第11話 秘匿スキル

 カフェレストラン【カノン】


 僕たちの席は、いつも同じ席を用意してくれている。 理由を聴いて初めてわかったのだが、盗聴防止&防音の魔法石を仕込んでくれているらしい。

 スミスさんの粋な計らいみたいだ。 アランさんやベンさんも事情を察してくれていて、僕たちの事を陰ながら気にしてくれていたみたいだ。



「さて、弟よ。 スミスからキミたちの事を頼まれてここに来たのだが、事情はある程度聴いている。

 アスガルド皇国に行きたいそうだな? その為にシロのICの情報を操作したいとか聴いているが、合っておるか?」


「はい、その通りです。 僕なりに調べてみたら、アスガルド皇国への入国はバベルの昇降機を経由しないと行けないと言う事でした。 公共の機関を使う以上、身分を隠蔽する必要があるのです」


「なるほど。 その件については頼まれた。 して、どんな肩書が必要か検討しておるのか?」


「あ、はい。 アスガルド皇国へは僕は人として入国しようかと思っております。 ですので、僕の妹と言う事には出来ないでしょうか?」


「それは簡単だが。 問題はそこではないのだよ」


「はあ……と言いますと?」


「シロはひと目見て翼人族と分かる。 キミとボクの妹には出来るが、明らかに種族が違うのだ。 分かっておると思うが、キミとボクにもそれはあるのだぞ?

 そして問題と言うのはもっと別のものだが……先ず種族の問題から話すか……」


「種族の違い……僕は人間でシロは翼人族、マキナさんはドワーフ……確かにいびつ過ぎますね」


「弟よ。 良く聞け? この世界は種族間差別が甚だ顕著だ。 種族間と言うより、人間とその他のな。

 人間至上主義者はとても多く、卑劣な輩が多い。 翼人族は神族に近しいと言うだけで、ヒエラルキーで言うところの底辺までおとしめられた」


「……僕も見てきました。 対象は獣人族でしたが……酷い扱いでしたよ」


「とは言え、奴隷制度はとうの昔に廃止され、法のもとに取締も厳しい。 しかしだな、法はバレなければ有って無いに等しいものなのだ」


「はい、隷属契約を使った人身売買を見ました」


「そうか、話が早いな弟よ! 奇しくもキミは人間なのだ。 シロは翼人族。 カムフラージュすると言うのであれば、ボクは木は森の中のに隠すべきだと思うが……二人の心境を考えるとハッキリとした事は言えんなあ」


「そう言うことですか……一理ありますね」


「無理を押し通すか、流れに身を任せるかのどちらかだな」


「……」


「クロ? どう言うことなの?」


「……」


「言いにくそうなのでオレサマが教えてやろう! シロ、オメェを隷属契約させて、クロの下婢かひにすれば目立たんと言う、胸糞悪い話だぜ!」


「そっか。 それなら簡単じゃない。 シロはクロの下婢かひ?になるよ!」


「「「「「シロ!?」」」」」


「だってそうすれば上手く行くんでしょ?」



ーーなんてこった!ーー


 僕はシロを嘘でもそんな扱いをしたくない。 しかし、マキナさんの言う通り、リスクを考えると一考せざるを得ない。

 それにしても、シロはなんて真っ直ぐなんだ……とても危ういくらいに迷いもない。本当に真っ白だな、この子は……。


ーーそれにしても本当に他に方法はないのか!?ーー


 僕の頭がグルグルと無駄に回転していたら、ベンさんが割って入って来た。



「ねえ、マキナ? ICって種族も書き換え可能かしら?」


可能だけど?」


「ならシロちゃん? ちょっとこっちに来てくれるかしら?」


「は~い!」


「うふふ♪ シロちゃんて本当に可愛らしいわねぇ♪」


「えへへ〜、ベンさんありがと〜」



 二人は店のスタッフルームへ移動した。 何か考えがあるのだろう、隷属契約以外の方法があるのなら、僕は何だって構わないが……。



「時に弟よ。 少し身体を調べさせて欲しいのだが、構わないだろうか?」


「は、はいぃ?」


「キミはボクが造ったホムンクルスでもあるのだ。 よって、少し精密な検査をさせて欲しいのだよ。 もちろん、キミの今後の為でもあると言えるがな!」


「うう……い、いったいどんな検査を?」


「なにも解剖させてくれとは云わないから安心したまえよ?」


「あたりまえです!」


「キミの中の魔晶石はボクの特別製だ。 少しそいつのデータを見せて欲しいだけさ」


「魔晶石……ですか、時間かかるんですか?」


「まあ、数分はかかるぞ?」


「思ってたより早いですね、分かりました。 協力しましょう、こちらも協力していただく訳ですし」


「よし、ではボクの膝に乗り給え」


「ふぁ!?」


「何を変な声をあげておるのだ? あ! ボクを意識しておるのか? そうなのか? ボクを女と意識しての反応なのか?」


「違います!」


「違う……のか?」


「違います!」


「そう……なのか……」



 なんか……物悲しそうだな…。 乙女心とか言うヤツか?そう……なのか?



「じ、じつは! 恥ずかしいから認めたくないですが! 意識してましたよ、悪いですか!?」


「わ、悪くなんかないぞ!? そ、そうか! 遠慮せんで良い、膝に乗れ!」



 僕は言われるがままに膝に乗った。

 彼女はドワーフでとても小柄な体躯だ。 小柄だけど身体の起伏はちゃんとあって、意識しないわけにはいかない。 確かエクスさんも同様に小柄だった事は覚えている。 ドワーフの特性と言えるのかも知れないが、ココだけの話エクスさんは起伏は控えめだった。

 マキナさんは膝の上に乗った僕を軽く撫でて……軽くなで……、否、めっちゃ撫でて来る! もしかしてモフモフを堪能してる?



