第043話 混迷する会談(4)

僕:「やはりお断りします。ずっと密着されてはたまりません。」


 僕は、即答した。僕には迷う余地なんか全くなかった。


僕:「僕が必要だと思った時だけ連絡して警護を依頼する、でどうでしょうか。」


淳:「それでは責任を持って警護できません、どうか…」


 そこで戸高総理が遮った。


総:「そこまでにしておきましょう。他に話すべきことが多いので。」


「この件はいったん私が預かります。公安委員長には私から説明します。いいですね。」


 田崎さんはやや不服そうな顔を覗かせたが、それは一瞬だった。


淳:「了解しました。ご裁定のほど、よろしくお願いいたします。」


 警護の件はこれでひとまず片付いた、のかな?


総:「話を整理します。しばしお待ちください。」


 戸高総理と染井秘書官が分厚いファイルをとっかえひっかえ見比べながら相談を始めた。それが1分ほど続いた。


 染井秘書官が話を始めた。


染:「では、田中さんが先ほど要望事項として上げられた件について。」


「田中さんのご要望をまとめると、日本国内の世論をまとめた上で、日本が世界中を併合し、世界政府を樹立して欲しい、そのために必要な宇宙人の先進技術や先進知識が田中さん経由で適宜供与される。」


「こういう理解でよいでしょうか。」


 来たよ。やっと本題か。今日一の重要案件だ。


 ここからが今日の勝負所だよ。


 なかなか的確にまとめている。さすがだね。


僕:「そんな感じです。」


染:「では、率直に申し上げますが…そんなことは不可能です。」


僕:「えっ…」


 我に返って周囲の大人たちを見まわした。


 みんな生暖かい目になっている。


 幼い子供の間違いを優しく諭す大人の目だ。


 なんか凄く気持ち悪い。


 僕の直観が告げている。


 ここにいる大人は全員、僕の敵だ。


 閣僚のおじいさんの一人がその先を引き取って話を始めた。


閣2:「ここからは私が説明しましょう。」


 この人は確か…誰だっけ、名前が出てこない。


閣2:「田中さんも学校で習ったかと思いますが…」


「政府は国民の負託を受けて成立し、国民のために働く機関です。」


「宇宙人が…銀河中心体のカーゲラリさんでしたっけ…突然やって来てあれやらこれやら指示されて駒のように動かされるわけにはいかないんですよ。」


「たとえその宇宙人がどれほど強大な力を持っているとしても、です。」


「仮に、田中さんのご要望通り日本国内の世論がまとまったとしましょう。」


「次は諸外国との外交が問題になります。」


「日本という国は日本国民の主権と領土・領海・領空で成り立っていますが、同時に周辺諸外国との協調関係にも支えられているのです。」


「宇宙人の強大な力を笠に着て諸外国を併合し、あまつさえ世界政府を樹立するなど、そんな前近代的な無茶は通らないのですよ。」


 改めて周囲の大人たちを見まわした。


 相変わらず生暖かい目だ。


 やはり、こいつらまとめて敵だな。


 奥の手、と思っていたけれど、ここで切り札を切るべきなのかな。


 が、ぐっと堪えて、ギリギリまで粘ってみることにした。


僕:「では、僕はどうすればよいのでしょうか。」


 閣僚のおじいさんは相貌を崩し、孫を見るおじいちゃんのような目になった。


閣2:「うんうん、そうだね、せっかく宇宙人の素晴らしい力を使えるのだから、それを国民のため、世界のために活用する方法を探るべきだよ。」


 口調も完全に孫に話しかけるおじいちゃん風になっているよ。


 もう一度、他の大人たちを見てみる。


 僕に味方しそうな人は…どうやらいないみたいだ。


 影ッちと僕の掲げる目的はどうでもいい感じの雰囲気を感じた。


 要するに、僕の持っている力を自分のところに取り込むことしか考えていないということなのかな。


 僕の熱弁は無駄だったのか。ものすごい脱力感だ。


 完全に油断していた僕の頭は豆腐の角でがつんと…ぽわん、かな…殴りつけられたような感覚だ。


 このままではまずい。いたたまれない。


 全部うっちゃらかして、今すぐおうちに帰りたい。


 が、僕は気を取り直し、さらに反論を試みることにした。


僕:「えっと、先ほどの僕の話はちゃんと聞いていましたか。」


「繰り返しになりますが、もう一度言います。」


「宇宙人の力は地球人を保護するためにだけ活用します。影ッち…カーゲラリさんとはそういう契約を結んでいますから。」


「このままだと三十年~百年で地球人は確実に滅亡するのです。」


「ここにいる政治家のみなさんのほとんどは30年後には死んでいるから、そんなこと関係ないとでもおっしゃるのでしょうか。」


「将来の世代に少しだけ思いを馳せていただけないでしょうか。」


「一刻も早く世界政府を樹立し、地球人滅亡の危機を回避したいのです。」


「それなのに、それ以外の目的で力を使えと言うのですか。」


 今度はまた別の閣僚のおじさんが質問してきたよ。

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