第041話 混迷する会談(2)
なるほど、確かに。みんな一目見ておかないと納得しないよね。
よし、全員を展望室へご招待だ。
今朝セットしたばかりの畳とテーブルとクッションは、念のため、来る前に片付けておいたよ。やっておいてよかった。
会談の後で何人かに見せるかもしれないとは想定していた。
会談の前に、それもこれほどの大人数に見せることは想定外だった。
僕:「そういうことでしたら…出入口の穴を…空間プラグを…開けたいんですが。」
「すし詰め満員の執務室には危険すぎて空間プラグを開けられません。」
「いったん廊下に出て、廊下から開きますけれど、それでも良いですか。」
総:「わかりました、廊下に移動しましょう。」
僕と戸高総理が立ち上がると、また大騒ぎが始まった。
本当に騒がしい集団だ。男子小学生みたい。
カメラマンが一斉にカメラと三脚を抱えて廊下に移動し出した。
白衣の集団は怪しげな測定装置を抱えて動き出した。
混迷しているなぁ。移動教室かよ。
全員が廊下に出て来た。改めて見るとすごい人数だ。
よくこれだけ全部あの執務室に収まっていたものだ。
僕:「では、これから出入り口の穴となる空間プラグを開きます。」
問題なく開いた。
しかし、最後尾で測定機器を構えていた白衣の集団がぽつりと漏らした。
白1:「うわあ、何だこの数値は。」
僕を含め、その場の全員が一斉に後ろを振り返った。
白衣の数人が一つの測定装置の前に集まって何やら議論を始めた。
ついに戸高総理が口をはさんだ。
総:「何か問題ですか。危険があるようなら教えてください。」
白衣の一人が応えた。
白2:「いえ、危険はありません。安全です。ですが、出入口が現れた瞬間、放射線量が急増しまして、もう戻っています。いずれにせよ安全な範囲で問題ありません。」
放射線といえば、影ッちが最初に説明していたのを思い出した。
空間プラグを操作すると特殊なパターンの放射線が出るんだって。確か、ガンマ線とか言ってたかな。
放射線といっても、人体への影響は心配する必要のないレベルの微弱なものらしい。
技術的には完璧に放射線を遮蔽できるんだけれど、そのレベルの技術はまだ地球人に供与できないから、意図的に放置しているそうだ。
白衣の人たちは「気にせず進めてください。」と言う感じの合図を手で送って来た。
まったく人騒がせだな。
僕は気を取り直してみんなを展望室へ誘導した。
僕:「では、お入りください。」
「土足厳禁なので、靴は廊下で脱いで入ってください。」
「それから、スリッパは先着10名様分しかご用意していません。」
「ごめんなさい、こんな大人数になるとは想定していなかったものですから。」
ぞろぞろぞろぞろ…
次々と人が吸い込まれていく。
ちょっと不安になってきた。
{リンク}であおいに確認した。
僕:{これ、全員入っても大丈夫だよね。}
お:{問題ありません。必要であれば一時的に大きくしましょうか。}
僕:{あ、それはいい。このままで。}
すごい。全員が入っちゃったよ。
執務室の時と比べても負けず劣らずぎっしりすし詰め満員状態になった。
人々はため息を漏らしながら窓からの景色を眺めている。
白3:「GPS測位、出ました。」
白4:「この速度と高度、確かに静止軌道上だね。」
白5:「ここの構造はどうなっている。どうやって軌道を維持しているんだ。」
例の白衣の数人の会話が漏れ聞こえてくる。
場所を譲り合いながら全員が景色を眺めている。
スマホでパシャパシャ撮影する音がうるさいくらい続いている。
5分もすると全員が一通り見終わった感じだ。何かの観光ツアーみたいだ。
もう追い出してもいいかな。
僕:「そろそろ出ていただいてよろしいでしょうか。」
戸高総理を先頭に全員が廊下へぞろぞろと移動を始めた。
全員の退出を確認したので空間プラグを閉じようとした。
と、そこであおいから{リンク}が来た。
お:{ちょっと待って。展望室のソファーの下に残留物があります。}
僕:{ん、何ごとだい。誰かの忘れ物とか。}
お:{意図的にソファーの下に装置を隠蔽した参加者がいます。}
{極超短波のビーコン発信機および盗聴装置です。}
えええええ、まじですか…誰やねん。
僕:{その盗聴器をいつ誰が設置したか分かるかい。}
あおいはその瞬間の映像を送って来た。
僕は脳内で映像を確認した。
僕:{なるほどね。犯人は分かった。ありがとう。}
背の高い男性が靴を直すふりをしてソファー裏にしゃがみ込み、そのままソファー下に手のひらくらいのサイズの装置を2個ねじ込んでいた。
しかも、展望室に入ってすぐの犯行だ。
この人は名刺を頂いていないから閣僚ではない。官僚さんだ。
はぁ、どうしてくれようか。
僕は空間プラグを開いたまま、戸高総理に告げた。
僕:「失礼します。戸高総理。ちょっとお尋ねです。」
「展望室への盗聴器の設置は戸高総理の指示されるところですか。」
廊下がまた騒然としだした。
戸高総理の反応をじっと待つ。
総:「盗聴器ですか。もしかして、今、誰かがやったということですか。」
僕:「はい、置き忘れなどの過失ではありません。間違いなく、明確な悪意に基づき盗聴器を設置しています。」
総:「それは私の指示ではありません。」
戸高総理は官僚たちに向き直って聞いた。
総:「いま、誰か盗聴器を設置しましたか。」
誰も名乗り出ない。
戸高総理は僕の方に向き直って言った。
総:「あの、犯人はお分かりなんですよね。」
僕:「もちろんです。この場で言っちゃっていいんですかね。」
総:「構いません、教えて下さい。こちらで厳正に対処します。」
僕:「分かりました。」
僕はあおいからもらった記録映像をその場の全員が見えるくらい大きなサイズで廊下の中空に表示させた。
閣僚のおじさんの一人の表情が険しくなったかと思うと、犯人をにらみつけながら一喝した。
閣1:「何をやっているんだ!」
犯人の官僚さんはバレたにも拘らず割とふてぶてしそうな態度を崩さず、むしろ舌打ちでもしそうな勢いだ。
あっという間に犯人の周りを何人かの官僚さん達がぐるりと囲んでいた。
閣1:「申し訳ありません、総理、このあとの会談は抜けさせていただきます。」
総:「分かった。後始末をお願いします。」
その閣僚のおじさんは総理と簡単なやり取りをした。
犯人は数人の官僚に取り囲まれた状態でどこかに連行されて行った。
僕:「映像でご覧頂いた通り、装置はソファーの下に2個ねじ込んであります。」
「どなたか、回収をお願いできますか。」
僕が頼むと、一人の官僚のおじさんが展望室に入って行った。
しばらくして、2個の装置をハンカチにくるんで戻ってきた。
そのおじさんも装置を持ってそのままどこかへ去って行った。
僕:{あおい、もう空間プラグを閉じていいかな。}
お:{問題ありません。}
僕は廊下の空間プラグを閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます