第22話 『ハイモス』
……モモがガチガチに緊張している……大丈夫だろうか?
今、僕たちは一時帰宅の申請の為に、神殿長の部屋に来ている。
「そう……ですか、ホームシックですか……我慢して務める事は出来ないのですね?」
「は、ははは、はい! すみません!」
「神殿内で話してはイケないとは分かっていたのですが、モモが我慢出来なかったらしく、せっかく期待されていたのに、お応え出来なくて申し訳ありません」
「いえいえ、また落ち着いたらまた戻って来て欲しいので、お待ちしておりますよ?」
「はい! ついまてん!」
「ははははは! まあ、一度帰ってゆっくりと過ごしてください。 そして十分に英気を養って下さいね!」
「お心遣い、ありがとうございます! また、戻って来た際は、宜しくお願い致します!」
「いたちまつ!」
「はいはい、これは預かっていた貴方がたのデバイスです。 確かにお返ししましたよ? そして、気をつけて帰るのですよ?」
「「はい!」」
ふう。 気の良い神殿長で助かったよ。 帝都教会の悪い部分が、珍しく見えない良い施設だった気がする。 まあ、拝殿には神子が石化されている訳だが。
神殿長室を出た僕らは、各々荷物を取りに戻って、神殿の入口で軽くお辞儀をしてイザヴェル平原へと歩き始めた。
ーーさてーー
「もしもし、マキナ姉さん?」
[おお!! クロか!? クロなのか!?]
「はい、クロですよ? マキナ姉さん」
[どうじゃ? 神子には会えたのか?]
「いえ、会えなかったんですがね……」
[なんですと!? せっかくアスガルドまで行ったのに残念だったな! ボクはキミの連絡を心待ちにしておったのだ! キミの置いて行ったカレーが]
「あの、マキナ姉さん? ちゃんと聞いてくださいね?」
[お? おう、なんだクロ?]
「神子さんとは会えなかったのですが、念話で連絡をとる事が出来ました」
[ほう、それは良かったではないか! でな、クロ? あのカレーが]
「まだ話終わってませんからね? 最後まで聞いてもらえます?」
[お? おう、早く話せ!]
……どんだけカレー?の話がしたいんだ!? 不味かったのか? まあ、旨かろうが、不味かろうが関係ない。作ってくれって言ったのはマキナさんだしね!?
「それで相談なんですが、石化を解除したいんですよ、マキナ姉さん」
[石化を解除とか何の話か分からんが、ゴルゴンしか出来んだろう?]
「マキナ姉さんまで神子さんたちと同じ事を言うんですね? マキナ姉さんはもっと考え方が柔軟な方だと思っていましたが……」
[なっ!? キミはボクを頭の硬い唐変木だと、そう言いたそうだなっ、おいっ!? ボクは心外だぞ!]
「先日マキナさんが教えてくれた【物質粒子超構成術】は、僕の身体をアダマンタイト合金と同じ硬度へ変化させる事が出来ますよね?」
[なっ!? キミは……なんて聡明なんだ! ボクは感動した! 確かにキミの言う通り、そのスキルなら石化も解除出来る可能性は高いだろう! 迂闊にもボクはキミの言う通り、唐変木だったと認めざるを得ないな!]
「僕はマキナさんが唐変木だなんて、微塵も思っていませんよ? いつも不可能を可能にしてくれる心強いお姉さんじゃないですか!」
[おい、弟よ! ボクはキミの姉さんになれた事をこんなに嬉しいと思った事はないぞ! 次に会ったら思いきり抱きしめてやるぞ!]
「やめてください!」
[恥ずかしがらずとも良い! ついでに匂いも嗅がせて貰おう!]
「やっぱり変態だ!」
[そう褒めるでないわ!]
「褒めてませんからっ!」
[つまりキミは、この天才サイエンティストのボクこと、マキナ=プロメットに【物質粒子超構成術】のデジタルスクロールをプログラムせよと、こう申すのであるな!?]
「さすが、超変態の姉さんは話が早いですね!」
[だから、そんなに褒めても何も出て来んぞ?]
