第011話 人工個体(4)

 僕は話の流れをぶった切って質問した。


「3人の身分を確保して自立するってことだったけれど、あてはあるの?」


 引き続きあおいが回答する。


「手段を選ばなければ身分の確保は容易です。」


「私たちは社会的な帰属関係も含めて自然個体を偽装するインターフェイスです。そのために多様な手段を用意しています。」


「公官庁に対する小規模な干渉によって国籍を取得することは比較的容易です。」


「なるほど、それは例えば役所のサーバーをハッキングするとかそういう感じかな。」


「一部ハッキングに相当する行為も含みますが、それだけではありません。」


「担当役人や関連するすべての人々に対する神経編集など、広範囲に対する操作が必要です。」


「しかし、これらはおおむね不正行為です。」


「正規のファースト・コンタクトが完了している現在、このような不正な操作を実施する価値も必要性もないと判断します。」


「それは確かに止めておいた方がよさそうだね。」


「正規の手順を踏む場合、国籍を取得することは容易ではありません。」


「しかし、今後ひまりさんが業務を進めていくことで、いずれ可能になります。」


「僕の責任は重大ってことか。」


 なんか藪蛇だったかな。話題を変える方向を間違えたかもしれない。


 別の話題を振ってみよう。


「明日からどうやって過ごすの。週末はまだいいけれど、僕、平日は朝から学校に行っちゃうよ。」


「ひまりさんの指示がない限り待機です。約束通り家事のお手伝いもします。」


「ごめんね、最終的には必ずなんとかするから、しばらく辛抱してね。」


「はい。」


 その後も質問は尽きなかったけれど、遅くなるといけない、ということで家族会議はお開きとなった。1時間くらいだったかな。昼に比べたら短かったけれど、体感としてはすごく長く感じた。


 家族会議終了後、僕と人工個体3人とひかりの5人が僕の部屋に集まった。


 人工個体の3人は僕の部屋が本拠地になるんだから、まあそうだよね。


 ひかりは、また色々と相談したくて呼んでおいた。


 家族会議で話しくにかった色々なことを話しておこうと思う。


「3人ともグループ名{仕事人}っていう{連絡網}に追加したいんだけど。」


「それは問題ありませんが、ひまりさんと私たちの通信に{連絡網}は不要です。」


 あおいの説明によると、人工個体である彼女たち3人は影ッちの分身みたいなものなので、わざわざ{連絡網}を使わなくても、僕とは影ッちと同様に{リンク}で通信できるんだって。


 また、影ッちの分身である彼女たちは、影ッちと常に接続状態にあるらしい。まさしくインターフェイス、つまり両者を取り持つ者だね。


 彼女たちと影ッちの通信方法は厳密にいえば{リンク}とは違うらしい。


 影ッちが通常の通信や記録に用いる「全感覚記述」がベースになっていて、僕が影ッちと直接のやり取りをするより効率がいいんだってさ。


 今後は彼女たちと普通に会話するだけで{リンク}を経由せず影ッちとやり取りを代替できることは大きな利点だけれど、影ッちに接続しているのと同じってことか。


 これって、影ッちが3人の引き渡しをあっさり認めた理由の一つだったんだろうな。


 必要ないと言われたけれど、ごり押しで彼女たちを{仕事人}に追加した。


「それから平日の昼間だけどさ。」


「僕が学校に行く間は3人と{リンク}をつなぎっぱなしにして3人にも高校生活を疑似体験してもらいたいんだけど、どうだろう。」


「問題ありません。」


「これで僕がいない平日の昼間も退屈しないでしょう。」


「トイレの時とかは接続を一時中断するけれど、それ以外は全部見せるよ。」


 その後、気になっていたことを確認してみた。


「ところで、さっき見せてくれた物体の消去と複製の他に、3人が使える宇宙人の先進技術って他にまだあるのかな。」


「私たちが持っている物理的実体が制約になることでなければ、影ッちができることは基本的になんでもできます。」


「そうなのか。だったらファースト・コンタクトは影ッちじゃなくて人工個体にやらせればよかったんじゃないのかな。」


「他の未開文明ではそれが通常の手順です。ひまりさんの場合、いえ、日本人の場合、順応性が非常に高いことが分かっていたため、人工個体は不要かつ非効率的だと判断されました。」


「そんなものなのかな。僕には良く分からないよ。」


 ここで、ずっと静かだったひかりがガマンできなくなったみたいで急に質問して来た。


「あのね、あおいお姉ちゃん以外ほとんどしゃべっていないんだけど、他の2人のお姉ちゃん達って、おしゃべりできないのかな。」


「普通にしゃべれます。私は初期設定でリーダー格のキャラクターに割り当てられたため、ここまでの会話は全て私が引き受けています。」


「3人にはそれぞれ個性があります。今のところは借りてきた猫状態ですが、場面に応じて自由におしゃべりすることになります。」


「分かった~。あとでお話ししてね。」


 ひかりはこれで納得したようだ。僕はまだ疑問がある。あとでもう少し突っ込んで聞いてみよう。


 その後もあおいと話して色々面白いことが分かったけれど、それはまたどこかで説明しよう。


 いつの間にか21時を回っている。そろそろ、いいかな。


 僕は頃合いを見て切り出した。


「今日は最後に大事な話があるんだ。」


「なんでしょうか。」「なあに、お姉ちゃん」


「明日の朝、ちょっと早起きして僕の練習、と言うか実験を手伝ってもらいたいんだ。」


「わかりました。」「いいよ~。今度は何をするの。」


「明日の早朝、そうね、朝5時に、全員で福岡タワーに突撃するよ!」

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