第1話 異世界転生
〘クリムゾンレッドの世界はどこにでもあるのか?〙
僕は真紅の液体で満たされた培養器の様な機械の中に居た。
数奇なことに、眼の前で人の生首が浮遊している。
あいにく、僕の
培養器?のガラス面?に人の身体が突き刺さっている。 生首の持ち主だろうか、首から上が無い。
培養器の周辺にはいくつもの血塗れの死体が転がっていて、とても
過去の経験で耐性がついているのか、僕の心は
ーー悪い夢なら早く覚めてくれーー
ガコン!ゴポポ……
物音と共に水位が下がって培養液?が無くなるとガラス面が開いた。
僕は這いずる様に培養器を下りると、一体の遺体?に手を掴まれた。
「うわっ!?」
「ペケ? 良かった、生きてたのね?」
「これが生きてると言える状態なのかどうか分からないけど、意識はありますね? あなたは?」
「私はエクス。 エクス=プロメット。 ギルメンの一人で、今日のオフ会の参加者よ。 そして、ここは私のラボで今日のオフ会の集合場所。 くっ……ぃたい……」
「オフ会? 僕は自分の部屋の中に居た筈だけど?」
「あなた、ヘッドセットを着けた時に魔法陣を見たでしょ?」
「魔法陣? 何か、フラッシュ画像の様な大量の映像を見た記憶はあります」
「うんうん、……っつ。 それが魔法陣よ。 あなたの目を通してDNAを解析、マッピングして、転霊術を施したのよ。
この錬成器であなたの身体を作る為に、魔石を核にマテリアルのスライムから錬成するつもりだったけど、あいつに壊されて錬成中に魔力供給がストップしたのよ」
「あいつ?」
「んっ……セフィよ……」
「セフィって、彼女がこんなことを!?」
「あの男、あなたを騙してあなたの世界の身体を乗っ取ったのよ……」
「男って、彼女は女性でしょ?」
「ネカマよネカマ! あなた、騙されていたの!
痛い……」
「ええええええっ!? ネカマってそんな……」
「ショックは分かるけど、見ての通りそれどころではないわ!
つっ……私はもう助からないだろうから、これから言う事をよく聞くのよ?」
「エクスさん……は、はい!」
サプライズがある事は聞かされてはいたが、とんだサプライズだ。 ショッキングにも程がある。
それにしても、エクスさんは既に息も荒めだし、見るからに重症で苦しそうだ。 それに、血を流し過ぎたせいか顔の色も蒼白だし……。
「ここはあなたにとっては異世界。 あなたが知っているナーロッパが近未来まで文明が進んだ世界と思ってちょうだい?
こちらの言語が分かるのは核になる魔石にこちらの世界で必要な情報をプログラムしたから。 げほっ!げほっ!うぇっ!」
「エクスさんっ!?」
「まだ、大丈夫! 簡潔に言うわよ!?
一つ、そこの私のペットの猫の細胞を捕食して。
二つ、デスクの上にあるアダマンタイト合金を捕食して。
三つ、スライムは捕食したモノを解析して素粒子単位で組み換えることが出来るから、その不完全な身体を自分で猫の身体に再形成してみてちょうだい。 残念だけど、今のあなたの魔力量では元の身体は形成出来ないから、回復したら挑戦してみると良いわ。
四つ、デスクのバットに入ってるデバイスとクリスタルはあなたの為に用意したモノだからあげる。 きっと必要になるから。
……ごめんね? ペケ。 オフ会楽しみにしてたのに……本当にごめんなさい……」
「ううん、エクスさん……これはきっと僕のせいなんだ。僕の、『クリムゾンレッドの呪い』なんだよ」
「……クリムゾンレッドの呪い?」
「ううん、何でもない。 エクスさん、何か君を助ける方法はないのかな? 回復薬とかヒールの魔法とか!」
「ふふ、ペケ? ゲームのやり過ぎよ? 世の中そんなに都合良くないわ……このデバイスなら軽症の切り傷や炎症くらいは簡単に治せるけど、重症だと病院にでも行かなくちゃ治らないわ。
高位の回復魔法が使える人は少ないし、回復薬なんてこの世界の日常生活には必要ないもの」
「そんなぁ……」
「心配してくれてありがとね!
