第10話 天才?科学者『マキナ』

 僕たちは回復した後、もと来た街道を歩いて戻った。 もちろん、僕は猫に戻っている。 マンティコアでは討伐されかれないからね。

 ちなみに、マンティコアの魔石は頂いた。 ゲームみたいに高く売れないかと言う算段だ。


ーー出直しだーー


 アンジェラの町。 何か少しホッとするな……。 どこか遠くへ行って帰って来たみたいだ。


 僕たちは先日泊まった宿をもう一度借りて、アスガルド皇国までの段取りを【カノン】で話し合った。



「おや? クロ様、シロ様、フェル様もお帰りなさいませ」



 アランさんの渋い声で迎えられる。 心地よい。

 フェルは既に具現化している。 今日も食べる気満々の様だが、先日の様にご馳走と言う訳にはいかない。 この先の旅にいくらかかるか分からないんだ。 切り詰めて行かないと!

 シロもフェルも金銭感覚はゼロに等しいのだから……。


 シロは相変わらずピアノに興味津津の様だ。 料理が運ばれて来るまで遊んでいるらしい。



「良かったら弾いてみますか?」


「え? いいの?」


「はい。 ご自由にどうぞ!」



 この店のピアノはアップライト型だが、とても綺麗に手入れされている。 鍵盤の蓋を開けると、シロの目がキラキラと輝き始めた。



「クロ! クローッ! これ、どうやるの?」


「……あ」


「おや? ピアノは初めてでしたか。 給仕が終わって落ち着いたら、私めが弾かせていただきますね」


「うん! アランさん、ありがとう!」


「シロッ!」



 僕は慌ててピアノの椅子に座っている、シロの膝の上に飛び乗った。


ーーこれで弾けるか?ーー



〜♪ 〜♫ 〜♬


 ピアノの音を確かめる。うん、大丈夫だ。 問題は前脚だが……あの曲なら何とかなるか?



「おや、クロ様がお弾きになられるので?」


「まあね」



ーーキラキラ星ーー


〜♪〜♫〜♪〜♫


 良かった、普通に弾ける。


♪♫♪♪♫♪♪♫


 少しアップテンポにしてみる♪


♫!♬!♫!♬!♫!♬!♫!♬!


 シンコペーションリズムで軽やかに!


〜〜♪〜♬〜〜♪〜♬


 最後はまったりと余韻を残す様に……。



「すごいーーっ! え? クロって本当に猫ちゃんなの?」


「いや……本当に驚きです! 本当に猫ちゃんなのですか?」


「……はい。 通りすがりの黒猫ですが、何か?」



ーー言ってみたかっただけ♪ーー



 ……美味しいところをアランさんに盗られると思ったら弾いてしまったが……悪目立ちしてしまった様だ。


 やってしまったな……何だこの人だかり。 ムダにアンコールなんかしやがって、こいつら猫に何の期待してやがるんだ?



「ねぇ、クロ? 他の曲も弾ける?」


「……次で終わりだぞ?」


「分かった! やたーーっ!」



ーー猫ふんじゃったーー


♪♬♫♪♬♫♪♬♫……


 ……まあ、タイトルは言えないな。

 周囲はますます盛り上がってるが、僕はもう知らない。 猫の前脚ではそんなにバリエーション無いから!



「さ、料理が冷めるから食べようか!」


「うん! クロ、ありがとうね!」


「おい! オレサマをいつまで待たせる気だ!」


「フェル! ごめんね〜〜!」


「良いから食うぞ!」


「は~い♪」



ーー僕、もしかして今、ドヤ顔になってる?ーー



 気を取り直して、これからの事を考えなきゃいけないな。


「僕は一度バベルの近くまで行った事がある」


「じゃあよ、オメェに任せときゃ良いんだな!?」


「いきなり丸投げかよ!」


「そりゃあよ、知ってるモンの言う事聴いておくもんだろうよ?」


「そりゃあ……そうかも知れないけど……」


「なら良いじゃねぇか!」


「もう! フェル!? クロは私たちのために言ってくれてるんだよ!? ね?」


「ま、まあ……とりあえず、歩いて行くのはとても危険なんだよ」


「どうして?」


「バベルの近くは天候が荒れていて、とても危険らしいんだ。 だから、バベルまでは何か公共の乗り物を使って行こうと思うんだけど……問題がある!」


「え、何かな?」


「クロ、勿体つけんな!」


「フェル……お前……まあ、いい。 シロ? 僕たちは追われてる身なんだ。 つまりあちこちに追手の目があると思ってないといけない。 分かるな?」


「う、うん」


「帝都教会のあるところには必ずと言って良いくらい追手が居ると思うべきだ。 分かるな?」


「う、うん」


「つまり!」


「変装か何かしないと行けねぇ訳だ!」


「フェル、テメェ……」


「それで、それで?」 


「それでだなぁ、スミスさんにシロのICの事を聴いてみた。 そしたら、シロのICは白ロムみたいなんだ。 つまり特定の情報が組み込まれていないわけだ。 分かるか?」


「う、う~ん……」 


「分からんか、まあ良い。 それで、その白ロムを書き換えるには専門の技術者がいる訳だが……明日、この町にスミスさんが呼んでくれているらしい。」


「おお〜! それで何とかなるんだね!?」


「おそらくは? でも、ICが何とかなっても、ヨルムンガンド鉄道(通称:ガン鉄)と超超高機動昇降機(通称:ビフレスト)に乗れるかどうか……それに、アスガルド皇国は入国が難しくって審査に通るかどうかも微妙なんだ……お金もたくさん要ると思う」


