第042話 混迷する会談(3)

 頭数が若干減ったね。


 盗聴器騒ぎで少しだけ人が抜けた。


 おかげで息苦しさは減った気がする。


 すし詰め満員状態から、ちょっと満員状態くらいには改善された。


 会議の人数は少ない方がいいって、何かで読んだことあったけど、全くその通りだ。


 人が多すぎると話が進まないまま時間を浪費する。


 さっき抜けた数人以外が展望室に行く前と同じ座席配置に戻ったところで、僕は説明を再開した。


 やっと本題に入れる。


 僕は、あらかじめ言おうと思っていた内容を一気に説明した。


 銀河中心体がファースト・コンタクトしてきた理由。


 僕が考えた世界政府樹立への3ステップ。


 僕が日本国政府に期待する対応。


 いい年のおっさん、おじいちゃん30人くらいにびっしりと囲まれた女子高校生が一人で宇宙人について、地球人の未来について、マジに語っている。


 女性は染井秘書官と女性閣僚と女性官僚それぞれ1名ずつ、僕もあわせて全部で4人だけ。


 なんちゅうシュールでむさ苦しい絵面。男子校ってこんな感じなのかな。


 みんな一言もしゃべらず、まじめに聞いている。


 何人かの官僚さんがノートパソコンのキーボード音を響かせている。


 僕が一通りの説明を終えた時、時刻は終了予定の30分前、13時30分になっていた。


 今度は、染井秘書官が公式発表の内容とタイミングについて話を始めた。


染:「この件について、現時点では機密扱いとしていますが、一般に知れ渡るのは時間の問題でしょう。」


「先手を打って政府発表を行うことで政府主導をアピールするとともに、社会的混乱を最小限に抑えたいと思います。」


「内容はこれから精査しますが、宇宙人によるファースト・コンタクトの事実の公表と、日本国政府主導で行う施策などの説明になる予定です。」


「方向性が見えた段階で早めに公式発表を行います。発表日は今週末が理想的です。」


僕:「分かりました。僕もそれでいいと思います。」


 ここで、僕は全く予期していなかったけれど、僕の身辺警護について話が始まった。


淳:「では、次は私から。」


「田中ひまりさんの身辺警備を担当させていただきます、警視庁警備部警護課の田崎淳一警部補です。にごらないでタサキです。よろしくお願いいたします。」


「本日ただいまをもって田中ひまりさんの警備を開始します。」


「私の他に数名でローテーションを組み終日体制で警護させていただきます。」


「女性警察官だけで固めたいところですが、人員不足のため、ご了承ください。」


僕:「えっ!」


「終日って、今から24時間ずっと付きまとわれるのですか。」


淳:「そうです、基本的にずっと私どもの目の届く範囲から出ないでください。」


「勝手な行動をされますと保護できかねる場合があります。」


僕:「いりません。僕、自分の身は自分で守れますから、大丈夫です。不要です。」


淳:「そういうわけには。」


僕:「田崎さん、僕が今朝、外国の工作員にどう対処したか、お聞きになっていますか。」


淳:「もちろんです。各国工作員の備品を消したり、車両ごと宇宙空間に放り出したりと、やりたい放題だったとか。」


僕:「そうですね、だいたいそんな感じです。」


淳:「本当にそれだけの対処が可能であればよいのですが、俄かには信じがたいですね。」


 納得していないようなので実演してみせることにした。


 ちょっと申し訳ないけれど、田崎さんの周囲に時空間遮断膜の鉄格子を展開した。ひかりのリクエストで作ったやつだ。こんなところで役に立つとは思わなかった。


 田崎さんは突如として、自分の周囲を謎の物体にぐるりと取り囲まれた。


 音がするわけでも、何かが光るわけでもない、何の前兆も無く出現するからびっくりしただろうね。


淳:「………!」


 田崎さんは驚愕の表情を見せつつも、冷静さを保とうと頑張っているようだ。


僕:「今ご覧になっている通り、いざという時には自分の身は自分で守ります。」


 囚われの身となった田崎さんは周囲にいた数人と一緒になって時空間遮断膜でできた棒を力まかせに押したり引いたりし始めた。


 もちろん、びくともしない。


 そんな得体のしれないものを躊躇なく素手で触れるなんて迂闊過ぎないか。


 やがて、田崎さんはため息を漏らし、言った。


淳:「はぁ…田中さんに私たちの警備が不要だという根拠は分かりました。」


「田中さんはこのような能力を無制限に行使できるということでしょうか。」


僕:「それは最初に僕が説明したとおり、カーゲラリさんの担当する太陽系内…太陽を中心とするおおむね一光年の範囲ですが…であれば、僕が念じるだけで、瞬時に、かつ無制限に使えるそうです。」


「ただし、僕の心と体が対応できる範囲内、だそうです。」


淳:「確かに、それだけできるのであれば、今朝の工作員の話にも信憑性が出ます。」


「しかしですね、その能力も万能というわけではないでしょう。」


「警備というのはいくらやっても万全ということはないのです。」


「どんなに先進的な宇宙人の技術であっても手が回らないところが必ず発生するはずです。それに、手の内はできるだけ明かさないのも警備テクニックとして重要ですよ。」


 手の内か。みちっちと同じような事を言う人だな。この人もミリオタかな。


 もっとも、まだまだ隠している奥の手はあるんだけどね。


 沈黙の時間が過ぎてゆく。


 壁掛け時計の秒針を眺めていると、秒針が止まったのではないかと錯覚するほどゆっくり動いているように感じた。ほんの10秒くらいだったが、僕には長く感じられた。


淳:「どうでしょうか。不足するところを我々に警備させていただけないでしょうか。」


 とりあえず、用済みのようなので時空間遮断膜の鉄格子は消した。

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