「いえいえ、超変態で頼りになるマキナ姉さんなら分かっている筈です。 ボクが神子や巨人を石化から開放してアスガルドを出た際に必要になるモノを!」
[何ぃ!? 神子や巨人の開放だとっ!? ……いや、分かっておったぞ? 可愛い弟の考える事は何だって!!]
「さすが、超ド変態で常人ならざる奇人とも言える程に、頼りになるマキナ=プロメット!! もはや留まる事を知らない聡明さですね!? 【大賢者】の冠を名前の前に付けてても良いのでは?」
[わはははははは! そうであろう、そうであろう! ボクの脳はサウザンドコアプロセッサ搭載なのだ! わはははははは!]
チョロいな。
「マキナ姉さん、ア・イ・シ・テ・ル!」
[はうっ!]
これでデジタルスクロールのプログラムと脱出手段に活路は見出だせただろう。
それにしても……デジタルスクロールって考えてみたらヤバい代物だな?
ピロリン♪
十分ほど歩くとマキナさんから着信が入った。
〚ボクもア・イ・シ・テ・ル♡〛
変なメッセージ付きだった!
ーーちょっとやり過ぎたか!?ーー
ともかく、石化を解除する為の準備は整った。
そう言えば……ハイモスさんを拘束している鎖を断ち切らなければならないが……あれ?
イザヴェル平原:国立公園中央広場
デカいな……。
ゆっくりとアスガルド皇国を観光して、旧ビフレスト神殿を観たりしながら夕刻まで時間を潰した後、ハイモスさんが居る広場までやって来た。
さすがに、解放してすぐに暴れられると困るよね……。
ハイモスさんも念話が使えると良いのだけれど?
『ハイモスさん? 念話出来ますか〜?』
『は~い! モモは出来ますよ〜♪』
『オレサマも出来るぜ〜♪』
『……はいはい。 ……出来なさそうだな』
なら、とりあえずコレでどうだ?
デバイスからデジタルスクロールを出して魔力を捻出する。
スクロールに展開された魔法陣に魔力が満たされて、効果が発動!
僕はソレをハイモスさんの右手にのみ発動させた。
右手首から先の血色が少しずつ良くなって行く。
「ハイモスさん、聞こえますか? もし聞こえたら、右手の人差し指を少し動かしてください」
僕は周囲には聞こえない低度の小声で、ハイモスさんに話しかけた。
ビクッ!
おおう! ちょっと怖いな、コレ。 しかしまあ、成功だな。
「ハイモスさん、そのまま聞いて欲しい。 一応決まり事として、【はい】なら人差し指、【いいえ】なら中指を少し動かしてください」
人差し指が軽く動く。
「ありがとうございます。 先ず簡単に自己紹介ですが、僕はクロ、隣の子はモモです。
貴方の事はヴァルカンさんに聞いておりました。 ルカさんも貴方の事を心配しております。
僕は貴方の石化を解いて解放する事が出来ます。 しかし、解放してすぐに暴れられると困るので、暴れないと約束してくれますか?」
人差し指が動く。
「これから貴方を解放するに当たってお願いがあります。
僕は貴方の石化と貴方を拘束する鎖を解きます。 しかし、貴方はそのまましばらく石化されているフリをして動かないでいて欲しいのです」
人差し指が動く。
「そして時を見て動き出して欲しいのです。 しばらくするとウルザルブルン神殿で混乱が生じます。 それに乗じて、ハイモスさん、貴方は真っ直ぐに、旧ビフレスト神殿に向かって欲しいのです」
人差し指と中指が同時に動く。
「えっと、旧ビフレストの場所が分からない?」
中指が動く。
「あ! 旧ビフレストが動かないと思っている?」
人差し指が動く。
「それは心配しないで欲しい。 僕がモイラ三姉妹を解放します。 彼女たちなら、旧ビフレストの封印を解けると言っていました」
人差し指が動く。
「貴方は翼人族の亡命の手引きをして捕まったと伺っております。 この先逃亡生活になる覚悟はありますね?」
人差し指が動く。
「これで全ての質問は終了します。 これから石化を解きますので、しばらく我慢してくださいね!」
デジタルスクロールを彼の頭上に大きく展開させて、大量の魔力を流し込む!
両手両足、胴や首の枷にもスクロールを展開して魔力を流す。
以前の僕なら枯渇しそうな程の魔力量を要する魔法陣だ。
「じゃあハイモスさん、宜しくお願いします!」
「すまねぇ! 助かった!」
ハイモスさんはとても申し訳無さそうな面持ちで顔を歪ませた。 ヴァルカンさんと同じく、とても穏やかな気質を感じる。
きっと底抜けに優しい人なんだろう。 そうでもないと、帝国に楯突いてまでして、翼人族の亡命を手伝ったりしないだろう。 息子さんもきっと心配しているだろうに……。
アスガルド皇国は帝国の支配下なので、逆に警戒が緩いみたいだ。 シロの解放の時みたいに、警報が鳴って
まあ、気は抜けないけどね。
ーーさて、次が問題だなーー
『ラケシスさん、ハイモスさんは解放出来ましたよ!』
『なんと
『出鱈目も何も解放出来たのなら良いじゃないですか。 何か不満でもあるのですか?』
『え、いや、そのぉ……無い、ですわよ?』
『では、手筈通り次は貴女方を解放します。 先日お話した通り、僕は外から範囲魔法で石化を解除します。
透かさず、マンティコアになって壁を突き破るので、驚かないで下さい』
『普通……驚きますわよ? 色んな意味でね?』
『何の話ですか?』
『いいえ、こちらの話です。 お続けになってください?』
『では、続けますね。 お三方を解放したのち、背中に乗せて』
『ええええええええええ!?』
『……いったいどうしたと言うのですか?』
『いえ、その、マンティコアの背中に、ですわよね?』
『当たり前ですよね? 人間や鳥や猫じゃ運べませんよね?』
『そ、そそそ、そうですけど……』
『何か不都合でも?』
『少し……………………怖いな、なんて思いまして……とか言っている場合ではありませんわよね?……失礼致しましたわ』
『……分かりました。 何か捕まるモノを用意しておきます』
って……捕まるモノ? そんなモノどこに……あ!
後でハイモスさんにベルトを借りよう。
『とにかく、お三方を旧ビフレスト神殿へお連れしますので、封印を解いていただきたい』
『まあ、あれは封印ではないのですけれどね』
『え? では、封印されている訳ではないと?』
『ええ。 何もしていませんのよ? ビフレストは元来、精霊が通る道なのです。 人が通るなんて
『許可……ですか?』
『はい。 精霊の糸と呼ばれるモノをその者の運命に縫い付けさせていただきます。 コレによって精霊との契約が成立して、ビフレストを通る事を許されます。
仮にこの契約を
『こわっ!!』
『翼人族は生まれてすぐに皆、この糸を縫い付けるのです。 なので神殿を通ればアスガルドを
『翼人族の皆が着けているあの首輪は、やはりの帝都教会の仕業なのですね!?』
『そうです。 誇り高き我ら翼人族は帝都教会の犬と成り下がったのです。
『それこそ呪いじゃないですか!? 首輪は取れないんですか?』
『簡単に取れますよ? しかし取っているのを見つかると帝都教会に逆らったとして処罰されるのです』
『処罰、ですか?』
『はい。 処罰と言う名の処刑と言うか、聖絶と言う名の人体実験の材料にされるのですよ。 なので簡単に取れるのです。
首輪を取る事で重罪人とし、帝都教会は人体実験の実験体を、帝都教会の聖絶として合法的に手に入れるのです。』
『鬼畜の所業ですね』
『運命は貴方がたの味方です。 例え神が貴方がたを見棄てたとしても、私たちが貴方がたを導きます。
例え神が反対したとしても、私たちは帝都教会ひいては帝国を許しません。
必ず。
必ずや帝国に制裁を与えてやりますよ。 容赦無く。 完膚無きまでに! アポカリプスを!』
『そ、そうなんですね……。 と、とにかくビフレストの方はお任せしました』
ーーこの方たちは怒らせたらイケない方たちだ!ーー
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