第033話 工作員(3)

 僕は{仕事人}に初の一斉メッセージを流した。


僕:{みんな、早朝からごめんね。ひまりです。今、緊急事態なんだけれど、これからすぐ相談に乗ってもらえる人はいませんか?}


 ひかり以外の3人が即座に反応した。みんな早起きだ。


 まだ寝ていたひかりは「こんな起こされ方いやだよ~」と言いながら私の部屋に文句を言いに来た。


 その場で空間プラグを開き、僕とひかり、人工個体3人娘の5人で展望室へ移動した。


 次に、ゆりっち、みっちっち、みほっちの3人の自宅とも空間プラグをつないで上がってきてもらった。


 {仕事人}グループ8人全員が初めて集まった。


 招集からここまで、3分間で終わった。話が速い!


 僕も含めて、集まった8人はみんなほぼ寝起きのゆるい恰好でそのまま来ている。


{リンク}接続中の影ッちもチェックしている。


僕:「急な相談にすぐ反応してくれてありがとう。緊急案件だったので助かるよ。」


「こんな形になってしまったけれど、仕事人グループの第1回ミーティングです。」


「みんなはまだ朝食も食べてないかな。僕もさっき起きたばかりなんだけどね。」


「朝食の前に手早く片付けたいのでご協力をお願いします。」


「みんなは初対面だから、簡単に自己紹介をお願いしていいかな。」


「まずは僕から。僕は西新高校1年生の田中ひまりだけど、全員もう知っているよね。」


「じゃ、次、ひかり、ご挨拶して。ひかりは僕の妹だよ。」


ひ:「おはようございます。ひかりです。百路(ももち)中学校1年3組、帰宅部です。」


僕:「その隣の3人は人工個体です。人工個体については話が長くなるのでまた後でしますが、長門有希ちゃんみたいな感じだと思って下さい。」


 「長門有希」ってところで、候補者3人娘のみちっち、みほっち、ゆりっちはハッとした顔になったけれど、飲み込んでスルーしてくれた。後でしっかり説明しよう。


お:「あおいです。人工個体です。リーダーキャラ設定です。」


か:「あかりです。人工個体です。運動担当キャラ設定です。」


ん:「あんなです。人工個体です。お笑い担当キャラ設定です。」


 ツッコミどころ満載の自己紹介だ。ゆりっち、みちっち、みほっちの反応も微妙だ。


僕:「じゃ、次、ゆりっちから順に、お願い。」


ゆ:「西新高校1年の天本百合です。柔道部です。ひまりと幼なじみです。」


 ゆりっち、言われなきゃ絶対に柔道部とは思えない華奢な体形の美少女だ。


ち:「野間高校1年の片岡美知です。山岳部です。」


 みちっち、改めて眺めると山岳部らしくバランスの良い体系の美少女だ。


ほ:「堅粕高校1年の中川美保です。文芸部です。」


 みほっちは相変わらず深窓の令嬢って感じの物静かな美少女だ。


 僕以外の候補者3人は全員とびっきりの美少女だ。


 僕がなんでこの美少女たちと同列の判定なのか、いまだに全く理解できない。


 おっと、今そんなことはどうでもいい。


 みんなよく来てくれた。変わり種ばかりだから、こんな時には最高の組合せだ。


 もちろん、みんなの前でそんなことは口にしない。


僕:「ありがとう。僕は堅苦しいの苦手だから気軽な感じでよろしくね。」


 返事がない。


 が、ここはあえて空気なんか読まずガリガリ進行しちゃおう。


僕:「最後に、みんなからは分からないと思うけれど、今朝こういう事態になってからずっと影ッちと{リンク}で接続中です。」


「今回、影ッちにはなるべく『聞いているだけ』での参加をお願いしているから、特に何もなければ気にしなくていいよ。」


「これまでの背景と今朝起こった問題を説明するね。」


 僕は昨日の首相官邸訪問から今朝までの経緯を簡単に説明した。


 ゆりっち、みほっち、みちっちの3人はやる気満々の顔つきになっている。


 ひかりは「なんで私が参加しなきゃいけないの?」って顔をしている。


 耐えられそうになければ、ひかりは途中で外そう。


 人工個体3人娘は何というか無表情。


 僕の説明を受けて、みちっちが口火を切った。


ち:「私は5歳上の兄がミリオタでね、戦術とか戦略とか、要りもしないのに色々叩き込まれてきたんだけどさ。」


僕:「えっと、ごめん、僕良く分からなかったんだけど、ミリオタって、何。」


ち:「あ、ミリオタはミリタリー・オタク。軍事技術とか軍事装備とか軍事訓練とかが好きな人のこと。軍事装備を購入したり、山の中で軍事訓練ごっごしたり、そういう趣味の人のこと、かな。」


僕:「なるほど、わかったよ。たまにいるよね、そう言う人。」


ち:「それでね、この状況ではまず、できるだけこちらの手札を明かさない方がいいと思うんだ。」


「手札、奥の手はできるだけ隠し持っておく。戦術・戦略の基本だと思う。」


 そういえば、ゆりっちも良く戦術とか戦略とか言ってるな。ゆりっちはミリオタじゃないけれど、みちっちとは気が合うかも。


ち:「こちらの情報を知られれば知られるほど、相手が対抗策を打ちやすくなり、こちらはやりにくくなる。」


「逆に、相手については徹底的に情報収集するべき。それだけこちらの選択肢が増えて決断が楽になる。」


 それはもっともだ。さすがミリオタの妹。ミリオタのお兄さんに感謝だ。


僕:「分かった、ちょっと待って。影ッちに工作員の情報収集を頼んでみる。」


 影ッち、8か国の情報収集よろしくね。


僕:「ウッ!」


 影ッちが瞬時に{リンク}で大量の詳細情報を僕にダウンロードしやがった。


 緊急時とはいえ容赦ないな。次はもう少しゆっくり目の送信をお願いしよう。


 でも、よい仕事だ。ありがとう、影ッち。


僕:「影ッちから詳細な情報を貰ったから、重要そうな情報を選んで説明するよ。」


「現時点で僕を監視している8か国のうち、差し迫って脅威となるのは、最初にも説明した通り、僕の拉致を計画している中国、ロシア、米国、北朝鮮の4か国。」


「まずは、この4ヶ国をなんとか対処したい。監視だけの国は放置でいいかな。」


「この4か国は各国とも違法な武器を隠蔽して待機中。」


「武器・装備は国によってバラバラなんだけど、ざっと並べると、銃火器類、爆薬、閃光手榴弾、スタンガン、催涙弾、発煙筒、特殊警棒、ダクトテープ、結束バンド、などなどだ。」


「北朝鮮だけ迫撃砲とか青酸化合物とかVXガスとか、一段と物騒な装備がある。」


「こんなのが相手だから、僕に万一のことがあった場合のことも話しておく。」


「僕が判断力を無くす自体になった場合、影ッちが展望室に運んで手当てしてくれることになっている。その際の臨時の指揮は人工個体にお任せするよ。優先順は、あおい、あかり、あんなの順で。」


「各国の通信手段はいつでも影ッちが物理的に封鎖可能。端末そのものの物理的遮断、基地局のデータサーバへの操作、なんでもできるよ。」


 そこで、みちっちから意見が出た。


ち:「いきなり通信遮断すると、こっちの手の内を明かすことになっちゃう。」


僕:「それがどうして手の内を明かすことになるのかな。」


ち:「そういう能力を持っているってバレちゃうでしょう。」


 なるほど、そうか。そりゃそうだな、難しいな。


ち:「それから、各国に情報が漏れたのは間違いなく首相官邸からでしょう。政府の情報管理はいったいどうなっているのかしら。いずれにせよ、今後、政府に出す情報には注意した方がいい。」


僕:「それは僕も思った。」


ち:「ひまりさんが首相官邸で見せた時空間遮断膜と空間プラグについては工作員たちも存在を知っていて、何らかの対抗策を準備していると見るべきじゃないかな。」


僕:「ちょっと待って、僕はほぼ瞬時に時空間遮断膜と空間プラグを起動できるんだけれど、それにどんな対抗手段があるのかな。」


 これにはみほっちが反応した。


ほ:「毒物系とか。」


僕:「毒物は大丈夫。最初に説明した通り、安全回路が教えてくれるから、すぐ対処する。」


ち:「いや、それもやっぱり初手から手札を切ることになっているよ。」


 と、みちっちがつっこんだ。


ち:「毒物などの危険を検知する能力があるってバレちゃう。」


 面倒だな。


僕:「それじゃあ、いきなり手の内を明かさず対処するにはどうすればいいの。」


「誰か、他の選択肢はない?」


 そこでゆりっちから、いかにもゆりっちらしい意見が出た。

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