第045話 動画配信者

 会談から一夜明けた。


 日曜日。


 昨日は結局、会談が終わって帰宅した直後に緊張の糸がプッツンと切れてしまい、土曜日の残り半日はずっと寝込んでいたけれど、一晩でなんとか心身共に回復した。


 僕はもう大丈夫。


 朝7時過ぎ。


 僕は自宅で朝食を食べ終わってのんびりお茶を飲んでいた。


 ゆりっちから{仕事人}による通信が入って来た。


{ひまり、大変。今すぐ「ガーガーニュース」って検索して動画配信者「ガーガー」の最新の配信動画を見て。}


 言われた通りスマホで調べて再生してみた。


 ソファーに座ったTシャツに金髪の浅黒いおっさんが登場した。


ガ:「ガーガーニュースのガーガーです。」


「今日はなんと、首相官邸を支配し日本の国政を恐怖のどん底に叩き落した宇宙人が福岡市に現れるという驚愕のニュースをお伝えします。」


「ご存じの方も多いと思いますが、わたくしガーガー、実は自民党の党員でして、国会議員の知り合いもいるんです。」


「その筋の方からいただいた最新情報によると、なんとその宇宙人は福岡市内の県立高校に通っている女子高校生で、しかも宇宙人とのハーフだとか。」


「宇宙人は一昨日の昼過ぎ突然首相官邸に侵入し、戸高総理をはじめとする主要閣僚を拘束、人質に取って立てこもったそうです。」


「それから二日以上経過した現在に至るまで、日本の国政が甚大な影響を受けているんだとか…」


僕:「ぶっ!」


 お茶吹いたぞ。


 きさま、僕のお茶を返せ、ばか。


 なんだいそりゃ。これ、僕のことだよね、きっと。どこから情報が漏れたのだろうか。


 それにこれ、尾ひれがついたどころの話じゃないだろ。


 ひどいな。ひどすぎるなんてもんじゃない。


 誰が首相官邸を制圧しているだって?


 平和的にお話しただけだ。確かに、最初は侵入したけどさ。


 それに、誰が宇宙人のハーフだ。僕は先祖代々の日本人だ。


 しかし、動画配信者の勝手な妄想はまだまだ炸裂する。


ガ:「その宇宙人ハーフ女子高校生、名前を仮にアサガオちゃんって呼んでおきましょうか。もちろん、ガーガーは本名もばっちり知っているんですが、未成年の高校生ということで仮名にしておきます。」


「ガーガーの情報網を駆使し、アサガオちゃんが通っている高校も自宅の住所も把握しております。」


「そして、昨日はアサガオちゃんの自宅周辺に聞き込み取材を敢行して参りました。」


「アサガオちゃんの自宅は福岡市内の閑静な住宅街にあるんですが、なんと、昨日は早朝から周辺の路上に黒塗りの高級車がずらりと並んでたそうです。」


「では、昨日福岡市で撮影したインタビュー映像をどうぞ!」


 映像が切り替わって僕の自宅前の路上で近所のおばちゃんがインタビューを受ける様子が映った。


ガ:「今朝は宇宙人ハーフ女子高校生の(ピー)さんの自宅前に来ています。」


「こちらのご婦人は(ピー)さんのご近所さんだそうで、今朝は犬の散歩でこの辺りを通ったということです。」


「えー、では、その時の様子について改めて教えていただけますか。」


天:「それがね、すごかったのよ、ほんとに。(ピー)ちゃんの家の前、いつもは路駐する車なんて見ないんだけどね、この辺は。」


天:「それなのにまだ早い時間から真っ黒な高級車が何台も何台も並んでたのよ…」


ガ:「なるほど、あきらかに普段は見かけない怪しげな車が多数並んでいたんですね。」


天:「そうそう、しかもね、私はその時はいなかったんだけどさ、10時過ぎにここを通ったお隣さんが言うにはね、止まっていた車の1台が一瞬消えちゃったんだって!」


ガ:「なんですって、車が消えたんですか。」


天:「そうそう、ほんの一瞬だったらしいんだけどさ、跡形もなく消えたらしいのよ。」


「でさ、一瞬でまた戻ってきたのよ。そんなことってある?」


ガ:「いやー、ないですよね。もしかして宇宙人のUFOにさらわれてしまったんでしょうか。」


天:「宇宙人ですか…さあ、なんだかよくわからないけど、とにかくパッて消えたらしいの、パッってね。」


「それでね、戻るときもパッって戻ったんですって。30分後にもう一度見たらその車はもう止まってなかったんですって。」


ガ:「それは…不思議なことですね。その目撃者の方を後ほどご紹介いただけませんかね。」


天:「いやーそれは、ちょっと、あの、私が教えたってことになると嫌だから勘弁してよ。」


ガ:「それは残念です。気が変わったらこちらにご連絡ください。」


 男はおばちゃんに名刺を渡した。


ガ:「それでですね、こちらにお住まいの(ピー)さんについて教えてください。(ピー)さんって、どんな子なんでしょうか。」


天:「ん、そりゃ、あんた、ご近所で一番の天才児よ。しかも、まあ、とっても可愛いのよ。うちの孫の嫁に来てくれたらうれしいんだけどね、とにかく評判の良い子よ。」


「小さいころから賢くてね、今年から(ピー)高校に通っているわよ。この辺で一番頭のいい高校よ。」


ガ:「そうですか…実は私の入手した情報によると、(ピー)さんは宇宙人のハーフだそうで、宇宙人の力を使って昨日の昼過ぎ首相官邸に押し入って官僚を人質に立てこもったらしいんです。」


「普段の(ピー)さんにそんな様子はありませんでしたか。」


天:「なにそれ、そんな子じゃないですよ。ちょっと変わった子だけれど、とってもいい子よ。」


ガ:「もしかしたら今朝の車が消えた話も(ピー)さんの仕業ではないかと思うんです。」


天:「いやー、そんなことないんじゃない。それに(ピー)さんところはうちと同じで代々このあたりに住んでいるからハーフってことはないわよ。」


ガ:「そうですか…ありがとうございました。」


「以上、現場からガーガーがお伝えしました。」


 またソファーに座った画面に戻った。


ガ:「…というように、福岡市で大変なことが起きていることは間違いなさそうです。」


「その後は東京で取材の約束があったため、福岡でのインタビューはこの1件しか撮れませんでした。」


「東京でのインタビューも撮るには撮ったんですが、なんというか、まあ、諸事情によりこちらはまだお見せできません。」


「でもね、これだけは言えます。」


「とてつもなく大変なことが起こっています。」


「ガーガーニュースでは引き続きこの件を調査しています。続報をお待ちください。」


 なんだい、これは…


 顔が映らないように撮影していたけれど、あれ、絶対に天本さんのおばあちゃんだろ。まったく、何て取材を受けているんだ。


 でもあれ、目撃者がいたんだ。


 この辺は人通りもないから誰も見ていないと思っていたんだけれど、甘かったな。


 天本さんのお隣さんということは、目撃者は柴山さんちか…うーん、どうしよう。


 悩んでも仕方ない。いったん忘れよう。


 その時、染井秘書官から{日本政府}で通信が入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おたほね/僕はただのSFオタク女子高生なのに宇宙人から地球人保護を頼まれてしかも世界政府を樹立することになったんだが全く骨が折れるぜ! サリー・ゲナク @sarigenaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