第012話 福岡タワー(1)
家族会議翌日の日曜日。早朝5時。
眠い目を頑張って開きながら起きた。
いや、起こされた。
ひかりは先に起き上って、なんならトイレと洗顔と着替えまで終わらせて待っていた。
そんなひかりが、時間になっても起きない情けない僕を起こしに来たんだ。
人工個体3人娘、あおい、あかり、あんなも準備万端で待機している。
これからみんなで福岡タワーに行って、ちょっとした練習と実験をするつもりだ。
影ッちから設定してもらった宇宙人の先進技術は、{リンク}、{連絡網}、時空間遮断膜、空間プラグの4つだ。{リンク}と{連絡網}はほとんど同じような技術なので、実質は3つかな。
このうち{リンク}と{連絡網}は問題なく使えるようになった。
でも、時空間遮断膜、空間プラグはまだ心もとない。
使いこなせるようになるために、練習しやすい環境で練習して、簡単な実験もやってみようと思う。
まずは空間プラグより扱いが難しい時空間遮断膜からやりたい。
空間範囲設定、表裏設定、生命維持設定、重力制御設定、生体環境保存設定、工学環境保存設定、環境情報AR設定などなど、時空間遮断膜には設定項目がたくさんある。
標準設定でも動くけれど、念のため一通り確認しておこうと思う。
空間プラグは時空間遮断膜に比べると動作が単純なので分かりやすい。起動範囲と起動タイミングさえ間違わなければさほど問題はないからね。とりあえず、後回しだ。
練習場所をどこにするか、考えた。
ある程度の広い空間があって、余計な妨害が少なそうなところはどこだろうか。
静止軌道上の展望室だと、周辺に密集している静止衛星が気になる。ぶつからないまでも、何か悪いことが起こるかもしれない。不用意に展開し辛い。
それに、不慣れな宇宙空間はちょっと怖い。空気も重力も無い何からね。何かあったら面倒だ。
近所で状況が分かりやすく、家の周辺で一番高くて広い空間を使えそう、ということで福岡タワーを思いついた。
早朝にしたのは、営業時間外で誰も入っていないからだ。
さらに、一人だと心細いから、今朝はみんなについて来てもらうことにした。
「まだ行かないの、お姉ちゃん、遅いよ。」
ひかりに急かされた。
「ごめん、もうすぐ行くよ。あとちょっと待ってね。」
まずは遠隔監視で状況を確認する。
大丈夫そうだ。警備員さんは巡回していない。早出や徹夜で残業の職員もいない。
念のため、あおいに頼んで天井の監視カメラに偽装信号を流す回路を割り込ませた。これで僕たちの姿を消去した信号がカメラから出力され、僕たちが監視カメラの前を通っても全く映らない。
便利だね、これは。しかも、あおいは影ッちよりも頼みやすくていい。
「じゃあ、今から展望室に直接レッツゴーだよ。」
福岡タワーの展望室に入るためには、通常は1階ロビーで入場料を払ってからエレベーターで上がるんだけれど、当然ながら料金なんか払わない。
エレベーターを動かすと色々面倒なので、展望室に空間プラグを開いて侵入する。
実は、ファースト・コンタクトの時もそうだったのだけれど、空間プラグを開く時は時空間遮断膜を展開しなければならない場合がある。
空間プラグでつなごうとする「こちら」と「あちら」の気圧とか温度とか主要な環境が異なっている場合、長時間の作業がある場合、秘匿すべき活動をする場合などでは必ず時空間遮断膜を展開しなければならない。
例えば、あちらが真空の宇宙、こちらが大気圏内の場合、時空間遮断膜を展開していなければ空気が宇宙に吸い出されてしまうからね。
僕もまだ良く分からないことが多い。ひかりもいることだし、せっかくだからあおいに詳しく聞きながら練習しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます