第024話 {仕事人}の勧誘(1)

 月曜日。


 学校には普通に行く。


 今週の目標は、影ッちとのファースト・コンタクトの時に聞いておいた僕以外の候補者を尋ねて{仕事人}への参加をお願いすることだ。


 影ッちに選ばれた候補者は、僕も含めて西新高校から2人、堅粕高校と野間高校から1人ずつ、合計4人だ。今週は学校の合間を縫って、僕以外の3人全員のところへお話ししに行く。


 全員が、福岡市内にある福岡県立高校の「御三家」と呼ばれる三校に、この春入学した女子生徒ばかりだ。影ッちが「偏差値が高い」と言う条件で選んだだけあって、どれも県立高校ではトップ校だ。


 この3人の中には「三日三晩悩んだ末に記憶を消された可哀相な子」が含まれている。


 それは誰だったのかって?


 それはね、そもそも誰かが「記憶を消された」なんてこと自体を秘密にすることにした。


 本人はおろか、誰にも言わない、一生明かさないつもりだ。「最初の候補者だった僕がいきなり即断即決で引き受けた」で押し通すよ。


 僕以外が影ッちと接触することはできないから、僕が話さなければ秘密にできる。



 申し訳ないけれど、3人には昨夜から時々遠隔監視を行っている。周囲に人が居なくなるタイミングを見計らうためだ。余計なトラブルは避けた方がいいからね。覗き見は本意ではないのだけれどやむを得ない。


 影ッちも同様に候補者が一人になるタイミングを見計らってファースト・コンタクトを行っていたそうだ。


 最初の勧誘ターゲットは、なんと、僕のご近所さんで幼なじみでもあり、僕と同じ西新高校の1年生、天本百合だ。幼稚園から高校までずっと一緒だ。僕は彼女のことを昔から「ゆりっち」って呼んでいる。


 昨日行ってもよかったのだけれど、あえて今日に回した。


 この話が公開された後のことを考えたからだ。


 こういう話は隠密に進めるのが吉だけれど、まず無理だ。近日中に全世界に公表せざるを得ない。


 その場合は「関係者」ではない風を装った方がお互いに楽なんじゃないかって、なんとなくだけど、そんな気がしたからだ。


 はっきりした根拠はないけれど、野性の勘とでも言えばいいのかな。


 そのためにも、学校に限定して進めておいて、「関係者」と感づかれる可能性を下げておきたい。



 月曜日の朝、登校してすぐ、その幼なじみのゆりっちの教室を尋ねて呼び出し、人気のない校舎の陰に連れ込んだ。


 こう書くと、なんだかすごく怪しいことをやっている気分だ。いや、実際に相当怪しいことをやったんだけどさ。


「それで、朝の忙しい時間に、こんな怪しいところに呼び出して、何かくれるのかな。」


 僕は黙って空間プラグを開いて展望室にご案内した。


 僕は一通り説明した。


 目を丸くしながらも、僕の話を熱心に聞いてくれた。


 本題に入って{仕事人}への参加をお願いしたら、秒でOKが出た。


「すげー。やるやる、やるよ。すげー。」


 呼び出してからここまで3分くらい。さすが幼なじみだ。


 それと同時に、影ッちが言った「人工個体は自然個体ほど社会的な親和性が高くない。」という言葉の意味が分かったような気がした。


 その場で{仕事人}に追加して使い方の説明と練習をして解散した。


 別れ際に「この件については近日中に公表すると思うけれど、それまで、しばらくの間は内緒にしてね」と念押ししておいた。


 なんだか、ゆりっちのテンションが高かったんだけれど、授業中ちゃんと勉強できるか心配だ。部活の後にした方が良かったかな、と反省したけれど後の祭りだ。


 次のターゲットは堅粕高校の中川美保さんだ。

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