「クロ! フェルも! 頑張ろうね!」


「ったりめーよ!」


「お、おう!」



 正直なところ、頑張ってどうにかなる問題ではないのだが……確かに考えていてもどうにも成らないことも確かなのだ。

 ある程度はシロやフェルみたいに楽観的に考えた方が良い場合もあるのかも知れないな。


 明日……また新しい人が来るのか……気が晴れない。 成り行き上、シロやフェルとは上手くやって行こうと思っているが、僕の性格や呪いの特性上、これ以上親しい人が出来る可能性は避けたいところだ。


 それにしても……アランさんの店のポテトサラダ?めちゃくちゃ旨い! こっちのクリームシチューみたいなのも美味しいし、何気にこのお店レベル高いと思っている。 厨房を少し覗いてみたいものだ……。


「アランさん、このお店のお料理は誰が作っているのですか? あ! いえ、凄く美味しかったもので……」


「……ご紹介しても宜しければ、こちらに連れて参りますが?」


「あ、そこまでは……いえ、こちらが言い出した事ですね! で、ではよろしくお願いします!」


「かしこまりました」



 アランさんて本当にスマートだよな。 邪推だが、ロマンスグレーのロングヘアを後ろで束ねていて、清潔感もあって、声も良いし女性に凄くモテそうな気がする。



「ご紹介に預かりました。 アタシが本日の料理を担当しました、料理長のベンと申します。 本日はお褒めの言葉を賜り大変恐縮にございます!」


「僭越ながら、紹介が遅れました。 彼は私めのパートナーにございます」


「えっ!? ……は、はい。 本日はたいへん美味しいお料理をありがとうございます! またこちらを利用させて頂きたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いします!」


「はい! 腕によりをかけて作らせて頂きますので、どうぞご贔屓に賜りたく存じます! では、アタシはこれにて」


「あ、はい! わざわざありがとうございました!」



 おいおいおいおい!いったいどこから突っ込んだら良いんだ! 一番驚いたのが、まさかのアランさんがゲイ!? 相手のベンさんはアッシュブラックのパーマショートで濃いヒゲのゴリマッチョだし! 想像したくねーわ!

 そして、この店はどこの高級レストランだよ! 注文したのってポテトサラダ、シーフードクリームシチュー、チキンカチャトラ風、オニオンフライだよ? いや、どれもレベルが尋常ではなく高かったけど!

 きっとまた来る、てか、また明日来る予定だけど、無駄に先入観出来ちゃったよ!



 そんなこんなで、宿に戻った僕たちは、今日の疲れに身を任せて睡眠に就いた。



◆◆◆



 アンジェラの町の中央には大きな噴水広場がある。 噴水には天使をかたどった石像が建っていて、町のシンボルとして待ち合わせ等に利用する者も多い。

 僕たちとて例外ではなかった。 今日来てくれると言う技術者との待ち合わせ場所が、まさにこの噴水広場なのだ。



「やあ! 君がボクの弟か!」



ーー突然だった!ーー



「えっと……どちら様でしょうか?」


「わはははははは! そうだ、まだ名乗ってなかったな! ボクこそが、天才科学者・デウス=プロメットの孫にして! エクス=プロメットの妹の! 【マキナ=プロメット】その人だ! わはははははは!」


「え? すみません、誰ですか?」


「なん……だと!?」


「あの、あなたが僕のお姉さんと言うのは、どう言う事でしょうか?」


「スミスは何も話していないのかっ!?」


「あ、今日お会いする予定の、スミスさんの紹介の技術者の方って、あなたの事なんですね?」


「そう! ボクのことさ! この! マキナ=プロメットのことさ!」


「分かりました。 ここでは何ですので、場所を移しましょう!」


「そうだな! 久しぶりに会いたい友人が居る【カノン】と言うお店に行きたいのだが、良いかな?」


「はい、既に予約しております」


「用意が良いな、さすがボクの弟だ! わはははははは! さあ行こう! そら行こう! やれ行こう!」



 え? 何、この人……お姉さん? 僕の? ……あ、そう言えばエクス=プロメットってあのギルメンの……てことは、そうか! マキナ=プロメットってエクスさんの遺族である妹さん! それが彼女!?


ーーやっと繋がった!ーー


 しかし、スミスさん僕の事どれくらい知ってるってんだ?

 これが偶然なのか、それとも意図的なのか想像もつかない。

 スミスさんではなく、マキナさんが僕を探していたと言う可能性もある……のか? あの雰囲気は物事に固執するタイプには見えないが……。

 いずれにせよ、気味悪いくらいに繋がった。


 が、それがどうした、僕には関係ないだろ?

 彼女はエクスさんの妹で、僕の義理の姉なだけだ。

 僕が人と関わるとろくなことがない。 薄く行こう!


ーー薄く、これまでと同じ、平常運転だーー



「これからは【マキナ】でも【姉さん】でも何でも良いぞ? 弟よ!」



ーー薄くっつってんでしょ?ーー



「クロさん、ようこそいらっしゃいませ! お待ちしておりました! 本日は新しいお客様もいらっしゃると言う事で、特別メニューを用意しております」


「あら、マキナさんお久しぶりねぇ♪ 全然顔出してくれなかったじゃないのよ?」


「わはははははは! アランにベン、久しぶりだな! ボクはいつも通り忙しくって全然時間が取れなかったのさ! 今日も三徹明けだよ! お二人は変わらずお熱いこったな! わはははははは!」



ーーむしろガッツリ濃いわっ!ーー

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