第21話 カメオの力

 とにかく


 神子と連絡はとれたし、やるべき事も決まった。

 そうと決まれば、いつまでも神殿こんなところくすぶっている訳にはいかない。


ーー帰る言い訳用意しとくの忘れてた!ーー


 まあ、モモがホームシックにかかったとかで良いか?



『ねえ、クロ! 大変だよ!』


『ど、どうしたモモ!?』


『ルカさんてハイモスさんのお知り合いなんだって!』


『えっ!?』



 突然の念話で衝撃の情報……もうやめて! 人との繋がりが広がるのは嫌なんだ……モモが動けば人との繋がりが増える……きっとモモにとっては良い事なんだろう……しかし。


ーー人間、運命、神……どれも面倒くせぇ!ーー



『ルカさんも翼人族の亡命に手を貸していたとかか?』


『それは知らない。 ハイモスさんとはインターネットのコミュニティサイトで知り合ったんだって!』


『現代的だな。 交流サイトねぇ……』



 ……出会系ではないだろうし、やはり翼人族開放運動とか、そっち系で考える方がしっくりと来るよな……。 モモにはこれ以上踏み込まないで欲しいけど……。



『クロ!? 凄いよ!?』


『どうした? モモ?』


ーー嫌な予感しかしない!ーー


『ルカさんとハイモスさんは【モカマタリ】さんのファンなんだって! そのファンの情報共有の為のコミュニティサイトで知り合ったんだって!』


ーーなんか想像の斜め上だった!?ーー


 なんで皆繋がってんだ!? 世間てそんなに狭いのか!?



『それでね? クロはマタリさんの師匠なんだって話したら、ルカさん凄く興奮しちゃって、いつか会わせて欲しいって頼まれちゃった! ねえ、会ってくれるよね?』



 おーーい! モモさーーん!?

 ほんと、勘弁してほしい。 モモは残念がるだろうけど、ここはキッパリト断っておくべきだろう。



『まあ、もうOKしちゃったんだけどね? だって、クロだったらOKしてくれると思ったから』



 事後報告だった!! どうする? どうしたら最適解?



『それでね、これからが本題なんだけどね?』



ーーまだ本題に入ってなかったのか〜いっ!?ーー



『ハイモスさんの石化って神子さんに聞いたら、解き方分かるかな?』


『神子と連絡とった事、話したのか?』


『ううん。 ルカさんは神子さんにそれを聞きたくて神官見習いに志願したんだって。 モモたちと似てるよね?って話をしてたんだよ?』


『そ、そう……ちょっと聞いて……みるよ……待ってて。 あ、神子と連絡取れるのは内緒だからね?』


『は〜い♪』



 さて、ややこしくなってきたぞ……まあ、これでこのカメオで念話が出来るのか分かるのだが……。

 カメオに魔力を通して強く念話だっけ……。



『ラケシスさん、お話があります』


『あら、昨日の今日で語りかけて来るとは、私に気があるのですか?』


『もういいです』


『ちょいまて〜い!』


『ラケシスさんて、そんなおちゃらけたキャラでしたっけ?』


『何の事ですか?』


『………………』


『………………』


『……いや、ほんの出来心と言うものです。 歳を無駄にとると人にかまって欲しいものなのです。 別に他意はありませんよ? ところで、何か用があったのではないのですか?』


『あ、はい。 モイラ三姉妹の方々は石化状態だとお聞きしたのですが、それは本当ですか?』


『はい、まことですよ』


『僕はその石化のシステムは理解出来ないのですが、解除する方法はないのですか?』


『え……それは、私たち三姉妹を懸念けねんしての質問ですか!?』


『え? ええ、まあ、そうですよ?』


『なんと!? クロートー! アトロポス! クロが私たちを開放してくれると申しておりますわ!?』


『なんですって!? なんて勇敢なお方ですの!?』


『いいえ姉様、私は信じておりましたとも。 クロはやってくれるおとこだと!』


『ちょっ、え、えっ!? いや、その、……まだ石化解除の方法聞いてませんからっ!!』



 くそっ! どんどん話がデカくなる! 運命を司る神子とかのたまっていたけど、存外運命に翻弄されてないか!? だって、石化されたんでしょ? あんたたち運命変えれば良かったんじゃね? って話だよね?



『何やら良からぬ事を考えているようですが、私たちは自分の運命を変える事は出来ないのですよ』


『何で分かったんですか!?』


『女の勘です』


『……………………女の勘怖い!』


『そうですよ。 侮らないで欲しいわね、女の勘』


『で、どうすれば良いんです?』


『よく聞きなさいアホの子よ』


『酷くないですか? 普通に』


『貴方が分からないと言うから教えてやるのです。 阿呆をアホと呼んで何が悪いのです? まことに事実でしょう?』


『もう良いですよ。 続けてください』


『このボケナスが、よく聞きなさい』


『普通に悪口ですよね?』


『これ、話が進まぬではないか? それとも聞く気がないのか?』


『……続けてください』


『まあ、アレです。 フェルと貴方の遣り取りがとても楽しそうなので真似してみただけですわ。

 石化の解き方でしたね。 アレはゴルゴンにのみ伝わる禁忌の秘術。 物質の根元に干渉するモノです。 解除出来るのもやはり、ゴルゴンのみ。

 貴方には既に伝えた筈です。 先ず、グライアイの瞳を探し出しなさいと』


『物質の根元に干渉する秘術……ですか。 もしかすると、僕は干渉出来るかも知れませんね』


『貴方は本当に阿呆なのですか!? 先程申した様に、ゴルゴンにのみ伝わる秘術だと言ったではありませんか!』


『干渉出来るとは言いましたが、それを魔法として体現出来る訳ではありません。

 ある人に相談してみないといけませんが……デバイスがないと連絡出来ないですね……』


『阿呆をいくら説得しても阿呆は阿呆ですか……。 勝手にすれば良いですが、結局グライアイの瞳を探す旅に出るのですよ……』


『グライアイの瞳って何なんですか?』


『グライアイ三姉妹はゴルゴンの居所いどころが分かる魔女なのです。 三人でひとつの瞳を共有しているのですが、帝国に奪われてしまってゴルゴン族の情報が入らなくなってしまったのですよ』


『え……奪い返すのって目ん玉なんですか……なんか気持ち悪いですね?』


『……瞳と言っても目玉と言う訳ではありません。 【グライアイの瞳】と呼ばれる魔水晶です……別に嫌なら良いのですよ?』


『ちょっと考えてみてくださいよ。 そのグライアイの瞳を探して?グライアイ三姉妹にゴルゴンの居所聞いて?ゴルゴン奪還したら神殿ここに戻って石化解除?とか、めちゃくちゃ時間かかるじゃないですか?』


『それはそうでしょうよ』


『そんなに工程を踏まなきゃいけないなら、例え不可能だったとしても、解除出来るかもしれない、その可能性に賭けてみるのもじゃありません?』


『か、勝手にすると良いのではありませんか? それで気が済むのならですけどね。 ムダだと思いますけど……』


『……ちょうどイザヴェル平原に石化された巨人族が居ますので、試してみても良いとは思わないのですか?』


『……巨人族……あの翼人族の亡命に協力したと言うあの【ハイモス】ですか!? 帝都教会め、何と言う仕打ちを! 酷い!』


『え? ハイモスさんが!? 許せない!』


『おのれ、人間どもめ、どうしてくれようか!』


『……えっと……僕は、貴方たちは勿論、彼も助けたいと思っているのです。 バベルに戻る際に試してみて、ダメならそのまま旅に出るだけです』


『……もし。 もし、仮にですよ? 彼の石化が解けたならば、その後どうするのです?』


『決まっているじゃないですか! そのまま貴女方を助けます!』


『『『なんですって!?』』』


『嫌なら良いですけど?』


『嫌なんて言ってませんわ! クロ! 私たちが貴方に惚れたら貴方のせいですからねっ!?』


『何を仰ってるんですか?』


『な、……何でもありません。 さあ、行くなら行きなさい。 私たち、いえ、私は貴方の動向に注目しています。 ……何故か私、上手く行く事を期待していますので、精々頑張って下さいね!』


『はいっ!』


『ラケシスさん、それからーー』



 その後も、神子との会話であれこれと情報を引き出し、いくつかの計画を立てて行った。

 あくまでも可能性の話しだが、僕は行ける気がしていた。

 僕のスキル【物質粒子超構成術】はまさに物質に干渉するスキルだ。 しかし、僕の体内でしか使った事がない。

 もし、このスキルをデバイスのデジタルスクロールで体外に再現出来れば、石化解除も可能かも知れない。 硬質化している身体を元の細胞の配列に戻すだけだ。

 とりあえず……どうするか……。 モモと二人なら何とでもなる。 仮にハイモスさんの石化を解除出来たとして、そのままモイラ三姉妹を開放するために神殿で暴れたとすれば、帝都教会は勿論、ここは帝国軍のお膝元……教会どころか軍まで敵に回す事になるかも知れない。

 そうなると本当に逃げ切れるのか、生存率は非常に低くなりそうだ。

 となると……闇ギルドだな。


 モモと打ち合わせして、一先ずデバイスを返して貰って、マキナさんと連絡をとる為に、神殿ここを出なくちゃいけない。 ……正直なところ、それが一番の不安要素なのだが?



『モモ?』


『あ! クロ、神子さんは何て?』


『う、うん……勝手にしろって』


『ん? どうゆうこと?』


『とりあえず、僕が何とかしてみる事になった。 その為に一度、神殿ここを出なければいけないんだ』


『そうなの?』


『うん。 そこでモモに相談なんだけど……大丈夫だろうか?』


『なになに? 言ってみて!』


『えとね……モモがホームシックにかかったていで神殿長に一時帰宅を申し出たいと思ってるんだけど、出来そう……かな?』


『ホームシック?ってなに?』


『え? ああ……ホームシックって言うのはね、家に帰りたいって言う気持ちでいっぱいになって、とても悲しい気持ちになる事……かな?』


『家に……?』


『うん。 モモの帰るべき場所に帰れない……そんなイメージだけど……分かる、かな?』


『私の帰るべき場所……クロのそばに帰れない……うっ! ぐすん! やだ! やだよ、クロ!』


『お、おう……そ、そうか。 とにかくそんな気持ちだ。 神殿長の前で演技出来そうか?』


『ぐすっ! うう……うん。』


『じゃあ……頼めるだろうか?』


『いいよ。 じゃあ、ルカさんには何て話せばいい?』


『ん……ごめん、忘れてた。 ルカさんはハイモスさんを開放したいんだよね?』


『うん、そだよ?』


『上手く行けば、ハイモスさんは開放出来そうなんだけど、その後、神子さんたちも開放しようと思ってる』


『え? 神子さんたちも開放出来るの?』


『あくまでも、上手く行けば、の話だからね? 上手く行かなければ、僕たちは長い旅に出なくちゃいけないんだよ……』


『そうなんだ……全部、上手くいくと良いね!』


『そうだね……何もかも上手く行って欲しい。 もう、しばらくは帝国から離れたいよ……』


『クロ? 大丈夫?』


『大丈夫。 モモ、明日は頼んだからね?』


『は〜い!』



 ……明日か……上手く、行くだろうか? 上手く、行って欲しいな。

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