第021話 黒塗りの高級車とロードマップ
5人そろってリビングへ移動してアイスを食べていたらお母さんが買い物から帰って来て言った。
「ただいま。」
「うちの前の道路に見慣れない黒塗りの高級車が止まっているから気をつけてね。」
「家を出る時にはいなかったから、ついさっきからだと思うよ。」
遠隔監視で家の前の道路を確認すると、確かに不審な黒塗りの高級車が家の近くに路駐している。
場違いも甚だしい。そもそも、普段はこの辺に路駐する車を見ることがない。
ご近所の家に偉い人が来ている可能性もゼロではないが、そんな話は聞いたことない。
警察に通報すべきような事態ではないが、確かに、気をつけた方がよさそうだ。
念のため、あおいに確認してみた。
「安全回路が作動していないってことは、差し迫る脅威ではない、ってことだよね。」
「明確な害意、悪意、脅威はありません。」
「危険と判断された時点で安全回路が起動しています。」
「えっと、危険な武器とか、危ない物質とか、近づいたら検知するんだっけ。」
「そうです。大きな危険につながるものについて反応します。」
「ただし、現時点で危険が無い、というだけですので、急変することもあります。」
今のところ放置だ。安全回路が入るまでは気にしないことにする。
影ッちから設定してもらった宇宙人の先進技術は、丸一日かけて一通り使えるようになった。本当はまだ「奥の手」の技術があるけれど、今の段階で練習すべきものは、ひと段落した。
そこでいよいよ、地球人保護とか世界政府樹立とか、本題の業務について考えていくことにした。
部屋に戻って僕が考えたロードマップをみんなに説明する。
概要はこんな感じ。
ステップ1。日本国内の世論をまとめる。
まとめると言っても僕が宇宙人の先進技術でガリガリ進めちゃったら「保護」とは言えないから、国の機関とかを上手に活用しながら進める必要があるのだけれど、女子高校生にとってはその活用すら難しい。
だから先に日本国内で一番偉い人に連携を取り付けようと思う。その上で、日本国内の総意として世界政府樹立へと進める。
ステップ2。日本が世界中を併合しちゃう。
まず国連を思いついたけれど、国連はあてにならないって、僕にだって分かるよ。学校の授業で色々習ったからね。影ッちが国連ではなく日本に管理を任せたことを考えても、そうすべきなんだろう。国連には頼らず、あくまで日本が中心になって進める。
どうやって統合を進めるかって言うと、各国が自主的な判断で日本に併合を申し出てもらって、日本はそれを承認していく、ってスタイルがいいと思うんだ。
影ッちから提供を打診されている先進技術をちらつかせたら、まともな判断ができる国はこの話に乗って来ると思うよ。
ステップ3。奥の手を使って残った国を全て併合する。
あくまで自主的な判断という建前なので、最後に併合を希望しない国が残ると想定している。
だから、最後に残った国々には、大変申し訳ないけれど、奥の手を使わせてもらう。
この奥の手っていうのは、もちろん、影ッちから供与される異星人の先進技術を使うものなのだけどさ、できればギリギリまで使いたくない。どんな手なのかは最後まで絶対に明かさないよ。
以上、中二病っぽいけれど、これが僕の考える世界政府樹立までのスリーステップさ。
まず、このステップ1の日本国内の世論をまとめる、から進めることになる。
日本政府に色々と相談する第一歩として、首相官邸総理執務室を訪問して、日本国の代表である内閣総理大臣へご挨拶しようと思う。これが僕の「初仕事」になるのかな。
乗り込むと言っても、タイミングが良くないと、ただの揉め事が発生するだけで終わってしまう。
本来、女子高生がやるようなことじゃあないからね。
手紙とかメールで官邸に挨拶することも考えたけれど、「宇宙人から頼まれて世界政府を樹立したい女子高校生です。」とか送ったところで相手にされるとは思えない。
申し訳ないが、影ッちが僕にそうしたように、ファースト・コンタクトは強引に押しかけた方がいいだろう。
いつ、どんな状況で乗り込むと効果的なのか、数日かけて入念に準備したい。
とまあ、僕からはざっとこんな感じのことを説明した。
「お姉ちゃん、私にはちょっと難しいよ。」
「うん、僕にも難しいよ。あおいから何か意見は無いかな。」
「基本方針については自然個体の意思が全てです。人工個体である私から言えることはこうです。」
「私の役割はひまりさんがやりたいことを支援することです。」
「あかりとあんなも同じなのかな。2人からも意見をお願い。」
あかりを見る。あかりがこの1日で発した数少ない言葉は全部が日常会話だった。
「私も同じです。人工個体ですから。」
やはりそうなるか。
次に、あんなを見る。
「私もなんか意見を言わないとイケンのですか?」
あんなに意見を聞いたのは間違いだったかな。
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