さあ、行きなさい!
人が来たらあなたは面倒に巻き込まれるわ。 この世界でも転生はご法度だもの! げぼぉ!」
「え、え?えええええ!?」
……間もなくエクスさんは意識を失った。
僕は言われた通りに近くにあった猫の血を舐めた。 正直気持ち悪かったけど、肉を食べるよりはマシだと思う。
僕の中で何かが変わった様な気がしたが、身体に変化は無かった。
「猫になれ!」
……何も起こらなかった。
しかし、身体の中で何かゾワゾワする気がする。 ……もっと強く念じるとか?
さっきより集中してイメージする。 猫……エクスさんのペットのこの黒い猫。
身体の中のゾワゾワがグルグル練り上げられて行く気配を感じる。こんな感じで良いのかな?
熟考。 更にイメージを強くして、グルグルにそのイメージをトレースして行く。
身体が熱くなる。 おそらく魔石とか言ってた箇所を起点に身体が熱を帯びている。 僕の身体は一度全体が
僕の身体は眼の前に横たわる猫と瓜二つに形成されたみたいだ。
手も脚も動く。 ん、両方脚か? 少し……否、かなり違和感はあるが、問題なく歩ける。
次にデスクの上にあると言うアダマンタイト合金?を捕食?しなきゃいけない……のか? 金属だよな?
……うん、エクスさんの言ってた通り、アダマンタイト合金と思われる
一粒口に含む。
思いきって飲み込んでみた。
……。
……例のゾワゾワが来た。
あれ? コレは何をイメージすれば良いのだろう?
金属は硬いから……硬い猫?
硬い猫。 とりあえずイメージしてみよう。 硬い猫。
例によってゾワゾワがグルグルに変わり身体が熱くなって行く。
特に見た目は変わっていない気がするが……?あ、爪!
とりあえずステンレスの様な金属製のデスクを爪で引っ掻いてみたら、金たわしの金属繊維みたいな鉄屑がクルクルと丸まって行く。
「ナニコレっ!? めっちゃ削れる!? ……あれ!? 猫だけど話せる!?」
この身体は解析した情報をベースに肉体をイメージすることで変形、変質させる事が出来るらしい。
硬い猫になった僕はデスクの端に置いていたバットに目をやると、エクスさんが言ってたデバイスらしきモノとクリスタル?が入っている。 が、しかし……僕は猫だ。どうやって持てば良い?
デバイスは腕時計のような形状をしている。 上手くすれば首輪の様に着けれるか?
クリスタルとやらはネックレス仕様になっている。 とりあえず腕時計にクルクル巻き付けとく?
……猫の手も借りたいとか言うことわざがあるが、猫の手じゃどうにもなりそうにないな。せめてこのまま人の手っぽくならないか?
……やってみるか。
イメージ。
ゾワゾワからのグルグル。
少し熱くなって来て…熱が手……否、前脚の方に伝わり……出来た!
「キモ!」
思わず声にして突っ込んでしったが、違和感がハンパない。 が、まあ、仕様には問題なさそうなので、デバイスにネックレスを巻き付けて首に装着してみた。
デバイスの使い方は後から考えるとして、とりあえずここから離れないと誰かが来てしまうかも知れない。
僕は前脚を元の形状に戻して、ラボを後にした。
「やっぱり人間なんてクソだ!」
エクスさんみたいに悪い人ばかりじゃない事は分かってる。 でも人と関わるとろくな事がない。
僕の場合はその上【クリムゾンレッドの呪い】がもれなく付いてくる。 これは本当にいただけない。
エクスさんが言ってたな、ここは異世界だと。 そして僕は今、人間ではなく猫だ。 魔力が回復すれば人間に戻れるらしいがそんな気はない。 とりあえず猫で生きてみよう。
ーー人間を傍観して、嘲笑しながら生きてやるーー
かくして、僕は猫としてまだ見ぬ異世界へと脚を踏み出した。
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