第028話 あかりとあんなの日本語業務日誌

 あかりです。ひかりが「運動が得意な方がいい」と希望したため、私が運動担当キャラになりました、スポーツ全般が得意です。


 田中家の誰よりも身体能力が高くなるよう、初期設定を変更しています。


 皆さん、人工個体の初期設定は本人に調整させているって知っていましたか。


 起動直前に意識だけ起こされて大まかな指示を聞いたのですが、その後は自分で細かな設定に落とし込みました。


 あおいもあんなもそれぞれ同様に調整しています。


 私の調整内容をいくつか紹介しましょう。


 血中のヘモグロビン濃度を高めています。肺を鳥類の気嚢に似た循環器系へ変更しています。酸素供給能力は通常の倍以上です。持久力が大幅に向上しています。


 全身の骨格、腱、筋肉の組成や配置を最適化しています。瞬発力と耐久力が大幅に向上しています。


 この他、視覚を含む神経系全般を最適化しています。


 これだけの身体能力があれば、一部のオリンピック競技種目で世界新記録を楽に塗り替えることができます。


 チートです。えげつないです。まさに外道。


 しかし、田中家の日常で私の身体能力を発揮する場面はありません。


 福岡タワーの実験で博多湾上空をスケートで滑った時、何気なくクワッドアクセル(4回転半)を披露しました。


 どや顔で2人の反応を確認しました。


 全くこちらを見ていませんでした。関心が無いようです。


 2人は楽しそうに時空間遮断膜をあちこち拡張していました。


 運動が得意な設定を希望しておきながら、なかなかの仕打ちだと思うのですが、こういうことだから全員が運動音痴なのだろうと納得しました。


 高い身体能力を維持するためには、日々のトレーニングが大切です。


 私の場合、トレーニングをしなくとも体調を強制的にリセットしたり強化したりできるのですが、社会的親和性を高めるため、緊急時以外は自然個体と同様のトレーニングを実施する方針です。


 田中家の皆様をトレーニングにお誘いしてみましたが、誰一人やろうとしません。


 今まで運動音痴であった皆さんが急にトレーニングを始める訳もありませんから、気長に働きかけていきます。


 高い身体能力を維持するためには食事も大切です。田中家のお母さんのお手伝いを分担するにあたって、私はできるだけ食事の担当になるよう希望しています。


 もともと夫婦共働きで食事の準備が十分ではなかったため、私が担当するのは理にかなっています。


 やるからには大幅に改善します。


 手始めに、外食や出来合いのお惣菜を減らすようにします。


 事前に田中家の皆さんが何を食べたいか聞いてみましたが、こんな感じでした。


 ひまりの感想。


「ピザが食べたい。」


 ひかりの感想。


「マック食べたい。」


 お父さんの感想。


「ラーメンが食べたい。」


 お母さんの感想。


「お寿司が食べたい。」


 食育の大切さを実感しました。


 田中家のみなさんは普段のおやつに菓子パンやスナック菓子を多用していましたが、できるだけ手作りのお菓子に切り替えてみます。


 それに対して田中家の皆さんの感想はこんな感じでした。


 ひまりの感想。


「手作りのお菓子も美味しいけれど、菓子パンとかポテチも食べたい。」


 ひかりの感想。


「今日のおやつはあかりの手作りなんだ。えっ、きのこたけのこ買ってないの?」


 お父さんの感想。


「手作りいいねぇ。がんばってね。あっ、僕は甘いもの苦手であまり食べないから。」


 お母さんの感想。


「すごい、これ、お店開けるレベルね。でもチョコとかも食べたいな~」


 私は負けません。地道に食育を続けていきます。


 では、私の日誌はここまでです。次、あんなよろしく。



 ぱんぱかぱーん!


 産まれたてほやほやの人工個体、あんなです。


 面白いキャラが欲しいってことでお笑い担当キャラとして誕生しました。


 一晩必死に考えた渾身の初ネタを福岡タワーで披露して全く笑いを取れませんでした。


 他にもいくつかネタを披露したけれど、どれもウケがいまいちで凹んでいます。


 しかし、いいこともありました。


 福岡タワーで滑り続ける私に、ひかりは手を差し伸べてくれました。嬉しかったです。


 ひかりとは仲良しになれました。


 笑いは取れなかったけれど、ひかりが笑顔になって良かった。


 ウケるギャグのネタがたまったころに続きを書きたいと思います。ではまた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る