第040話 混迷する会談(1)
土曜日、午後0時50分。
首相官邸での会談まであと10分。
僕は展望室のソファーで待機中だ。
会談には当初の予定通り、僕一人で行くことにした。
ただし、あおいには{リンク}接続状態で遠隔支援してもらうよう頼んでいる。
現地では僕は孤立無援になるから、念のための準備だ。
午後0時55分。
首相官邸総理執務室の遠隔監視をスタートした。
その瞬間、僕は仰天して目が点になったまま戻らない。
僕:「うっ…いったい何人詰め込んでいるんだ。」
想定外の人数だった。すし詰め満員状態だ。
パイプ椅子に座った官僚っぽい人とか、自衛官らしき制服を着た人とか、ざっと数えると四十人くらいいる。
うちのクラスの生徒全員と同じかちょっと少ない人数が密にずっしり並んでいる。
テレビカメラが入って来るなんて聞いていない。
十台もびっしりと並んでいる。アイドルの離婚会見でも始まるのかな。
一瞬、マスコミかとも思ったけれど、官僚らしき職員がカメラマンとして付いているから、各省庁から一台ずつ用意している感じかな。
さすがに僕に相談もなく、いきなりマスコミを入れたりはしていないようだ。
カメラ列のさらに後方には意味不明な測定機器らしきものが何台も並んでいて、それを操作している白衣の人たちがこれまた多数控えている。
全力で来ている感じだ。
でもまあ、拉致しようとしていないだけ良心的だろう。
会場はもっと広いところを指定すればよかったかな。
いや、違うか。
広い会場だと、もっと遠慮なく大人数が来て、凄まじい装置が用意されていたかも。
これでは室内に空間プラグを開く場所がない。
時間ギリギリまで考えあぐねた。
やむを得ない。
僕は執務室のドアの外の廊下に空間プラグを開き、廊下に出るとすぐ空間プラグを閉じた。
僕は執務室のドアを普通に3回ノックした。
僕:「こんにちは、13時から会談のお約束をしていた田中ひまりです。」
次の瞬間、室内が大騒ぎになった。
何て言っているか良く聞こえないけれど、怒号が飛び交っている。
ドアが中から開いた。
染井秘書官がにこやかに会釈して出迎えた。
染:「今日はドアの外からでしたか。すみません、気がつきませんで。」
僕:「ええ、人が多くて中に穴を開けられなかったもので。こちらこそすみません。」
ギリギリで10時前に首相官邸総理執務室へ入ることができた。
うっ、視線が刺さるぅうう。
みんな、か弱い女子高校生に何をするつもりなんだよ。
中学3年生の時に作文コンクールに入選して全校集会で表彰されたときより緊張する。
染井秘書官の案内でソファーに座った。
テーブルの上には、何十個もICレコーダーが並べてあるよ。電気屋さんが開けるくらいの個数だね。
まさに衆人環視。
僕、これ今日ちゃんと説明できるかな。
戸高総理が切り出す。
総:「お待ちしていました、田中ひまりさん」
「改めまして、内閣総理大臣戸高です。」
所属も肩書も住所も電話番号すらも無い。ただ「戸高孝頼」と名前しか印刷されていないシンプルな名刺を受け取った。こんな名刺は初めて見た。おもしろい。
僕:「あ、どうも、改めまして、田中ひまりです。」
染:「そういえば、私もまだでしたね。改めまして、秘書官の染井好子です。」
以下、閣僚さんと官僚さんが次々とあいさつしに来たよ。
「官房長官の……」
「外務大臣の……」
「防衛大臣の……」
「文部科学大臣の……」
………
あっという間にトランプができそうな枚数のお名刺を頂いた。
とりあえず全部テーブルの上に並べておくか。
いつもニュースで見ている政治家さんがちらほらいる。
自衛官らしき制服を着た人もいるけれど、全く知らない。名刺を見ても「防衛省陸上自衛隊統合幕僚うんたらかんたら」とか意味不明な肩書で良く分からない。
全員の名前を覚えられる気がしない。
いつのまにかお茶が出ていた。
こんな時の礼儀作法とかあった気がするけれど、今はそれどころじゃない。
お茶は一気飲みさせてもらった。
めちゃくちゃ良い茶葉だ。感動した。
少し息を付けた感じだ。
そのまま勢いに乗って、僕は説明を始めた。
僕:「みなさん、ありがとうございます。では、今から状況説明をさせていただきます。」
「こんなに大勢でいらっしゃるとは想定外でしたが、一時間ほどお付き合いください。」
「僕は福岡県立西新高校1年生、田中ひまりです。」
「地球人の文明をはるかに超越した知的生命体『銀河中心体』から地球人保護を依頼されてきました。」
ここで戸高総理が止めに入った。
総:「田中さん、お願いがあります。昨日お見せいただいた静止軌道からの景色ですが、本題に入られる前に、皆さんにも見せていただけませんか。」
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