第008話 人工個体(1)
「今朝、家族会議で少しだけ話したけど、昨日から気になっていることがあるの。」
影ッちから聞いた3体の人工個体について、ひかりにあらためて説明した。
待機状態で保管中だけれど、自然個体とのファースト・コンタクトが成功した場合は廃棄されること、そしてこの場合の自然個体は僕だってこと。
僕とのファースト・コンタクトは成功している。つまり、3体とも廃棄されるってこと。
僕が廃棄を保留にするようお願いしたから、まだ待機状態のはずだってこと。
「ひかりはどう思う。」
「ん、難しい話だけど、ちょっとかわいそうか。家で引き取ればいいんじゃない。」
「簡単に言ってくれるけれど、急に家族が3人増えますって、無茶でしょう。」
「お父さんとお母さん喜ばないかな。」
「さあ、どうだろう。」
「お姉ちゃんはさ、これから地球人を全員助けようとしているんでしょう。」
「まあ、そうかな。」
「3人増やすだけなのに、なぜ悩んでいるのかな。」
「ははっ、ひかり、相変わらず言うことが面白いな。」
「そうかな?」
ひかりはいつもの「にたぁ~」って感じの柔らかい笑顔になった。
「家族を3人増やすのが無茶だとしたら、地球人全員助けるなんて、もっと無茶じゃないかな。3人くらい、とりえあず、引きとっちゃえ!」
ひかりの言葉と笑顔で決心がついた。
「じゃあ今から影ッちとお話しするよ。契約があるから、影ッちと直接お話しするこができるのは僕だけなんだけど、話の内容は{仕事人}に流すから一緒に聞いていてね。
「うん、わかった。」
なんでひかりに聞かせるのかって言うと、今後を考えているからだ。
ひかりを{連絡網}の練習台にしたのも、人工個体の話に巻き込むのも同じ理由だ。
影ッちが重視していた「親和性」ってことを考えるに、これからひかりにも手伝ってもらわなければならない場面が多くなりそうな気がするんだ。
ひかりの成長に役立つかもしれない、っていう目的も少しだけあるかな。
ひかりと{仕事人}を接続してから影ッちを呼び出した。
{リンク}がつながった。
{リンク}の会話をひかりに流すよう設定した。これでスマホのスピーカー機能みたいに会話を共有できる。
影ッち、人工個体って、まだ廃棄していないよね。
{廃棄していない。現在も待機状態である。}
そもそも待機状態って何?
{待機状態というのは時空間遮断膜の内部で時間を止めた状態である。}
冬眠みたいな感じなのかな。
{冬眠は生体活動の速度を遅くするだけである。ここでいう待機状態とは全く違う。}
てっきり、どこかに軟禁されていとか、普通に高級マンションで一人暮らしとか想像していたよ。
{そのように社会的な帰属関係も含め自然個体を偽装すること自体は容易である。}
{しかし、影響範囲が広がるだけで実施する意義は少ない。}
{大規模な干渉となるリスクも高いため、可能な限り避けている。}
{自然個体に偽装した人工個体は、未開文明に大きな影響を与えない範囲で、各種の調査を行い、小規模な干渉を実施する目的で時々使用している。}
{頻度は低いが地球人の社会にもたびたび送り込んできた。}
なるほど、そうなんだ。過去に送り込んだ人工個体はその後どうなっているの。
{自然個体とほとんど変わらない生活を送り、任務を遂行する。任務が終わった個体は基本的にそのまま自然個体を偽装しながら余生を全うする。}
じゃあ待機中の3体も同じように余生を全うさせることはできないのかな。
{自然個体との正規のファースト・コンタクトが完了した今となっては、人工個体を使う可能性は少ない。管理規則に従い、不要となった人工個体は速やかに廃棄される。}
そもそも廃棄って何?
普通に殺しちゃうのかな。痛くないのかな。苦しくないのかな。
{廃棄というのは瞬時に素粒子へ還元することである。苦痛は無い。}
{人工個体は生成と同時に待機状態とするため、そもそも「生きている」状態ではない。したがってこの処理は「殺す」という行為には該当しない。}
昨日のファースト・コンタクトからずっと感じていたけどさ、未開文明を保護するという割に、影ッちの感覚は人間に全く寄り添っていないよ。表現がいちいちブラックだ。
廃棄の保留っていつまで延長できるのかな。
{君の要望による延長は9分後に無効となる。その後の延長は管理規則により認められない。瞬時に廃棄する。}
待て待てぇい!
なんだよ、その急展開。それなら昨日のうちに期限を教えておいてよ。
影ッち、廃棄はやめて。僕が引き取りたい。
ていうか、廃棄は許さん。3体とも僕のアシスタントとして付けてくれないかな。
{君の業務遂行に必要な支援と判断する。要望通りにしよう。}
ありがとう、影ッち。
{では3体の初期設定を行う。8分以内に初期設定の希望を出しなさい。}
8分後にどうなるの。
{指定の場所に指定した初期設定で待機状態を解除する。}
{特に指定がない場合、標準設定でこの部屋に出現させる。}
どんなことが設定できるのかな。
{3体とも君と同年齢の女性であるが、その身体的特性、性格、能力などを指定できる。何か希望があれば可能な限り対応する。}
でも待って、8分じゃ短すぎる。せめて数日は待ってよ。
{待つことはできない。さもなければ7分後には廃棄となる。}
影ッち、今までに「悪魔」って言われたことはないかい。
{地球人と正規に接触することは基本的に無い。したがって直接的にそのようなことを言われる機会はない。}
分かった。ちょっとひかりと相談する。
「ひかり、どう思う。」
「ひまりお姉ちゃんがしっかり者だから、ゆるい性格の人がいいよ。」
「なるほどね。私にできないことができる人ってことね。」
「お姉ちゃんと違ってたっぷり遊んでくれそうだしね。」
「またそんなことを言って。遊び相手じゃないからね。」
「え~、やっぱりそうなるの。」
「あたりまえでしょう。3人いるから、他の2人の性格は別々にした方がいいかな。」
「そうそう、お姉ちゃんのキャラとも被らないようにしなきゃね。」
「分かった。そういえば田中家は運動音痴ばかりだし運動が得意な方がいいな。」
そうして大まかな方針が決まったところで影ッちに伝えた。
時間ギリギリだったようだ。伝え終わってすぐ、3体、いや3人が出現した。
目の前の床に素っ裸の少女が3人、並んで横たわっている。
なんか湯気が立ち上っている感じなんですが、大丈夫かな。
いざ目の前に現れると急に弱気になって来た。
お父さんお母さん、相談なしでやらかしました。本当にごめんなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます