第14話 ヨルムンガンド鉄道
準備は整った。
仮デバイス(教会で没収された時の為)、
「クロ、ガン鉄の予約はとってあるのか!?」
「え? 駅でチケットとか買うのかと思ってましたけど、違うんですか?」
「何のためにICがあると思ってるのだ!? チケットだなんて、そんな過去の遺物はもう無いわ!」
過去の異世界放浪は自分の脚で歩いて周ったので、乗り物には詳しくはなかった。
帰りの予約も必要になると思うので、自分で予約を取るためにデバイスを起動させた。
マキナさんにガン鉄の予約サイトを教えてもらって、自分で予約をとった。 シロの予約も取らなくてはいけないので、シロのICも登録して予約する。
「アンタたち、気をつけて行ってくるのよ?」
「バベルに着いたら、先ず【カサブランカ】に行ってください。 連絡しておくので、バベルの拠点にしてください」
「はい、何から何までお世話になります!」
「あ、シロ? キミはその格好の間【モモ】を名乗るのだぞ?
それからの、何か有った時の為に
「マキナ、分かった! ありがと〜♪ ぎゅ〜〜!」
「お返しの、ぎゅ〜〜!」
僕たちはマキナさんやアランさん、ベンさんに見送られながら店を後にした。
そうか、シロはしばらく『モモ』になるんだな、気をつけなくっちゃ。
店に置き土産をしてきたが、喜んでくれると良いな。
ーー寸胴いっぱいのカレーーー
ヨルムンガンド鉄道の駅は基本的に各国にそれぞれ一つしかない。 国交を跨ぐので、水際対策をしやすくする為である。
しかし、アスガルドは現在閉鎖中なので、仮設駅としてシン・バベルに設営されている。
また、帝都のガン鉄の駅は首都【ミッドガルド】にある。
ーーデカい!ーー
大きな山の麓に立っているみたいだ。 そしてヨルムンガンド鉄道を見て納得する。
ーーデカい!!ーー
そうだ。ガン鉄がデカいから必然的に駅がデカくなる。 ガン鉄がデカい理由は一つだ。
【巨人族】が乗るからだ。
ミッドガルドの駅はとても大きく、多種多様のお店が集結しており、多種多様の種族が行き交っている。
中でも抜きん出て人族が多く、しかもやたらと偉そうだ。巨人族ですら人族を避けているように見えるくらいだ。
僕らも何気に他の種族には避けられている気がする。 それだけ他種族にとって人族とは脅威なのであろう。
首都ミッドガルドの
駅のあちこちに詰所があり、昼夜問わず帝国兵が往来しているらしい。
ーーまるで巨大な要塞だなーー
駅はオートメーション化が進んでいるからだろうか、ほぼ無人である。 無数に監視カメラはあるものの全てデジタル管理されているようだ。大抵のイレギュラー対応はAIが行っている。
何かあってもドローンが対処するし、最悪は帝国兵を連れた駅員が対応するみたいだ。
徹底して無機質な感じが、人の温もりを感じさせない。
僕たちは特に問題も無く改札を過ぎると、構内に設けられた売店で駅弁を買った。もちろん無人レジにキャッシュレス決済だ。
帝国の住人はいったいどんな仕事をしているのだろう? ふと疑問に思ったが、恐ろしい答えが導き出されそうで、途中で考えるのをやめた。
「シロ? いや、モモ? 弁当は客車の中で食おうな?
「そんなぁ〜お腹すいた〜」
『そうだぞクロ! オレサマとて限界と言うものがあるのだぞ!?』
「フェルは食べる時具現化するから、なおさらダメだ!」
「クロのケチんぼ!」
「何とでも言え! 面倒な事は全て、僕にお鉢が回ってくるんだからな!」
僕たちはそんな会話をしながらホームにたどり着いた。ガン鉄は近くで見ると、一層大きく見えて圧倒される。列車は鱗の様な装甲で覆われていて、まるで巨大な蛇の様だ。
そんなガン鉄の内装は客車と言うより、ホテルのラウンジを思わる、とてもラグジュアリーな感じだ。確かにガン鉄の乗車運賃は、高級ホテルに一泊するくらいの料金だから、それくらいは当たり前なのかも知れない。
モモは終始キョロキョロと落ち着かない様子だ。僕たちは指定された席を見つけると、目前に設けられたタッチモニターでチェックインする。
チェックインを済ませるとガン鉄の簡単な案内が流れて、映画や音楽などが楽しめる仕様だ。
ガン鉄はいつ出発したのか分からない程静かに、帝都の街を後にした。
「ねえねえ、クロ? もういい? もういい?」
「モキュモキュ……いんじゃね?」
「フェルは待てなかったんだな……モモ、もう食べて良いから、そんな切ない目で僕を見ないで……」
「やったーー!」
モモは物凄い勢いで弁当を食べ始めたと思ったら、数分後には食べ終わっていた。駅弁一人三つ……今日一日分だと思っていたのだが?
ーー全部食べた!?ーー
「ガハハハハ! 嬢ちゃん、良い食べっぷりだぁな!」
「うん! 美味しかった!」
いきなり話しかけて来たのは、なんと巨人族だった!各車両の一番後ろの席は巨人族用の特別製シートだ。 後ろの席からこちらの遣り取りを、覗き込んで見ていたらしい。いや、覗き込む必要もなく見えているみたいだが……。
「そうか、そんなに美味かったのか羨ましいだな!」
「ごめんなさい、少し分けてあげたいけど全部食べちゃった!」
「いやぁなぁに、催促したみてぇに聞こえたかも知んねぇが、オラたち巨人族が嬢ちゃんたちの飯で満足出来るわけでもないでぇのぉ。 どぉか気にせんでくんないよぉ」
「良ければ僕の弁当がまだ二つあるので、いかがですか?」
「え!? ええんかいのぉ?」
「おっしゃる通り、腹の足しにはならないかもですが、味見してください」
「なんと、気前のええ人族もおるんじゃのぉ? あ、気に障ったらスマンこっだで! こんな優しくしてもらったことがなかったもんだぁで」
「気にしてませんよ、どうぞ!」
「こらありがてぇ。 遠慮なくいただくだぁよ」
数ある巨人族の中でもガン鉄に乗れるのは三〜五メートルクラスの巨人族のみとされていて、それ以上となると乗車は許されないらしい。
彼は五メートルはあるだろうか、恐ろしくデカい。
当然人族の弁当なんて一口でペロリと食べてしまった。
彼は目を瞑って味わうように咀嚼している。
「ウメェ! 巨人族用の弁当とは全然違うんだぁなぁ!」
「巨人族用の弁当? そんなのがあるんですね?」
「ああ、パンに肉とチーズ挟んだやつで、中のソースで味付け変えるだけのもんだぁよ。 もう飽きてきたでぇなぁ、食うだか?」
「え? い、いや、大丈夫です!」
「そうか、あんちゃんの弁当食ってしまったでな、お腹すいたらオラのやつ食ってええだかんな」
「モモが代わりに食べよっか?」
「遠慮なさい!」
「は〜い……」
「嬢ちゃんがモモで、あんちゃんがクロでええだか? オラ、【ヴァルカン】だ。 皆からヴァルって言われてるだぁよ。 オラ建塔師だもんで、これからバベルさ行ぐさ」
「モモたちと一緒だね!」
「嬢ちゃんらも建塔師だか?」
「ううん、モモたちは神官候補生?として、これからアスガルドに行くんだ! バベルは通るだけ〜」
「アスガルド皇国だっで!? まあ、神官候補生だがん行けるわけだかぁ……はぁ、ええなぁ。
