第018話 謎の組織「アストマ」(2)
ここは、福岡県福岡市中央区大濠。
商業施設、閑静な高級住宅街、名門私立高校、大きな公園などが同居する街。
その一角に、ガラス張りで近代的な外観の在福岡米国領事館が建っている。福岡市民の憩いの場所である大濠公園の北西側、公園外周の木立のすぐ目の前に位置している。
早朝5時16分。まだ日の出から間もない静かな住宅地。
路地に面した領事館のゲートが開き、中から黒塗りの高級車が出て来た。
車に乗っているのは、領事館付き工作員の男女だ。実は、アラートが出てすぐ、正式な指示を待たずに出発していた。完全にフライングであったが、この2人は本部の指示を馬鹿正直に待つタイプではなかった。
2人とも表向きは領事館の正規職員であり、普段は広報官補佐として当たり障りのない業務の手伝いをこなしている。
監視衛星からの異星人活動信号検知、航空機からの未確認飛行物体発見、その他、異星人に関する有力な情報が入り次第、公式業務を放り出して諜報工作活動を行うことになっている。
右に左に車体を傾けながら早朝の市街地を疾走する車内で、2人は到着後の手順を話し合っていた。
「発信場所は標高百二十三メートル、福岡タワー展望室で間違いない。周囲にこの高さの場所は他にないからな。問題は営業時間外のタワーに入る方法だ。」
男は、ちらと助手席の女を確認した。
女は電話で会話中だ。
電話はすぐに終わった。
「たった今、連絡できたわ。佐藤も移動中よ。タワーの北側の駐車場で待ってろって。」
「よかった、これでタワーには入れるかな。」
佐藤とは福岡市役所の広報担当職員である。その昔、領事館関連の仕事で佐藤が派手に失敗した時、2人が裏で手を回して助けた。それに付け入りアストマの現地協力者として取り込んでしまった。
それ以来、佐藤は2人からの無茶な仕事をいくつもこなしており、2人からは腕利きエージョント並みの高い評価を勝ち取っている。
「今日も早起きだったわよ。朝の散歩に出る直前だったみたい。」
「たまたまイベント準備の担当で昨日からタワーの鍵を持っているって。」
「ラッキーだな。今度こそ何か痕跡を持って帰れる気がする。」
「端末に指示が届いている。本部からゴーが出たわ。」
「ふん。もう到着だ。」
アラートを受けて5分と経たずに福岡タワー直下にたどり着いた。救急車並みの即応力だ。早朝で車が少なかったとはいえ、間違いなくスピードの出し過ぎだ。
福岡タワー北側の第二駐車場。
場違いも甚だしい領事館ナンバーの高級車が駐車した。
2人は車を降りた。
ほぼ同時に、佐藤の車も駐車場に入った。
「おはようございます。今朝もまた随分と急ですね。」
「おはよう、佐藤さん。事情は今お電話で説明した通りです。緊急なのですぐ開けてもらっていいですか。」
「ええ、分かっています。鍵は持って来ています。行きましょう」
「何度見ても、真下から見上げるタワーは圧巻だな、佐藤さん。全面銀色に輝きながら垂直に切り立っているじゃないか。」
すぐ従業員入り口に着いた。佐藤が解錠し、2人を案内する。
「どうぞ、お入りください。」
先に入った佐藤は入り口の脇に設置してあるセキュリティ端末を手際よく操作し、機械警備を解除した。
「では、15分間は駐車場で待機しています。帰る時に声をかけてください。」
「15分以上かかるようでしたら、電話してください。では。」
協力員に過ぎない佐藤の役割はここまでだ。
佐藤は駐車場へ戻って行った。
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