「何ですか姉さん?」
「キミに今度こそ言わねばならない事があるのだが?」
「ですから、いったい何ですか姉さん?」
「キミの作ったカレーは、暴力的な旨さがあってだな!? もはや禁断症状が出ておるのだ!! いったいどうしてくれる!?」
「どうもこうも……寸胴いっぱいに作ったから、二、三日は食べたのでは?」
「何を言う!? あんなモノが三日ももつと思っておるのか!? その日の夜には無くなっておったわ!!」
「いや、食べ過ぎでしょう!?」
「あんな旨いモノを作ったキミの責任ではないか!! 一体全体どうしてくれる!?」
「そんなのは言い掛かりと言うものでしょう?」
「ぐぬぬ……よもや、もう作ってくれぬと申すのか……?」
「……そんな事は言ってませんが……」
「いったいいくら出せば作ってくれるのだ!? ボクはあの寸胴に五本は出せる覚悟があるぞ!!」
「五百万プス!? いやいやいやいや、そんなにぼったくるつもりはありませんからね!?」
「では、何か? まさかこのロリボディが目的なのか!? ボクは全然かまわんが!? 毎日カレーを作ってくれるなら結婚だってしてもかまわんが!?」
「ちょちょちょ! ね、姉さん!! 不謹慎な事言わないでください!! 何が姉さんをそんなに狂わせたんですか!?」
「キミではないかーー!!」
「ああ!? もうっ! 抱きつかないでください!!」
マキナさんが、僕(黒猫)を抱え上げて抱きしめてくる。 何が彼女をこんなにしてしまったのか……彼女のヨダレで僕の身体はベタベタだ……。
ーー仕方ないかーー
「分かりましたよ、姉さん。 また作って差し上げますから、鼻水まで擦り付けるの
「ずびび! 本当に本当に本当の本当なのか?」
「本当です。 マキナ姉さんにはお世話になりっぱなしですから。 心ばかりのお礼です」
「キミと言うヤツは! ボクは今日ほど生きていて良かったと思えた日はないぞ! 結婚したくなったら
「遠慮しておきます!」
「ひどい!?」
マキナさんも冗談が過ぎる。 こんなミジンコみたいな男を捕まえて、結婚もクソもないだろう。
マキナさんは変態の部分を目を瞑れば、見た目はとても可愛いのだ。 刺さるところには刺さると言うものだろう。
モモだって大きくなったら、きっと美人で引く手数多だろう。 僕なんかお呼びでない筈だ。
ーー僕は結婚なんて夢は観ないーー
「おい! クロや! この乗り物はいったい何処に向かっておるのだ?」
「えっと、マキナさん?」
「ぬ? とにかく神殿から距離をとっておるだけだが?」
「それはーーっ!?」
ドーーーーン!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「凄い音!! 今のは?」
「ふむ、帝国軍のミサイルか何かじゃろうて?」
「えっっ!?」
窓の外。 さっきまで居たであろう神殿の方角に、物凄い土煙があがっている。
もたもたしていると巻き込まれていたかも知れないと思うと、ゾッとするな……。
しかし、これでアスガルドへの裏ルートは塞がれた訳か……厳しいな。
「アスガルドのビフレスト神殿を使って逃げたのであるから、当たり前であろう? もう神殿には戻れぬぞ?」
「そんな……」
「このスパイダーキャブには認識阻害の魔法石を埋め込んでおるが、レーダーに引っかからないだけで、肉眼じゃと意味はないからな。
神殿付近のカメラは全て使い物にならなくしたので、こちらの姿は映ってはおらぬとは思うが……」
「まあ、怖いわぁ。 うふふ♪」
「全然怖がってる様には見えませんが? ラケシスさん? ドサクサに紛れて僕の身体をベタベタ触らないでください!」
「だって、怖いんだもの?」
「ビフレストが使えなくなったのに全然動じませんね?」
「まあ、神殿が決まった入口と言う訳ではないですもの?」
「そうなんですか?」
「だって、入口は私たちが開いたじゃない?」
「そう言えばそうですね……じゃあ、神殿まで行かなくても良かったのでは?」
「私たちが居なくても通れるのが神殿なのよ? 糸さえあればいつでもね?」
「では、翼人族の皆さんはどうして逃げなかったのですか?」
「アスガルドを捨てて何処に行くと言うのです? 翼人族の居場所はアスガルドだけなのですよ?」
「では、どうして貴方がたはアスガルドを出たのです?」
「アスガルドを、ひいては翼人族を救うため、少しの間祖国を離れるだけでございますわ」
「アスガルドを……救うため……?」
「ええ、帝国をギャフンと言わせますのよ!? あの伸びきった鼻を圧し折ってさしあげますの!!」
「神子さん!?」
「はい、私が神子のラケシスです」
「私が神子のクロートーです」
「そして、私が神子のアトロポスですわ!!」
「そのくだり……どうしても必要なんですか?」
「だって、三つ子だと見分けがつかないでしょう?」
「まあ、確かに顔は似ていますが、髪型が違うではありませんか!?」
「そう! シャギーのラケシス!」
「ゆるふわロングのクロートー!」
「そして! ショートボブのアトロポス! ですわ!」
「……自分の名前、言いたいだけでしょう?」
「そ、そそそっ、そんな事はございませんことよ!!」
「こんな茶番は置いといて、」
「置いとかれたっ! クハっ!!」
「置いといて、これからどこに向かえば良いのでしょう?」
「ハア、ハア、ハア……私たちを
「別に
「……良いでしょう。 貴方にカメオのお話はしましたわよね?」
「はい。 あ、そう言う事ですか!?」
「本当に
「たしか、カメオに願えば導いてくれるとか……」
僕はカメオをグッと握りしめて、力強く念じて言葉にする。
「カメオよ! 迷いし僕らの行くべき道標を示し給え!」
「……別にそんな恥ずかしい
「アトロポスさん!? 雰囲気出してるんですから、そんな事言われると余計に恥ずかしいじゃないですか!?」
「……まあ、
「くっ……」
「ほらほら、カメオから一筋の光が伸びているでしょう? その先には……」
「えっと……この光の先には何があるんですか?」
「その先には……何がございますの? ラケシスさん?」
「何がございますの? アトロポス?」
「何がございますのですか? クロートー姉様?」
「さあ、答えなさい! クロ!?」
「えっ!? なんで一周まわって戻って来るんですか!?」
「……キミたちは阿呆なのか? 阿呆の人なのか?」
「僕は地理に詳しくないだけで、阿呆ではありませんよ?」
「まあ良い、その光が指し示す方角には……【ミドガルズエンド】があるのだ!」
「ミドガルズエンド……ですか?」
見渡す限り広がる荒野の向こうに、マキナさんの言う巨大都市【ミドガルズエンド】が見えて来た。
辺りは薄暗くなってきていたが、ミドガルズエンドに近づくにつれて
ミドガルズエンドって……名前から推測するに、帝国領……だよな?
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