第12話 闇ギルド

 スタッフルームのドアに隠れてモジモジしている少女がいる。 さっきベンさんと一緒に入って行ったのは【シロ】であって、

彼女はアルビノ種と言う極めて真っ白な少女だったはずだ。


 しかし、先ほどからモジモジ隠れている少女は明らかにーー


ーーピンク!?ーー


 ついにヒョッコリと飛び出して来た桃色の少女はあまりにも


ーーカワイイ!!ーー


 なんだ……あの奇跡的に可愛い生き物は!? 本当にこの世に実在して良いのか!? 今僕は奇跡を見ている!? もはやアレは【シロ】ではなく【モモ】と言う別の生き物だろう?



「ベン! ちゃんと説明しなさい。 皆さんが困惑しておられるではないか」


「分かってるわよアラン。 ほら、おいで【シロ】ちゃん」


「えへ♪ ど〜お、クロ?」


「よ、よく似合ってると思う……」


「やた〜♪」



 クソ! いちいち可愛いなぁ、もう!



「見ての通り、シロちゃんの髪や眉毛、睫毛に至るまでカラーリングしてみたんだけど、可愛いでしょう?」


『シロがピンクになった!?』


「フェルはこの色……嫌い?」


『いや、まあ、……良いんじゃねえか? 別に』


「まあ……続けるわね? 今、ピンクは帝都の女の子のコスメで人気のカラーなのよ? 帝都の街は個性で溢れかえってるから、それに便乗しちゃう訳よ。

 これならICが種族【人間】でもすぐにバレる事はないと思うわ?」


「なるほど。 郷に入っては郷に従えと言うヤツだな! ボクもブロンドにしようかな? 今観てるアニメのキャラがブロンドのウルフカットなんだよ!」


「なんそれ……スーパー◯◯◯人か!?」


「なに!? クロは知っておるのか!?」


「まさかの正解……だと!?」



 この世界なら、ごっこ遊びとか出来そうとか思ったのは内緒です。

 まあ、それは置いといて、確かに帝都では個性的なファッションが流行っていた。 この世界のファッションセンスは分からないが、かなり前衛的だと感じたくらいだ。 



「ちなみに、このヘアカラーはこんな風にデリートマジックを行うと……ほら、この通り」



 みるみる元の真っ白な【シロ】に戻って行く。 やはりこっちの方がシックリ来るな。



「逆にアクティブマジックをかけると……こんな風にね? 簡単にカラーリング出来ると言う優れもの。 効果はひと月くらいだから気をつけてね?」



 またピンク色の【シロ】、つまり【モモ】に変身……どこかの魔法少女みたいだな!

 とにかく、これで見た目は誤魔化せるから、ベンさんの言う通りICの人種を【人間】にしてもらえるなら、僕の妹と言う設定で行けそう? かも?



「ふむ、良かろう、ボクがシロのICを書き換えてやる。 しかし、クロの妹と言う設定は無しだ。 ボクん(ドワーフ)の養子に人間二人はさすがに怪しまれるからな!

 スミスから許可は取ってあるので、スミスの妹と言う事にするが、異論はないか!?」


「それはダメダメ! あの子も脱走者じゃないの! 普通に足が付くわよ! スミスだってヤバいんじゃなぁい?」


「わはははははは! そらそうだ! さすがに考え無しだったな、わはははははは!」


「ねえ、そこで相談なんだけど……アラン?」


「ん?」


 ベンさんがアランさんに含みを持たせた視線を送る。 アランさんの額に汗が伝っているが、きっと気の所為だろう!



「……わ、分かった。」


「さすがアラン! 愛してるわよん!! そんな訳でシロちゃんはアタシ達の養子にしちゃって良いかな? 良いかな?」


「おおう、なるほど! それなら納得だな。 二人に基本子供は出来ないから、養子をとるのは自然な流れであるしな!」


「ベンが張り切っているが、シロさん、嫌なら断ってもらって構わないですよ? しかし、仮に養子になっていただけるなら、私も嬉しいですが……」


「私……【養子】って二人の子供になるってこと?」


「そうね。 養子になるなら、アタシ達がアナタのお義父とうさんと言うことになるわね?」


「ベンさんとアランさんが、私のパパ?」


「そうですね。 残念ながらどちらもお義母かあさんにはなれませんが、我慢してください」


「ベンさんとアランさんがパパなら、シロはすっごく嬉しいな〜!」


「まあ! この子ったら嬉しい事言ってくれちゃって! あんた達、今日からうちに泊まりなさいね! 今日はお店休業してお部屋づくりしなくっちゃ!」


「ベン! 少し落ち着きなさい。 シロさん、クロさん、そしてフェルさん?も、シロさんが拙い私達の家族になっていただく事に、問題はありませんか?」


「シロはなりたい!」


『オレサマはシロが良いなら構わねえ』


「僕は……問題ありません、が……」



 僕はシロが他の人と家族になるのが、何となく寂しかった。きっと僕はもうシロに依存し始めているのだろう。

 シロにまた危険が及ぶかも知れないけど、もうこの気持ちは止められないんだ。僕にとってシロは大切な存在になっている。



「シロ君の話はこれくらいで良いだろう。

 キミたちはアスガルド皇国と言う国の事をどこまで知っているのだ? そして何を目的に行こうとしているのだ?

 今一度考えてみようではないか!」



 いきなり本題ぶっ込んで来やがったな!



「えっと……翼人族が統べる国。 現在は帝国の庇護下にある。 庇護下とはあくまで対外的な名目であり、実質的には完全な支配下にあり、帝国に取り込んだと言って過言ではない……そんなところですか?