「ちょちょちょ! マキナさん? 検査は!?」


「うむ、触診をしておるのだ。 次は仰向けになれ」


「……それ、必要あります? さっきって言ってませんでしたっけ?」


「そ、それはそれだ。 今は触診をしておるのだ」



ーー今、確かにどもったよね!?ーー


 しかし、本当かどうか、検査だと言うのだから必要な事かも知れない……。 不本意ではあるが、僕は仰向けになった……。

 いくら猫であったとしてもこの格好はめちゃくちゃ恥ずかしい。 マキナさんは遠慮なく触って来る。 めっちゃ触って……つ、摘みやがった!!



「おい! それは……っ!?」


「はい、触診終わり! 異常なし! 良い手触りだったよ、お嬢ちゃん!」


「どこの痴女おっさんだよ! この変態め!」


「hshs〜」


「匂いを嗅ぐな! くっ! 僕の純情を返せ!」


「なんだ、良い歳してこれしきの事で情けない! 姉さん、あんたをそんな弟に育てた覚えはないよ!?」


「今日初めて会ったくせに、何を世迷い言を! 痴女! 変態女!」


「そんなに褒めなくても良いのだぞ、弟よ! 少しこのデバイスを借りるぞ。 この中にキミの魔晶石のデータが記録されている、ボクが造った特別製だ。 ちゃんと持っててくれて良かったよ」


「触診全く関係なかったんじゃ!? 初めから僕のデバイスで調べたら良かったでしょうよ!?」


「ふむ、これはボクのデバイスをキミに譲渡した対価だが!? 何か問題あるかね?」


「くっ! ……わ、分かりましたよ……納得はしてませんが!」



 彼女はパソコンのようなモノをとりだして、僕のデバイスと繋いだ。

 ……びっくりだ。 パソコンにはキーボードとディスプレイはあるが、ディスプレイには何かの計器系の表示がほとんどだ。 また、スカウターの様なモノを装着しており、いくつものフォログラムシートの様なディスプレイが展開されている。


ーーなんか凄い!ーー



「ちょっ! お、弟よ?」


「そろそろクロで良いですよ? それとも弟って言いたいだけですか?」


「では、遠慮なく名前で呼ぶぞ。 くっ……クロ! ……よし、クロよ!」


「なんですか、マキナ姉さん?」


「おおう……もう一度言ってくれまいか?」


「……マキナ姉さん!」


「ま、マキナって呼び捨てでも良いんだぞ?」


「それは遠慮します!」


「そんな即答しなくてもええじゃろ?」


「じゃあ、謹んでお断りさせて頂きます!」


「丁寧に断らんでくれい!」


「……」


「面倒くさそうって顔するでないわ!」


「ところでマキナ姉さん、何か言いかけたんじゃないですか?」


「うぬぬ……クロ、キミはマンティコアを食べたのか?」


「はい、食べましたよ?」


「では、シロも食べたのか?」


「はい、食べましたよ?」


「キミはカニバリズムの趣味とか持っているのかね? 不死身だからと言って、食べても良い訳ではないのだぞ?」


「そりゃ食べたくて食べる人と一緒にして欲しくはないですよ? 当然、不可抗力と言うヤツです。 マンティコアにシロが食べられた後、僕も丸呑みにされたんですよ」


「んな!? キミらは無茶し過ぎだ! 命を粗末にするでないわ! 姉さんは悲しいぞ!」


「じゃあ、どうすれば良かったと言うんです?」


「クロのデバイスにボクの連絡先が入ってたであろう? ボクを頼ったら良かったのだ!」


「そんな見ず知らずの人に、あんな化け物の緊急討伐依頼なんて出来ないですよ?」


「それはそうだ! 姉さんは迂闊だった!」


「……この人はっ!」



 マキナはテヘペロ顔だ。 きっと面倒見が良いんだろうなと思うし、なんだか憎めない人だとも思う。 初めて会った人なのに親しみやすいのは、マキナの人柄なんだろう。 コミュ障でミジンコ同然の僕の心に、土足でズケズケと上がり込んで来る豪胆さは他に類を見ない。



「それでだ。 クロ」


「あ、はい」


「今日は用意してきたプログラムをデバイスにインストールする。 このプログラムがあれば捕食して解析されたデータが簡単に可視化、選択可能となる」


「それは……かなり助かりますね!」


「ハッキリ言おう! キミはもはや常人ではない!」


『そうだな、オレサマが知る限り変態だ!』


「フェル! お前にだけは言われたくないわ!」


『んだとっ!』


「とにかくクロ、キミはシロを捕食したことにより、得たスキルは規格外だ。 無論、シロ自身が規格外と言うことに他ならない訳だが……」


「き……規格外?」


「そうだ、規格外も規格外、甚だしく規格外だ! なのでシロのアビリティである【不老不死】【無尽蔵魔力】、スキルの【霊魂可視化】この三つは基本的に秘匿した方が良い。 それからお前自身が持っているスキル【捕食解析】【ゲノム編集】【遺伝子組換え】【物質粒子超構成術】についても同様だと思え!」


「……え、無尽蔵魔力? それから霊魂可視化については僕、実感がないのだけれど?」


「このデバイスに表記されてる以上、持っていることには違いない。 クロ自身が使いこなせていないのではないか?」


「それが本当だとすると、変身による魔力欠乏も無くなると言うことですか! それは助かりますね!」


「そらからこれは……おや?」



 ガチャッ!


 スタッフルームのドアが開いてベンさんが出て来た。 ベンさんに続いて出て来たのは……シロ? いや、シロはシロかも知れないがあれは……。

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