第036話 工作員(6)

 戸高総理との会談を午後に控えた土曜日の朝、午前7時。


 リビングで朝食を食べつつ、ゆりっちに{仕事人}で呼びかけた。


僕:{ゆりっち、もう朝食とか食べたかな。お邪魔だったらごめんね。}


ゆ:{大丈夫。こちら、いまから朝食。}


僕:{僕も、今から朝食なんだ。このまま一緒にリモート朝食会にしてもいいかな。}


ゆ:{もちろん。}


{私もその後のことが気になってたんだ。}


 そのまま{仕事人}でリモート朝食会を始めた。


 声を出さないで連絡できるのって本当に便利だ。


 黙々と朝食を食べ続けながらお話しできちゃう。


 はたから見たら黙って食べている風にしか見えないだろうな。


 これはいい。


 ひかりには「お行儀悪い」なんて言っちゃったけれど、後で謝っておこう。


僕:{今朝の土曜授業だけど。}


{僕、サボるよ。それどころじゃないからね。しかたない。}


{それでね、ゆりっちに言われた通り、戸高総理に電話したよ。}


{色々大変だったけど、最終的にはゆりっちの作戦通り外交ルートで発出してもらえた。}


ゆ:{え、本当にもう終わらせたの。}


{まだ30分くらいしかたってないけど。ていうか、朝7時だけど。}


僕:{僕も良く分からないんだけど、朝早くから総理も秘書官さんもその他大勢のスタッフさん達もたくさんそろっていたみたいで話が速かった。}


{突発的な重要案件に対処するためとかで昨日の午後から不眠不休らしいよ。}


{総理大臣って大変なんだなって、同情しちゃったね。}


ゆ:{ひまり、それって、もしかしてだけどさ。}


僕:{はい?}


ゆ:{その突発的な重要案件って、ひまりの件じゃないのかな。}


僕:{ん?ん!}


ゆ:{いま国会も忙しい時期だから違っているかもしれないけれどさ。}


{それにしたって、タイミング的に国会で徹夜するほどの案件は無いと思うよ。}


{午後のひまりとの会談に備えて忙しかったのではないかな。}


僕:{え~まさか。僕が原因ってことなの。}


ゆ:{自覚していないみたいだけれど、十分に世界を揺るがす重要案件だよ。}


 なるほど。戸高総理の含みのある言い回しにも納得できる。


 ゆりっちに指摘される今の今まで全く思い浮かばなかった。


 さっき、外交ルートをお願いする時はちょっときつい言い方しちゃったかな。


 いろいろとすまん、戸高総理。


僕:{そうなのかも。はぁ。みんなごめんなさいって感じだよ。}


ゆ:{ひまりが謝るようなことではないと思うけど。}


 さて、いよいよ本題だ。


 僕はさっき思いついたことをゆりっちにぶつけてみたよ。


僕:{今日、このあと、午前中はずっと一緒にいて僕を補佐してくれないかな。}


{今日はゆりっちのような参謀が必要なんだ。}


{午前中は特に大変そうだから手伝って欲しい。}


{工作員への対処が終わるまで付き合ってもらえないかな。}


ゆ:{分かっている。私もそのつもりだった。私で役に立つなら行こう。}


{土曜授業は私も一緒にサボっちゃう。}


僕:{なんかごめんね、ゆりっち。}


 その瞬間、いきなり影ッちから{リンク}が入ってきた。


影:{英国、フランス、中国、ロシア、イスラエル、インドの6ヶ国が撤収した。}


 はっ、しまった。忘れていた。この1時間は凄まじかったから、まあ仕方ない。


 ここまで影ッちが全部チェックしていたんだ。


 しばらく{リンク}は切るなって言われて今朝からずっと繋ぎっ放しだった。


 ゆりっちとのリモート朝食会ですっかり油断しきっていた僕は、もう少しでご飯を口から吹き出すところだった。


 影ッちの説明が続く。


影:{この6ヶ国については、拉致および監視の全車両が撤収している。}


{新たに日本国の公安警察と防衛省の監視グループが到着している。}


{公安警察と防衛省はどちらもドローンを飛ばしている。}


{北朝鮮は内輪揉めが起こっているようである。}


{米国は全く動きがない。君を誘拐したいという強固な意志のようである。}


 ありがとう、影ッち。


 外交ルートの成果が出始めたみたいだ。


 公安警察ってなんだそりゃ。普通の警察と何が違うんだろうか。


 防衛省ってことは、自衛隊だよな。


 窓の外を確認して見た。


 確かに、黒塗りの車がごっそり減って4台になっている。


 そのうち2台はさっきまでいなかった新たな車両に見える。車種とか詳しくないけれど、ぱっと見のデザインとか大きさが全く異なっているから間違いない。


 この2台が公安警察と防衛省だろう。


 どちらも僕を守るために来てくれたんだよね。戸高総理も電話口でそんなことを言っていた気がする。


 僕はそのまますぐゆりっちに伝えた。


ゆ:{分かった。効果が出ているようでよかった。}


{朝食が終わったらすぐ続きを話そう。早目に色々と話しておきたい。私は食べ終わった。}


僕:{わかった。僕も今ちょうど食べ終わった。すぐ展望室へ移動する。}


ゆ:{待ってる。}


 二度寝しているひかりは乗り気じゃないみたいだし、このまま寝かせておこう。


 人工個体3人娘は役に立つかもしれないけれど、お母さんの手伝いで忙しそうだ。いざとなったら呼ぶことにして、今は連れて行かない。


 影ッちがいるし、ゆりっちと2人でも大丈夫だ。がんばって対応しよう。

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