第027話 あおいの日本語業務日誌

 私は生成4日目の人工個体「田中あおい」(以下、あおいとします)です。銀河中心体で未開文明保護を行う役人(現在は地球人担当)であるカーゲラリ(以下、影ッちとします)が生成したインターフェイスです。


 影ッちの依頼があったので、このような「日本語業務日誌」を作成しています。


 影ッちとは全感覚共有が可能であるため、このような日誌に直接的な意味は全く無いのですが、自然個体に近い社会的親和性を獲得するという点では非常に効果的であり、対象の自然個体に対する浸透を進めるという点で間接的に重要です。


 当初、日本国の伝統に従って和紙に墨と筆で書くように指定されましたが、現時点の生活環境では非効率的であることから、文字データの直接生成と送信を行うこととなりました。


 先日から地球人に対する「レベル3/知識供与と連携」が開始され、私は管理国家「日本国」の窓口となる自然個体田中ひまり(以下、ひまりとします)を支援するためひまりの管理下に入りました。


 これまでのところ、田中家を含む地球人との接触は友好的かつ効果的に展開されています。大きな問題は発生していません。


 ひまりは付与された技術を十分に使いこなしており、業務遂行能力に問題はありません。目標達成に向けて立案した戦略も適切であると判断します。順調に進めば2年程度で目標を達成すると予想します。


 以上、概要です。


 以下、補足します。


 私と同時に起動した人工個体は他に2体あります。いずれもひまりの命名で、田中あかり、田中あんなです。以下、あかり、あんなと呼びます。


 各人の初期状態(身体的特性、性格、能力など)はひまりの指定に可能な限り近くなるよう設定されています。


 ただし、ひまりによる設定とは全く別に、影ッちの要望による実験動作がいくつか設定されています。


 実験は主に社会的親和性を図るためのデータ収集です。


 過去の古典的作品などから状況が近い発言を模倣することで自然個体から引き出される反応を観察しています。


 最初は夏目漱石の小説「吾輩は猫である」冒頭の模倣でした。結果は、表面的には

、ほぼ無反応でした。


 次は谷川流のライトノベル(いわゆるラノベ)「涼宮ハルヒの憂鬱」でした。結果はやはり、表面的には、ほぼ無反応でした。


 しかし、表面的な反応と裏腹に、思考読み取りにより確認すると、内面的には意図的に無視するという反応でした。


 つまり厳密には「無反応を装った無視」でした。


 なぜそのような反応になるのか、引き続きデータ収集を継続します。



 次に、福岡タワーにおける時空間遮断膜と空間プラグの練習及び実験についてです。


 主題の練習及び実験は大きな問題もなく終了しました。


 しかし、その間にアストマ工作員とのニアミスが発生しました。ひまりが安全手順を熟知していないことから生じたトラブルでした。


 これらは致命的なリスクではないため、安全回路が起動しませんでした。また、私の検知しうる範囲で直接的な危険が無かったため、特段の行動を起こしませんでした。


 月曜日からは、ひまりの提案により、ひまりが学校に行く間、人工個体の3人はひまりと{リンク}をつなぎっぱなしにして3人で高校生活を疑似体験しています。


 学校の授業の合間には、影ッちが選んだ候補者を{仕事人}に勧誘していました。空間ゲートの運用はやはり安全手順を熟知しているとは言い難いものでした。


 この時もやはり、致命的なリスクではないため、安全回路が起動しませんでした。また、私の検知しうる範囲で直接的な危険が無かったため、特段の行動を起こしませんでした。


 補足は以上です。


 現在、支援対象であるひまりをはじめとする田中家の家族は夜間の睡眠に入り活動を休止しています。私も間もなく同様の休止状態を取ります。


 日誌は、あおい、あかり、あんなの順で書くことになっています。私の日誌はここまでです。次は、あかりに書いてもらいましょう。

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