第023話 黒塗りの高級車と父の日のプレゼント

 ロードマップについて、みんなからこれといった意見は得られなかった。当面はこのままだ。仕方ない。


 その後、ひかりとお出かけすることにした。


 この週末はいろいろ立て込み過ぎて忘れそうになっていたが、今日は父の日だから2人で何か父の日のプレゼントを買いに行く。


 忘れそうになっていただけで、忘れてはいない。


 2人で自転車に乗って家を出る。


 そこには、まだ黒塗りの高級車が停まっていた。


 ん?


 ナンバープレートがなんかヘン。


 普通のナンバープレートじゃない。たまに見かけるけれど、これは領事館ナンバーというやつではないかな。


 車の中にはスーツ姿の欧米人男女が乗っている。


 この二人、最近どこかで見たような気がする。


 今朝、福岡タワーに行ったとき、海で泳いでいた男女と雰囲気が似ている。


 まさかとは思うけれど、ひょっとして同一人物だったりするのかな。


 まさかね。


 福岡市内でもたまに欧米人を見かける。似たような人はたくさんいるだろう。


 きっと、偶然さ。


 気にせず脇を通り抜ける。


 通り抜けた直後、車は動き出し、海側へ走り去った。



「お姉ちゃん、今の2人って、もしかして、今朝、海で泳いでいた人達だったりして。」


「ひかりもそう思ったんだね。雰囲気は似てたよね。」


「まあ、そうかもしれないし、違うかもしれない。」



 5分ほどで百円ショップに着いた。2人でそれぞれにプレゼントを選び、ラッピング用紙も一緒に買って帰った。


 帰宅途中、またさっきの黒塗りの高級車とすれ違った。一体こんな住宅地で何をやっているんだろうか。



 晩ご飯の時、簡単なメッセージカードを添え、ラッピングしたプレゼントをお父さんに渡した。


 僕からは、小型の手持ち扇風機、ひかりからは小さなお財布だ。


 驚いたことに、私たちに続いき、あおい、あかり、あんなの3人も、父の日のプレゼントを渡そうとした。


「私たちからも父の日のプレゼントを受け取ってください。」


 困惑する僕たちに、あおいは言った。


「昨日お会いしたばかりではありますが、当面はお世話になりますので、感謝を込めてお送りします。」


 あおいからは小さな造花、あかりからは小さなメモ帳、あんなからは何故か牛乳だ。


「みんな、いつの間に買いに行ったの?ていうか、現金とか持ってたっけ?」


「各自で生成したものです。現金は持っていません。」


「やっぱり。」


 そして、お父さんが苦笑いしながら聞いた。


「この牛乳も生成したものかな?飲んでも大丈夫かな?」


 見たところ、普通に売っている紙パックの小さな牛乳だった。


 消費期限の刻印も入っている。


 あおいが答える。


「図書館から帰る道でコンビニに寄ったので、コンビニいの冷蔵庫の棚にあった新鮮な牛乳をスキャンしています。つい先ほどそのデータをもとに生成しています。」


「素粒子レベルのコピーとなります。オリジナルの物体と完全に同じものです。」


「安全性もオリジナルと同等で、お飲みになって問題ありません。」


「そ、そうでしたか。」


 安全性より倫理的にどうかと思う。他にもツッコミどころ満載だけれど、これ以上は触らない方が良い気がする。


 しかし、ひかりは容赦なく聞いた。


「あんなお姉ちゃん、なぜ牛乳にしたの?」


 あ~あ、聞いちゃたか。ひかり。それは聞かないお約束だよ。


 あんなも容赦なく返す。


「ちちの日ですから、ちちにしました~」


 ひかりが珍しくフリーズした。



 晩ご飯の後は宿題プリントを頑張って片付けた。


 この週末は宿題をする暇が無くてほとんど終わっていなかった。ひかりも同様だった。


 あおい、あかり、あんなの3人は約束通りお母さんのお手伝いをやっていた。


 みんながそれぞれに頑張った怒涛の週末は終わった。

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