 行く目的としてはウルザルブルン神殿の神子に会って、シロの解呪の方法を聴きたいと思っています」


「キミは本当に勤勉だな! しかし全然ダメだ!

 アスガルド皇国は現在鎖国中だ! 一般人は入れないし、地上の動物は持ち込み厳禁なのだ!

 鎖国の目的は翼人族の囲い込みだ。 圧政による弾圧で翼人族は外国に亡命することも許されない。

 教皇や神殿の神子達は帝都教会が異端審問にかけて軟禁状態にある。

 そんなアスガルド皇国に入国、まして神殿に入る手段は限りなく狭き門だ。 その中でも世界樹の泉を管理するウルザルブルン神殿に入るなど認められる訳がないのだよ」


「じゃあ、シロが神子に会うことは叶わないと言うことですか!?」


「そうは言っておらんじゃろう?」


「けど、限りなく狭き門だって……」


「うむ。 『狭い』とは言ったが方法がないとは言っておらん。 スミスから話は聴いていたので、対策は考えて来ているのだが……キミたちには帝都教会の神官見習いになってもらおうかと思っている!」


「それは……あまりに危険過ぎないですか?」


「そうよ、マキナちゃん! アタシはいきなり娘と生き別れなんてイヤよ?」


「ボクを誰だと思っておるのだ、キミたちは!?」


「変態!」


「奇人!」


「ボクっ子!」


「天災!」


「おい!? 最後の誰だ?」


「は~い!」



 シロは片手を高々と挙げた!



「うぬぬ……」


「てんさい?」


「まあ、良いわ。 ボクは天才だ! キミたちをいとも簡単に帝都教会神官見習いの肩書を与える事が出来るのだ!

 そして、ウルザルブルン神殿への異動の書簡も偽造してやることも出来る!」


「「「変態だ!」」」


「もう協力してやらんぞ!」


「マキナ! ほら!」



 僕はマキナの膝に飛び乗った。 マキナはすぐにモフついてくる。 おまけに匂いも嗅いでくる。 やめて!



「くんかくんかすーーーはーーー!」


「やっぱり変態じゃないか!」


「そんなにボクを褒めてどうしようってんだい?」


「協力してさえくれれば文句は何もありませんよ!」


「ふむ、ボクは……もとい、ボクたちはキミたちの協力はしよう! しかし、行かなければならないのも、演らなければならないのもキミたちだ!

 そして、仕事への報酬は必ず貰う。 何故ならボクたちは【闇ギルド】のギルメンだからだ! そしてカノンここは闇ギルドのアンジェラ支部!」 


「や、闇ギルド!?」



 急に不穏なワードが入って来た。 スミスさんは情報屋だと言っていた……つまり、そう言う事なんだろう。



「ボクたちの素性を知ってしまったキミたちにも当然闇ギルドに所属して貰うことになるが良いかな? 今回はそれが報酬としよう! 仮に断るならば、キミたちは今の記憶は全て消されて、協力はおろかボクたちの事も忘れてもらう。 当然スミスの事も然りだ!」


「闇ギルド……ですか? 言葉通りの組織だとしたらとても不穏な組織と思えますが、いったいどんな組織で、ボクたちはどんな扱いになるのでしょう?」


「ふむ、闇ギルドは裏組織のそれとは違う。 キミの観てきた人身売買や違法薬物などに手を染める程、倫理や道徳を棄てた組織ではない。 謂わば必要悪とでも言っておこうか。

 実際に活動している仕事としては、情報収集、情報操作、運び屋、掃除屋、研究開発、サイバーコントロールなど多岐にわたる。 

 キミたちには当面情報員として活動して貰うことになるが、基本的には何か制限がある訳ではない。 自由に活動してもらって情報が手に入った時に売ってくれるだけで良いのだ」


「少し気になるワードもありますが、一応理解したと言っておきましょう。 そして、闇ギルドに入るだけで協力してもらえるならば、入りたいと思うけど……シロはどうかな?」


「ほえ?」


「……そうだな。君は分からない方が良いのかも知れない。 簡単に質問するから答えてくれるかな? シロ」


「うん!」


「シロは僕たちと一緒に居たいと思うか?」


「うん、居たい!」


「シロは僕たちと仲良くなりたいか?」


「うん、なりたい!」


「シロは……少し危険な目にあっても、シロの呪いを解きたいと思うか?」


「う〜ん……呪いって実はよくわかんないの。 呪いって何?」


「うん、君の左手に嵌められている指輪は【禍つ指輪】と言って、魔物を惹き寄せる呪いがかかっているんだ。 それが為に街の外に出ると魔物に襲われやすくなる。

 もしかしたら、街の外に出なければ解呪しなくても平穏に暮らせるかも知れないけど、僕たちは帝都教会に狙われている。 少なくとも帝都では安全に暮らせるとは言えないだろうね」


「そうなんだ……クロなら呪いを解いた方が良いと思う?」


「そうだね、君の自由を僕は望むから、僕は君を解放した。 だから、君を縛りつけるモノは取り払いたいとは思っているよ。

 けど、それは僕のエゴでした事だ。 僕自身が君のかせになるような事だけはしたくないよ」


「シロの一番の望みは、クロやフェルたちとずっと一緒に居ること! その為に出来る事ならなんだってやる! その為に必要な事ならなんだってやるよ!」


「尊いな!」


「姉さん、茶化さないでくださいよ! じゃあシロ、やろう闇ギルド!」


「うん!」



 かくして、僕たちは闇ギルドと言う組織に入る事になった。

 マキナさんやアランさん、ベンさん、そしてスミスさんも決して悪い人ではないだろうし、信用したいとも思っている。

 しかし、人間不信でミジンコみたいに残念な僕はまだ、そこまで踏み込めないでいた。

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