アスガルドにはオラぁの友達がおるだぁよ。 おるっつってもあれだ、捕まっちまったんだがぁなぁ……まだ生きてんだがどぉだがぁ……」
「どうしてヴァルさんのお友達さんは捕まっちゃったの?」
「オラの友達は【ハイモス】っちゅうで、同じ巨人族の建塔師仲間だったんだが、翼人族の亡命に手ぇ貸しちまったんだぁよぉ。 アイツぁお人好しだがんなぁ……息子も心配しとんだぁに」
「今もアスガルドにいるの?」
「はあ、どぉなんだがぁなぁ? もしかすっど、帝都に移送されだかんも知んねえだぁな。 まぁ、巨人族だもんで移送も楽ではねぇだでなぁ。
もしかすっど、まだ居るがも知んねえだが……もしも会う事があったら……いや、迷惑かかっちまうだぁな、忘れてくんろ」
「一応覚えておくね! ハイモスさんだったね!」
「まあ、会うことがあれば、ヴァルさんが宜しく言ってた事は伝えておきます」
「ありがてぇ。 もしバベルでも会う事があればよぉ、一緒に飯でも食おうだぁよ!」
「うん! 楽しみにしてる!」
「もう着きますね。 どうかお身体に気をつけて、お仕事頑張ってください」
「ああ、オマエさんらもな!」
ガン鉄の車内放送でバベル到着の案内が流れている。
車窓から見える景色は、あの巨大なバベルが見えない程に大嵐となっていた。 お爺さんが言っていた通り、この中をバベルに向かうのは非常に困難だっただろうと用意に想像出来る程だ。
ガン鉄はそんな大嵐の中を、事も無げに塔の入口へと入って行く。 どんな仕組みなんだろう?車内は全く平穏そのものだった。
ヴァルさんとは駅のホームで別れたが、とても気の良い人で人当たりも良かったので、コミュ障の僕もとても親しみやすかった。
ーーまた会えると良いなーー
僕の呪いの一抹の不安はあるものの、やはり
それだけに親しくなる人に迷惑はかけたくないと言うのも、僕の心情であることも確かで……僕の心は右往左往しながら葛藤している。
バベルの中は外の大嵐の影響は皆無と言って良いほど快適だ。当然駅は大勢の人で賑わっているので騒がしい。
駅は塔の一階に位置しているわけだが……訳が分からない程の巨大な空間が広がっている。天井は高層ビルが入るほどに高く、百メートル以上はありそうだ。
一階は巨大なバベルの駅と商業施設が広大に広がっていて、一つの巨大な都市を形成している。僕のまだ見ぬ異世界は、軽く想像の域を超えてくるのだ。
やはり帝都の色は濃く反映されており、監視カメラとドローン、帝国兵は視野に入る所には必ずと言って良いほど存在している。常に見張られている様で落ち着かない。
目指す【超超高機動昇降機】はバベルの駅から少し離れた所に位置している。
アランさんからバベルにある闇ギルドの支部【カサブランカ】へ寄る様に言われていたので、デバイスに登録していた位置情報を頼りに歩き始めた。
街には人族以外は建塔師に多いとされるドワーフ族、巨人族が見られた。 稀に他種族がいるみたいだが、そのほとんどが商人だと言う。
【建塔師】にはそれなりの地位が約束されていて、人間至上主義による不当な扱いはされないみたいだ。
また、【商人】は【商業ギルド】の影響力がわりと強いみたいで、迫害の対象からは基本的に外されているようだ。 この世界でも金の力は強そうだな。
花と緑の純喫茶【カサブランカ】
店の前には沢山の花や緑が植えられていて、手入れの方もよく行き届いている。 看板や花壇の装飾も手作り感があって、店主の人柄が窺える。
塔の中でも難なく草花が育成出来る程の照明技術は、この異世界の高度な技術水準が垣間見える。
僕たちは少し緊張しながら店の扉を開けた。
カランカラン
ーーこっちは百合か!?ーー
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